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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅱ 陽だまりの看板娘
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突撃! ヤクザ城

 《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》本部ビルに突入したナツキは、すぐさま強面の組員四人に囲まれてメンチを切られていた。


「おうおう嬢ちゃん、ここがどこか分かってんのかぁ?」

「あぁん? ここはガキの遊び場じゃねぇぞぉ? ん?」

「んだチビ、体売りに来たんか? ……十年早ぇぞぉ?」

「スラムのガキじゃねぇなぁ? えぇと……迷子かぁ?」


 こちらが幼女だからなのか、組員達も戸惑っているようだった。さらに言えば、サングラスのせいであまり怖くない。むしろ面白い。

 遅れてラムダが入ってくると彼らはチラリと視線を向けたが、すぐ興味を失ってメンチ切りを再開した。

 ……マジで下っ端なんだな、ラムダ。あるいは、ニット帽とサングラスのせいで組員にもお互いが誰なのか分からないとかか?


「えっとね、ここのボスに会いたいんだけど」

「親父に? ハハッ、オウチに帰んな。ガキのお遊びに付き合うほど親父も暇じゃねぇよ」


 シッシッと手をひらひらされるが、引き下がるわけにもいかない。


「遊びじゃないし、大事な用事なんだよ」

「おおう、随分肝の据わった嬢ちゃんだな……代わりに聞いてやるよ、言ってみな」

「うーん……ここの人が悪いことしてるから、その苦情かな」


 こいつらも下っ端だろうし、詳しいことはまずトップに話すべきだろう。そう思ってぼかしたのだが、


「聞いたか! 俺ら悪いことしてるってよ!」

「ハハ、こりゃ参った! よく知ってるぜ!」

「そうだな、俺らは悪いやつだからなー、早く逃げないと食べられちまうぞォー!?」

「うひゃひゃひゃひゃ!!」


 ダメだ。完全に面白がられている。


「ちょっとラムダ、なんとかしてよ……ラムダ?」


 後ろを振り向くが、ラムダはいなかった。

 部屋を見回すと、端のカウンターのような所で他の組員と何かを話している。


「おおっとぉ、見えねぇお友達でもいんのかぁ?」

「うるさいなぁ。どいてよ」

「おおっ? やるかオラァン?」


 ラムダの所に向かうにも、この四人が邪魔だ。


「あなたを倒せばいい?」


 そう問うと、わざとらしく挑発してきた男は面白そうに笑った。


「お、いいぞ、かかってきやがれ」

「……おいバカ、親父に見つかったらどやされっぞ」

「怪我はさせねぇよ。勇敢なガキんちょとちょいと遊んでやるだけさ」


 ちょいちょいと手招きしてくる。

 完全にナメられている。まあ、そりゃそうだが。


「はぁ。隙だらけだよ、お兄さん」

「んぐっ……!?」


 さっと近づいてトン、と鳩尾を指先で突くと、男はあっけなく呼吸を止め、蹲ってしまった。

 周囲がざわめく。


「これでボス……親父さん? に会わせてくれる?」

「お、おい、このガキ、強い……のか?」

「ば……馬鹿言え、わざと大袈裟に負けてやったんだろ。おう、次は俺だぜ」


 そう来たか。面倒臭くなってきたぞ。

 ラムダに目をやると、こちらに声をかけようか迷っているようだった。一人目をナツキが簡単に片付けたのを見ていたのか、男達が本気じゃないのを分かっているのか……ナツキが心配と言うよりは、話しかけて事態をややこしくする方が心配、というような雰囲気。

