2. 逆さ吊りの女性はスカートがめくれてるのを気にするように
「シャァァァァァ」
怪物の魔物に襲われ、太蔵は逆さ吊りにされた少女を発見した。
耳が細長く、金髪のサラサラした髪。ちょっと吊り目な瞳は緑色である。
ファンタジー慣れした人なら100人中70人は「エルフ」と答えるであろう。
エルフガチ諸兄は「エルフはエルフでも分類が…」とか「そもそも今のエルフのイメージ自体が違う」とかおっしゃるかもしれないが、このお話の中ではこの見た目の種族をエルフ、と考えて欲しい。
「おーい、大丈夫かー? 助けがいるかー?」
「た、助けてください―!! 急に宙づりにされて、武器落としてしまったんです!! 落ちた武器に手が届かないから、脱出できないんです―!!」
ふと太蔵が少女の吊られている場所当たりの地面を見ると、弓や矢やナイフが転がっている。
「わかった、助けよう。ところで、スカートめくれそうになってないか? ちゃんと抑えたか?」
「きゃ、きゃぁ!! ちょ、ちょっと待ってください!!」
「わかった。スカート抑えたら声かけてくれ!」
太蔵は先ほどから少し伏し目がちになっていたが、さらに目線を下に下げた。傍から見ると、女の子が宙吊りになっているのに気が付き、めくれたスカートの中を見まいと目線を逸らしてくれてたのだろう、という風にも見える。
まあ、なんて紳士なんでしょうか。
「お、お待たせしました!! 大丈夫です!!」
少女は懸命にスカートを抑え、太蔵にそう告げる。
「よし、それじゃあ……ちょっとナイフ借りるぞ?」
と太蔵がナイフを掴むや否や
――ザッザッザッザッザッザッザッザッ
少女の回りで、植物をナイフで切り裂くような音がいたるところから聞こえてくると。
――スルッ
と、少女を掴んでいた植物が少女を離した。
「えっ? ちょ? えぇぇぇ!!」
少女は植物の魔物に襲われたところを助けられた、だが、逆さ吊りになったそのままで転落をしたせいで
――ゴチン
と、頭から転落し、頭頂部を思いきり打った。
***
「た、助けていただき、ありがとうございます!」
深々と太蔵に頭を下げるエルフの少女、頭頂部は膨らんでおり、結構派手に頭頂部を打ち据えた事がわかる。
「いや、キミ大丈夫?頭思いきり打ったみたいだけど……」
頭を打ってしまった女の子はそれでも健気にてれ笑いをしながら
「お優しい方ですね。こんな紳士な方に助けていただいて嬉しいです。あ、あの。私はミルナと申します、よろしければ、貴方のお名前をお伺いしても?」
「俺の名前はその……タイゾーと呼んでもらえれば」
太蔵は先ほどの村でスカートめくり魔人となる前、村人から情報収集をしていた。どうも、この世界ではファミリーネームを語る事は稀であるようだった。それなら、俺も目立たずスカートめくりをするため、ファミリーネームは名乗らないほうがよい、そう判断したようだ。
「あ、あのですね、それで、出来ればお礼を……」
「……シッ!!」
ミルナの言葉を遮り、静かにするよう促す太蔵。太蔵の咄嗟の指示にびっくりするミルナ。だが、太蔵がスカートめくりのために鍛え上げた気配察知や洞察力から導きだされた、まだ見ぬ敵の姿、そして、距離、強さ……そこから導き出された情報を勘案し、これはやばいかもしれないと判断したようだ。
太蔵はミルナに小声で話しかける。
「ミルナ、ここからこっそりと離脱、出来るな? 殿は俺が受け持つ」
「き、急にどうしたんですか? 出来ますけど……」
聞き返すミルナの声も小声だ。太蔵の行動に何かしら不穏なものを感じ取ったのだろう。
「いいから、この先を進めば街道に着く、話はそれからだ」
そう言いながら、太蔵は称号の変更を行う
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[鋼▼]の[ダイヤモンド▼]
【鋼】Lv:1 次のレベルまで経験値 200
【称号ボーナス】
力 +20% 体力 +10% 素早さ -5%
【ダイヤモンド】Lv:1 次のレベルまで経験値 200
【称号ボーナス】
体力 +15% 集中 +5% 精神 +5%
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多少素早さは下がるが、可能な限り耐久を重視した形となった。素早さよりも耐久を上げ、最悪の場合は時間を稼ぐつもりなのだろう。
太蔵が後方に意識を集中しながら、ゆっくりと後退していたその時である。
――パキッ
後方からも敵襲か⁉ 太蔵が振り返ると。
「ご、ごめんなさい……」
ミルナが木の枝を踏んだようであった。
――グァァァァァァァ!!
その音を聞きつけ、先程危ないと思った気配が急速に接近してくるのを太蔵は認識した。
「走れ!!」
とっさにそう叫ぶ太蔵、太蔵の声に反応し、咄嗟に走って逃げようとするミルナ。だが
ーーグォォォォォォ!!
正面からも怪物の声が響く。挟まれた!!
こうなってしまうともう、耐久極振りでは対応が難しい。太蔵は称号「ダイヤモンド」を「メクリスト」に変更し、迎撃態勢を取るのであった。