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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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26 からっぽやみ魔王 捕まりに行く途中 少女を助ける

 「そのアーロンとの戦いはどうだったんですか?」

 恐ろしいものを見るような目でアウローラを見ているシャーリーの横で、メルダが興味深そうに尋ねた。

 「どうといわれてもただ数手手合わせしただけで、ご主人様に呼ばれたからやめたわ。」

 「やめたって、アーロンを残してその場を離れたってことか?」

 シャーリーが驚愕顔で聞き返した。

 「だって、ご主人様のほうが大事だもん。」

 アウローラはかわいく言うが、シャーリーは意味がわからず、更に身を引く。


 「アーロンは執念深いから、またあんたをつけ狙うぜ。」

 シャーリーが警告めいたことを言う。

 「のぞむところだわ。」

 対するアウローラはとにかく楽しげだ。

 「プリムラもアウローラもお尋ね者ということか。」

 のんきなことをいうおれを見て、シャーリーが怒りを露わにした。

 「あんただってお尋ね者だよ。」

 「えっ?」

 「村でさんざっぱら騎士とやりあっただろ。」

 意味を理解していないおれに、シャーリーは怒気を込めた声で説明した。その言葉におれはようやく理解に及ぶ。

 「そうか。アウローラと一緒だったし、お前とも一緒だったもんな。」

 その言葉を皮肉ととったか、シャーリーの顔がさらに赤くなった。

 「あんたたちはもう王国では指名手配だよ!」

 「昨日の今日だぞ?」

 「遠話器というのがあるだろう。」

 「ああ~」


 シャーリーの返しにおれは反論できなかった。


 「でも、さっきも言った通りこれはチャンスかもしれない。」

 「勇者に直接会える機会を得ることができるということですね。」

 プリムラがおれの考えを察して回答する。

 「すぐ処刑になるぜ。」

 今度はシャーリーが皮肉っぽく発した。

 「そんときはそんときさ。」

 「ずいぶん余裕だな。」

 「だって、アウローラとプリムラがいるんだぜ。」

 おれが自信ありげに言い返すと、アウローラとプリムラは潤んだ瞳でおれを見つめ、シャーリーはあきれたような顔となり、テレサは心配顔をする。メルダだけ黙って頷いていた。


