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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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24 からっぽやみ魔王、魔女(プリムラ)との再会に喜ぶ

 一段落が済んだところで、おれは改めてプリムラを見やった。

 ついこの間会った時のままの衣装、姿形でおれの前に立っている。500年経っているとはとても思えない。

 「プリムラ、ようやく会えたな。」

 「ああ~、旦那様。会いたかったです。」

 潤んだ目を見せるプリムラがおれに抱きついてきた。

 「おれも会えてうれしいよ。」

 「プリムラはとても、とても寂しかったです。」

 乙女チックに甘えてくるプリムラに、おれはその頭をなでなでしてやった。


 旧交を温めていたおれたちの足元で、黒い袋が急に動き出し、中から叫び声が発せられた。

 「早く出して!」

 「もうせっかくいいところなのに。」

 不満げに黒い袋を蹴飛ばすプリムラに対し、黒い袋は更に暴れ出した。

 「痛いよ!」

 「そんなに暴れないで。いま出してあげるから。」

 プリムラが面倒くさそうな顔を見せながら黒い袋にそっと手を置いた。途端に袋が消え、中からシャーリーとテレサが姿を現した。

 安堵したように一息吐いたシャーリーは、愚痴をこぼしながらゆっくりと立ち上がるが、テレサは地面に伏したままだ。


 「あ、お久しぶりです。師匠。」

 プリムラに気づいたシャーリーは、きまり悪そうな顔をして挨拶した。

 「久しぶりじゃあないわよ。突然、いなくなって。どこで何をしていたのよ。」

 「えへへへ」

 プリムラの責めるような目で見つめられたシャーリーは、笑ってごまかす。

 「どうせ、どこかで変なたくらみでもしてたんでしょう。」

 

 なんか当たっている。

 

