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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード2 温泉旅行と魔竜退治
19/97

5 美人の湯に入りに行こう。でも、その前に…

 ティアラの報告に、一瞬の沈黙が流れた。しかし、すぐにプリムラが口を開いて、沈黙を破った。

 「そんなの、叩き潰せばいいじゃあない。」

 過激な発言におれはため息をつく。

 「そうよね。せっかくの温泉をそんな輩に邪魔されるなんてゆるせない。」

 即座にアリスが同意した。

 「せっかく、私がコーディネイトした企画を台無しされて、黙ってられません。」

 おいおい、いつからティアラがコーディネイトしたんだ。

 「じゃ、源泉をもらいにいきますか。」

 プリムラが、さっそく出かけるために立ち上がり、ドアに向かった。そのあとにアリス、ティアラが続く。

 「じゃあ、私も。」

 「アウローラは旦那様とここにいて。さっさと片付けて、ゆっくり温泉に入れるようにするから。」

 立ち上がろうとするアウローラを手で制したプリムラは、鼻息も荒く出かけていった。ティアラとアリスもアウローラの方を向くと、親指を立てた。

 「おもしろそうだから、ついて行こ。」

 少し遅れてローザが後を追った。

 残されたおれとアウローラは、お互いを見つめると、軽く微笑みあった。

 「みんな、アウローラ思いなんだな。」

 「そうですね。」

 アウローラは笑顔で頷く。

 しかし、彼女らが自分の誕生日のとき、おれになんらかのお祝いをもらうために、この温泉旅行を成功させようという思惑が働いていることに、おれはまだ気付いていない。

 


 別荘から飛び出したプリムラたちは、思い思いの方法で空に飛び上がった。

 目指すは、ティアラが見つけた美人の湯の源泉が湧くところ。

 それは、バクーウィンの中腹にある。

 4人はまっすぐその場所へ飛んでいった。


 飛び始めて十分ほど、目指す場所が見えてくる。

 「あそこです。」

 ティアラの指さす先に、岩肌に巨大な腰かけのような形の台地があり、そこに標準的な城の五倍以上はあろうかという城が、登ったばかりの朝日に照らされて建っていた。

 「で、どのへんに源泉があるの?」

 プリムラがティアラに聞くと、ティアラは城を見つめ、尋ねられた個所を探し始めた。

 ティアラの報告を待って、3人は空中で待機する。

 やがて、ティアラの目がある一点を見つめ、その指先がその一点を指す。

 「あの奥の地下に源泉があります。いまは、あの城に塞がれている状態です。」

 「じゃあ、あの城を吹き飛ばせば、源泉が湧き出るということ?」

 「そういうことです。」

 プリムラとティアラの物騒な会話を聞いて、ローザが間に入った。

 「ねえ、ねえ、あの城を吹き飛ばすより、あの城をお風呂場にしたらどう?」

 ローザの突然の提案にプリムラは、城を吹き飛ばそうとするのを一時、止めた。

 「うん、それいいかも。」

 アリスがローザの横で同意する。

 ティアラとプリムラもローザの提案について検討を始める。

 「確かにあの城を吹っ飛ばすのは、面倒なことは面倒ね。」

 「建物を生かして、内装を変えるというのはありじゃあないですか?」

 ティアラとプリムラの意見もローザの提案に乗る形に変わった。

 「ローザ、内装はすぐにできる?」

 「簡単よ。あたしのゴーレムとおもちゃを使えば。」

 ローザの自信にプリムラは頷く。

 「じゃあ、あの城を吹き飛ばすのはよしましょう。」

 「じゃあ、乗り込もうか?」

 「その必要はないようですよ。」

 ティアラが指差す。


 その方向を見ると、黒竜が団体でこちらに向かってきている。

 「手間がはぶけるわ。」

 プリムラが腕まくりする。

 ローザは上空に飛び、さっそく高見の見物を決め込む。

 ティアラとアリスもお互いにアイコンタクトをとる。

 (ここはプリムラにお願いしよっか)

 (そうですね)

