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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅶ ポンコツ魔剣と兎狩りの夜
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超人ババ抜き Ⅰ

 次の日、ナツキとアイシャはラズに休みをもらった。とは言っても魔剣を探しにいくわけではない。もっと先にやっておくべきことがあった。

 それは何かといえば、


「じゃあ、修行を始めるよ」

「はいです、ししょー!」


 そう、アイシャの練気術訓練である。

 そしてもう一つ、


「なつき、ちぁうのー! にーことあそぶのー!」


 最近アイシャとばかりいるせいでご機嫌ナナメなにー子もたくさん構ってあげなければならない。

 二人が休みだと聞いたにー子は、ならば当然自分も休みであると主張し、持ち場を離れて三人の部屋まで戻ってきたのだ。


 今は三人、部屋のベッドの上で輪になっている。これが世に言うパジャマパーティーだ、きっと。


「ほらにー子、おいで」

「なぅー」


 最近体得した女の子座りになり、太ももをぽんぽんと叩いて呼ぶと、にー子は嬉しそうにその上に乗っかってきた。セーターに包まれた小さな体がすっぽりと腕の中に収まる。もふ、ぎゅう。


「にー……」


 それだけでにー子は満足気に目を細めた。

 遊びたいのではなかったのかと心の中でツッコみつつ、ナツキは先日リリムからこっそり伝えられたことを思い返していた。

 曰く、にー子は常にナツキの隣にいるアイシャに対して小さな嫉妬心を芽生えさせているようで、しかし初めての負の感情に戸惑い、どうすればいいのか分からなくなっているのだと。

 なんだそれは。流石にかわいいが過ぎるのではないか?


「なつきー……だいしゅき」


 ひしっと抱きつかれ、胸にやわらかいほっぺたが擦り寄せられる。猫耳がぴこぴこ動き、尻尾が嬉しそうにぶんぶん振られている。


「にー子っ……ごめんアイシャ、今ちょっと幸せを噛み締めてて修行が始められない。にー子がかわいくて世界が滅びそうなのをボクがもふもふして全力で阻止しなきゃ。ね、にー子もそう思うでしょ?」

「にぅー」

「何言ってるのかさっぱりわからないのですけど、わかったです」


 アイシャには呆れられてしまったが、この温もりを手放すわけにはいかないのである。


 ……とはいえ、いつまでもにー子といちゃついているわけにもいかない。ここはにー子と遊びつつ、アイシャの練気術修行もこなすとしよう。


「にー子、アイシャ。ゲームでもする?」

「なぁう?」

「ゲーム、です?」

「うん。ほらこれ、昨日リリムさんがくれたんだ」


 ナツキが懐から取り出したのは、リリムが「ニーコちゃんと遊ぶのにどう?」と譲ってくれた小さな紙束だ。片面のみに四種類のマークと数字が書かれている――平たく言えば、トランプである。

 絵札が存在せず、スートは〇✕△□でそれぞれ赤青緑ピンクのどこかで見たような組み合わせ、各スート15枚と違いはあるが、ジョーカー(スートなしの0)の存在も含め紛うことなきトランプであった。


「わぁ、トランプなのです! 本物は初めて見たです……」

「とやんぷー?」


 この通り、天使様翻訳システムもそれをトランプだと告げている。


「にー子の知育にもいいしね。リリムさんに感謝しなきゃ……ほらにー子、これがトランプだよ」

「にぁ……!」


 にー子は色鮮やかなカードに興味を惹かれたようで、ナツキがベッドの上にばらまいたカードを一枚一枚拾い上げては、目をキラキラさせて模様を見つめ出した。釣られてアイシャも一枚を手に取り、しげしげと眺めている。


「にー子、今持ってるそのカード、模様はいくつ書いてある?」

「なぅ?」


 そう聞いてみると、にー子は真剣な顔になってカードを睨み、


「いーち……にー……しゃー……よー……ごーっ……」


 一つずつ□のマークを指さしながら、数字を数え始めた。ナツキやアイシャがいない間にラズや常連客たちに教えこまれ、なんとあっという間に十までは数えられるようになったのである。

 まだ一から順番に数えていかないと対応する数字が出てこないにー子だが、やがて最後のマークまで指差し終えると、元気に答えを教えてくれた。


「にゃにゃ!」

「んぐふっ……正解、七つあるね」

「なうー!」


 不意打ちであった。「な」は言えるはずなのに――いや、天使様翻訳システムを通して7という数字が「ナナ」と聞こえているだけで、本当はもっと発音しにくい音なのをわざわざ舌っ足らずに表現してくれているのか。天使の謎のこだわりを感じる。


