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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅴ 晴れのちレモネード 時々雪だるま
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みんなのチュートリアル美少女

 やがて守衛の兵士が飛んできて、気絶した酔っ払い男は引きずり出されて行った。彼のドールらしいクマ耳の幼女が無感情にそれを追いかけていくのを見て、大男が処分されたりしたらあの子はどうなるのだろう、という考えが頭によぎった。


「オペレーターがやらかして捕まったら、そのドールは軍預かりになりますよー。優秀なドールならこちらからオペレーターに斡旋することもありますが、まー大抵はその辺のドールプロバイダーが買い取りに来ます」


 そう答えてくれたリモネちゃんは今、アイシャの首輪を弄っている。新しいものへの付け替えは済んでおり、初期設定を行っているようだ。アイシャは相変わらずカチコチに固まっている。


「ドールプロバイダー……レンタドール社もその一つ、だよね」

「ですねー。あそこは管理人がやらかしたので、これも所属ドールは全員軍預かりになってます」

「あ……!? そ……そっか、そうだよね。アイシャ以外にもあそこにドールはたくさんいたんだよね……」


 アイシャだけを見るあまり、他の所属ドールの生きていく術を奪ってしまっていることに気づいていなかった。そう今更ながらに慌てるが、


「や、むしろ良かったですよー。軍預かりなら暴力に怯えることもお腹を空かせることもないですから。……正直、潰してくれて助かりました」

「そう、なんだ」


 いや、きっかけになったとは言え、潰したのはナツキではなく管理人の自滅だが。


「ラクリマに人権はないですし、ドール運用法はギリギリ守ってたので、出来ることは注意勧告くらいだったんですよ」


 ラクリマに人権はない。そう言うリモネちゃんはどこか辛そうだった。


「リモネちゃん……リモネちゃんはどうして、ドールの管理者に――」

「はい、できましたよー」


 何故若干14歳でそのような要職に就き、ラムダを顎で使っているのか。浮かんできた様々な疑問はしかし、作業終了の宣言に遮られてしまった。触れてほしくないことなのかもしれない。

 解放されたアイシャが、逃げるようにナツキの後ろに隠れる。リモネちゃんはそれを見て少し寂しそうに笑ったが、すぐ元の調子でナツキに向き直り、


「ほんじゃナツキさん、タグの発行がてら、チュートリアルと行きましょーか」

「へっ、タグ? チュートリアル?」


 何の話だ初耳だぞ、と目を瞬かせるナツキに、ほんとは合格者発表のときにまとめてやるんですけどね、とリモネちゃんは疲れた表情を見せた。


「今回は試験がぐっちゃぐちゃになっちゃったんで、合格者ごとに個別対応なんですよー。はーめんど」


 リモネちゃんによれば、新しくオペレーターになった者は皆、タグという個人識別証が合格証書代わりに与えられ、それがオペレーターであることの証明にもなるらしい。その発行とオペレーターの職務についてのチュートリアルをするのも彼女の役目なんだとか。ついでにアイシャのアイオーンも支給してくれるらしい。


「みんなのチュートリアル美少女、って言ってた意味がやっと分かったよ」

「やだもーナツキさん、美少女だなんて……照れちゃいますよぅ」

「自分で言ってたよね!?」


 わざとらしく体をくねらせたリモネちゃんは、おもむろに懐から赤い小さな物体を取り出し、


「ほい、ナツキさんのタグです。なくさないでくださいね」


 そう言いながらナツキの手にそれを握らせた。もう発行されていて、それを持ってきてくれていたらしい。


「わ、ありがとう」


 渡されたタグは、細長い角丸長方形の小さな金属板だった。つるりとした面とナツキの名前が掘られた面があり、端に穴が一つ開けられている。

 色は金属光沢のある明るい赤。塗料ではなさそうだが、この世界の金属だろうか。


「ナツキさんはオペレーターになったばかりなので、Eランクです。ランクはE、D、C、B、A、Sと上がっていきますが……要は、頑張れば昇進できて報酬や受けられる依頼も増えるって話ですね」


