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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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23 おとぎ話の魔女vs大司教③ 戦い終わって、日が暮れて

 おれたち三人の眼前に突然出現したフォベリオは、目の前の光景を見て安心したのか、腰が抜けたように地面にへたり込んだ。

 手に伝わる草と土の感触にフォベリオは、安堵の息を大きく吐く。


 プリムラが放った黒い火炎流に巻き込まれる寸前、万が一のために用意していた転移のスクロールを発動させたため、自分の身体が焼き尽くされる前に無事逃げおおせた。

 黒炎のためにローブの一部が焦げてはいるが、特に大きな負傷は負っていない。早くここから離れ、王都から応援を呼ばねばならない。


 「忌々しいが、あいつらと一緒ならあの魔女を葬れる。とにかく、村へ一刻も早く…」

 そう思って目を上げた時、フォベリオは見知らぬ男女がこちらを注目しているのに気付いた。

 「だれだ、おまえたちは?」

 およそ大司教には似つかわしくない口調で尋ねるフォベリオに対し、おれも同じ言葉を問いかける。

 「だれだい、あんたは?」


 おれの不躾な問いに怒ったのか、フォベリオは立ち上がると、居住まいを正し、居丈高とした態度でおれたちを見下ろした。

 「人に名を尋ねる時には、まず自ら名乗るのが礼儀であろう。」


 確かにそうだ。


 そう思ったおれは、同じように居住まいを正し、一礼すると名乗りを上げた。

 「私の名はテヴェリス・オールドムーヴ。こちらにいるのは妻のアウローラです。それで、あなたはどちら様で?」

 「私はエーネハイム王国の大司教、フォベリオ。」

 「大司教!?」

 

 偉そうに見えたが、本当に偉い人なんだ。


 「フォベリオ大司教!あの勇者パーティの一員のか?」

 驚愕の声を上げたのはテレサを連れていたシャーリーだ。

 それを聞いたフォベリオは自慢げな顔をする。

 「勇者パーティの一員?」

 しかし、おれとアウローラは同様に首を傾げる。


 ま、当然だわな。


 「そんなことはどうでもいい。私は急用があるのだ。おまえたちと関わっている暇はない。」

 と、その場を去ろうとしたフォベリオは、シャーリーが抱えているテレサの姿に目を止める。

 「おまえ、その女と知り合いか?」

 「それがどうした?」

 「ということは、おまえも魔女の仲間か?」

 「魔女?それって…」

 と、言いかけたシャーリーの身体に黄金の鎖(ホリネス・チェーン)が巻き付いた。

 「う、なにをする!?」

 「一緒に来てもらおう。」

 黄金の鎖で縛られたシャーリーは、身動きができなくなり、抱えていたテレサは地面に落ちて、丸太のように転がった。

 