 しょうがない。


「分かったよ、もう。じゃあそっちからかかってきなよ」

「お、おう、やってやろうじゃねぇか……う、うおおおーっ!」


 多少不安を感じつつも、お遊びだと思っている様子。

 走って向かってくるのに合わせて跳び上がり、胸ぐらを掴んで一緒に宙に浮かせる。


「お――?」

「それっ」


 そのまま突進と跳躍の勢いをまとめてくるっと一回転し、地面に叩きつけ――るのはかわいそうなので、直前で逆向きに制動をかけ、ぱた、と仰向けに寝かせた。


「うわぁあぁっ……あ?」

「大丈夫?」

「あ、ああ……?」


 何をされたか分かっていない様子。


「じ……嬢ちゃん、強いな……ははっ」

「マジか……えぇ……」


 派手に倒して見せてようやく分かってくれたのか、一連の流れを見ていた残り二人は顔色を変えて後ずさった。


「あ、別にボク、ここを潰しにきたわけじゃないからね。ここのボスとお話がしたいなーって、それだけなんだけど……?」

「ひぃっ!」


 おかしい。何もしないよアピールをしたはずが、脅しみたいになってしまった。

 すると、組員の一人が何かに気づいたかのように、顔を青ざめさせてガタガタと震え出した。


「お、おい、そういや、金髪碧眼のガキって……こないだ騒ぎになってたやつじゃ……」

「……! チャポムさんがボコボコにされて帰ってきたやつか! 確かに、金髪のガキがどうの、って……」


 あのクズ、チャポムって名前だったのか。


「あー……うん、それに関連した話ではあるかな……」

「かっ、勘弁してくれ! あの人が何やったのかは知らねえけど、組を潰すのだけは! 俺らの家なんだ!」


 一人が土下座を決め、残り三人も血相を変えてそれに倣った。


「わ、やめてよ。だから潰さないってば……」

「この通りだ!」


 聞いちゃいない。

 どうしたものかと困っていると、ラムダが呆れた顔で手招きし、奥へ続く廊下を指差して歩き出した。


 ……ああ、バカはほっとけってことね。


 タッ、と地面を蹴り、土下座する四人を置きざりにラムダの後を追った。ラムダが消えた廊下の先には階段があり、彼は上階に向かう踊り場で待っていてくれた。


「ワイら下っ端はアホばっかや。まともに相手しちゃアカンで」

「最初に言って欲しかったかな……」

「言う前にさっさと入りよったんは自分やんけ」

「うっ……ハイ、その通りです」


 階段を上る。


「いやしかし自分、ほんま強いな。親父にも勝てるんちゃうか」

「親父さんが普通の人間なら、まあ、たぶん」

「えらい自信やなぁ……ほんまナニモンやねん」

「秘密だってば」


 階段を上る。


「さっき受付みたいなとこで何してたの?」

「親父がおるかどうか確認しとったんや。大丈夫や、おるで」

「そっか、いない可能性もあったもんね……ありがとう、ラムダ」


 階段を上る。


「せや、自分、パンツはどないしたんや」

「あー、捕まったときに破られちゃったみたいで」

「ほんまかいな……ワンピースは無事だったんやな」

「うん。襟がちょっと破れちゃったけどね」


 階段をのぼ――ちょっと待て。


「……見たの!?」

「あんだけくるっくる回っとったら見えるわ」


 なんてこった。……まあ、中身は男なわけだし、別に……いいか?

 ――いや。今のナツキは8さいの幼女である。断固として抗議しなければならない。というか、女の子としての生活にそこそこ慣れてしまったせいなのか、普通にちょっと恥ずかしかった。


「ラムダのえっち!」

「大丈夫や、幼女には興味あらへん」

「何も大丈夫じゃなーい! ラムダ、デリカシーって知ってる!?」


 まさか自分が他人にデリカシーを問うことになろうとは。


「お、難しい言葉知っとるやんけ。……ほら、着いたで」


 気づけばいつの間にか階段を上りきっており、目の前には「同盟長室」と書かれた簡素なプレートと、無骨な扉があった。……さっきもこんな感じで話を切り上げられた気がする。こいつ、やっぱり計算してるんじゃないだろうな。