「じゃ、じゃあにー子、この中で同じ数だけ模様が書いてあるのは?」

「なぅ? ……これとー、これ!」

「すごい! にー子天才!」

「にぁふー」


 頭を撫でて褒めちぎってあげるとにー子は得意げに目を細め、アイシャは「親バカなのです」と呆れ気味に目を細めた。しょうがないだろう、にー子が可愛いんだから。


「そういえば、ボクもにー子に負けずに覚えなきゃな、数字……」

「ふぇ? ナツキさんはそんな必要ないのです」

「いやほら、ラクリマのミドルネームのやつさ」


 ふと思い出したのは、古代の言葉が由来だという、発掘年代――ラクリマの登録年の下一桁を示す数詞のことだ。アイシャ=エク=フェリスの「エク」が0に対応しているということだけは覚えているが、他は分からない。

 合点が行ったと言うように頷いて、アイシャは指折り数えながら全て列挙してくれた。


「順番に、(エク)(ウナ)(ユー)(テル)(クト)(クー)(セス)(セフ)(オク)(ノウ)なのです。今年はセスの年なのですよ」

「エク、ウナ、ユー、テル……んん、すぐには覚えられないや。にー子と一緒にボクも勉強しなきゃね」

「にー?」


 ダインは覚える必要など無いと言っていたが、たとえIDの類であろうと意味を持つ人の名前なのだ。覚えておかねばなるまい。後でどこかに書き留めておこう。


「さて、と。トランプは数字が分かるだけでもいろいろできるけど……まずは初級編、ババ抜きからやろうか」

「ババヌキ? にー子ちゃんにもできる遊びなのです?」

「うん。アイシャにも、ね」


 にー子のために11以上のカードを除外しつつ、ババ抜きのルールを説明していく。アイシャはすぐに理解してくれた。にー子もアイシャに合わせてふんふんと頷いてはいたが、最後に不安そうにこちらを見上げてきた。なんとなく張り合っていただけらしい。かわいいやつめ。


「じゃあ、にー子はボクと組もうか。早速一戦やってみよう」


 慣れた手つきでカードを切る様子をまるで魔法を見ているような目で凝視していたアイシャとにー子に、カードを均等に配っていく。早速アイシャが同じ数字のペアを捨て出した。


「にー子、アイシャがやってるみたいに同じ数字を二つずつ見つけてくれる?」

「なぅ! これとー、これ! これも!」


 ナツキの太ももに座ったにー子は、ナツキが持って広げた21枚のカードをじっと見つめ、なんとナツキのサポートもなしにすぐに全てのペアを見つけ出してしまった。


「にー子……ひょっとして、天才?」

「なー? てんしゃ?」


 もしかするとにー子、かわいいだけではなく頭もいいのか? 最強じゃないか。

 

「うーん、にー子は将来は博士か作戦参謀だなぁ」

「ナツキさんはやっぱり親バカなのです」


 アイシャにじと、とした目で見られていた。

 ふむ、なら――


「ほほう、じゃあアイシャ、にー子に勝てる?」

「と、当然なのです! 生まれたばかりのニーコちゃんに負けたりしないのです!」

「にぁー?」


 焚き付けてみると、アイシャまで対抗意識を燃やし始めた。反応したにー子と視線がぶつかり合う。いいぞ、その調子だ。


「じゃあアイシャ、こうしよう。アイシャのカードはボクじゃなくてにー子が引く。その条件でもしアイシャが一回でも勝てたら、ご褒美にボクが何でも一つアイシャのお願いを聞いてあげよう」

「……ふぇっ!? え、えーと……」


 その条件が緩すぎると思ったのだろう、アイシャは耳をピコピコさせて狼狽し始めた。


「なつき、にーこも! ごほーび!」

「じゃあにー子は、アイシャに勝つたびにボクがぎゅーってしてあげる」

「にぅー!」


 にー子も俄然やる気を出し始めた。いつも通りだということには気づいていない様子である。

 アイシャはそんな不公平な条件と報酬で本当にいいのか、と心配そうにしているが――果たしてその余裕がどこまでもつか。


「じゃあ一回戦、始めよっか」


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