Noah/ν - 子猫の陽だまり Ⅰ
にーこは、にーこだ。
めがさめたら、さむいばしょにいた。おひさまのみえるところにいきたいな、とおもった。
……あれ? おひさまって、なんだろう?
なんだかとってもあかるくて、あったかくて、きもちいいもの……だとおもう。
ここにあるあかるいものは、おれんじいろにひかる、おおきくてきらきらしたいしだけ。
これがおひさまじゃないってことは、わかった。あかるいけど、あったかくない。
おひさまはどこだろう。さがしにいこうとして、なんかへんだな、っておもった。
からだが、じぶんのからだじゃないみたい。にーこ、こんなかたちだったっけ?
よくわからないけど、はやくおひさまをみつけなきゃ。
そうおもってあるいていたら、へんなものがじめんからでてきた。うねうねしてる。
ゆびでつついてみたら、じゅっ、っておとがした。
「んなぅ……っ」
これは、すっごくいたい。はやくにげなきゃ。いたい。いたい……
はしって、はしって、いしのうえまでにげたら、うねうねはおいかけてこなくなった。
うねうねは、いしがにがてみたい。じゃあ、いしのうえをあるこう。
……いたい。うねうねをつついたゆびが、ぐちゃぐちゃになってた。
いたいとき、かゆいときは、なめればいい。なんでだっけ? わすれちゃった。
ぺろぺろ。ぺろぺろ。……なおらない。
あれ……なんか、ふらふらしてきちゃった。
こういうとき、どうするんだっけ。だれかが、にーこにおしえてくれたきがする。
……そうだ。ふわふわのひかりに、おねがいするんだ。
「なー……」
おねがい、ふわふわさん。みどりいろのふわふわさん。いたいの、つらいの、なおして……
ぺろぺろ。ぺろぺろ。
なめながらおねがいしてたら、ふわふわさんがきてくれた。
みどりいろのきらきらが、にーこのゆびにとんできて、あったかくつつんでくれた。
それから、からだにもとんできた。つらいのが、なくなってく。
ぽかぽかしてきもちよくて、おひさまみたい。これがおひさまだっけ?
……ちがう。これはふわふわさん。おひさまは、にーこがおきてるときはいつも、おねがいしなくてもいっしょにいてくれた……そんなきがする。
でも、そうだ。ふわふわさんのことをおしえてくれたひとも、おひさまみたいにあったかいって、おもったんだ。
ひと? ……ひとって、なんだろう……
「きゅー……」
なにか、きこえた。
おとがしたほうにあるいていったら、にーことおなじようなかたちのいきものが、つちのうえですわってた。
……このままじゃ、うねうねにおそわれちゃう!
きっとにーこのなかまだ。たすけなくちゃ!
「なぅー!」
にーこはそのこをひっぱって、いしのうえまでにげた。
「んなぅ、なーなぅ、にぅなー!」
つちのうえにいちゃだめなんだよって、おしえてあげた。
けど、なにもこたえてくれない。ぼーっとしてる。にーこのこと、きづいてないのかな?
とにかく、あんぜんなところにつれていかなきゃ。
つちがちかくにない、いしにかこまれたところをさがそう。
おひさまさがしは……またあとで。
☆ ☆ ☆
にーこのなかまは、ちかくにたくさんいた。
あんぜんなばしょをみつけたから、みんなそこにひっぱっていった。
でも、みんなぼーっとしてて、だれもにーことはおはなししてくれない……
それにときどき、きらきらってひかってどこかにいっちゃう。なんでだろう。
……つぎにあうなかまは、おはなしできるといいな。
それからまた、きらきらのいしのほうにむかってあるいてたら……どたばた、っておおきなおとがきこえてきた。
なかまかな、っておもってみにいったけど、ほかのみんなとはちょっとちがった。
おひさまみたいにきんいろのけなみの、きらきらしたこ。にーこやみんなより、おおきい。
あれ? よくみたら、みみもしっぽもないや。なかまじゃないのかな?
「ポストアポカリプス……人外が征服済み……ディストピア系……ろくな可能性がないな」
しゃべった!
なんていってるのかよくわからないけど、にーことおはなしできるかも!
……でも、なかまじゃないかも……
……あ、こっちにくる! かくれなきゃ!
いそいでちかくのいしのうしろにとびこんだけど……きづかれちゃったみたい。
「……誰かいるのか?」
にーこに、はなしかけてるみたい。おはなし、できるのかな?
そっと、いしのうしろからかおをだしてみたら……そのこは、おおきなこえをだした。びっくりした!