 そう決めると二人の行動は早い。

 プリムラが意気込むのを横目に、アリスがその場から上空へ離れようとする。


 「どこへいくの?」

 「ここはプリムラにまかせるね。」

 そんな言葉を置いて、アリスは上空高く飛んでいった。

 「ちょっと、私に押し付ける気?」

 「運動には丁度良いかと思いますよ。」

 ティアラがにっこり笑いながらアリスの後に続く。

 「あなたまで。」

 「がんばってね(^_^)/」

 ローザも上空から手を振って飛んでいく。


 一人残されたプリムラは、ふくよかな頬を更に膨らませた。

 「まったくもう。」

 不満げな顔で三人を見送ったプリムラの周りに、二十体ほどの黒竜が、その姿をはっきり確認できるまで接近してきた。

 いまさらだが、どれも凶悪な顔をしている。

 「どいつも雑魚面ね。」

 その言葉に憤ったのか、一匹の黒竜を吠えた。

 「ふん、一丁前に怒った?」

 プリムラの口元に不敵な笑みが浮かぶ。

 吠えた黒竜が鋭い爪でプリムラのその顔を薙ぎ払おうとした。


 腕が黒い風となって通り過ぎる。

 その勢いならプリムラの上半身は無くなっているはずだ。

 しかし、プリムラの上半身は無事のまま。

 代わりに黒竜の腕が真ん中からなくなっていた。


 黒い血が迸るとともに黒竜の別の咆哮が響く。

 「腕が無くなったくらいで大げさに鳴くな。」

 プリムラは黒竜の腕をお手玉しながら、つまらなそうな顔で罵った。

 

 腕を千切られた黒竜は、怒りを露わにし、口を大きく開けた。

 灼熱の息吹(ヒートブレス)を放つつもりだ。

 「ほら、返すよ。」

 その口に向かってプリムラが黒竜の腕を投げる。その腕は見事に黒竜の口に納まる。

 そのまま息吹(ブレス)を放った黒竜の頭は、行き所を失くした息吹が爆発し、粉々に吹き飛んだ。


 地面に落ちていく仲間を見た数匹の黒竜が、怒りを露わにプリムラに一斉に襲い掛かる。

 「ふん、やる気?」

 プリムラもその黒竜らに向かって飛ぶ。

 「ブラックレザーウィング(漆黒の鋭翼)」

 プリムラの背中から黒い翼が左右に広がる。それが生き物のように伸び、左から迫る黒竜の首を両断し、右からプリムラを噛み砕こうと迫る黒竜の口の中を、もう一方の翼が貫く。

 一瞬で二匹の黒竜があの世にいった。

 それでも数で圧し潰そうと黒竜がプリムラを囲み、一斉に灼熱の息吹(ヒートブレス)を放った。

 「防御魔法(シールド)

