表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅳ ネコとクラゲとハリセンボン
50/233

Noah/ν - 子猫の陽だまり Ⅱ

 でかけたなつきが、かえってこなかった。

 おおきないきものがみんな、なつきをさがしてくれた。

 でもぜんぜん、ぜんぜんみつからなかった。

 なんどもさがしにいこうとしたのに、らずさんにつかまっちゃう。

 らずさん、ひどい。どうして? なつき、さがさなきゃいけないのに……


 まっくらになっても、なつきはかえってこなかった。

 にーこのおひさまが、どこかにきえちゃった。 

 らずさんにおへやにとじこめられて、にーこ、ずっとないてた。

 ないて、ないて、ねむくなってきて……でもねちゃったら、きっともうなつきにはあえないんだっておもって、がんばっておきてた。


 そしたら、なつきはちゃんとかえってきた!

 でも、あちこちきずだらけのどろだらけだった。

 いつもみたいにわらってくれたけど、あんまりげんきがなかった。

 だから、ふわふわさんにおねがいしたの。なつきをなおして、って。

 そしたらおおきないきものはみんな、おどろいてた。


「にー子お前今、魔法を――」

「ニーたん、あなたギフティアだったの!?」


 よくわからないけど、ふわふわさんのきらきらにびっくりしたのかな?

 にーこもさいしょはびっくりした……ようなきがする。

 でも、ごめんね。なつき、なおさなきゃいけないから。

 いたそうなきずを、なめて、ふわふわさんをよんで、けして……

 なつきはなんだか、くすぐったそうにしてた。からだをなめてるだけなのに、へんなの。


 そのあと、おおきないきもの……「だいん」が、とってもこわいかおでにーこをみたの。

 だいんがなつきになにかをいったら、なつきはおおきなこえでなにかをいいかえして……けんかがはじまっちゃった。

 なつきもだいんも、なんどもにーこ、にーこ、っていった。

 きっと、にーこのせいでふたりはけんかしてるんだ。そんなの、やだ。


「なー! になぅ、ぅなぁ、にぅー!」


 とってもかなしくなって、ふたりをとめようとしたの。

 ごめんなさい、にーこがわるいの、だからけんかはやめて、って。


「わ、にー子……お前のこと話してるんだよ。大丈夫、絶対守ってやるからな」

「ふざけんな、ただの感染個体ならともかく、ギフティアなんか店に置いておけるか! 倫理だの差別だの、そんな話はしてねェ、もっとシンプルな法と生き死にの話だ! 死にてえのか!?」

「ならにー子は戦場に放り出されて死んでもいいってのか!? 低級回復魔法が使えるって分かったから何だってんだ、にー子はにー子だろうが!」

「てめェの世界の常識で測るんじゃねェ! てめェは《塔》の理不尽を何も分かっちゃいねェんだよ!」


 だめだった。にーこのことばは、ふたりにはつたわらない。

 どうして? どうしてにーこは、みんなのことばがわからないの?

 めからぽろぽろ、みずがあふれてきて、とまらなくて……


「この馬鹿共、うちのマスコットを泣かせるんじゃないよ!」


 けっきょく、けんかをとめてくれたのはらずさんだった。

 にーこはぜんぜん、やくにたたなかった。

 それがとってもかなしくて、くやしかった。



 だからにーこ、がんばった。

 みんなのことばをいっしょうけんめいきいた。

 にーこがだしてるこえは、ちゃんとことばになってないってこともわかった。なつき、ってよんでるつもりだったのに、ちょっとちがったみたい。

 な、つ、き。

 「な」はだいじょうぶ。「つ」「き」が、むずかしい。


 おおきないきものはみんな、「にんげん」っていういきものだった。

 なつきも「にんげん」で、だいんもらずさんも、「にんげん」だった。

 にーこは、「らくりま」で、「ぎふてぃあ」なんだって。やっぱり、ちがういきものだった。


 ……あれ? にーこ、そんななまえのいきものだっけ?

 ふわふわをおしえてくれた「ひと」は、にーこのこと、もっとべつの……なんだっけ。ね……ね…………

 うーん、おもいだせないや。


 おうちにやってくるおおきないきものは、「おきゃくさん」「ばかざる」「さるども」「おばか」「へんたい」ってよばれてた。なつきはいつも「おきゃくさん」っていうみたい。

 にーこもまねしてみようとしたけど、とってもむずかしかった。「きゃく」って、とってもたいへん……したがのどのおくでからまっちゃう。


 だんだん、みんなのことばがわかってきた。まだにーこはうまくはなせないけど、「じょーれん」のおきゃくさんのなまえは、ちょっとだけいえるようになってきた。おきゃくさんのなまえをよぶと、おきゃくさんはみんなよろこんでくれる。にーこは「かわいい」し「とーとい」んだって。にーこ、ほめられてるのかな?



