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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅱ 陽だまりの看板娘
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はじめてのおつかい Ⅰ

 なんだかよく分からないまま、ナツキは「すごい力を隠し持っている幼女」として、『子猫の陽だまり亭』の常連客に受け入れられてしまった。どうやら先代の看板娘とやらがいたらしく、その子もダインの拾い子で、ナツキと同じようにすごい力を持っている人間だったとか。

 ナツキと同じ転生者だとしたら、会って情報交換すべきだろう。今回の転生は、一回目と比べて謎しかない。転生させられた目的もはっきりしないし、死因すら分からないのだ。

 なぜ初代看板娘が今はいないのかとか、よく超常現象をそんな簡単に受け入れられるなとか、聞きたいこと言いたいことは山ほどあったが、とりあえず喫緊の問題としては、


「ドア。どうすんだい」

「ご……ごめんなさい……」

 

 クズを蹴り飛ばしたついでに吹き飛ばされ、中程で真っ二つに折れてしまった玄関扉について、ラズがお怒りなのだった。

 ナツキは今、玄関ホールの床に正座させられてラズのお叱りを受けている。……にー子、よじ登ってくるのをやめなさい。


「タダ働き1ヶ月追加でどうでしょうか……」

「ああん? 1ヶ月?」

「ラズさん、ナツキちゃんは悪くないぞ!」

「悪いのはあの二人組だよ、あいつらに請求すればいいさ!」


 店にいた常連客はナツキを擁護してくれるが、別にドアを壊さない撃退手段はいくらでもあったのだ。ドアに関してはナツキにも非がある。

 それに、


「いい案だね、じゃああんた、《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》の本部に行って金貰ってきな! 30万リューズだからね!」

「うへえ、そりゃ勘弁」


 ヤクザのアジトに乗り込んで賠償金を貰ってくるなど、誰もやりたくないに決まっているのである。むしろ慰謝料を請求されかねない。死なないようには手加減したつもりだけど。


「……ま、厄介なのを追い払ってくれたってのもあるからね。いいよ、1ヶ月追加で手を打とうじゃないか」

「はい……ごめんなさい……」

「にぅー……」


 ナツキが頭を下げると、ナツキによじ登っていたにー子も真似してお辞儀をした。にー子は完全に被害者なんだから、いいんだよ。


 こうして、ナツキの就労期間が、四ヶ月になった。

 このまま一年くらいまで伸びそうで怖い。行動には気をつけよう。



☆  ☆  ☆


 

 翌日。


「……困った」 


 ナツキは、困っていた。

 今ナツキが立っているのは、金網でできた一本の道だ。普通自動車が一台余裕で通れるが、二台すれ違うのは難しいくらいの幅の金網が、空中に長く長く伸びている。その脇には小さな住宅群が所狭しと並んでいたり、いなかったりする。

 それと並行するように、ナツキから見て右下と左上に、同じような道が伸びている。かと思いきや、少し先まで歩くと、それらは並行をやめ、右下のものは左下へ、左上のものは右下へと進路を変え、ナツキが歩いている道は大きく右側へと反っていき、やがて真逆の方向を向く。

 現在地を示す標識を見つけて飛びつけば、ここは「Cブロック上第二層 東第1ストリート=中央第5ロータリー間接続橋下 第2補助バイパス3番地」らしい。だから何だ。ナツキが行きたいのは、「Cブロック上第三層西第2ストリート151番地」である。

 全然違う場所にいるということだけは、よくわかった。


 つまり、迷子である。


「上第三層に下りるまでは順調だったんだけどなあ……」


 ナツキは今日初めて、店の敷地外へ出た。建材屋に新しいドアの注文をしに行くおつかいを頼まれたのである。というか、自分で壊したものは自分で始末をつけるべきだと、ナツキが名乗り出たのだ。

 何にせよ、はじめてのおつかいだ。本当に一人で大丈夫なのかい、と心配するラズだったが、見た目は8歳でも心と知能は20歳。襲われても蹴り飛ばすだけである。街の構造も教えてもらったし、大丈夫大丈夫。


