4. メクリストの制約
「で?」
ミルナはあの後、思う存分太蔵を痛めつけ、とりあえず落ち着いたようだ。ミルナの攻撃で瀕死状態にまで陥った太蔵にポーションを分け与え、太蔵も体力を回復している。
「で? とは?」
「あんな危機的状況でなんでスカートなんかめくったの⁉」
ミルナも鬼ではない、太蔵が命を助けてくれたことくらい、ちゃんと理解している。理解しているからこそ、理解できないのだ。
「その事を話し始めると長くなるのだが……」
「要点を掻い摘んで、端的に」
一緒に死線を潜り抜けた勝負パンツがそう聞いてきているのだ、仕方ない。太蔵はミルナに対して秘密を打ち明ける事とした。
「まず、俺の名前、他の人間と比べて、ちょっと変わった名前だと思わなかったか?」
「え? 変わった名前なの? 人間に会うの初めてだったから分からなかった」
説明一言目から雲行きが怪しくなってきた。だが太蔵はそのまま説明を続ける。
「俺はいわゆる、勇者として異国から召喚された人間なんだ」
「ダウト」
ミルナがすぐさま太蔵の言葉を否定する。話が進まない。
「もし勇者様だったら、女の子のスカートなんてめくらない。そんな勇者様、居るわけがない」
「ここにいるだろ? それに、世界は広いんだ。スカートをめくる勇者なんて大量にいるだろう。むしろ、スカートをめくらなければ勇者じゃないかもしれない」
「仮にスカートめくるのが勇者の証だとしても、危機的状況でスカートめくるわけないでしょ?」
太蔵は頭ごなしに否定するクマさんパンツエルフにめげずに説明をした。
――自分は幼少期、疾風と呼ばれ皆に崇められていたほどの存在であったこと。そして、その疾風という二つ名を、強力な戦闘技術と勘違いした女神から勇者として召喚されてしまった事。
「へえ、子供の頃から疾風なんて二つ名が付けられるって、タイゾーってすごいのね。ところで、なんで疾風? 足が速かったの?」
「ああ、風のように現れ、風のように自然にスカートをめくり、きがついた時には風のように去っていく、俺のスカートめくりの能力が疾風のようだった、ということで疾風だ」
「つまり、その女神様、がバカだったのね」
「あの女神様はバカじゃない、変態だ」
「あんたが人の事を変態と言うか」
「だって、スカートはいてなくてパンツ丸出しなんだぞ?あんなの痴女だ痴女」
「痴漢に痴女と言われる女神様可哀想」
――ともかく、疾風は戦闘技術ではなく、その能力を強化してもらったところで、戦うなんて無理だ、と訴えたところ……
「スカートをめくって戦うこの戦闘スタイルを与えられたのだ」
「あんたを痴漢呼ばわりしてごめん、その女神様やっぱり痴女だわ。でもあんたはやっぱり痴漢」
なるほど、とミルナは納得……しないが、命の恩人があの瞬間にふざけて変態行為をしたわけで無い事は理解した。
「でも、それだったら女の子離れていくでしょ? そうなっていくと、タイゾー、戦えなくなるんじゃない?」
「それだよなぁ。前に村の女性の全員のスカートめくったら袋叩きにされたが、スカートめくられるのってそんなに嫌か?」
「嫌に決まってるでしょ!!」
どさくさに紛れて村の女性の全スカートめくったとかカミングアウトしていて、ミルナは引いた。
「あ、それならさ、どこかで男の人雇って、その人にスカートはいてもらえばいいじゃない? いざと言う時はその男の人のスカートをめくれば被害も無いし!!」
「バカをいうな、俺のこのめくり技術はな……無邪気な幼い女の子か、または俺好みの可愛い女の子のスカートとパンツでしか反応しないんだ!! その女の子のスカートを俺が自らめくらないとダメなんだ!!」
太蔵はめくりのスキルに隠された制約をミルナに告げる。遠回しに、ミルナは太蔵の好みであるというカミングアウトでもあるのだが
「……まあ、タイゾーの今後の活躍を期待するわ……」
ミルナからはさらに引かれていた。当たり前だ。
「それじゃあ、次の村までは一緒に行動するという事で。もし何かあっても、私がパンツ見せればタイゾーは助けてくれるんでしょ?」
「……いいや、ダメなんだ……」
太蔵はさらにそのスキルの制約を教えてくれた。聞けば聞くほど、ものすごくめんどくさいスキルだった。
「まずその1、俺はミルナが今『クマさんパンツ』をはいていることを知ってしまっている。その『既読パンツ』状態だと力が発揮出来ない。その2、このスキルは、相手がスカートをめくる事を了承、または積極的にめくらせようとしてくると発動しない」
つまり!! と太蔵は続ける
「ミルナは戦闘が始まったら、まずパンツを履き替えろ!! その上で、俺にスカートをめくられないように注意しろ!! そうなってはじめて、俺はスカートをめくる事が出来るようになる!!」
「うわ、敵前でスカートめくりをするタイゾーもタイゾーだけど、私も敵前でパンツの履き替えをしなきゃならないって……ねえ、タイゾー」
「なんだ?」
「なんでそんな能力をもらっちゃったの?」
「……俺が聞きたい……」
二人そろって顔を見合わせ、はぁ、とため息をつく。短い期間ではあるが、目的地は一緒、一緒に死線を潜り抜けた多少は信頼の置ける相手、だが
その実力を十分に発揮するためには、お互いに普通の危機的状況ではやらないであろう変な行為をしなければならない。
実力的には歴戦の勇者並みのはずなのだが、一々戦闘中に取る行為が規格外過ぎて、ただの変態コンビの珍道中である。
まあ、将来的にこの変態コンビが世界をも救う歴戦の勇者として未来永劫崇め奉られる事になるのだが、それは将来の話。
太蔵とミルナは精神的に疲れた重い体を引きずって、宿場村目指して歩いていくのであった。