「ラムダはボクを庇ってくれたけどロリコンセクハラ野郎の変態です、って証言しようかな……」

「うわ、すまんすまん。かんにんや」

「……はぁ。まあいいや。行こっか」


 コンコン、と扉をノックする。


「すみませーん」


 声をかけてみるも返事はなく、やがてドアが薄く開いた。

 その隙間から突きつけられたのは、銃口。


「うわっ」


 反射的に射線から体をズラす。……この世界、銃があるのか。

 ラグナには、銃と同じような挙動の魔法はあっても、音速を超える飛翔体を瞬時に撃ち出すような道具はなかった。魔法を込めた魔道具であっても発動までにはラグがあったし、何より魔法や魔道具の発動は魔力反応で事前に察知できた。

 魔法も使わず瞬時に殺戮を撒き散らせる銃は、ナツキにとっても生身では脅威だ。不意打ちに備えて早めに装備を整えるべきだろう。……とりあえず今は、練気術で体を強化しておくしかない。音速の弾丸をもろに食らって大丈夫かどうかは、さすがに食らってみないと分からないが。

 銃口はナツキを追ってはこなかった。代わりに、ドアの隙間から片方だけ見えるサングラスの奥で、視線が動く。


「ん? ……ガキか?」

「こんにちは。あなたが親父さん?」


 多分違うよな、と思いつつもそう聞くと、男は溜息をついて銃口を引っ込めた。


「なわけあるか。……おい、そこの。さっさと連れ出せ。何こんなとこまで上げてやがる」


 ボディガードか、幹部だろうか。ラムダに顎で指図して、ドアを閉めようとする。

 それをラムダが慌てて引き止めた。


「あー待ってください。すんまへん、でもワイ、こいつの連れなんすよ」

「あ? 連れだぁ?」


 緊張しているのか、ラムダの声が少し硬い。


「ワイ、ラムダ言います。親父に大事な話あって来たんで、お取り込み中やなければ通していただけませんか。……チャポム兄貴んことで」

「チャポムぅ!? てめぇ、あのクズの舎弟か! どのツラ下げて戻って来やがった、あぁ!?」

「えろうすんまへん! その件も含めて、親父に伝えにゃならんことがあるんです!」


 うわあ。あのクズ、組織内でもクズ呼ばわりされてるのか。とことん救えないな。

 まあ、変に擁護されることはなくて助かりそうだが、とばっちりでラムダへの風あたりも普通に強い、と。


「帰れ! 二度とウチの敷居を跨ぐ、な……ん? 待て、このガキ……金髪ロング……青い目……血溜まりワンピース……まさか!?」

「……兄貴をボコボコにした例のガキです」

「うん、例のガキです、どうも。……血溜まりワンピースってなに?」


 自己紹介がいらなくて助かるが、尾ひれが付きまくって不本意な風評が立っていそうな気がする。

 ナツキが頬を引きつらせながら挨拶すると、男は慌てて扉を閉めた。


「親父、親父! 大変です、例のガキが! チャポムのバカを蹴り飛ばしたガキが乗り込んできやしたぁ!」


 そんな声が遠くなっていく。


「わー待って待って! 戦いにきたんじゃないよ!」


 誤解されて戦うことになったらどうするんだ。慌ててナツキはドアを開けた。


「ちょ、ナツキ! アホ!」


 ラムダの制止を振り切り、部屋に突入し――右脇から殺気の束。


「っ!?」

 

 ゾクッという悪寒に突き動かされるまま、咄嗟に左前に跳ぶ。

 一瞬遅れて、銃弾の雨がドアの前に降り注いだ。ガガガガガガン、という銃声が部屋に響き渡る。


「うわああっ」


 さっと周囲を確認。部屋の右側、窓の前には計10人のニット帽サングラス黒ジャンパー男たちが拳銃を構えていた。左脇に誰もいないのは同士討ちを避けるため、右側にいるのは窓を塞いで退路を断つためか。

 全ての銃口が、ナツキを追って動く。

 