 プリムラの身体を薄墨色の靄が覆う。

 そこに灼熱の息吹が四方八方から覆いかぶさる。

 赤褐色の火球でプリムラの姿が一瞬消えた。

 放った黒竜の面々の顔に喜色が浮かぶ。


 その刹那、赤褐色の火球の中からプリムラが飛び出してきた。

 驚く間もなく、一匹の黒竜が真っ二つに斬り裂かれる。

 驚いてその場を離れようとした黒竜たちに、プリムラの黒い翼が追い打ちをかける。

 あるものは喉を貫かれ、あるものは袈裟斬りにされ、あるものは細切れにされた。


 それを遠巻きに見ていた黒竜たちに恐怖が伝播した。

 それぞれが城へと逃げ帰ろうと身を翻す。

 それを見逃すプリムラではなかった。

 「ブラックフレア(漆黒の獄炎)」

 プリムラの右の手の平に黒い球が浮かぶ。

 それを逃げる黒竜たちの真ん中に投げつけた。


 急いで城に逃げようとする黒竜たちの真ん中に黒い球が届く。

 黒い球の意味を知らない黒竜は、それを訝しげに見る。

 その途端、黒い球が膨張し、すさまじい勢いの黒い爆炎と化し、その場にいる黒竜すべてを包み込んだ。

 味わったことのない超高熱に、なにが起こったか理解できぬまま、全竜が体の芯まで焼かれ、黒い灰となって四散していった。

 黒竜を片付けたプリムラは、満足そうな顔をして城に向かった。


 プリムラが黒竜たちの相手を始めた頃、ティエラ、アリス、ローザの三人は、例の城の前に降り立った。

 竜たちが通るためか、扉は巨大な両開きで、そこに厳めしい竜のレリーフが彫られていた。

 扉の前はけっこうな面積の広場で、一面に御影石が敷き詰められている。

 広場の先は断崖になっており、そこに通じる道も橋もない。空を飛ぶ竜には不要なのだろう。

 

 アリスがその扉に近づいた。

 扉を触ろうとした時、ティエラがその前に立った。

 「下がってください。」

 ティエラの言葉に警戒心を高めたアリスは、その場から後ろに下がった。

 

 その時、扉がいきなり開き、その奥から薄緑色の液体が大量に降り注いだ。

 ティエラの前に防御魔法(シールド)が張られる。

 その防御魔法に液体がかかり、周りに飛び散った。

 

 飛び散った液体のかかった敷石がたちまち溶けていく。

 「溶解液?」

 アリスが思わず口を手で覆った。

 「いきなり乱暴な出迎えですね。」

 ティエラが鋭い目つきで扉の奥を睨む。

 その奥はかなりというより、どこかの球場なみの広さのホールであり、床一面を大理石で埋め尽くし、東洋系の紋様が入った柱が縦に二列、等間隔で並んでいた。その間、中央に異形の竜が立っていた。

 その身には皮も内臓もない。すべて骨だけの竜だ。

 頭部の目の部分は暗い洞穴のような眼窩があり、その中にオレンジ色の光が炎のように揺らめいている。

 そして、骨格の全身を灰色の靄が衣服のように纏わりついている。

 「ずいぶんと珍しい竜ね。」

 「竜のアンデット?」

 アリスとローザは珍獣を見るような目でその骨の竜を見つめた。

 

 「我のアシッドシャワー(強酸の噴流)をよく躱したな。」

 大きさの割に落ち着いた声が、その骨の竜から発せられた。

 「あなたがこの城の主?ずいぶんな挨拶じゃあないですか?」

 ティアラが一歩踏み出して、城の中に入ろうとした。

 「魔王様よりこの城を預かるトルラス。何人もこの城に入ることはゆるさん。」

 トルラスと名乗った竜の声が一段と高まった。途端に全身に纏わっていた靄が渦巻き始め、形を成していく。

 「ペインアロー(苦痛の矢)」

 トルラスの周りに数十本の灰色の矢ができる。それが一斉にティアラに向かって放たれた。

 「防御魔法(シールド)

 ティアラの前に展開する防御魔法に、灰色の矢が次々と突き刺さる。その勢いは強く、刺さるそばから防御魔法に亀裂が入っていった。

 「ティアラ、後退よ。」

 アリスがティアラを後ろから抱きかかえ、後方に飛んだ。

 そのすぐ後、防御魔法が破れ、灰色の矢が大量に飛んで来た。

 二人は寸前で飛び上がり、難を逃れた。

 

