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9. サライと共依存

 ラカスは何もない空間に一人座り込んでいた。


 先ほどまで勇者と死闘を繰り広げ、そして、今のラカスは「もう、どうでもいいや」といった諦めの境地であった。


 どれだけ攻撃しても避ける、近づけばお金を巻き上げられる、距離を取ればスカートをめくられる、挙句の果てにはスカートめくるまで何度でもよみがえるゾンビの集団が襲ってくるのだ。


(わらわは、何のために生きているのであろうか……)


 いっそ楽になりたい、そう思うラカスであった。


 そんなラカスの前に、人の気配がひとつ。その気配は急に出てきたのに、あたかも最初からそこにあったかのように、自然と存在をしていた。


(何だろ、魔王様が迎えに来てくれたのかな……)


 ラカスが顔を上げるとそこには


「よう!」


 太蔵のまばゆいほど爽やかな笑顔があった。途端にラカスは青ざめ、次の瞬間には正座になり、おでこを地面に付けながら懇願するのであった。


「お願いします!! もうこれ以上お金持っていかれると、私の生活が苦しいの!! 勘弁してください!! スカートめくりももう嫌です!! 怖すぎます!! 助けてください!!」


 完全にキャラが変わっている、それだけ恐怖心を植え付けられてしまったのだろう。


 太蔵はそのまま、ラカスに歩み寄る。一歩一歩ラカスとの距離を縮める太蔵、太蔵の接近に涙が止まらないラカス。そして、太蔵とラカスの距離があと1歩または半歩と言った距離になり、ラカスが覚悟を決め目を思いきり瞑った時


――ガバッ!!


「えっ⁉」


 ラカスは太蔵に抱きしめられていた。


「そこまで怖がるとは思わなかったんだ、ごめん、ごめんよ!!」


 ラカスはその言葉に対し何も応えず、静かに聞いている。だが、気のせいだろうか?太蔵の声が、わずかに振るえているのは。


「済まない……本当に済まない……」


――ピチャン


(えっ!?)


 何か、液体が1滴落ちてきた。そう思ってラカスが太蔵の顔を見ると


「お、お主……何を泣いているのだ?」


 涙で顔をクシャクシャにし、とめどなく涙を流す太蔵の顔があった。


「ラカスを怖がらせた事、そんな目に遭わせた自分が不甲斐なくて……」


 この男、先ほどまで命のやり取りをしていたわらわに対して、ひどい目に遭わせたと言うだけで泣いているのか?こんなに顔をクシャクシャにして?


 何と馬鹿な男なのだ、とラカスは思った。わらわとおぬしは敵同士、互いに死力を尽くして戦う間柄というのに……気が付けばこの男は敵であるわらわの心配をしておる。


(わらわは、今まで、こんな風に心配されたり抱きしめられたりした事があったのだろうか?)


 あったのかもしれない、無かったのかもしれない、だが、今のラカスにとってはそれはどうでもいい事であった。わらわを抱きしめるこ奴、あの痴女エルフは「タイゾー」と呼んでいたか。タイゾーの気持ちが温かい。体温が温かい。今は、これだけで十分だった。


「よいのじゃ、今回のわらわとタイゾーは敵同士だったからの、こうなるのは仕方ない事だったのじゃ」


 そう言ってタイゾーを抱きしめ落ち着かせようとするが、タイゾーの抱きしめる力はより一層強くなる。


「ほら、タイゾー。今までの事は水に流して、またわらわとお主、また新たに始めればよいではないか。何をそんなに泣く?ほんとにもう、タイゾーは泣き虫じゃのぉ」


 まだ泣き止まない太蔵の頭を抱きしめ、よしよし、と頭を撫でるラカス、そして


「タイゾーは甘えん坊さんじゃのぉ。仕方ない、タイゾーがもう泣かなくて済むよう、わらわもタイゾーの旅について行こうかのう」


 などと答えてしまうのであった。


「ラ、ラカス! それは、本心からそう思ってるのか?」


「本心からじゃよ。それとも何か? タイゾーはわらわについてこられると、その、迷惑か?」


 今度はラカスが今にも泣きだしそうな顔になっている。今度は太蔵がラカスを抱きしめ


「嫌な訳あるもんか! これからよろしくな、ラカス!」


「うむ、わらわが居れば百人力じゃ!もう二度とタイゾーが泣かなくて済むようにしてやるのじゃ」


 ラカスと太蔵はお互い強く抱き合い、その後の旅路で助け合う事を誓ったので会った。


***


「えーっと、私、何見せられてるんだろう……」


 突然始まった太蔵とラカスの、周囲から見れば安っぽい即興恋愛芝居のようなものを見せられたミルナが困惑している。そして、それに答えたのがどこからともなく聞こえるカタコトさんだった。


――LOVELY ハート は 愛の 力 ! 愛の 力で 彼女を 仲間に したんだ !


 いい話ダナー、と聞き流してあげるのが大人なんだろうけど、と思いながらも、ミルナは思った事を口にする。


「ねえ、謎の声さん。私、こういうの聞いたことあるんですよ。あれは確か、自分のお嫁さんに暴力を振るうダメ男は、お嫁さんを自分で痛めつけ、そしてその後にこうやって慰める事で、ダメ男から離れられない女性を育てるって……」


――ミルナ くん これは 愛の 力 だよ ! 愛の 力 !


「いえ、愛というよりも、共依存だと聞いたことが」


――愛だよ 愛 !


「えーっと……」


――愛 以外 認めない ! イ イ ネ !?


「あっ……ハイッ!!」


――ヤハリ 愛の 力は 素晴らしい ! さすが 世界を 救うと 言われた ほどの 力 !


 盛り上がっているカタコトさん、お互い抱き合いながらエンエンと泣いている太蔵とラカス。そんなカオスな場面に住民が旅行から帰り、またひと悶着があったのだが、それはまた別のお話。

最終話は本日16:00に掲載させていただきます。

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