転生勇者、転生する Ⅳ
「まったく、幸せな食事の時間が台無しだよ」
頬を膨らませるペフィロだったが、ナツキが購買でソフトクリームを買ってきて献上したので、表情はいくらか和らいでいる。エクセルは「まだ入るのかい……」と頬を引きつらせていたが。
カーテンもちゃんと巻いている。あの後、じたばたするペフィロをトスカナが魔法で縛り、正座させ、十分ほど「乙女の作法」についてものすごい剣幕で説教をしたのだ。
普段は温和でおっちょこちょいなトスカナの本気は、ペフィロに羞恥心を芽生えさせることはなかったものの、「学院で服を脱ぐとあのトスカナがキレて実力行使に出る」という恐怖は植え付けられたようだった。
「……まあぼくとて、理解はできる。きみたちが異性に裸体を見せることを恥ずかしがるのも分かる。要は、劣った相手との生殖を避けるための、種としての防衛本能だろう? ぼくにはそれが定義されていないんだ。ぼくの世界は戦時中ゆえ、質より量だった。そんな本能は邪魔だったのだよ」
まだむすーっとしているトスカナをちらちら見つつ、ソフトクリームを舐めながら、ペフィロはつらつらと反論を試みている。
「それはペフィロちゃんの世界の話。ここでは違うんです!」
「むぅ。そうは言っても、ここラグナでぼくとまともに戦える人間なんか、きみたちくらいじゃあないか。強姦される心配なんてないぞ。ましてこの世界じゃ、ぼくの風体は幼子のそれらしい。ふむ、ますます強固な守りと言えよう」
どうだ、と勝ち誇った笑みを向けるペフィロに、トスカナはため息をついた。
「全くもう……せんぱいやエクセルが幼女に目覚めて襲ってきたらどうするんですか!?」
「ぶふっ、ちょ……」「カナ!?」
トスカナに任せてぼんやりしていたナツキとエクセルが、不意打ちにむせる。
しかしペフィロは平然としていた。
「うん? 問題ないぞ。ぼくの遺伝子は高適応型だし、きみたちは充分魅力的な人間だ。ぼくと子作りがしたいというなら、快く……あっ!」
顔を真っ赤にしたトスカナが、とんでもないことを口走ろうとしたペフィロの手からひょいとソフトクリームを取り上げ、高く持ち上げた。
ペフィロの身長では、届かない。
「か、返してくれたまえ! それはぼくのだぞっ」
「だめですっ、もう! 全くもう! ペフィロちゃんのばか! えっち! はむっ」
「あぁっ、食べた、食べたぞ! ぼくのソフトクリーム!」
涙目でぴょんこぴょんこ跳ぶペフィロを見ながら、ナツキは思う。
きっと、どちらが正しいということはないのだろう。価値観と文化の違いだ。
転生にあたって天使様は、異世界語自動翻訳システムとやらを授けてくれた。自分以外の言葉は瞬時に日本語に変換されて認識され、自分の言葉は相手の母国語に翻訳されて伝わるという、どこぞのコンニャクのような便利システムである。
しかしそんな天界の技術力でも、故郷の文化や人種の違いによる「常識」の齟齬は、いかんともし難かったのだろう。ペフィロには申し訳ないが、郷に入っては郷に従え、である。我慢してもらう他なかった。
「うぅ、この話はやめだ。トスカナにいじめられる」
ソフトクリームを取り返すことを諦めたペフィロは、椅子に座り、涙目でナツキを見た。
「そうだナツキ、研究の方はどうなのだね。進捗を語りたまえよ」
「うへぇ、昼休みに仕事の話をしないでくれよ」
完全なとばっちりに顔をしかめる。行き詰まっている研究の進捗を聞かれるのはかなりダメージがでかい。……いや、行き詰まっているわけではない。断じて違う。きっと。
「そうは言っても、ぼくも気になっているんだ。生体脳を持たないAIであるぼくの魂がどんな色、どんな形をしているのか、ね」
ナツキは学院で、練気術を研究している。練気術と一口に言っても範囲は広い。「気」の力に関わる全ての事象が研究対象なのだ。その中でもナツキが注目しているのは、「魂」という存在についてだった。
「師匠に聞きゃいいだろ。共同研究だし、まだまだあいつのほうが全然詳しいぞ」
「ゴルグか。いやね、ぼくも最初はそう思ったんだ。ぼくらは歩み寄るべきだと」
勇者パーティは合計5人。ここにはいない最後の一人が、ナツキの練気術の師匠こと、ヰ・ゴルグだ。パーティで唯一、転生者ではなくここラグナで生まれ育った人物である。
ヴィスタリア帝国の端、鉱山地帯にあるドワーフの里で生まれたが、鍛冶に興味を示さず格闘技の研究ばかりしていたせいで、里を追放された男。格闘の極意を極めるべく修行を重ねるうち、彼は自らの内側、魂の奥から湧き出る未知の力を見出す。彼はそれを「気」と名付け、その繰り方を編み出し、世に広めた。ヰ・ゴルグこそ、練気術という技術体系の原点なのである。
「ところがどうだ。研究室を訪ねても、ゴルグのやつ、ぼくの顔を見るなり話も聞かず首根っこ掴んで窓から放り投げる始末だ」
ピッとナツキを指差し、
「そうなると、ぼんやり暇そうなきみに聞くしかなかろう」
「暇じゃないっての。てか窓からって……うちの研究室、36階だが」
「落下地点にあった花壇がひっくり返ってしまって、なんとぼくが怒られた。びっくりだよ」
「……苦情は伝えとくよ」
ツッコミどころが多すぎるが、もう2年も付き合っているのだ。いろいろと規格外なペフィロに対してはもはやスルースキルが身につき始めている。
「ペフィロちゃん、まだゴルグさんと仲直りしてないんですか?」
