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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅵ エンゼル・イン・アンダーランド
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Lhagna/τ - 失われた千年 Ⅳ

「さて諸君、これからどうするかね」


 指先に摘んだ《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》を左目で覗き込みながら、ペフィロが問いかけた。


「うーん、その遺物、さっきの一文以外に手がかりはないのかい?」

「ぼくの目で見える範囲にはなさそうだよ。きみも見るかね」


 《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》がエクセルの手に渡り、彼もしげしげと眺めてみるが、ペフィロに見えないものが見えるはずもない。すぐに諦め、同様に匙を投げたゴルグを経由してトスカナとリシュリーの下まで回ってきた。


「やっぱり、綺麗ですわ……」


 部屋の白い魔石灯にかざしてみると、内部で複雑に屈折した光が虹色を振りまき、キラキラしたものに惹かれるお年頃のリシュリーが目を輝かせた。宝石として加工できないにしても、部屋に吊るせば良いインテリアになるかもしれない、などと考えかけ、国宝であることを思い出す。


「えと、魔法回路は……ないみたいですね。マナが素通りしちゃいます」

「気をとおしてもだめですわ。ほんとうに国宝なんですの?」


 キラキラ綺麗なだけで、魔法的効果があるわけでもないただのガラスっぽい石。それがこの場で出せる結論だった。


「ところで……さっきから気になってはいたんだけど、カナと殿下、いつの間にそんなに仲良くなったんだい?」


 リシュリーを膝の上に乗せて椅子に腰掛けているトスカナに、エクセルがそう首を傾げた。

 二人は顔を見合せ、笑い合う。仲良くなったどころか、恋敵だとも。休戦中なだけで――それでも、心を通じ合わせた仲であることに変わりはない。そして今はただ、一つの同じ目標に向かって全力を尽くす仲間なのだ。


「うふふ、内緒です」

「ないしょですわ」

「おっと、乙女の秘密というやつかい? これは失礼」


 エクセルは引き下がったが、逆にペフィロが目を輝かせて立ち机から飛び降りてきた。


「きみたち、女の子の集まりならぼくも混ぜてくれたまえよ」

「ペフィロちゃんはだめです」

「む、何故かね」

「ペフィロ様は、わたくしたちと同じどひょーに立っていませんわ」

「むう。なんだい。ぼくは案外寂しがり屋なんだぞ」


 ペフィロはむくーと頬を膨らませてみせた。二年前に出会った当初は感情など持ち合わせていないかのように無表情・無口だったのに、随分と変わったものである。


「ふんだ、そっちがその気ならぼくはエクセルノースといちゃいちゃするもんね」

「はは、いいね、ゴル爺も入れて三角関係でも作るかい?」

「なに? ……ゴルグ、きみはぼくのことが好きなのかね……」

「何じゃその嫌そうな顔は! 巻き込むでないわ! ちゅうか早う話を進めんか、阿呆共!」


 ことある度にコントが始まり、やがて痺れを切らしたゴルグの雷が落ち、軌道が修正される。出会ってからずっと続いてきたいつも通りの光景だが、面白がって混ぜっかえすナツキがいない分収束が速い。トスカナは話が進まないじゃないですか、と怒る立場だったはずなのに、それも必要なくなってしまった。

 少し寂しさを感じながら、リシュリーの小さな手の中にある石を見つめる。


「……えと、やっぱりまずは、もう一つの《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》を見つけて、『翼』を完成させないといけないんじゃないでしょうか?」

「ですわね、もう一つの方にべつのヒントが書いてあるかもしれないですわ」

「とは言っても、捜索の手がかりが……そうだ、各国の王様にでも聞いて回るのはどうだい? これと同じように、どこかの国の国宝になってるかもしれないよ」


 エクセルの提案は真っ当なものに思えたが、ゴルグとペフィロは渋い顔を返した。


「その可能性はあるじゃろうが……やめた方がよかろう。他国から見た儂ら勇者は教会の手先じゃからの」

「うん、もし例の一文に気づいていたら、頑なに隠し通すに違いない。そうでなくとも国宝級の秘宝じゃないか。突撃するならまず隠し持っている国を突き止めて、証拠と理由を用意していくことが肝要……ふむ、ふりだしに戻ったぞ」