☆  ☆  ☆



 なつきが、とおくにでかけることになった。

 なんにちも、おうちにはもどってこないんだって。

 ……そんなの、やだ。


「なぅきぃなぃ、にぁーぁ!」


 なつきがずっとそとにいるなんて、やだ!

 だっておうちのそとはこわい。なつきがけがしてかえってきたの、にーこ、おぼえてるもん。

 けがはいたい。いたいのはやだ。だいすきななつきがいたいのは、もっとやだ!

 それににーこ、しってる。ずっといたいと、いきものはしんじゃうんだ。なつきがしんじゃったら、もうにーことおはなししてくれない。にーこのおひさまが、いなくなっちゃう!


 ぜんぶ、ぜんぶつたえたいのに、まだくちがうまくうごかない。ことばをどうつなげればいいのかも、よくわからない。

 だから、ぎゅーってなつきをとじこめた。にーこのまえあし――「うで」はみじかくて、ちゃんととじこめられなかったけど、きもちはつたわったかな……?


 でも、それでも、なつきはでかけちゃった。どうしてもいかなきゃいけないんだって。「ぶき」があるから、けがはしないんだって。

 「ぶき」がなにかはわからないけど、なつきがそういうなら、きっとそうなんだ。だからきっと、だいじょうぶ。だいじょうぶ……




「おいラズ、緊急だ。俺の金庫から金貨ありったけ持って軍病院まで来い!」

「はあ!? 金貨!? 軍病院って……一体何だってんだい!?」

「ナツキが腹に大穴開けて出血多量の心停止だ、もう起きるかどうかも分からねェができることはやる! 一刻を争う、さっさと動け!」




 ……え?

 「はらにぉーあなーけて」ってなんだろう。

 「しゅっけつたりょーのしんてーし」ってなんだろう。

 「もうおきるかどうかもわからねぇ」って……

 なつきが、もう、おきるか、どうかも、わからないって……


 ぜんぜん、いみがわからない。きっとにーこ、まだことばがよくわかっていないんだ。だってなつき、いったもん。けがはしないって。いったもん。いった、もん……


「ったく、無茶するんじゃないよって言ったじゃないか……ってニーコ、いたのかい!? まさかあんた今の聞いて……!?」

「……なぅき……おきない……? ゃ……にゃーの……にーこ、ゃぁ……」


 ぽろぽろ、めからみずが――「なみだ」が、あふれてきた。


 どうして。どうして?

 にーこのきもち、つたわってなかった?

 にーこ、もっとがんばればよかった。もっともっと、みんなのことば、もっとはやくから、ちゃんときいてればよかった。そうすればきっと、なつきにちゃんと、いかないでって、しんじゃやだって、いえたのに!

 なんでにーこ、ぜんぜんことば、うまくはなせないの? にーこがにんげんじゃないから? らくりまだから? なんにもできないにーこのばか! ばかばかばか! しんじゃえ!


「ちょ、やめな! あんたは何も悪くないよ!」

「にぁー!」

「あんたはちゃんと止めたじゃないか! 悪いのはナツキを連れ出したダインの馬鹿と、約束も守れない嘘つきナツキの大馬鹿だよ! ……あーそこの八百屋! 話は聞いてたね!? ニーコを頼むよ! アタシは軍病院に行ってくるからね!」

「へっ!? あ、はい! お気をつけて……、いやいやいやいやナツキちゃんが心停止!? え!? どういう……あっもういない!?」

「にぁ、ぃにぃーっ!」

「うわニーコちゃん、落ち着いて……」


 じょうれんのおきゃくさんが、にーこのからだをぎゅっとおさえた。

 にんげんの「おとな」は、とってもちからがつよい。にーこはうごけなくなっちゃった。


 わるいのは、だいんと、なつき。らずさんは、そういってた。

 なつきがしんじゃうのに、なつきがわるいの? そんなの、へん。

 やっぱりにーこがわるいんだ。にーこが……


「にー……にー……っ」


 うごけない……はなして、はなしてよ……


「ちょっとちょっと、キールさん」


 べつのじょうれんのおきゃくさんが、おいでおいでしてる。

 たしか、りりむ。しろいふくの、おいしゃさん……


「リリムちゃん?」

「いちおーこれでも医者ですから。メンタルケアは専門外だけどねぇ、八百屋さんよりは適任でしょ」

「そりゃそうだ……けど、ずいぶん落ち着いてるな!? ナツキちゃんが――」

「ストップ! これ以上ニーコちゃんの傷を広げない! 落ち着いてられないお猿さんはラズさんに代わってあたしが追い出すよー!」

 

 きず……? にーこ、けがしてるの?