トスカナが話に加わってきた。機嫌は直ったのだろうか。
「なに、仲直りも何も、ゴルグが一方的にぼくを避けているんだ。どんなに教えてもぼくが全く練気術を使えるようにならないのが気に入らないらしい。まったく、ぼくだって使えるものなら使ってみたいさ」
ゴルグはプライドが高い。彼が練気術を全く伝授できなかったのはペフィロくらいのもので、その事実が許せないのだ。しかし打てる手は出し尽くしてしまったため、新たなる境地を開拓する必要があるという。ペフィロはそれまでの間、素質なしとして「破門」した……という体で屈辱感を遠ざけている、というのが真相だ。
「ゴル爺も相変わらず大人気ないね。元気そうで何よりだけど……たまには顔も見たいところだね」
研究室の入っている塔を見上げながら、エクセルが呟く。
ゴルグは滅多に外に顔を出すことがない。元から研究意欲の権化みたいな人物だったのだが、特に最近は、ある突飛な新説を発表して世間を騒がせてしまったせいで、その検証に大忙しなのだ。
「研究室の地縛霊みたいになってるからな。この後一緒に来るか?」
「うーん……いや、やめとくよ。用があるわけではないし、邪魔になってしまっては申し訳ない」
「あ、せんぱい、わたしは行きます! お聞きしたいことがあって……」
「ず、ずるいぞ! ぼくは部屋に入ることすらできないのにっ」
そろそろ昼休みも終わる。お開きムードになってきたところで、にわかに研究塔の方が騒がしくなった。
「……何だ?」
「煙が上がってるね。魔法の実験でも失敗したのかな?」
「えと、……煙、こっちに向かってきてませんか?」
「ははあ。見るにあれは土煙だ。誰かがこちらへ突っ込んでくるぞ」
果たしてペフィロの分析通り、土煙を上げながら猛スピードで突っ込んできたのは、小柄で丸っこい白髭もじゃ丸メガネドワーフの老人――
「ナツキぃぃいいいいいどこじゃああああああい!!」
「げっ、師匠!?」
「噂をすれば、だね。はは、やっぱり元気そうだ」
ゴルグは、視界にナツキ達を収めるや否や、急停止をかけ――ナツキの首根っこを掴んだ。
「うわ、何すんだよ師匠、離せ――うわああぁぁっ!?」
「何をぼんやりくっちゃべっておるのじゃ、大発見、大発見じゃぞ! さっさと研究室に戻ってこんかい!」
そして他のメンツには目もくれず、ナツキを引きずって来た道を戻り始めた。そろそろ400歳、ドワーフの中でも高齢に差し掛かるというのに、全くその膂力は衰えていない。
「今は昼休みだっつってんだろクソ師匠! お前らすまん、また明日! ……あ痛っ、引っ張んな離せおいジジイ!」
「あのーっ、ゴルグさーん! お聞きしたいことがあるんですけどーっ……」
「ゴルグやーい、いい加減ぼくとともだちにならないかーぃ……」
トスカナとペフィロの声が遠ざかっていく。この状態のゴルグには何を言っても効果がない。うちの師匠が申し訳ない、と心の中で代わりに謝りつつ、ナツキは引きずられていった。
ゴルグの大発見とやらは、詳細は割愛するが、確かに大発見だった。ナツキの研究にも関わる部分なので、大急ぎで呼びに来てくれたらしい。願わくば、もう少し丁寧に運んで欲しかったが。
それからは、黙々と研究室で関連論文を読んでいるだけの午後だった。日も落ちて暗くなり、夕食を忘れていたことに気付く。が、食堂まで下りるのが面倒になってしまい、明日の朝はしっかり食べることにして研究室のベッドに入る。風呂も朝風呂でいいだろう。……トスカナに知られたら怒られそうだな。
ちなみにゴルグはまだデスクに向かっていた。集中時に話しかけるとキレられるので、勝手に寝る。この世界のドワーフの特性なのか、ゴルグはベッドを嫌い、床で寝ることを好む。なのでこのベッドはナツキ専用だ。
ベッドの中、明日は実験でもしてみるかとぼんやりセッティングを考えつつ、仲間たちについて思いを馳せる。
師匠に聞きたいことがあると言っていたトスカナ。訪ねてくるかと思ったが、それもなかった。忙しそうだと思って遠慮してしまったのかもしれない。冒険を終えて学生という身分になった彼女は、寮で暮らしている。今頃課題でもこなしているのだろうか。
エクセルは今頃、敷地の反対側の研究塔にいるだろう。彼の専門は物理科学――つまり、故郷の科学知識をラグナに持ち込もうとしている。ナツキも手伝ってはいるが、二人とも別に科学者だったわけではない。試行錯誤の末に簡単な発電機がようやく完成し、今は電球を作っているところだ。魔鉱石の灯りが電気に変わるのは、そう遠くない未来だろう。
科学と言えば最強AIペフィロちゃんだろうと、何度か相談を持ちかけてみたことはある。「電球が電球の作り方を知っていると思うかい?」と何故か誇らしげに返されてしまったので、以降は聞いていない。
そのペフィロは学生でも研究者でもなく、自由気ままに冒険者を続けている。というか、ナツキもトスカナもエクセルも本業はどちらかと言えば冒険者で、学院にいる方が副業だったりする。どこに住んでいるのか聞いたことがあるが、「乙女の秘密だよ」と返された。もっと別の大事なところで乙女になってほし/]+縺??や?ヲ窶ヲ菴薙′驥阪¥縺ェ縺
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――使命を果たせ。