 うーん、と一同で考え込んでしまう。漠然と「教会の隠し持つ秘密を探る」だの「歴史の調査」だのと言われても、手がかり・足がかりがないことには始まらない。城の図書館に行けば歴史書の類はあるだろうが、歴史的資料は一切存在しないと言い切られてしまっている以上、無駄足の可能性が高い。


「あの……みなさま、わたくし、ちょっと気になったのですけれど」


 手に持った《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》を見ながら、おずおずとリシュリーが手を挙げた。可愛らしい新戦力に一斉に視線が集まる。

 それに気圧されてしまったか、トスカナの膝の上で一瞬ビクッと震えたリシュリーだったが、すぐに冷静さを取り戻し、


「えっと……これが《失われた千年(ロスト・ミレニアム)》の遺物だと言うのでしたら、なぜ、『これは《失われた千年(ロスト・ミレニアム)》のひみつをみちびく鍵だ』なんて書いてあるんですの?」


「……む?」


「だって、おかしいですわ。これは《失われた千年(ロスト・ミレニアム)》にくらしていらっしゃった神々のおちからで作られたのでしょう? そのころはまだ、そのじだいのことはひみつじゃなかったはずですわ」


 リシュリーの指摘にペフィロは少し考え、


「ふむ、ならば神々の力――古代文明の技術が何らかの原因で消えてなくなる寸前に、誰かがその技術を後世に遺そうと作り、隠蔽したものだと考えればよかろ……む? いや、おかしいぞ」


 大した問題ではない、と切り捨てようとする途中で何かに気づき、熟考を始めた。

 しばらくしてリシュリーから《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》を受け取り、左目で覗き込む。


「この一文は、エクセルノースの魔法の応用研究で見つかったのだろう? エクセルノースが転生して来なかったなら、今でも見つけられていなかったはずだね」

「……うん、確かにそうかもね。僕の魔法はベースが物理科学だから」

「ぼくの目もそうだとも。後世に技術を伝えることが目的だとして、それじゃあ誰も気づかないままじゃあないか。いずれ失われた技術を取り戻した時にようやく鍵だと分かるんじゃあ意味が無いぞ」

「うーん…………」


 ペフィロの指摘に、エクセルも黙考に入る。


 《失われた千年(ロスト・ミレニアム)》の時代から国宝として代々受け継がれてきている重要な宝物。彫り込まれた文の内容を考えると、その製造タイミングは《失われた千年(ロスト・ミレニアム)》終了間際と推察される。しかし何の目的でそれが帝国に託されたのかが分からない。

 

「うぅ、二つそろえないといけないのに、もう一つがどこにあるのかのヒントもないだなんて、むかしの人はふしんせつですわ!」


 リシュリーが頭を抱える。確かに、教会に見つからないようにするにしても、辿り着いて欲しい人々にすら全く情報がないのでは本末転倒である。ただ「謎の古代文明が存在した」ということが分かるだけのアイテムにしかならない。

 そこまで考えて、ふと思いつく。


「もしかして……《失われた千年(ロスト・ミレニアム)》より後の人類が謎を解くことなんて、そもそも想定していないんじゃないですか? ただ自分たちの文明が存在した証を、後世に残したかっただけなんじゃないかなって……」


 言いながら思い出すのは、塔の一階にあったニーコの抜け穴だ。穴をどうにかすればニーコが蘇るわけではない。しかしそれを見れば、ニーコという猫が存在したこと、彼女と触れ合った日々が確かにあったことを思い出し、それが夢幻ではなかったと確信できる。