 うん、ありがち。この辺りはダインからも少しだけ聞いた話だ。


「Sランクになるとギフティアの子と契約できるようになったり、貴族特区に入れたり、越境税とかいろいろ免除されたり、と特典盛りだくさんなので、目指していきましょうね。まーほぼ無理ですけど」

「……ギフティアと、契約」


 にー子がギフティアだとバレたとき、Sランクオペレーターならアイシャと同じように守ることができる、のだろうか。


「で、そのタグの色はランクを反映します。Eが赤、Dが青、Cが緑、Bが銀、Aが金、でもってSは白ですねー」


 周囲を見渡す。よく見れば、受付に来ているオペレーターは皆タグを身につけていた。青色(Dランク)が一番多く、次に緑色(Cランク)、次に赤色(Eランク)といった感じか。Bランク以上のオペレーターはこの場には見当たらなかった。


「Eは見習い、Dが半人前、Cで一人前って感じ?」

「ですねー、まさにそんな感じ」


 ナツキとリモネちゃんの周囲で耳を立てていたオペレーター達のうち、緑タグの面々が少し得意そうな顔になり、青タグの面々は不満げな顔になった。分かりやすい連中である。

 赤タグのEクラスの面々の顔色は特に変わらない。恐らくDに上がるのは誰でも時間の問題で、Cに上がるあたりで努力なり才能なりの壁があるのだろう。


「んで、軍やハンターズギルドに持ち込まれる依頼は、このオペレーターランクをもとに難易度ランクが設定されます」

「あ、それは見たことあるよ。……あれ、でも……」


 トドナコの森の使い魔討伐の緊急依頼はAランクだった。しかし集まった人々が皆Aランクのオペレーター相当の戦士だったとは考えにくい。そう指摘すると、リモネちゃんは苦い顔になった。


「あー……実は軍の規則としては、難易度未満のランクじゃ依頼を受注してはならない、とは定めてません。あたし達は仲介人ですから、依頼主の合意があれば別にいいんですよ。難易度表記はあくまで目安、推奨ランクを示しているだけ。ハンターズギルドも同じようにしてるとこが多いようです」

「そ、そうなんだ……」

「ただ、特に高い難易度の依頼は保険や諸々のサポートの適用対象外にしてるギルドが多いですし、実際死にに行くようなもんなので……あんまりオススメはしません。受付でもしつこく確認されるはずです」