 その様子を眺めていたおれたちには、なにがなんだかわからない。


 「くそ、この鎖を解け!」

 「おまえには人質になってもらう。さあ、来い!」

 フォベリオは黄金の鎖の端を持って引っ張ると、シャーリーは身動きできないまま引きずられていく。

 「あの、一体どういうことなんですか?」

 その様子を見て、おれは呑気にフォベリオに尋ねると、フォベリオは不快な顔をしておれを追い払おうとする。

 「そこをどけ!」

 「おい、ボォっと見てないで助けてくれ。」

 シャーリーが懇願するが、おれはどう対処していいか判断がつきかねていた。そうこうしているうちに、おれの横を通り過ぎようとしているフォベリオにおれは再度声をかけた。

 「なあ、さっき人質って言ってたけど、それってだれに対する人質ってことだ?」

 「おまえには関係ない。」

 おれの問いを無視してフォベリオは歩き続けるが、シャーリーが抵抗してなかなか前に進まない。

 「もし、魔女のことだったらおれにも関係があるよ。」

 おれの言葉に反応してフォベリオの足が止まる。

 「どういうことだ?」

 その問いに対し、おれではなく、シャーリーが答えた。

 「そいつは師匠、もとい魔女の旦那なんだと。」

 「なに!?」

 シャーリーの答えにフォベリオは驚愕して目を剥く。

 「おまえが魔女の夫だと?」


 フォベリオはおれの頭から足先までジロジロ見た後、鼻を鳴らして笑った。

 「こんな頼りなさそうな男が魔女の夫なはずがなかろう。」

 頭から否定する。


 「いや、そいつがそう言ったんだ。」

 「嘘を言うな。」


 「その()が言ったことは本当だ。」


 その場にいる誰でもない声が頭の上から聞こえてきた。


 皆が一斉に上を見る。


 そこには黒い翼を羽ばたかせながら浮かぶプリムラの姿があった。


 「森の魔女!」

 「お師匠さま!」

 「「プリムラ」」


 おれとアウローラが叫んだ名前に、フォベリオは思わず反応する。

 「きさま、なぜ魔女の名前を知っている?」

 「そりゃ、夫だもの。知ってて当然だろ。」

 当然という表情で答えるおれをフォベリオは凝視する。


 「さきほどの無礼なうえに、旦那様に対しても失礼な言い草。万死どころではありませんね。」

 プリムラがゆっくりと目の前に降りてくると、殺気立った目つきでフォベリオを睨みつけた。そして、その殺気はおれの隣からも漂ってくる。

 「本当ですね。ご主人様への数々の無礼。八つ裂きにしても飽き足りません。」

 アウローラも全身から殺気のオーラを放出しながらフォベリオに歩み寄る。


 こりゃ、止めても無駄だな。


 「近寄るな。こいつがどうなってもいいのか!?」

 フォベリオがシャーリーを盾にするようにプリムラの前に出す。

 「別に。好きにして構わないわよ。」

 プリムラの冷酷な物言いに、フォベリオはもちろんシャーリーも唖然となる。

 「師匠、そんな殺生な……」

 「こいつはおまえの知り合いではないのか?」

 フォベリオは思惑が外れて混乱しているなか、プリムラは黒い翼を大きく広げる。


 「ひっ」

 その姿を見て、先程の惨劇を思い出したフォベリオは、シャーリーを突き出し、後ろへ飛んだ。シャーリーはプリムラに抱きかかえられると、縛られたままアウローラに向かって放り投げた。それをアウローラが見事に受け止める。