 

「ふむ……言わば文明の遺品かの。有り得んとは言いきれんのう……」

「ロマンチックですわ!」


 しかし今度はエクセルが難しい顔になり、


「……うーん、でもそれだと、教会の目を気にする理由が分からないんじゃないかい? エコーディア様以外の神々の力が眠る遺物として封印されるのを避けたかったのかもしれないけど……」

「む、そうだとしても、門外不出の国宝として城に封印されてちゃあ似たようなものだろうに。教会から隠してずっと保存しておく理由を示せていないじゃないか」


 ペフィロからも追い打ちが入った。

 さすがにそんな情緒で全て決めたような理由で代々受け継がれる国宝にはならないか、と肩を落とす。


「うっ、確かに……そうですね」

「わ、わたくしはユーフォリエ様のお考えがいちばんすきですわ!」


 リシュリーが慌ててフォローを入れてくれた。健気である。


「きっと《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》をお作りになった方は、エコーディア様とけんかをなさっていたのですわ。あなたには見せてあげないんだから、っていうただのいやがらせにちがいありませんわ!」

「はぅ……リシュリー殿下がかわいいです……」

「わっ、ゆ、ユーフォリエ様?」


 気を落とす自分をどうにか励まそうとしてくれる姿が愛おしくなり、思わず背後からぎゅっと抱きしめてしまった。……頬にふわりと触れるくるくる縦ロールの髪から、高級そうな香りが鼻腔へ届く。


「殿下……シャンプーとリンス、どこの使ってるんですか?」

「ふぇっ、と、とくちゅーってお母様が……」

「うぅ、ずるいです、王族」

「う、うごけませんわーっ!」


 腕の中、かわいい生き物がふわふわと動いている。これこそ幸せである。


「カナの暴走、久々に見たなあ……ペフィも何度もやられてたよね、懐かしい」

「山一つ犠牲に自粛したと思ったんじゃったがの、復活しおったわい」

「王女殿下なら山は消し飛ばさないって気づいちゃったんだね」

「あたりまえですわー!?」

「ほらカナ、王女様がお困りだよ」


 エクセルがトスカナの腕を引っ張り、空いた隙間からリシュリーが逃げ出す。ふわふわのぷにぷにがいなくなってしまい、トスカナは喪失感から我に返った。


「……あれっ、わたしは何を……」

「ふう、危なかった。山が一つ吹き飛ぶところだったよ」

「もう! エクセルノース様ったら、わたくし、山をふきとばしたりしませんわ!」

「え……わたし、またやっちゃいました!? ごごごごめんなさい殿下!」


 そう――トスカナは、かわいいものを見ると無性に抱きつきたくなって我を忘れてしまうのだ。


 前世からの癖、というかシルヴァールの人類の本能である。シルヴァールの幼い子供は体温が低く、衣服が発達するまでは親がずっと抱きしめながら育てていた。その本能の名残だと言われており、一般的な好意、愛情の発露として扱われていたのである。

 しかしそれが異世界では一般的ではないということは、転生してすぐに悟った。自分が高熱を出していると間違われて看病された際に、トスカナとペフィロ以外は皆生まれてから死ぬまで平熱が一定だと知ったのだ。


 ペフィロにこの世界に合わせて服を着せようとするなら、自分の本能もこの世界に合わせて抑えなければならないと頑張っていたのだが――自分の膝の上にちょこんと座るリシュリーに上目遣いで励まされて、心のダムが決壊してしまったのである。


 エクセルが山を吹き飛ばすだのなんのと言っているのは、かつて同じように決壊して食事中のペフィロを羽交い締めにしてしまったところ、キャンプの周囲に展開されていたペフィロの攻性防壁が全力で発動してしまい、隣の山(無人)が一つ跡形もなく蒸発した事件のことを指している。それ以降、トスカナがペフィロに手を伸ばそうとするとナツキ達が全力で止めてくれるようになったし、トスカナも自制心を強く持つようになったのである。