 ……で、このザマである。


「俺はいつ上第二層に下りたんだ……?」


 外に出てすぐ分かったのは、フィルツホルンがとんでもなく巨大で、複雑な街だということだ。

 と言っても、基本構造は単純なのだ。ラズに教えてもらった街の構造を反芻していく。


 まず、底を流れる川の上流側から、大きくA、B、C、Dブロックに分かれる。Aブロックは貴族の住むエリアであり、他のブロックとは巨大な金網で明確に区切られているという。あとは全て平民のエリアだが、やはり上流ほど地価は高く、平均所得も高い。それぞれ、貴族特区、上流区、中流区、下流区と呼ばれることもあるらしい。


「……一度どうにかして上層に戻るか」


 ブロックが横の区分けなら、層は縦の区分けだ。B~Dブロックを一直線に貫くメインストリートが属する「基盤層」の高さを基準として、上第四層、下第四層まで上下に4つずつ積み重なっている。そこに川が流れている地底層を加えた計十層の金網と金属板の積層構造体が、フィルツホルンという一つの街になっているわけだ。


「目的地が西エリアなんだから、どっかで橋渡らないとなんだよな……」


 各層は大きく「西」「中央」「東」にエリア分けされている。上流側を向いて右側が東だ。中央エリアがメインなのは基盤層のメインストリートくらいで、他は大抵東西エリアにヒトやモノが集中しており、中央エリアは橋やバイパスが主だ。メインストリートの上下は広い空間を取っておきたいのだろう。

 東西エリアの主なストリートには番号がついており、中央に近いほど若い。特に大きなストリートには別名があったりもする。さらに細かい区分けは、上流側から順に番号が割り振られている。


 ここまではいい。システマチックで実に分かりやすい。

 例えば『子猫の陽だまり亭』の住所は、「Cブロック」「上第四層」「東」「第2ストリート」「525番地」だ。つまり、平民区全体の真ん中あたりの地区で、一番高い層の、上流を向いて右側の内側から2番目の道沿いにある、上流側から数えて525個目の区域だ、ということが、地図を見なくても分かる。

 ちなみに上第四層の東エリアには大きなストリートは2本しかなく、第2ストリートは端も端、「地割れの岩壁を掘削して作られた道」だ。


「……問題は接続だな、こりゃ」


 構造をややこしくしているのは、各層や番号付き(ナンバード)ストリートを繋ぐ小さな道だ。三次元構造が災いしてなのか、あるいは照度確保や負荷分散の問題でもあるのか、どうにも曲がりくねったり複雑に分岐したりする道が多い。挙句の果てには道の脇に唐突に螺旋階段が現れたりする。見事な違法建築っぷりだ。

 地震のない地域なんだろうな、と思う。とうてい災害に耐えられそうな構造ではなかった。


「昼のラッシュまでには帰らないとだしな。強行突破するか……?」


 道の脇に寄り、曲がった鉄柵の隙間から身を乗り出して下を見下ろす。数十メートル先に、たくさんの人が行き交う大きなメインストリートが見えた。練気術で体を強化すれば、飛び降りても怪我はしない。適切に受身を取れば着地点を壊すこともないだろう。……しかし、それを目撃されるのはできれば避けたい。


 うーん、とナツキが悩んでいると、


「おーい嬢ちゃん、そんなとこおったら危ないで」


 そう、声をかけられた。


「あ、ご、ごめんなさい――」


 心を幼女モードに切り替え、振り向く。丁度いい、全然人が居なくて道を聞くこともできず困っていたところだ。迷子だと言って連れて行ってもらおう――


 ニット帽にサングラス、変なマーク入り黒ジャンパーコートの男が、立っていた。


「ひっ」


 《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》! 裏の世界を束ねる†闇†の組織、《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》の方ではありませんか!?