「待ってってば! 戦いにきたんじゃなーい!」


 全身を強化し、《気配》術を全力起動。男達の意識の方向から、射撃のタイミングと順番と弾道を把握、跳んで跳ねてかわしていく。


「んだ、クソッ、当たらねえ!」

「親父に近づけさせるな!」


 魔法弾幕と比べて弾速が速い上、魔力検知が効かないので弾道が読みづらい。が、魔法ほど連発されないのがせめてもの救いか。

 しかし銃口の数が多い。かわしきれなかった銃弾が一つ、ナツキの脇腹を掠めた。


「いっ……!」

「ナツキ!」


 ラムダが叫ぶが、飛び込んではこない。賢明な判断だ。今入ってきたら、蜂の巣になる。なるほど、これが分かっていてラムダはナツキを止めたわけだ。

 身体強化のおかげか、傷は浅い。が、血は出ている。やはり直撃したら危険だ。さらに当然ながら、強化されているのはナツキだけなので、ワンピースの脇腹部分は破れた。


「こ……これ以上服を破るなあぁぁあっ!」


 命と服の危険を感じ、本気度を一段階上げる。こちらからも、多少攻撃させてもらおう。


「もう、戦うつもりはないって言ってるのに! そっちがその気ならこっちも手出させてもらうよ! 恨まないでよね!」


 銃弾の嵐をかわしつつ、気の力を体内に生成した殻の中に集め、密度を上げていく。


「お、おい、なんか雰囲気変わったぞ……」

「構うな、撃て! 撃ちまくれ!」

「…………」


 充分な密度になれば、爆弾の完成だ。

 外系練気術中級実践編、その4くらい。


「――《気迫》っ!」


 殻にヒビを入れ、純粋な「殺気」の濁流を周囲に放射した。

 それ自体には何の殺傷能力もない、ただの殺気だ。


「ひっ……!?」

「お、あ、あぁ……っ」


 それでも、何の精神防御もしていない大半の人間や生存本能のある魔物は、戦意を喪失し恐慌状態に陥る。発動に少し時間がかかるが、大物と戦うときの雑魚一掃にはもってこいの術だ。

 銃声は止み、代わりにガシャンガシャンと銃が床に落ちる音が10回響く。

 そして今、この部屋で何事もなかったかのように涼しい顔でナツキを見ている人間――すなわち「大物」は、ただ一人。


「……全く、使えん護衛共じゃのう。所詮は訓練ばかりで実戦経験に乏しい小童共、ということかの」


 部屋の最奥で上等な椅子に腰掛け、悠々とナツキを見据える、隻眼の白髭老人。


「……あなたが、ここのボスかな?」

「いかにも。わしが《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》同盟長、『隻睛の亡霊(ワンアイズ・ゴースト)』ヴィスコじゃ」


 二つ名。強い奴には二つ名があるのか。さすが《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》だ。

 ヴィスコと名乗った老人は、隙なくナツキを見据える。


「ずいぶん手荒な歓迎だね。殺しはしないって聞いたんだけど?」

「然り。無辜の民を殺めるは蛮族の為すこと。我らは闇を統べ、律し、蛮族を闇中へと留めおく楔なり。しかして、其を覆さんとする蛮族に容赦はせぬ。さて……汝は、蛮族なりや?」


 ギン、と隻眼がナツキを睨む。すごい迫力だが、所詮人間だ。ラグナで戦った古龍種の魔眼の一睨みに比べれば、レッサーパンダの威嚇に等しい。


「最初から違うって言ってるじゃないか。ボクたちはお話にきたんだってば」


 目を逸らさずそう返すと、ヴィスコはほぅ、と息を吐き、殺気を解いた。


「話を聞こう、勇なる小娘よ。どうせ話があるのは後ろで伸びておる腰抜けではなく、お主じゃろうて」

「後ろ? ……あっ!」


 振り返れば、開きっぱなしのドアの向こうで、ナツキの《気迫》術による無差別な殺気を食らってしまったラムダが、ひっくり返って目を回していた。


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