 「それより師匠。テレサが大変なんだ。」

 シャーリーが急に真面目な顔で訴える。

 「テレサ、どうしたの?」

 テレサは地面に伏したままで、プリムラの声にも反応がない。身を屈めてその様子をじっくり観察したプリムラは、シャーリーの方に視線を移した。

 「何があったの?」

 「どうやら調査隊の連中に薬でも飲まされたようなんだ。」

 「薬?」

 「この様子だと自白剤みたい。それらしい瓶も転がっていた。」


 なんか大変なことになっているようだ。


 「ここではどうしようもないから私の家に行きましょう。」

 立ち上がったプリムラは、おれとアウローラにも一緒に来てくれるように懇願した。


 おれたちがプリムラの家に向かおうとしたとき、シャーリーが皆に声をかけた。

 「ねえ、テレサはだれが運ぶのさ。」

 「あなたが運びなさい。シャーリー。」

 「ええ、私一人で?」

 はっきり嫌そうな顔をするシャーリーは、おれの顔を見つめた。


 あきらかにおれに運んでくれという視線だ。


 それに気づいたアウローラがシャーリーのそばに近づくと、テレサを持ち上げ、シャーリーの背中に乗せた。

 「えっ?」

 「こうすれば運べるでしょう。」

 「いや、私、そんなに力ないし。ここは男性の方が…」

 「あなた、ご主人様に運ばせる気?」

 アウローラが殺気立った目でシャーリーを睨む。それを見て、シャーリーがプリムラに助けを求めようと彼女に目を向けると、プリムラも怒気を含んだ目で睨み返した。

 「シャーリー、素直にテレサを運びなさい。さもないとロバに変えて運んでもらうわよ。」

 その言葉にシャーリーは身を縮み上げ、素直にテレサを背負って皆のあとに続いた。


 おれたち四人、正確にはテレサを含めて五人は、森の中を獣道といえるような道をプリムラの案内で進んでいった。

 進めば進むほど深い森の中に踏み込んでいくわけだが、プリムラ、アウローラはもちろんシャーリーも迷いなく歩みを進める。

 もっともシャーリーは、テレサを背負っての歩みだから結構しんどそうな顔つきをしているが。


 やがて、森が切れ、広い場所に出る。

 目の前には樹齢何百年と思える大木がそびえ、その中に埋め込まれるように一軒の家があった。

 「旦那様、着きました。」

 プリムラが可愛らしい笑顔を送ると、おれは一息ついて改めて周りを見廻す。


 どうやらここで戦闘が行われたようだ。

 草の乱れや血の跡が残っている。

 ただし、死体は一切ない。


 「さっ、どうぞ。遠慮なくお入りください。」

 プリムラが先頭だって家のドアを開けた。


 玄関ホールに上がるとその先にリビングがある。

 木製の素朴な造りで、同じような造りのテーブルとイスが置いてあり、壁には食器棚が並んでいる。

 「さあ、お好きなところにおかけください。シャーリー、テレサを部屋に運んで。」

 「部屋に運ぶって、どの部屋だい。」

 「テレサが使っていた部屋がまだあるからそこに運んで。」

 そう指示されたシャーリーは、リビングから二階に上がる階段をテレサを背負ったまま上がり、真ん中にある部屋に入っていった。その後にプリムラが続く。

 おれたちはイスに座って、プリムラが戻るのを待った。


 部屋に運ばれたテレサはベッドに寝かされ、プリムラがテレサの顔を覗き込んだ。

 「へえ、まだ、部屋残ってたんだ。」

 シャーリーが周りを見廻しながら懐かしむように呟いた。

 プリムラはプリムラで寝かされているテレサの口元に鼻先を持っていき、その匂いを嗅いだ。

 「匂いだけではなんの自白剤か特定できないわね。」

 「たぶんこれだと思う。」

 そう言ってシャーリーが取り出したのは、例の小瓶だ。

 それを受け取ったプリムラは同じようにそれの臭いを嗅ぎ、残った液体を掌にあけて舌先で舐める。

 「師匠、大丈夫なの?」

 「私に毒は効かないわ。」

 平気な顔で舐めた液体の味を確かめるように口の中で舌を動かす。

 「ふむ、中身はアマポラの実とバーネットの蔓かしら。他にも何種類かありそう。」

 「相変わらず驚異の舌ね。それで解毒はできるの?」

 なれなれしく聞いてくるシャーリーに、プリムラは嫌な顔もせず、おもむろに別空間の箱(サブスペースボックス)から一本の瓶を取り出した。

 「それは?」

 シャーリーが不思議そうな顔で尋ねると、プリムラは軽く笑顔で答えながら瓶の栓を抜き、その瓶口をテレサの口に持っていき、中身をテレサに飲ませた。


 うまい具合に液体を飲み込んだのを確認すると、プリムラはテレサの上に布団をかけてやり、シャーリーを促して部屋から出ていく。

 「テレサは大丈夫なの?」

 シャーリーが不安そうに聞くと、プリムラは1階へ足を向ける。

 「テレサが飲まされた自白剤に対応する解毒薬を持っていたからそれを飲ませたわ。じき自白剤の毒は消えるでしょう。ただ、副作用でだいぶ内臓や神経が弱っているようだから回復の料理を作ってやらないと。シャーリー、手伝いなさい。」

 有無を言わせぬ命令に、シャーリーは素直な態度で後に続いた。


 リビングで待っていたおれたちの元に、黒髪の女性がお茶の入ったカップを乗せたトレイ持って現れた。丁寧におれたちの前にカップを置き、置き終えると無言のまま頭を下げて奥へと下がる。

 「お手伝いでしょうかね。」

 アウローラが去っていく女性の後姿を眺めながらカップを口元に持っていく。何と答えていいかわからないおれもカップに口をつけた。

 紅茶の良い香りが鼻腔をくすぐり、渋みと甘みが絶妙に調和のとれた味が口の中に広がる。

 「やっぱりプリムラの入れたお茶はうまい。」

 「そうですね。」

 アウローラが微笑みながら同意したところに、プリムラが現れた。

 「旦那様、アウローラ、お待たせしました。」

 「テレサとかいう女の人は大丈夫なのか?」

 「アリスから貰った解毒薬がありましたからそれを飲ませました。いま、シャーリーに回復のための料理を作らせています。」

 「おまえがついてなくていいのか?」

 おれの隣に座ったプリムラに、おれは心配そうに尋ねた。こと料理に関しては他人任せにしたがらないのがプリムラだ。

 「シャーリーも私のところで料理を学びました。テレサの回復の料理くらい大丈夫でしょう。」

 自信ありげに返すプリムラを見て、シャーリーへの信頼があることを伺わせた。

 

 「プリムラはずっとここに住んでいたの?」

 アウローラが興味深そうに尋ねる。

 「そうね、転移したばかりのときはあちこち歩き回ったけど、他の人たちと連絡は取れないし、情報もないし、ひと所で待っていた方が無難だと思って、ここに腰を落ち着けたの。」

 「それから500年か。おまえたちを巻き込んでしまってすまないな。」

 おれは素直に頭を下げると、プリムラは慌てておれに頭を上げるように促す。

 「おやめください。巻き込まれたなんて少しも思っていませんから。プリムラはどこまでも旦那様に付き従います。」

 興奮気味に語るプリムラに触発されたのか、

 「私もです!」

 アウローラも鼻息を荒くして同調した。


 そんな二人を見て、おれは感謝の気持ちでいっぱいになる。


 「ふん、そんなおっさんのどこがいいんだか?」

 気が付くと、リビングの奥にシャーリーが立っている。エプロン姿がちょっとかわいい。

 「シャーリー、旦那様に対してその言いようはなんですか!」

 「プリムラ、躾が足りなんじゃあないか?」

 アウローラが立ち上がり、指を鳴らす。

 「そうね。しばらく会わないうちに礼儀を忘れたようね。」

 プリムラも立ち上がり、鋭い目でシャーリーを睨む。


 二人に睨まれ、シャーリーは焦りに焦った。

 「いや、そんなつもりないんだ。ただ、あたしの知っている師匠とずいぶん違うもんで。」

 慌てて言い訳をするシャーリーを二人はまだ睨みつけていたが、プリムラが思い出したように口を開いた。

 「シャーリー、料理は?」

 「あ、いけね。」

 料理のことを思い出したシャーリーは、急いで奥へ引っ込んでいった。入れ替わりに先ほどの女性がやってくる。手にはお茶の入ったカップを乗せたトレイを持っている。

 「どうぞ。プリムラ様。」

 プリムラの前にカップを置く。

 「ありがとう、メルダ。」

 「彼女もプリムラの弟子かい?」

 おれが尋ねると、プリムラはメルダのほうに目を向ける。

 