 「あなたは芥子粒ほどに切り刻んであげましょう。」

 残忍な目で睨みながらプリムラが一歩踏み出す。


 「させるか!」


 フォベリオが今度は【エスピナ・サグラダ(聖なる荊)】を唱えた。それもおれに向かって。

 黄金の荊がおれの足元から出現し、身体をぐるぐる巻きにする。

 「動くな。動けばこいつが荊で串刺しなるぞ。」

 フォベリオの恫喝にプリムラ、アウローラの動きが一旦止まる。

 「旦那様」

 「ご主人様」

 プリムラとアウローラが心配そうな顔を見せて近寄ろうどする。

 「動くなといったろう!」

 「きさま……」

 フォベリオの一喝にプリムラとアウローラは、殺気と怒気の入り混じった目でフォベリオを睨む。

 「どうやら夫というのは、本当のようだな。」

 代わりの人質を得たフォベリオは、おれを連れて行こうと荊の端を握って引っ張った。

 「おい、もう少し優しくやれよ。痛いじゃあないか。」

 呑気そうに言うおれに呆れながらフォベリオは、更に荊を引っ張る。


 棘が身体に食い込み、痛みが走る。

 「いてえな。」

 「うるさい。おまえは人質という立場をわかっているのか。」

 おれが痛がっている姿と、フォベリオの傍若無人な振舞いにプリムラとアウローラは爆発寸前だ。


 これ以上我慢させるのは二人には悪いな。


 そう思ったおれは、小声で【デリート(術式解除)】と唱える。

 するとおれを縛っていた荊が枯れるように消えていった。


 「なに!?」

 「悪いな。」


 茶目っ気たっぷりに笑顔を送ると、軽く後方に飛んだ。それと入れ替わるようにアウローラとプリムラがフォベリオの前に立ちはだかる。

 おれという人質を失ったフォベリオは、蛇に睨まれた蛙のようにその場に尻餅をついた。

 「散々、好き勝手なことを言ってくれたわね。」

 「さっき言いましたよね。万死でも足りないと。」

 二人の冷酷な視線に情けや命乞いという言葉は一切見えない。

 フォベリオは死という恐怖に打ち震え、顔面は蒼白になっている。

 先ほどの威勢は微塵も見えない。


 「覚悟はいい?」


 アウローラが手を伸ばしてきた。


 それを振り払うように四つん這いで逃げ出そうとするフォベリオをプリムラが踏みつけた。

 潰された蛙のように地面に俯せになるフォベリオは、それでもなお逃げようとする。


 「往生際が悪いわね。」


 アウローラが別空間の箱(サブスペースボックス)から紅い槍を取り出すと、それをフォベリオの肩に突き刺し、地面に打ちつけた。

 「ギャアアアアア~‼」

 涙と鼻水を垂れ流すフォベリオは、なにかないかと懐をまさぐる。

 そのとき、フォベリオの指先に触れるものがあった。


 取り出したものは一個の水晶。


 それを見て、フォベリオの顔に喜色が浮かぶ。


 「フハハハハ」

 突然笑い出したフォベリオを見て、アウローラとプリムラは狂ったのかと思った。


 おれも同じく思った。


 「これだ。これがあったんだ。」

 「なにがあったのか知らないけど、この期に及んで無駄なあがきはしないことね。」

 アウローラが蔑むように冷たく言い放つが、フォベリオは恐れるどころか、自信を回復したように高笑いを続ける。

 「勝った気になっているようだが、最後に勝利するのは常に正しき者だ。」

 「それがあんただっていうの?」

 蔑みから哀れみに声色が変わる。

 「女神より授けられた力を見るがいい。」


 フォベリオが水晶を握りつぶす。


 途端に眩しいほどの光が迸り、目が開けられないくらい光の奔流が広がる。

 その現象に危険を感じたおれは、アウローラとプリムラに向かって叫ぶ。

 「そこを離れろ!」

 おれの声に反応して槍を引き抜いたアウローラは、プリムラを抱えて後ろに飛び退いた。


 光の中に何かが形作られていく。

 それは人の姿を形成しているようだ。

 やがて光の奔流が晴れ、その場に姿を現したのは12枚の純白の翼をもった巨大な天使の姿であった。


 「おお、大天使(アークエンジェル)

 感動の目で見上げるフォベリオに大天使(アークエンジェル)は視線を落とす。

 『我を呼びし者。汝の願いを述べよ。』

 鐘がなるような荘厳な声が響き渡る。その声を聞き、フォベリオは痛む肩を我慢しながら立ち上がると、目の前の天使に向かって手を合わせ、祈るように願いを発する。


 「大天使(アークエンジェル)よ。この場にいる者すべてに天罰を。怒りの鉄槌を。そして死を。」


 なんていう願いを言うんだ。


 『汝の願い、聞き届けた。』

 「おお」


 聞くのか!