にげる? にげたほうがいいのかな? こわい……
……あれ? おいかけてこない。
……あ、もしかして、あのこもにーこにびっくりしたのかな?
こわい、こわいけど……でも、おはなししたい……!
もういちどそーっとかおをだしてみたら、こんどはおおきなこえをださなかった。
かわりに、やさしいかおで、まえあしをひょいひょいってして、おおきくひろげた。
「おいで」
あ……これ、しってる。にーこ、すきだった……あったかいやつ。
きんいろのこは、にーこをぎゅーってしてくれた。やっぱり、とっても、あったかい。
「うー?」
あなたはおはなし、できるの?
「おぅ、ど、どうした」
「んうー、なー」
にーこはね、にーこ。あなたはだあれ?
「なー? 何だって?」
「なうー」
……つうじてないみたい。やっぱり、なかまじゃないのかな……
でも、ぎゅーってしてくれたし……こわいいきものじゃ、なさそう。
だったら、うねうねからまもってあげなきゃ。
☆ ☆ ☆
きんいろのこをおへやにつれていったあと、ほかのなかまをさがしてたら、おおきないきものにつかまった!
なにをいってるのかはやっぱりわからないけど、ぜんぜんやさしくない!
ぎゅーもしてくれなかった! こわいいきものだ! このままじゃ、たべられちゃう!
「にぃいいいいいっ! うーっ、なぅ、なぁあぁぁあ!!」
はなして! だれか、たすけて!
「てめっ、暴れんじゃねえ、大人しくしやがれ!」
おおきないきものはとってもちからがつよくて、にーこをはなしてくれなかった。
もうだめだ、っておもってたら……あのきんいろのこが、たすけにきてくれた!
きんいろのこがおおきないきものになにかいって……そしたら、おおきないきものはにーこをはなしてくれた!
きんいろのこ、すごい! やっぱり、なかまだったんだ!
……っておもったのに、きんいろのこはすぐ、げんきがなくなっちゃった。どうしよう、どうしよう!
「……チッ、レドムウィープにやられてやがる! クソ、間に合うか……!?」
おおきないきものが、きんいろのこのうしろあしになにかをかけて……あれ、うねうねのけがだ!
「なー! なぅーっ!」
はやくなおしてあげなきゃ! おおきないきもの、どいて!
「静かにしやがれ! 時間がねェんだよ!」
「にっ……」
にーこのくびに、なにかがぶつかった。
あれ、なんか……ねむくなって……だめ……たすけなきゃ……
☆ ☆ ☆
めがさめた。にーこも、きんいろのこも、げんきだった。
おおきないきもの、じつはこわいいきものじゃなかったみたい。
おおきないきものは、あったかくてあかるいものをだしてくれた。でも、おひさまじゃないみたい。
だって、ちかづくとすっごくあつい。
それにときどき、ぱちっ、っておおきなおとといっしょに、あついのをとばしてくる。
にーこのだいすきなおひさまはもっと、やさしかったもん。
きんいろのこはなかなかおきなくて、しんぱいした。
やっとめがさめたけど、そしたら、なきだしちゃった。
なんていってるのかわからないけど、とってもかなしそう。
……あれ? なんでないてると、かなしそうなのかな?
……そうだ。にーこにふわふわをおしえてくれたいきものが、かなしいとき、ないてたんだ。
どうしたらいいんだっけ。たしか……まえあしをあたまにのせるんだ。
☆ ☆ ☆
いつのまにか、ねちゃってた。
めがさめたら、こんどはまっくらで、ぎゅうぎゅうで、ゆらゆらだった。
「んな……なぅ……」
こわい。でもなんだか、あったかくてやわらかいものが、ちかくにあった。
みみをつけたら、とくん、とくんって、いきもののおとがきこえてきた。
こわい……こわいけど、でも、ちょっとあんしんした。
しばらくして、ちかくのあったかいいきものが、めをさました。
「……はっ! あれ、俺……どうなって……」
きんいろのこだ!
「に? にぁ、なう、なーぅ! にっ、にうぅっ」
きんいろのこ、ここはどこなの? たすけて!
そうさけんでみたけど、やっぱりきんいろのこにはつうじなかった。
でも、やさしくあたまをなでてくれた。……ちょっとみみにさわられて、へんなかんじになった。
「しかし何だかなぁ。名前って感じじゃないよな、コロニーマザー」
「にー?」
なぁに? あなたはなんていってるの?
「……よし。お前これからにー子な」
「んなぅー」
やっぱり、なんていってるのかわからない……
あれ?
「……なぅ?」
いま、にーこっていった?