 

 りりむはにーこのこと、ぎゅーってしてくれた。おさえられてるかんじじゃなくて、ふわって、やわらかかった。


「さ、ニーコちゃん。大丈夫。まずはゆっくり、深呼吸だよ……」


 りりむはそれから、にーこのはなしをきいてくれた。

 にーこ、ぜんぜんうまくしゃべれないのに、なんどもなんども、にーこのきもち、きいてくれた。

 おひさまのこと、なつきがだいすきなこと、にーこがことばにできなかったこと、ぜんぶことばにしてくれた。


「なるほど。うーん、こりゃ誰も悪くないけど……うん、強いていえばナツキちゃんが悪いね。なんたって嘘つきだもん」

「ぅそっき? わるいの、なぅき?」

「そうだよー。だから、ナツキちゃんが帰ってきたら、ニーコちゃんは怒るべきだ。だからその練習を今からあたしとしよう!」

「にぁ……?」


 なつき、かえってくる? いなくならない?


「ナツキちゃんは大丈夫だよー。だってあの、立てば守銭奴座ればドケチ、歩く姿は吝嗇家のダインさんが金庫を開けるんだよ? それってつまり、お金を積めば命は助かるってことだよねぇ」

「な、なぅ?」


 たてばしゅせ……?

 よくわかんないけど、にーこ、またなつきにあえるのかな……?


「確かに……あのダインさんだもんな……」

「相当な勝算があるってことじゃ……」

「……あれ、命は助かるって、目を覚ますとは」「おい馬鹿黙れ」


 おきゃくさんもみんな、そうおもってる……!


「さあ練習だ!」

「に、にぁ!」



☆  ☆  ☆



 なつきは、ほんとうにかえってきた。

 とっても、げんきだった。きずなんてどこにもなかった。

 いますぐぎゅーってしたい。したいけど、にーこはいま、おこってるんだ。


 なつきが、こまってる。にーこがおこってるから、こまってる……

 ……でも、にーこだってこまったんだもん。

 だから、れんしゅうどおり――


「なつき、ぅそつき!」


 ……いっちゃった。

 すっごく、つらい。

 にーこ、なつきに、ひどいこといってる……

 あ、だめ、ないちゃう……!


 ……にーこ、にげだしちゃった。

 だって、にーこがないちゃうなんて、そんなときのためのれんしゅう、してなかったんだもん。


 なつきとにーこのおへやにはいって、かぎをかけて……それからどうすればいいのか、わからなくなっちゃった。

 そしたらすぐ、なつきがやってきた。やくそくまもれなくてごめん、って、あやまってくれた。


 ちがうの。らずさんもりりむも、なつきがわるいっていったけど、ほんとは、ほんとは……!

 

「――そもそもボクはさ、人生ロスタイムだから……いつ死んでも構わない、って思って――」


 え……?

 だめ、そんなのだめ!


 かぎをあけて、とびだした。がまんできなかった。ぎゅーって、しちゃった。きょういちにちは、「つんつん」してなきゃいけないはずだったのに。

 でも……そんなのやっぱり、むり。だからもう、おこってるにーこはおしまい。


 なつき、いなくならないで、って、いった。

 こんどこそちゃんと、いろいろつたえなきゃっておもったけど……なつきがでかけるまえにいったのとおなじことばしか、でてこなかった。

 それでも、にーこのきもち、ちゃんとつたわったみたいだった。けがしないのはむりだけど、ぜったいにちゃんとかえってくるって、やくそくしてくれた。


 ……ほんとは、ぜったいにけがしないってやくそくしてほしかったけど。にーこのきもちはわかってくれたけど、それはむずかしいみたい。

 だからにーこ、がんばる。なつきがどんなけがしてもなおせるように、ふわふわさんともっとなかよくなる! それに、もっともっとおおきくなって、なつきといっしょにそとにでるんだ。そうすればなつき、けがしないから!


 にーこのおひさまは、にーこがまもるんだ!







にー子がちょっと喋れるようになった背景でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