 感激に打ち震えるフォベリオを前に大天使(アークエンジェル)は、十二枚の翼を広げ、大きく羽ばたく。


 『ラ・ムエルテ・エス・レデンシオン(死は救いなり)』


 大天使(アークエンジェル)が言葉を発すると同時に、翼が大きく広がり、それがいきなり四散し、大量の白い羽根が舞い散った。

 それを見て、おれの中でいやな予感が湧き上がり、警戒心が高まる。

 「プリムラ、ダーク・シルク(闇夜の絹衣)を」

 「畏まりました。旦那様。」

 おれの言葉に従い、プリムラが手から黒い布状のものを出し、それをおれたち三人の上にかぶせた。


 「無駄だ。大天使(アークエンジェル)の言葉は絶対なのだ。」

 狂ったように笑うフォベリオの肩に、白い羽根の一枚がゆっくり落ちて触れた。


 途端に白く発光する。


 その後には肩から先がすっぱり無くなったフォベリオが立っていた。

 はじめ何が起こったのか理解できなかったフォベリオは、無くなった肩に激痛が走ったのち、自分の身に起こったことを理解した。

 「ど、どういうことだ──!? 大天使(アークエンジェル)!」

 フォベリオは無表情の視線を送る大天使(アークエンジェル)に問いただした。

 『この場にいる者すべてに死を授ける。おまえの願いだ。』

 その返答にフォベリオは自分のあやまちを悟った。


 そんなこと言ってたな。あいつ。


 「うわぁぁ‼」

 絶叫を上げてフォベリオが駆け出す。

 そこへ白い羽根が舞い落ちる。


 「い、いやだ──‼」


 フォベリオの頭に触れた白い羽根が発光する。


 頭が消える。


 続けて、白い羽根がフォベリオの身体に触れ、発光しながらフォベリオの身体は次々と消滅していった。

 

 えぐいな。

 なんて言ってられない。今度はおれたちだ。


 ダーク・シルク(闇夜の絹衣)のうえにも容赦なく白い羽根が舞い落ちてくる。

 触れるとダーク・シルク(闇夜の絹衣)が丸く消えて無くなる。

 それをプリムラがすぐに修復する。

 それの繰り返しだ。


 「いつまでも抑えられないわ。」

 「プリムラ、ダーク・シルク(闇夜の絹衣)を外せ。私のドラゴン・サイ(竜の吐息)で吹き飛ばす。」

 「無理よ。外した途端、羽根に覆われる。」

 「くそっ!」

 悔しがるアウローラの横でプリムラが必死の形相でダーク・シルク(闇夜の絹衣)を維持しようとしている。しかし、それも限界があるだろう。


 「よし、おれがやる。」

 「えっ、ご主人様が?」

 「おれが時空を一旦止める。そして移動するから移動したらアウローラ、あの羽根を吹き飛ばせ。」

 かなり大雑把に作戦を伝えたが、アウローラは納得したようだ。

 「じゃあ、はじめるぞ。」

 「「はい」」


 「ポーズ(時空停止)」

 おれの詠唱とともに周りが凍ったように固まった。

 羽根も空中で止まったままだ。

 

 「カット(空間抜出)そしてペースト(空間定着)」

 おれたち三人の姿が消え、その場から結構離れた所に一瞬で移動した。


 「ポーズ(時空停止)解除」

 周りが動き出す。


 大天使(アークエンジェル)は、目の前のおれたちが消えたことに、少なからず驚愕を見せた。

 「アウローラ!」

 プリムラがダーク・シルク(闇夜の絹衣)を外す。間髪いれず、アウローラがドラゴン・サイ(竜の吐息)を放った。


 大気の奔流が白い羽根を巻き込み、次々と発光しながら消滅していく。

 そして、その凶悪な息吹は大天使(アークエンジェル)にまともにぶつかった。

 

 大音響が轟き、一瞬にして大天使(アークエンジェル)は霧散し、その余波が周りの木々をなぎ倒し、テレサの家も紙のように吹き飛んだ。


 衝撃が収まり、辺りが静かになったあと、森の一部が根こそぎ吹き飛んで、跡形もなく、テレサの家も土台を残して、なにもなくなっていた。


 「やったね。」

 アウローラが胸を張り、おれは危機が去ったと安心した。が、なにか忘れている気がする。

 おれとアウローラ、そしてプリムラ。あれ、他にもいたよな。

 「アウローラ、シャーリーは?」

 たしかアウローラが抱きかかえてたはずだが、見ればアウローラの手元にはなにもない。

 「大丈夫です。旦那様。シャーリーはテレサと一緒にダーク・シルク(闇夜の絹衣)で包んでおきましたから。」

 そう言うとプリムラの足元に黒い袋状のものが置いてある。

 「そうか、よかった。」

 ホッと安心した途端、身体から力が抜ける。


 目をあげるといつのまにか日が西に沈もうとしている。

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