 「さて、そうと決まれば王都に出発だ。」

 「これからですか?」

 プリムラが少し名残惜しそうにつぶやく。

 「善は急げというだろう。」

 そう言うとおれは立ち上がった。

 「そうですね。行きましょう。」

 続いてアウローラが立ち上がり、プリムラもそれに続いた。


 「シャーリー、テレサ、メルダ、私はもうここに戻ってこないから、あんたたち、ここを自由に使っていいわよ。」

 「ええ、戻られないのですか?プリムラ様。」

 「私は旦那様とどこまでもいっしょ。長い間、ありがとう。メルダ。」

 プリムラが感謝の微笑みをたたえると、メルダが悲しそうな目をする。

 「先生、もう会えないのですか?」

 「テレサは自分の家が無くなったんだからここを自分の家にしていいよ。」

 「師匠」「先生」

 テレサもシャーリーも寂しそうな顔をする。

 「テレサはともかくシャーリーまでそんな顔するなんて以外ね。」

 「べ、別に…そんなんじゃあ…」

 シャーリーは恥ずかしそうに顔を背ける。


 おれたち三人が家から出ると、シャーリーたち三人も見送りで外に出てきた。

 「旦那様、直接、王都まで飛んでいきますか?」

 「いや、せっかく二人に会えたんだ。どこか寄り道しながら王都へ向かおう。」

 「ずいぶんとのんびりなんだな。」

 シャーリーがまた皮肉っぽく言うと、その言葉におれは笑顔を向ける。

 「まあな、ところでシャーリー、王都へ行く途中でおすすめの街はないか?」

 「物見雄山かよ。ま、いいや。ここから一番近い街ならチャリオという交易都市があるよ。」

 「チャリオか。いや、ありがとう。」

 おれが礼を言うと、シャーリーは恥ずかし気な表情でまた顔を背ける。


 「先生、お気をつけて。」

 「プリムラ様、寂しいです。」

 メルダは泣きそうな顔をしている。

 「テレサもメルダも元気でね。」

 プリムラが温かい微笑みを送ると、シャーリーもなにか言いたそうな顔をする。

 「シャーリー、あんたはもう少し料理の勉強をしなさい。」

 「わかっているよ。」

 悲し気な顔を見せるのがいやなのか、シャーリーはふくれっ面をする。

 「じゃあ、行くわね。」

 「師匠……」

 「先生」

 「プリムラ様」

 名残惜しそうな三人に飛び切りの笑顔を送ったプリムラは、背中から黒い翼を出現させた。続いてアウローラがドラゴンの翼を出すと、おれを後ろから抱きかかえた。

 「プリムラ、行くよ。」

 「途中で交代してよ。」

 そんなやり取りをしながらおれたちはチャリオに向かって飛び立った。


 飛び立ったおれたちを見送った三人は、その姿が見えなくなると自然にお互いの顔を見合った。

 「また、三人で暮らすわけね。」

 テレサがぽつんとつぶやくと、

 「騒がしくなりますね。」

 メルダが相変わらずの無表情で答える。

 シャーリーは無言のまま家に足を向けると、二人はそのあとに続く。

 玄関の前に立った時、シャーリーがつぶやいた。

 「これからよろしくな。」

 それを聞いて二人は口元を緩めた。

 「面倒起こさないでくださいね。」

 「料理ちゃんと覚えろよ。」

 「うるせえ!」

 乱暴に扉を開け、シャーリーが入っていくと、今度は声をあげて笑いながら二人も入っていった。


 チャリオに向けて飛び立ったおれたちは、白い雲を下に見下ろしながら青く広がる天空を翔けていった。

 アウローラに抱えられたおれは、目の前にディスプレイを表示させ、目指すチャリオの位置を確認する。このスピードなら1時間もかからず目的地に着くだろう。

 「街中に降りると騒ぎを起こすから、少し離れたところで降りるか。」

 近隣の地図を見ながら着陸地点を決める。

 「この森の中がいいかな。」

 「かしこまりました。ご主人様。」

 

 「あれがチャリオの街ですね。旦那様。」

 プリムラが街の姿をとらえるが、おれの目にはまだ点としか認識できない。

 「森のどの辺に降りましょうか?」

 アウローラが下を見ながら尋ねる。

 おれたちの下には鬱蒼とした森が広がっていた。


 なんか森に縁があるな。


 そんなことを思いながらおれは森を指さす。

 「街に近い森の端でいいんじゃあないか。」

 「わかりました。」

 着陸地点を見定めたアウローラは、スピードを緩める。

 やがて、目標の地点を見つけると、アウローラは高度を下げ、プリムラもそのあとに続いた。


 重なり合う木々を避けながらおれたち三人は森の中に降り立った。

 「けっこう鬱蒼としているな。これだと獣とかもいるかもな。」

 「私たちがいれば、獣もおいそれと寄っては来ないでしょう。」

 アウローラもプリムラも自信たっぷりだ。

 「ともかく、街に行くか。街道はこっちか?」

 おれはあたりをつけて前に進み始めた。

 

 森の中は道らしい道はなく、進むのは結構苦労する。しかし、アウローラもプリムラも文句の一つも言わず、黙々と前に進む。

 そのとき、アウローラが突然立ち止まった。

 「どうした?」

 おれが尋ねると、アウローラは手でおれたちを制し、なにかを探るように神経を集中する。

 「悲鳴のようなものが聞こえます。」

 森の中は静まり返っており、そんな声は聞こえない。

 しかし、アウローラの聴力は人の何十倍以上だ。

 彼女が聞こえるといえば、どこかでだれかが悲鳴を上げているのだろう。


 「確かに聞こえますね。あと、獣の殺気と弱々しい人間の気配。」

 プリムラが補足する。

 「行ってみよう。どっちだ?」

 「こちらです。」

 アウローラの案内で声のするほうへ向かう。


 木々や茂み、蔓や根っこをかき分け、踏み越えながら進むと街道らしきところに出る。

 その街道上で獣に襲われている一団がいる。

 襲っている獣は熊のようだ。

 とは言っても普通の熊ではない。


 前足が四本もある。

 そして後ろ足で立つその身体は3mほどあり、その頂点に二本の牙をむき出しにした頭がある。


 「サーベルベアか?」


 二本の牙が特徴の熊型の魔獣だ。


 「どうやら商団が襲われたようですね。」

 アウローラの指差す先に破壊された馬車と倒された馬が転がっており、護衛らしき人間も何人か倒されている。

 そして、いま残った男たちが次々とサーベルベアの餌食となっていた。

 「このやろ!」

 一人がやけくそで切りかかるが、剣が届く前にサーベルベアの太い腕に吹き飛ばされ、大木に激突して、U字型に折れ曲がったまま地面に落ちた。

 「うわああぁぁ!」

 残った二人が剣を捨てて逃げ出すが、サーベルベアの足の速さにすぐに追いつかれ、一人は後ろから鋭い爪で引き裂かれ、もう一人は前足に踏みつぶされた。

 

 惨劇はあっという間に終わる。

 

 サーベルベアが鼻をひくひく鳴らし、何かを探すようなしぐさをする。そして、匂いの元を探り当てたのか、その視線をある一点に向けた。

 その先には馬車から放り出されたのか、少女が一人倒れている。

 

 「熊の狙いはあの少女のようですね。」

 プリムラが指摘するまでもなく、サーベルベアは倒れている少女を餌にしようとしている。

 「あのままだと熊の餌食になりますね。」

 「どうします?旦那様。」

 「生きているのか?」

 「息はあるようですよ。」

 アウローラの返答を聞いたおれは、仕方がないという表情をする。

 「アウローラ、すまん。助けてやってくれるか?」

 「わかりました。」

 おれの願いに頷いたアウローラの身体が不意に消えた。

 