 まさか報復にでも来たのかと、瞬時に間合いを取る。


「ほ? どないしたん……あ! 不審者ちゃうよ? いやまぁそう見えてもしゃーないし、実際ワイらカタギちゃうけど」


 よく見ると、声も体型も口調も例の二人組とは違う。別の組員だろう。

 ……というか翻訳システムは、何をもって関西弁に訳しているのだろう。訛りでもあるんだろうか。そもそも本当にちゃんとした関西弁なんだろうか。エセじゃないだろうな。知らんけど。


「えっと、お兄さんはここで何してるの?」

「ワイか? 見回りってか……あーせや、抗争って分かる? ヤバい奴らの集団がぎょーさんおって、そいつらがナワバリ取り合ってケンカしとるんよ。うちらはその辺の大ボスやから、アホが表でアホなことせんよーに見張っとるんや」

「ふーん?」


 《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》が裏社会を取りまとめているというのは本当らしい。ヤクザみたいな集団がいくつもあって、それらが表社会に迷惑をかけないように見張っている、と。


「ま、分からへんわな……ってか、自分は知らん方がええ。ワイみたいなんと話しとるとこ見られたら、かーちゃんカンカンになってまうで」

「どうして?」

「ワイら《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》ゆーてな。他ん組織みたいなアホやらかしたら親父にしばかれてまうし、殺しもヤクもやらへんけど、でもカタギやないねん。あれや、任侠ヤクザってやつや。わかる?」


 嘘つけ。昨日うちの店にそこのバカ二人が乗り込んできたぞ。組織の内部もちゃんと見張っとけよ。

 でも、組織全体としてあんな感じではないのかもしれない。少なくとも、この男はそこまで酷い人間には感じられなかった。……この男だけが異端、とかじゃないことを祈ろう。


「よくわかんない、けど、ボク、おつかいの途中で迷子になっちゃって……お兄さん、道わかる?」

「あー、迷子。あるあるやね。どこ行くつもりやったん」

「ここ」


 ラズにもらった住所のメモ書きを見せる。


「ほーん……うっわ、これガキにおつかいさせる距離ちゃうやろ。自分いくつ?」

「8さい」

「ほんまかいな。ま、ええわ。連れてったろか」

「ほんと!?」


 見回り中だったはずの男は、うーんと少し考え、サングラスとニット帽を外した。

 ……腹立たしいほどルックスのいい金髪のイケメンが、その下から出てきた。


「えぇー」

「そんな悲しい顔せんといてや……。あんな、これ被ったまま自分連れとったらサツ呼ばれてまうねん。かっこええ帽子とグラサン、付けとって欲しいのは分かる。よーく分かるねん。せやけど、しゃーないねん。ワイも我慢するさかい、我慢しいや」


 超悔しそうにそう諭された。

 逆だよ。普段から外しとけよ。あんた絶対人生損してるよ。


「うし、今日の見回りは終わりや。ついてき」


 そのままジャンパーコートも脱いで腰に結び、《終焉の闇騎士同盟ダークナイツ・オブ・ジ・エンド》の男はナツキを先導して歩き出した。


「ありがとう、お兄さん!」


 しばらくして、ふと、歩幅をナツキに合わせてくれていることに気づく。申し訳なくてちょっと早歩きにすると、「なんや急いどるんか? ほな運んだるわ」などと抱き上げてくれた。

 なんだこいつ、頼もしすぎる。ダインより有能だぞ。イケメンか?


「そうだお兄さん、名前は?」

「コードネームはラムダや」

「……真名は時が来るまで明かせないってやつ?」

「お! よう分かっとるやんけ。嬢ちゃんは?」

「……ナツキ」

「んでもって真名は?」

「これが本名だよ!」


 ……まさか組員みんな、あの厄介な病を背負ってるんじゃないだろうな。

天使様の異世界語翻訳システムは、ナツキの知識をベースに翻訳結果を出力しています。

なので関西弁がエセでも何も問題はあっやめて 物を投げないで

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