ホットペップの手記(1)
登場人物の一人、高原の民ホットペップの手記
(ホットペップにのみ理解できる記号文字で書かれている)
北へ北へ進んで大きな屋敷と裏手にある大きな山々が見えたので、ここを居住地とした。城壁の中に山があるのには驚いた。
屋敷の中には図解で記された“鉄”の利用法。一体誰がこんなものを?
それにしても何故ここはこんなに負のマナが漂っているのか。
『鉄工所』の稼働。
捨てられたもの、鉱山に残っているもの、全て獲得したい。
食糧問題。
集めた保存食、労働者に分配を考え残りひと月分。鉄との交換で他者から食糧を得るほか、狩りを検討。
いずれは自分たちは鉄生産のみを行い、他者に食糧を集めさせるべきか。
ユハについて。
彼女の持つ能力について知ること。利用法を考える。現在のところは保留。
彼女のような能力を持っている者を身内を中心に探す。だが、どう尋ねる?
『ギャング』について。
厄介だが命を危険にさらしたくはない。戦いは保留する。
俺の身に危険が及ばないようになり次第潰す。
ユハについて。2。
透明になるのは体が透けているのではなく背景への『擬態』だろう。色の違う壁から壁へ素早く移動した際、わずかに彼女の体の輪郭がわかった。
擬態している体に――それが服であっても――血液が付着すると、それが何者のものであっても擬態は解除される。また、その後半日は能力を発動できない。
彼女が『所有』したと認めたものが彼女と接している状態で擬態した場合、その所有物も擬態の対象になる。
彼女が『所有』を認めていないもの――木製のスプーン――を、擬態対象――服――の下へ入れると見えなくなる。……これはうまく使えそうだ。
『カンパニー兵団』について。
信用できる者……、同郷で父と交流のあった者から選ぶべき。
脚長ストライド、剛直クラール、変人チョコラ、寒がりオート。彼らに人を集めさせ組織する。
マリスについて。
様々な食糧を無から生み出す男を労働者から確保。ユハに続いて確認した二人目の能力者。……食糧問題についてはひとまず安心できそうだ。だが倉庫の状況を見るに、マリス以外にも同じ能力を有する者が必ずまだいるはずなので、探索すべきだ。
食糧生産は任意で、空に手をかざすだけで行える。
生成した食糧を自分で食べ、空腹を満たすことも可能。
マリスについて。2。
食糧の生成は一日に三度、一度あたりおよそ十人分。……少ない。俺含め兵団に二百五十人、労働者も三百人あまりに増えている。自活は厳しい状況だ。引き続き斥候を出して食糧生産者を探す。少なく見積もっても数百人は隠れているんじゃないか? だが、どう尋ねるか、それが問題だ。マリスのように自分から見せびらかす馬鹿ばかりだといいのだが。
ユハについて。3。
能力を任意で発動する方法は不明との報告。現在のところ、発動方法は彼女の心拍数の上昇のみ。……マリスのように都合よくはいかないか。
何か仕事を。
(ここからバニトスの書物で使われる文字での表記)
A B C D E …… X Y Z
VANITOSS
HOTPEPP
IRON ……
1
文字と読み方の共有。
急務。俺から兵団長、兵団長から兵へと共有してゆく。その後労働者に浸透させる。