 自分の一つ上くらいに留めておくのが無難、らしい。あの場に集まった連中は、予想以上に命知らずの割合が多かったのかもしれない。


「んで、軍や《塔》の依頼はそこの掲示板に掲示されます」


 そう指し示された先、入口側の壁にはオペレーター達が群がっていた。彼らの隙間からたくさんの紙が貼られた大きなコルクボードが見える。


「システムはナツキさんのギルドと同じです……とゆーか、ギルドがウチの真似をしてるんですけどね」

「受けたい依頼の紙を剥がして受付に持っていけばいいんだね?」

「ですよー。報酬の受け取りも、特記がなければ基本はここでです」


 しばらく掲示板でも物色しててください、と言い残して、リモネちゃんは受付の奥へと駆けていった。アイシャのアイオーンを持ってきてくれるらしい。


 リモネちゃんに言われた通りアイシャと共に依頼掲示板に近づくと、群がっていた人々は脇に退いてくれた――いや、避けられたと言った方が正しいか。


「あのー……ボク、猛獣か何かだと思われてる? 見ての通り、ただのか弱い女の子だよ?」

「いやいやいや嘘つけ」


 にっこり笑顔で無害アピールをしてみたが、近くにいたオペレーター達は引きつった笑みを返してきた。……うん、先程の騒ぎの後では無理があったかもしれない。


聖石兵装(サクラム)使いこなしてんのにか弱いわけあるかよ」

「おっかねえ……」


 例の聖石兵装(サクラム)とやらで戦闘力を底上げしているのだと思われているようだ。それについては説明を求められても困るのでノーコメントにしておこう。


「でも、こんな小さな子を戦わせるなんて……」


 ナツキの周囲を囲むオペレーター達の中から一人、心配するような声が上がった。誰かに無理やり戦わされていると思っているのだろうか。

 そんな事実はないが――よしんばそうだとして、オペレーターにだけは言われたくない台詞だ。


「……お姉さんが連れてるその子も、戦わされてる小さな子だよね?」

「え?」


 ナツキの心配をするなら、傍らに連れているロップイヤーのドールについてはどう考えているのか。その糾弾に、声を上げた女性オペレーターは何を言われたのか分からないと言うような反応を返した。

 ドールに目立った傷はなく、装備もしっかりしている。ドールを大切に扱っているなら、もしかするとナツキとアイシャのような関係だったり……と少し期待したが、


「あ……そういうこと。あのねお嬢ちゃん、ドールはヒトに似た形をしてるけど、ヒトじゃないのよ。これは武器なの。武装も聖石兵装(サクラム)じゃなくて……ってお嬢ちゃん、そんなことも知らずにオペレーター試験を通過したの?」


 残念、この人もこの世界の「常識人」だ。後ろでアイシャが少ししゅんとしたのが伝わってきた。

 しかしよくもまあ、見た目に忌印(シグナ)の有無程度の差しかないナツキとドールとをそこまでキッパリ切り分けて考えられるものだと思う。


「知ってるし、ヒトかどうかの話はしてないんだけど……それにボク、自分からオペレーターになったんだよ?」

「……え!? じゃあその聖石兵装(サクラム)は誰が……まさか自分で?」


 ……聖石兵装(サクラム)の詳細がよく分からない。自分の武器は自分で調達するものではないのだろうか。

 仕方がない、ここは伝家の宝刀を抜かせてもらおう――


「……わかんない。ボク、記憶喪失なんだ」

「記憶喪失!?」


 困った時のお役立ち、記憶喪失設定である。にわかに周囲がざわめいた。


「目が覚めたら何も覚えてなくて……でもね、戦い方だけは分かったの」

「そんな……」


 オペレーターの女性の表情が、痛ましい物を見るように歪んだ。見れば周囲の他のオペレーター達も唖然としている。どいつもこいつも単純だな。


「この世界には神獣っていう悪い化け物がいて、ラクリマっていう種族が頑張って戦ってるんだよね。だったら……戦い方しか覚えてないボクにできることは、オペレーターになって一緒に戦うことかなって」


 ぼんやり組んでおいた設定を、整理しつつ垂れ流していく。《陽だまり亭》で似たようなことを散々やってきたわけで、もう慣れたものである。

 それを聞いた女性オペレーターは気遣わしそうに、


「戦うのはドール、ラクリマなんだから……あなたが戦う必要なんてないのよ」

「どうして? ボクたちの世界の危機なんだから、みんなで頑張らなきゃ」


 きょとんとした顔を作って首を傾げてみると、女性オペレーターは言葉に詰まって唾を飲み込んだ。


「っていうか、ドールと一緒に戦う人間がオペレーターで、お姉さんもオペレーターなんだよね?」

「……そうよ。でも一緒に戦うと言っても、実際に剣を振るうのはドール。オペレーターはドールに指示を出すのが仕事で……というか、オペレーターが振るう剣がドールなのよ。わざわざ聖石兵装(サクラム)まで身体に埋め込んで自分で戦うなんて危険な真似、しちゃだめよ」


 出た。「ドールはオペレーターが振るう剣」――何度も聞いたフレーズだ。

 現実を直視すればすぐに分かることだが、このオペレーターも最初に言った通り、ドールは剣ではない。剣はアイオーンであり、ドールがそれを振るっていて、オペレーターはその指揮をしているだけだ。それを、ドールの自我を限りなく0にすることで、ドールとアイオーンを合わせた領域を「剣」と呼称することへの抵抗をなくしている。