「にしてもペフィ、今日は静かだね? ツッコミ待ちだったんだけど……」


 ペフィロがバカ騒ぎに乗ってくることを期待して何度も山を吹き飛ばしていたらしいエクセルが後ろを振り返り、


「…………」


 ペフィロは立ち机に座ったまま、《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》を左目で見つつ、難しい顔で何かを考え込んでいた。


「……ペフィ?」


 訝しんだエクセルに再度名前を呼ばれても、反応がない。


「見せてください。《ルーペ》」


 トスカナはペフィロの前に歩み寄り、その右目を覗き込んだ。

 親指と人差し指で輪を作り、水のマナで膜を張る。拡大鏡だ。


「えと、赤……白……赤……」


 ペフィロの右目は、エーアイという彼女のもう一つの魂のようなものに直結しているのだという。十字形の瞳孔の奥を覗けば、そのエーアイが動いている様子が見えるのだ。光の文字列が高速に流れていくだけなので詳細は分からないが、彼女によれば「緑は成功、赤は失敗、白は途中経過」らしい。

 普段はエーアイと魂の二人三脚で物事を考えているらしいが、たまにエーアイに一人で考えさせた方がいい場合があるのだと言って、今のように抜け殻のような状態になることがある。

 ちなみにナツキは、この状態のペフィロのことを「眠りのペフィロー」と呼んでいた。何故かは分からないが、最後のロは伸ばさなければならないらしい。


「何か……エーアイさんと考えてるみたいです。でも赤色ばっかり……あれ?」


 ふと、ペフィロの額から汗が垂れていることに気づいた。思えばなんだか暑いような……


「ゆ、ユーフォリエ様! エクセルノース様! ペフィロ様の頭の上がゆらゆらしてますわ!」

「っ、オーバーヒートかい!? カナ、ペフィの頭を冷やすんだ!」

「は、はいっ、《グレイシャー》!」


 よく分からないが、ペフィロの身体についてはナツキやエクセルがまだトスカナやゴルグよりは詳しい。エクセルの言う通りにペフィロの頭に氷を乗せると、あっという間に溶けてしまった。


「ひゃっ……《グレイシャー》! ちょっとペフィロちゃん、頭が燃えちゃいますよ!?」


 何度も氷を乗せながら、瞳の中を確認する。途中経過を考えるのをやめたのか、白い光は見えなくなっており、代わりに真っ赤な文字列がものすごいスピードで下から上へと流れていく。


「まさか……壊れてしもうたか?」

「そんなこと言わないでくださいっ」

「……すまぬ」


 ナツキに続いてペフィロまで謎の死を遂げたりしたら、もはや正気を保っていられる自信がない。不謹慎なことを言ったゴルグを一喝する。

 祈りながら見つめる瞳の奥、赤の濁流は速度を増減させながら流れ続け、


「あ、あれ、ペフィロちゃん……?」

 

 真っ赤なまま、突然完全に停止した。

 しかしペフィロは目を覚まさず、氷の溶けるスピードはむしろ上がっていく。


「いや……とま、とまっちゃいました、エクセル、どうすれば――」

「カナ、大丈夫だから落ち着いて。それ多分――」


 トスカナの目から涙が溢れ出したその時――

 ぼやけた視界の奥で、緑色がひとつ、跳ねた。


「え――」

「っぷはぁっ、うぅ、頭がくらくらするぅ……う? なんだこれは、びしょびしょじゃあないか……」


 同時にペフィロが動き出し、トスカナの視界から十字形の瞳孔が外れる。

 代わりに見えたのは、頭痛を堪えるように目を細める、いつものペフィロの顔だった。


「ペ……ペフィロちゃん……」

「む、なんだい、涙目でそんなに顔を寄せて。キスでもご所望かね。ぼくは女の子でも一向に構わうわっ!?」

「もう、ばか! ペフィロちゃんのばかぁ! 心配したんですからぁ……っ」

「わ、なっ、どっ、ちょ、エクセルノース、ゴルグ、助けたまえ! またトスカナが暴走し始めたぞっ」


 後になって知ったことだが、謎の文字列は計算の合間合間に流れているもので、長い時間のかかる計算をしている間は何も流れなくなるものらしかった。そういう大事なことは最初に教えてほしいものである。