「にー子、ここがどこか分かるか?」
「にー子お前、あったかいなぁ。お子様体温ってやつか?」
やっぱり! ききまちがいじゃない!
どうして? なんできんいろのこは、にーこのことしってるの?
「いいかにー子。俺はナツキだ。言ってみ? ナ、ツ、キ」
「にー?」
にーこにはなしかけてる、にーこのことよんでる。
おはなししたいけど、にーこのことばはつたわらない……
「ナー、ツー、キー、だ」
な、つ、き。
あれ? ……しってる。にーこそれ、しってるよ。なつき! だれかのなまえだ!
「んな、なう、にぁー!」
「よーしよしよく言えた、偉いぞにー子」
きんいろのこは、とってもよろこんであたまをなでてくれた。
やった、おはなしできた!
あれ? でも、なつきって……だれだろう。
……そうだ。にーこにふわふわをおしえてくれたいきものが、はなしてた……きがする。
ふわふわをおしえてくれたいきもの……
なんで? ちゃんとおもいだせない……にーこ、とっても、すきだったのに……
「んにー、うー?」
あなたは、しってる? おひさまみたいにあったかくて、やさしくて……そんないきものだったんだよ。
「おっ、何だ何だ――んひゃっ、ちょ……おい、変な声出たじゃんかこのやろうめ」
……あれ? なんか、おこってる?
「仕返しだ」
ふわっ!?
きんいろのこのまえあしが、にーこのからだをこねこねする!
くすぐったい! くすぐったいよ!
こねこね、まえはきもちよかったきがするのに、なんで!? やめて、くすぐったい!
もう! やめてっていってるのにー! ばかー!
それから、あかるいところにでて、おひさまかな? っておもったけど……そのひかりはとってもとってもとおくにあって、まっかっかで、あったかくなくて、くらかった。
にーこ、おぼえてる。あれはおひさまがいなくなっちゃうときにでてくる、きらいなひかりだ。
おひさま、どこにいっちゃったの?
それからいろいろあって、にーこはきんいろのこといっしょに、あったかいおうちにつれていかれた。とちゅうのことは、ねむくてあんまりおぼえてない……
あったかいおうちはとってもいいにおいがして、おなかがぐーぐーなった。それでふくろからとびだしたら……たくさんのおおきないきものにたべられそうになっちゃった。
こわかったけど、もっとおおきないきものが、おおきないきものたちをおいはらってくれた。
そのもっとおおきないきものは、にーこをたべなかったけど、かわりにへんなものをにーこにかぶせた。
からだにくっつくの、いや……っておもったけど、なんだかふわふわしててあったかくて、とってもきもちいいってわかった。
それをかぶって、ゆらゆらするところにすわると、ねむくなってくるの……
なんだか、おひさまといっしょにいるみたい。
にーこをたべようとしたおおきないきものも、ほんとはみんなやさしかった。
このおうち、だいすき……
そういえば、「なつき」は、きんいろのこのなまえだったみたい。びっくり!
ふわふわをおしえてくれたいきものがはなしてたのは、きんいろのこのことだったのかな。
それからずっと、にーこはなつきといっしょにいた。
にーこがねるときは、いつもなつきがいっしょだった。
おおきなこえのへんなはこにおこされるのはいやだったけど、おきたらちゃんとなつきがそばにいてくれた。
でも、なつきはすぐひらひらしたぬのをかぶって、「らずさん」のおてつだいにいっちゃう。
そのときは、あそんでっていってもきいてくれなくて、ちょっとさびしい。
それにすぐおおきないきものがたくさんやってきて、なつきはとってもいそがしくなっちゃう。
おおきないきものがたくさんあそんでくれるけど、ほんとはなつきがいいなって、ずっとおもってる。
だって、おおきないきものはみんなやさしいけど……こわいいきものがにーこをたべにきたとき、たすけてくれたのはなつきだけだったもん。
たべられそうになったのがこわくて、めがあつくなって……そしたらなつきはにーこをぎゅーってしてくれて、それがとってもあったかくて、あんしんしたの。
ほんもののおひさまはまだみつからないけど……ここには、きらきらきんいろで、あったかくて、やさしくて、にーことずっといっしょにいてくれる、そんななつきがいる。
ほんもののおひさまよりも、ずっとずっとだいすき。
だからね、なつきは、にーこのおひさまなんだ。
ずっとずっとそばにいる、にーこだけのおひさま。
ちょっとどこかにでかけちゃっても、すぐかえってきてくれる……そんなやさしい、おひさま。
ひらがなだらけのにー子視点。ずっと書きたかったのです。
次回も同じくにー子視点、後編です。