 サーベルベアの爪が少女を狙う。

 気絶しているらしい少女には避けようがない。


 鋭い爪先が振り下ろされる。


 同時に金属音のような鋭い音が森に響いた。

 

 サーベルベアの爪の前に移動したアウローラが、少女に届く寸前、それを長刀で防いだ。


 突然現れた新たな人間に邪魔されたサーベルベアは、ありったけの凶暴さでアウローラを睨む。それに対してアウローラは軽く微笑んだ。

 「大人しくしなさい。()()()()()。」

 それが聞こえたのか、森全体に轟くような咆哮を上げると、残った三本の腕を使ってアウローラを切り刻もうとした。

 

 アウローラの持つ長刀がキラリと光る。


 血しぶきとともに四本の腕が宙を舞った。


 今度は激痛に悶える悲鳴が轟く。

 腕を失ったサーベルベアはそれでも逃げ出そうとはせず、アウローラの首をかみ切ろうとその口を大きく開けた。

 

 そこへ長刀が銀の線を引いて走る。


 サーベルベアの頭が上下に分かれ、上半分が地面に突き刺さる。

 遅れて巨体が地響きを立てて地面に突っ伏した。


 巨大な躯と化したサーベルベアを尻目に、アウローラは倒れている少女を抱き起す。

 気を失っている少女の身体を調べると、かすり傷だけで重篤な傷はないようだ。

 「命に別状はないようね。」

 少女を介抱しているところへ、おれたちもやってきた。

 惨状を見まわしたおれは、襲われた男たちの服装と少女の服装の違いに違和感を持った。

 「なんかただの商団ではないようだな。」

 「そのようですね。少女の手が縛られています。」

 確かに少女が後ろ手に縛られている。

 「ということは、別な面倒事か?」

 

 アウローラが少女の縄を解いてやると、少女も意識を取り戻したらしく、薄目を開けた。

 「大丈夫?」

 一瞬、少女が怯む。しかし、アウローラが優しく微笑みかけると、助けられたと理解できたのか、安堵したような表情に変わる。

 「あの、あなたは……」

 問いかけた少女の目が後ろに倒れているサーベルベアの躯に止まり、恐怖で目を見開く。

 ひきつけのような声にならない悲鳴を上げると、アウローラが力強く抱きしめた。

 「大丈夫。怖い獣はもういなくなったから安心して。」

 そのアウローラの言葉と力強さに安心したのか、少女の目から涙があふれ、しばらくアウローラの胸の中で泣き続けた。


 少女が落ち着くのを待って、おれは少女に尋ねる。

 「お嬢さん、お名前は?」

 「私はクレアといいます。」

 「クレアちゃんか。どういった事情かお話できる?」

 涙を拭いながらクレアは小さく頷いた。

 「私、誘拐されたんです。」

 「誘拐?」


 面倒事だ。


 彼女の話によると、侍女と買い物に出ているとき、突然知らない男たちに囲まれ、そのまま攫われたらしい。そのまま馬車に乗せられ、街を出て、森の中を走っている最中、サーベルベアに襲われたということだ。

 「すると、やられた奴らは誘拐犯という訳か。」

 白昼堂々と誘拐するとは大胆な奴らだが、魔獣に襲われたのはついてなかったな。

 「それでどういたしますか?ご主人様。」

 自分の胸の中で不安そうに佇むクレアを見て、母性本能でも沸き起こったのか、アウローラが訴えるように聞いてくる。

 「どうするって言われても、送っていくしかないだろう。どうせ、街には行く訳だし。」

 おれの返答にクレアが喜ぶのはもちろんだが、アウローラもうれしそうな顔をする。


 しょうがない。面倒事に巻きこまれるのは、おれの宿命みたいなものらしいから。


 クレアを連れて街に向かおうとしたとき、プリムラがなにかを感じ取った。

 アウローラも同様な態度を見せる。

 「複数の蹄の音が聞こえてきます。」

 「何者かがこちらに向かってきているようですね。」

 二人が警戒態勢を取る。

 

 次なる面倒事か?


 おれたちがクレアを守るように警戒していると、街道の向こうから土煙を上げて、騎馬の集団が駆けてくる。

 その背に乗っているのは、騎士の衣装をまとった男たちだ。


 騎馬集団の先頭の者が俺たちを見つけると、手を挙げて、集団を止めた。そして、いきなり剣を抜いておれたちに突き付けてきた。 

 「おまえたちが誘拐犯か?」

 明らかに集団のリーダーらしき精悍な男がよく通る声で詰問する。

 「いや、おれたちはこの子を助けただけです。」

 「助けた?」

 不審な目で俺を見つめる男の後ろで中年男が叫んだ。

 「クレア!」

 「あ、お父さん。」

 お父さんと呼ばれた中年男は、馬から降りると、一目散にクレアの元に駆け寄り、クレアもアウローラから離れて中年男の元に駆け寄った。


 感動のご対面というわけだ。

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