 泣きじゃくるトスカナに抱きしめられながらエクセルとゴルグに「一言断ってからモードチェンジを」と説教をくらったペフィロは、リシュリーにどこかから運んできたらしき消火器を向けられるに至り、


「なんだいなんだい! ぼくのニューラルプロセッサはそんなぽんこつじゃないぞ!」


 反省するどころか怒り出してしまい、皆を呆れさせたのだった。




「それでペフィ、何か分かったのかい?」

「…………」

「ペフィロちゃん?」


 難しい顔で黙り込んでしまったペフィロは、やがて首を横に振った。


「……いいや、ほとんど謎のままだとも。分かったことと言えば、やっぱりこの結晶はこれだけでは意味を為さないということくらいだ。ただ一つ言えるのは……どうやら、『片割れ』なんて表現は希望的観測が過ぎていたらしい」


 溜息をつき、


「これは『欠片』なのだよ。少なくともあと三つ、加えてコアにあたる部分がどこかにある。……そう仮定してようやく『意味』が生まれた」

「そんなにあるんですか!?」

「骨が折れるのう。……して、意味とは何じゃ」

「それは……」


 ペフィロは再び難しい顔で黙ってしまった。その目は何か恐ろしいものと相対しているかのように《黄昏の封光晶(ラグナメモリ)》を見つめていた。


「話しにくいようなことなのかい?」

「……いや、言語化できなくて困っているんだ。どうにも情報が断片的すぎるのだよ。でたらめな単語、文章、映像、画像、音声……全てが破損して、複雑に絡み合っている。仮にこれを全てありのまま伝えられたとして、きみたちの脳では原理的に理解し得ない」

「ん……その口ぶりだと、この結晶は名前通りの記憶装置(メモリ)なのかい?」

「そう仮定して解析したら支離滅裂なデータがなんとか読み取れた、という程度だがね。正しく読み取るには他の欠片と適切な再生装置が必要だろう、とぼくは愚考するよ」


 エクセルとペフィロが何を言っているのか、トスカナには半分くらいしか分からなかったが、ゴルグとリシュリーも首を傾げていた。彼らの世界の物理科学文明の話なのだろう。物理科学についてもいつか詳しく知りたいと思ってはいるものの、ラグナでもその分野は未発達なせいで学ぶ場がないのである。


「ペフィロちゃん、それでその……でーた、は何か役に立ちそうなんですか?」

「いいや。これは現状ただのガラクタだ。だけども、ぼくらがラグナに転生してから今日までの経験を踏まえた上で、AIの解析とぼくの勘が正しければ――」


 その後に続いた言葉は、到底信じられるものではなかった。

 トスカナは耳を疑い、リシュリーはきょとんと固まり、ゴルグは鼻で笑った。

 エクセルは穏やかな笑みを崩さなかったが、その横顔はどこか悲しそうに見えた。

 

「突飛なことを言っているのは分かっているとも。理由付けも詭弁の類、机上の空論も甚だしい。だからぼくは明日、真実を確かめに行くぞ。きみたちもどうだね」

「ペフィロちゃん!? 行くってどこに……」

「む? そんなの決まってるじゃないか」


 ペフィロは窓の外をまっすぐに指差した。

 その先には何も見えない。しかしこの国の誰もが知っているのだ、その方角の遥か彼方に何があるのかを――


「アルルゼール魔煌国、魔王城。……ふふ、一年ぶりに魔王に会いに行こうじゃあないか」

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