 「メルダは弟子というより使い魔です。もともとは黒猫なんですよ。」

 プリムラはメルダの入れたお茶に口をつけると、満足そうな笑みを浮かべた。

 「プリムラ様に長くお世話になっています。」

 「そうね。シャーリーにテレサ、そしてメルダ。皆、いっしょに私の下で修業しました。」

 「あのテレサっていうばあさんも魔法が使えるのかい?」

 アウローラが興味深く聞いてくる。

 「テレサは魔法の才能はなくてね、代わりに料理を教えたの。」

 プリムラが過去を振り返るように思い出しているとき、奥のほうから素っ頓狂な声が響いてきた。


 「きゃ~!」

 「もう、なにやっているんだか。」

 プリムラが立ち上がり、奥へと歩いていく。そのあとにメルダが続いた。

 

 なんとなく微笑ましい光景におれの中でほんのり暖かいものが広がる。


 「プリムラとも合流できましたし、他の三人も探しますか?」

 アウローラがおれの顔を覗き込むように尋ねてきた。

 「そうだな。いや、このままプリムラを連れて王都へ向かおうと思う。」

 「王都へ。戻るのですか?」

 「もう気づいていると思うけど、たぶん、勇者とかいうやつがおれの探している相手だと思う。」

 勇者という言葉にアウローラの脳裏に王都で出会った男の姿が浮かんだ。


 竜を屠る剣を出現させた男だ。


 「あの男か…」

 アウローラは直感で並々ならぬ力を持った男と推察した。

 「しかし、いきなり行って会えるでしょうか?」

 「そうだよな。曲がりなりにも相手は勇者であり、国王だからな。」

 おれみたいなどこの馬の骨ともわからぬ者に軽々しく会えるとは思えないよな。かといって、あの黒竜みたいに王都を襲撃するわけにもいかんしな。

 

 おれが考えあぐねているところに、プリムラがやってきた。


 「料理のほうは大丈夫だったのか?」

 おれが心配そうに尋ねると、苦笑しながらそばのイスに座る。

 「なんとか食べされられるものはできました。」

 「ご苦労様、プリムラ。」

 アウローラが笑顔を向けてくる。


 外はすでに日が傾き、茜色の光が窓から差し込んでいた。

 じき夜になるだろう。


 「何の話をしていたの?」

 プリムラの質問におれとアウローラは顔を見合わせ、今度はおれたちが苦笑を浮かべた。

 「おれがこの世界に来た件さ。」

 「あのフェーメリアとかいう女に頼まれた件ですね。」


 彼女を呼び捨てとは、知らないというのは恐ろしいことだな。


 「そう、そのメリーの頼まれ事をどう処理したもんかと思ってな。」

 「どんな頼まれ事なんですか?」

 プリムラがまじめな顔で尋ねてくる。


 「そうか、おまえたちは知らないんだな。」

 「ええ、ただ()()()()()に頼んだとだけ。」

 自分で言っておいてアウローラが顔を赤らめた。

 「すみません。ご主人様、なれなれしい物言いで。」

 アウローラが小さくなった。

 「かまわんさ。メリーに頼まれたのは、この世界に転生した人間を元の世界に戻してくれってことさ。」

 「殺すんじゃあないんですか?」

 プリムラが物騒なことを言ってくる。

 「おいおい、そんなわけないだろう。なあ、アウローラ。」

 とアウローラに視線を移すと、アウローラは”そうじゃあないんですか?”という顔をしている。


 やれやれ、おれを何だと思っているんだ。


 「ともかく、その勇者とかいうやつと会って、おとなしく元の世界に戻ってもらわなきゃならないんだ。おれはあまり荒事は好きじゃあないんでな。」

 「でも、どうやって戻ってもらうんですか?」

 素直な目でまっすぐ見つめるプリムラを前に、おれはその問いの答えに窮した。

 「それは、まあ、相手に会ってだな、話し合って…」

 語尾が不明瞭になる。

 「その相手と会う手段とかあるんですか?」

 そこへプリムラの問いの重ね技でおれは完全に詰んでしまった。


 「それをいま話し合っているのよ。」

 アウローラが助け舟を出す。

 「プリムラ、なにかいい方法はないか?」

 「そうですね。」

 と、プリムラが考え込み、その場に重い沈黙が流れた。

 

 「旦那様、お腹は空いてませんか?」

 唐突にプリムラが尋ねた。

 「そうだな、そういえば朝から何も食べてなかったな。」

 「では、まずは食事をしましょう。お腹が空いてはなんとやらというじゃあありませんか?」

 その提案には一も二もなく賛同した。ましてや、久しぶりのプリムラの手料理だ。断る理由はない。


 こうしておれたちはプリムラの手料理を食することになった。


 考えるのは食事のあとでもいいだろう。

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