「まして、あなたみたいな小さな子が……」

「ボクには、お姉さんのドールもボクと同じくらい小さな子に見えるよ」

「だから、ドールは人間じゃないのよ。その名の通り、お人形なの」


 お人形(ドール)には自我も人権もないのだから、それをモノ扱いすることで自分たちが被るデメリットは無い。ただ粗雑に扱いすぎると壊れてしまい、新調に出費が嵩む。それはもったいないので、戦わせるときにはある程度装備を整えさせる。――多くの人々はその程度の認識なのだ。

 

 しかし、こちらは幼女である。大好きなお人形の扱いに関して、幼女には幼女の主張がある。


「お人形でも……友達が危ない目に遭うのは悲しいよ」

「友……達?」

「うん、友達。ね、アイシャ?」

「ふぇっ!? あの、えと……は、はいです」


 まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、ずっと静かに佇んでいたアイシャはわたわたと大慌てで答えた。

 それを見た周囲のオペレーター達が、一様に表情を消した。アイシャが感染個体だと悟ったのだろう。


 《塔》の世論操作、あるいは洗脳において、感染個体は綻びとなりうる存在だ。感染個体こそが本来の姿なのだということが明るみに出れば、さすがに消耗品のお人形扱いを無条件に正当化できなくなるだろう。だからアイシャ達は不良品とされ、ほとんど人の目に触れないまま一生を終える。そうなるように《塔》が操作している。


 オペレーターが感染個体を忌避するのは、そのイメージが刷り込まれているという理由もあるだろうが――恐らくはそれ以上に、「ドールに自我はない」という前提が崩れ、これまでの自らの行いが正当化できなくなることを恐れているのだと思う。


 そしてその前提の崩壊は、現在の対神獣戦線の危うい均衡の崩壊と同値である。だからたとえ真実を直視できたとしても、声を上げるメリットがない。


 本当に、反吐が出るほどよくできたシステムだ。


「……そのドール、壊れてるわ。交換した方がいいわよ」


 例に漏れずアイシャを見て拒否反応を起こしたらしい女オペレーターから、そんなバカみたいなアドバイスが降ってきた。もう少しは文脈を読んで発言してほしいものである。こっちはお人形を友達だと宣言した幼女なんだぞ。


 キッと睨みつけると、女オペレーターは判断の誤りに気づいたようにハッとした表情を見せた。だがもう遅い。幼女の怒りは爆発した。


「ひどい! なんでそんなこと言うの!? アイシャは壊れてないよ! ちゃんと話せるし、笑ったり泣いたり、ちゃんとできるもん!」

「ご、ごめんね。えっと、でもね、ドールは本当は、笑ったり泣いたりしないのよ?」

「じゃあアイシャは、笑ったり泣いたりできるすごいドールだよ! なんで壊れてるなんて言うの!?」


 ドールを人として扱い、それを他者にも広めようとする者は、危険思想持ちとして《塔》に密告されると言う。しかしこちらは幼女だ。「お人形を友達のように大切にする幼女」を、誰が危険人物だと主張できようか。


「そ、それは……武器に感情なんて必要ないんだから……」

「アイシャは武器じゃない! 一緒に戦う仲間だよ! 友達なのに……ひどいよ……っ」


 涙腺を操作して泣いてやろうかと思ったが、気づかないうちに既に涙目になっていた。感情の勢いに幼女ボディが反応してしまったのかもしれない。……嗚咽まで込み上げてきた。


「う……うぅ……っ」

「あ……えっと……ち、違うのよ、そういうことじゃなくて……」

「おい、泣かすなよ……」

「わ、わたしのせいだって言うの!?」


 子供を泣かせてしまった、というのは、良識ある大人ならいくら理論武装していようと罪悪感に駆られるものである。アイシャを庇うように立ち、涙目で睨みつけるナツキを見て、オペレーターの女性は大きく慌てだした。


