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 私は美音ちゃんにファミレスに呼びつけられなくなる。

 家庭環境が改善したのかなと思ってそれとなく美音ちゃんに訊いてみたりしたんだけど、美音ちゃんは「べつになにもない」とはぐらかす。それでも笑顔が多くなって饒舌になったので彼女にとっては何かが好転したのだろうと思っていた。私は勝手にさみしくて美音ちゃんがいつも塾帰りにいるファミレスを覗いてみたら、男の人が美音ちゃんと一緒に楽しそうに話しててああなるほどと思う。

 どんなやつなんだろ。顔が見たいけど私の席からは男の後頭部しか見えない。美音ちゃんが男と一緒にいることに私は妙に苛立つ。途中で「あ、これ嫉妬だ」と気づく。

 男がトイレに立ったときにこっちを向いて顔が見れた。入口傍にあるトイレに向かって歩いてくるその男はプライドが高そうな目つきをした肌の白い顔立ちの整ったいけすかない感じのやつに見えた。気に入らないことがあったら些細なことでもぶちぎれるタイプだと思った。顔立ちだけでこんなことを言うのは大分偏見が入ってるんだろう。身長は百七十の後半くらいか。スーツ姿だった。若く見える(二十代後半?)けど実はめっちゃ年上なんじゃないだろうか。横を通ったときに感じた、なんていうか、においが三十代から四十代って言われても驚かない感じがした。こういう人の方が美音ちゃんとの相性はいいのかもしれない。

 私はいまファミレスに入ってきて美音ちゃんを見つけたところみたいなふりをして美音ちゃんに声をかけにいく。「みょん」勇気を出してみんなみたいにそのあだ名を呼んでみたらものすごい嫌な顔をされる。「そのあだ名、気に入ってない」あ、そうだったんだ。私なら呼ばれたいな、みょんって。「みおんって名前も。犬か猫じゃあるまいし」なるほど確かに人間につけるにはかわいすぎるかもしれない。

 私は小学生のときに自分の名前の由来を親に聞いたことを思い出す。

 頌という言葉には「人の徳や物の美をほめたたえること」という意味があって「自分も他人も認めることができるような人間になってほしい」という父母の願いからこの名前になったんだそうだ。そのときは「ふうん」、「小難しいな」と思った。美音ちゃんの名前にもなんかそういう由来があるのかなと考えたけれど“美しい音”という名前には美しい音という意味しかない気がしてどちらかといえば「みおん」っていう響きに漢字を当て字したような気がする。

「今日私、人といるから」

 美音ちゃんが言う。

「だれ?」

 私は訊き返す。

「彼氏」

「いたんだ」

「うん」

 嬉しそうな顔して美音ちゃんが頷くからそれ以上なにも言えなかったし、デートの邪魔ができるほど私は図太くなかった。私は美音ちゃんの傍から離れて会計を済ませて出て行った。ちょっとだけ泣いた。

 お母さんは私の夜遊びがなくなったことを喜び、一過性のものだったんだと安心する。私はまだ全然呼び出されたら美音ちゃんのところへ駆けつけるつもりなのに私のスマホはもう鳴らない。

 あとになってあいつが誰なのかもっとよく聞き出しておけばよかったと思う。


 夏休みがはじまった直後に美音ちゃんは行方不明になる。


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