null/ν - はじまりの夢
気がつくと、真っ白な光の中にいた。
ふわふわした感覚。浮いている。
足場はどこだろう、と思うと、足元に足場ができた。
――ああ、夢か。
そう気づくと、次第に白い光が薄くなっていき、まっすぐな道が現れた。
他には何も無い、その道を歩いていくと、空中に真っ黒な穴が現れた。
中に入ってみる。中も真っ暗かと思ったら、そんなことはなかった。
一面、グレースケールの花畑。
咲き乱れている花は、コスモス。チューリップ。バラ。他にもいろいろ。ラグナの花まである。幸い、食人植物系のモンスターはいなさそうだ。
しかしその全てが、グレースケールだった。
空は、薄い灰色。地面は、濃い灰色。
自分は? と思い体を見下ろすと、ちゃんと色があった。
しかも、幼女ボディじゃない。勇者ナツキでもない。日本にいたころの、高校の制服を着ていた。
不思議な夢だ。
無限に続く花畑を歩いていると、新たに色を見つけた。
会ったことも見たこともない幼い少女が、花かんむりを作っていた。
少女が触れた花には、色がついた。
それを1つずつ結んで、色鮮やかな輪を形作る。
完成した花かんむりを、少女はふわりと空中へ放り投げた。
それは空中でくるくると回りながら、次第にほどけて、色鮮やかな光の粒になって消えていってしまった。
少女はそれを見て、少し寂しそうに笑う。
また一つずつ、モノクロの花を摘んで、色をつけては、結び始める。
「なあ」
声をかけてみた。
喉から出てきた声は、地球やラグナでのナツキの声と、ノアでのナツキの声が、重なっているように聞こえた。
少女は手を止め、ナツキの方を向いた。
「――――」
驚いたような表情で、何か、言っている。でも、うまく聞き取れない。
こて、と少女は首を傾げた。
ごめん、聞こえなかったんだ、もう一度言ってくれ。
そう発声しようとして、できなかった。
体が動かない。
少女が、寂しそうに微笑む。
視界がぼやけていく。
――夢の終わり。