 そして――子供の感情論は、大人の建前を捨てて子供の純粋な考え方に寄り添わなければ理解できない。


「なあ……確かに、何で感染個体は『不良品』なんだろうな」

「そりゃ、発掘や調整に失敗したから……だろ?」

「や、そうなんだけどさ。そりゃ兵器としちゃ不良品なんだろうけど……もっと別の使い道っつーか……戦闘以外の……それこそ子供の遊び相手とか……」


 一歩退いたところからナツキの怒りを聞いていた周囲の人々は、アイシャを見て何やら考える仕草を見せた。

 いい傾向だ、もうひと押し彼らの心を揺さぶることができれば、と追撃をかけようとしたところで、


「ちょっと皆さーん、幼女に群がって何やってるんですかー」


 リモネちゃんが帰ってきた。両手で抱えている長細いものは、布に巻かれたアイオーンだろう。


「リモネちゃん……」

「はいほい、みんなのアイドルリモネちゃんですよー……って、え? ちょ、ナツキさん泣いてます?」

「ぐすっ……そのお姉さんがひどいこと言うんだ」

「……ほーう? 幼女に手を上げるとは……」


 リモネちゃんが目を光らせてゆらりと振り返る。なかなか頼もしい。


 ――いや、先日、あなたも同じ幼女に手を上げていましたけどね?


「ちょ……リモネちゃん違うの、私はただ、感染個体は神獣と戦うのに向いてないから、交換しないと危険だと思って――」

「お姉さんは友達を交換できるの……? ボクが子供だからなのかな……大人になったらそうなっちゃうのかな……」

「だ、だからドールは友達じゃ……」

「あーはい、はい、把握しました、両者静かに!」


 パンパンと手を打ち鳴らし、


「まずですね、あなたの主張は一般的にはごもっともです。Eランクオペレーターに感染個体を組ませるのは命を捨てさせるも同然、確かにその通りです。でもですねーこの子、Cランクのあなたより強いですよ?」

「え……」

「それにですね、ナツキさんとこのドール⋯⋯アイシャ=エク=フェリスとの契約には、《塔》の契約書が絡んでますよー」


 《塔》の契約書、という言葉に野次馬たちがピクリと反応する。

 ほら見せもんじゃないですよ、とリモネちゃんが手をヒラヒラ振ると、騒ぎに集まっていた人々は徐々に散っていった。


「リモネちゃん……」


 もう少し彼らの心を揺さぶりたかったのだが、リモネちゃんは善意で追い払ってくれたわけで、と何とも言えない気持ちになっていると、「気にしなくていいんですよ」と頭を撫でられた。慰められてもなぁ。その気遣いは後ろで縮こまっているアイシャに向けて欲しい。


 というかリモネちゃんはラクリマやドールのことをどう思っているのだろうか。


「ねえ、リモネちゃん……」

「んでもってほい、アイオーン持ってきましたよー。使用者登録、アイシャ=エク=フェリス!」


 ナツキの疑問の声を遮りながら、リモネちゃんは流れるようにアイオーンの布を解き、鞘をアイシャの首輪に触れさせた。首輪が一瞬青く光るのを見て一つ頷き、アイシャにアイオーンを渡すと、


「んじゃあたしはこれで。オペレーターマニュアルはその首輪に入ってるんで、よく読んでテキトーにやってどーぞ。月のコア納入ノルマは忘れないでくださいねー。では!」


 それだけ告げて、さっさと奥に帰っていってしまった。


「……ずいぶん雑なチュートリアルだったね」

「リモネちゃんさん、いつもとっても忙しそうなのです」


 アイシャは心配そうに、リモネちゃんが消えていった方を見つめていた。


「確かに、本来14歳の女の子に任されるような仕事内容じゃないし、仕事量も多すぎる気はするね……」

「です……。……え?」

「昨日も体調良くなかったみたいだし……ん、アイシャ、どうしたの?」

「な……なんでもないのです」


 こちらを呆れたような目で見ていたような気がしたが、気のせいだったようだ。


 リモネちゃんがいなくなったことでまた周囲の人々が遠巻きに集まり始めたので、絡まれる前にと、そそくさとその場を後にした。

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