3. スーパーレア
「ど、どどどどうしましょう!!」
ミルナが取り乱し、太蔵にそう詰め寄るが
「落ち着け」
と太蔵は軽くチョップを1発入れた。しかし、ミルナはものすごく痛がってる。
「コブの所はやめてください!!」
だが、そのような事を言っていられるほど余裕のある状態でもないのだ……場合によってはすぐにでも、ミルナのスカートをめくる必要があるな、などと太蔵が考えていると
「グァァァァァ!!」
体長は3メートルはあるだろうか?グリズリーみたいな怪物が前方と後方の道をふさいでいるのだ。
「嫌ぁぁぁぁぁ!! 植物の怪物に襲われたと思ったら、今度は狂暴な熊に襲われるなんて、今日が一番最悪な日だわ!!」
ミルナがそう叫びながらしゃがみこむが
「まずは立て……ここで立てない者には、運の神様も味方しないぞ!!」
と太蔵に言われた。
(タイゾー、強いし、紳士だし。考え方を変えてみると、こんな人と今日出会えたのは、人生で一番幸せな日なのかもしれないわね)
太蔵の説得に応じたのかどうかはわからないが、ミルナはしゃがみこむのをやめ、自らの足で立ち上がった。
「ところで、この状態を打破する秘策なんかはあるの?」
こんな状況に陥っても希望を捨てていない様子の太蔵にミルナが期待を込めて聞いてみると
「ああ、とっておきのがな!!」
と返ってきた。それを聞いて、ミルナは頬を赤らめる。
(どんな状況でも諦めずに私を助けてくれる紳士。やだこの人、完璧じゃない!?)
「よし行くぞ、そりゃっ!!」
――バサッ
「へ?」先程まで全幅の信頼を置いていた相手からスカートをめくられ、困惑するミルナ。
「いいね、クマさんパンツだ」ミルナのパンツを見て、爽やかにミルナに笑顔を返す太蔵。
――KU MA SA N !
どこからともなく聞こえるカタコト。だが、このカタコト、今回に限ってはさらに言葉が続いた。
――エルフの KU MA SA N パンツ!!
――スーパー!! レアパンツ!!
「人のパンツの柄を、デカい声で叫ぶな―!!」
紳士だと思ったら変態でした。
一方の太蔵は、ミルナのその反応を無視、ステータス画面を確認している。
(スーパーレアパンツ? ステータスに変化とか発生するのか?)
そして、太蔵はすぐに違いを発見した。
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【メクリスト】Lv:2 次のレベルまで経験値 280
【称号ボーナス】
回避 +25% 幸運 +15% 前半称号の効果+5%
特殊技能「めくり」「フィニッシュブラスト」「これはこれであり」
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経験値が多く入ったようだ。それに伴って変態がレベルアップし、能力アップと、特殊技能が増えた。しかも、フィニッシュブラスト、これ絶対攻撃技でしょ?いかにもとどめに使えと言う技でしょ?と、太蔵は内心喜び……
――ガガァァァァ
「おっと、怪物どもの相手を忘れるところだった、さて、いくぞ!!」
そう宣言すると、太蔵の体表面は毛皮で覆われ、手には鋭い爪、口には鋭い牙が……
「く、クマになった!!」
ミルナが腰を抜かしているが、それに構っているほど余裕はない。
『さあ、怪物ども、かかってこい!!』
変身したからか、いつもと違う様子の声で太蔵が怪物に対し、挑発をした。
***
結論から言うと、太蔵は怪物を押していた。一時は挟み撃ちという危機的状況であったが、敵を投げ飛ばし一方に固めたため、逃げ道も確保できている。だが逃走するにも相手はまだ隙を見せてこないし、倒すにも決定的な1発を与えるための踏み込みに躊躇している。
原因は、先ほど村人から受けたダメージがまだ回復していないからであり、残りHPが少ない状態での特攻は避けたい、そう考えているのであった。
だが、戦闘を長引かせたくないのも事実。
『ミルナ、平気か?』
「へ? あ? うん、平気だよ!!」
実は先ほどから矢で支援をしようとしていたのだが、ことごとく相手にダメージが通らずに若干落ち込んでいた。
『いいか? 俺が今から最終奥義を放つ!! だからお前はへたり込むな! 最後までそこで立ってろ!!』
「うん、わかった、立ってればいいのね!!」
(あれ? さっきも立ってろと指示されたような……)
何かを思い出しそうなミルナ、だが、思い出すよりも先にメクリストの洗礼がミルナを襲った。
『たぁ!!』
――バサッ!!
「え?」
『まだまだぁ!!』
――バサッ!!
「ちょ!!」
『もういっちょぉ!!』
――バサッ
「も、もうやめて!!」
果たして太蔵は何をやったのか。答えは簡単、3回連続でミルナのスカートをめくったのである。
この行動にはグリズリーの魔物も困惑。命が掛かった状態で変な行動を取れば、そりゃ警戒もする。
そんな困惑する敵と味方を全て無視して、太蔵は続ける。
『さて、怪物ども、これで止めだ!!』
――KU MA ! KU MA ! KU MA SA N ! フィニーッシュ ブラースト!!
どこからともなく聞こえるカタコトがそう宣言すると、場の空気が変わった。
太蔵が左手を差し出す、何をする気だ⁉
グリズリーの魔物のうち1体は身の危険を感じ、逃げ出そうとするが
『逃げられねぇよ』
ゴチン、と見えない壁に阻まれ、逃げ出せない。
そう、この場は既に、太蔵の手の中に握られているのである、つまり……太蔵が左手をグッと握った
――ギャァァァァァァ
グリズリーの怪物はその場で謎の透明の壁に潰され、悲鳴を上げる。
そんな怪物に向けて、太蔵は右手から生えた鋭い爪でグリズリーを一閃。グリズリーはその攻撃に耐えられず、絶命した。
「ふぅ……」太蔵は武装解除し、ため息をつく。
太蔵の元に、ミルナがニコニコしながら寄っている。思えば彼女はこの世界にやってきて初めて同じ死線を潜り抜けた戦友、いや、勝負パンツだ。
「やったぞ!」とミルナに対して右手の手のひらを向け、太蔵は「そう言えばこの世界、ハイタッチの文化あるのかな?」などと考えていた。
ミルナが太蔵と同じく右手を掲げるのを見て、よかった、ハイタッチの文化あるんだ、と太蔵が油断したところ
――バチーン!!
ミルナの手のひらは太蔵の右手をすり抜け、太蔵の頬を思いきり引っ叩いていたのであった。