 「ありがとう、アリス。」 

 「どういたしまして。」

 「でも、あぶないな。」

 いつの間にかローザが二人の横に浮いている。

 三人の眼下で、トルラスがゆっくりと玄関から外に出て来るところだ。

 トルラスはゆっくりと三人を見上げた。

 「エッチ!」

 「どこ見てんのよ!」

 「ふしだらですね。」

 三人はスカートやローブを急いで抑えた。

 「ふん、チンケな女子(おなご)に興奮などするか。」

 トルラスが鼻で笑う。

 それにアリスがカチンときた。

 「チンケですって。」

 アリスの右手から黒いロープ状のものが伸びる。

 「ブラックローズウィップ(黒薔薇の鞭)」

 それは長大な鞭となってトルラスに襲い掛かった。その攻撃にトラルスは飛び上がって逃れる。

 「そんなもの当たるか…」

 と、言い終わらないうちにトラルスの顔面を巨大な衝撃が襲った。


 すさまじい衝撃はトラルスの巨大な身体を吹き飛ばし、そのまま城の玄関に激突した。

 華麗なレリーフの扉は粉々に破壊され、きれいな大理石の床も見事な紋様の柱も無残な瓦礫と化した。


 それをドヤ顔で見下ろしているのは、ローザであった。

 その右手は巨大な拳と化していた。

 「どう、あたしのジャイアントフィスト(巨人の拳)の味は?」

 瓦礫の中から起き上がったトラルスは、その眼窩に怒りの炎をたぎらせ、竜の咆哮を轟かせた。

 「うるさい」

 ローザが思わず耳を塞ぐ。当然、右手は元に戻っている。

 「ペインアロー(苦痛の矢)」

 トラルスの纏う靄が多数の矢と化す。それが三人に向かって放たれた。

 矢の大軍を三人は三方に飛んで避ける。

 「逃すか!」

 トラルスの口が大きく開いた。

 「腐浄の吐息(アンクリーンブレス)

 黒い霧状の息吹が逃げる三人向かって放射された。

 その危険性を察知した三人は、霧状の息吹の圏外へ急いで上昇した。

 「きゃあぁぁぁ~‼」

 ローザが突然、悲鳴を上げた。

 アリスとティエラは、何事かとローザを見る。

 見るとセーラー服を模したローザのスカートの裾が、一部ボロボロになっている。

 「あたしの服が……」

 「腐食性の霧のようですね。しかも、毒性もある。」

 ティアラが冷静に霧の分析をした。

 「むやみに近づけないね。」

 「くらえ、ジャイアントストライク(巨人の拳撃)」

 ローザの右手がまた巨大化し、トラルスに向かって発射された。

 「無駄だ。腐浄の吐息(アンクリーンブレス)

 また、黒い霧状の息吹がトラルスの口から放射され、飛んでくる巨大な拳に纏わりつき、あっという間に腐食させ、ボロボロになって四散した。

 「ちくしょう!」

 ローザが思わず唇を噛む。

 「私が対処しましょう。」

 ティエラが白い羽根を羽ばたかせ、トラルスに向かって飛んでいった。


 飛んでくる白い羽根の女性にトラルスは怪訝そうな顔をした。

 「まさか、天使か…?」

 しかし、他の二人は天使とは思えない。

 トラルスは探るようにティエラを目のない目で睨んだ。

 「私たちにはやることがあるので、あなたに構っている暇はありません。」

 ティアラは淡々と語る。

 それにトラルスは怒りを覚える。

 「上位アンデットであり、上位竜である我が、天使ごときに葬られると思っておるのか!」

 「あなたがなんであろうと関係ありません。さっさと片付けます。」

 事務作業のような言い草にトラルスの憤りは頂点に達した。


 「死ね!」

 再び腐浄の吐息(アンクリーンブレス)が放たれた。


 ティアラを黒い霧が覆う。

 「無駄なことを…」

 ティアラはあくまで冷静だ。

 「クリーンオブサンライト(浄化の陽光)」

 ティアラの口から零れた言葉とともに、ティアラの全身が太陽のように輝きだした。

 光はもう一つの朝日のように周辺を照り付け、放たれた腐浄の吐息(アンクリーンブレス)は、まさしく霧散していった。

 「ぐおおぉぉぉぉぉ─── ‼」

 その光に照らされたトラルスの口から苦痛が充満した咆哮が吐き出された。それとともに全身を纏っていた灰色の靄が消え、骨だけの四肢から蒸気のような魔気が立ち上った。

 「ぎゃあああぁぁぁぁぁ‼われの身体が、身体が──」

 絶叫に応えるように骨の四肢にひびが入り、自重に耐えられず、次々と崩壊していった。

 「た、た…すけ……」

 最後の一言を言い終わらぬうちに、トラルスの体は白い砂山と化した。


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