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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第二章【星の旅人】Ⅰ 着払い幼女速達便
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水の都と猿と酒 Ⅳ

「と……《塔》からギフティア奪って逃げてきただぁ!?」


 翌日、オォ……ン、と不気味に響く風笛の音をかき消すほどの驚愕の叫びが、アジトの一室にこだました。


「しーっ! リンバウさん、しーっ!!!」

「お、おう……すまねえ」


 ラッカとレイニーに遠慮容赦なく叩き起こされて向かったその部屋……というか穴には、他の《モンキーズ》メンバー達もいた。

 リーダーで剣士のラッカ、レンジャーのレイニーに加え、大工のリンバウ、細工師のローグ、薬剤師のルン。五人はそれぞれの専門分野を活かして様々な依頼を請け負う、何でも屋タイプのハンターパーティである。この世界においてハンターとは狩人だけを指す言葉ではないのだ。……もっともラッカやレイニー以外も最低限は戦えるらしいが。


「そっか~、ニーちゃんが攫われちゃったんだね~。うんうん、それなら聖窩(ヴォイド)に乗り込むのも仕方ないよねえ~」

「いや……いやいやいや? 聖窩(ヴォイド)ってあれだよね、ラクリム湖のなんとかって島の、聖騎士が住んでるって言うあの……ナツキちゃん、よく生きて帰ってきたね……?」


 彼らがフィルツホルンを離れてからこれまでの出来事をかなりダイジェスト化して伝えると、当然ながら彼らはどよめいた。リンバウは叫び、ローグは青ざめ、ルンはのんびり口調ながら穴の入口に走って人がいないことを確認した。

 その一方で、


「なぅ! なつき、にーこがたすけた!」

「きゃぁっ、ニーたんが喋ってる! たった三ヶ月でこんなに成長したのね~、んーでも逆よ~、ナツキちゃんがニーたんを助けたのよ~?」

「にぅー? ちぁうの……」

「ナツキさんがニーコちゃんを助けて、ニーコちゃんはナツキさんの怪我を直したです。どっちも合ってるですよ」

「はいはい! ハロも! ハロもがんばったんだよ! あのねあのねっ」

「あっ……すごい……かわいいがいっぱい……増えてる……っ」


 可愛いもの好きのレイニーは幼女に囲まれて卒倒していた。考えてみれば《モンキーズ》の面々はハロどころかアイシャとすら初対面なのだ。


「アイシャとハロだよ、レイニーさん。二人ともボクの新しい家族で、アイシャはドール、ハロは鍛冶職人なんだ。よろしくね」

「よろしくなのです」「よろしくね!」

「やーんかわいいぃ! ……まとめてぎゅってしていい? しちゃうねぇ!」


 目を輝かせて抱きつくレイニー。その後ろから何やら真剣な表情で近づいてきたのはリンバウとローグだ。


「おうナツキの嬢ちゃん、鍛冶職人つったか? こいつが?」

「とてもそうは見えないけど……専門は何だい?」


 大工と細工師である彼らはよくタッグを組んで日曜大工系の依頼をこなしていたらしい。鍛冶屋との繋がりも多く、ヘーゼルや常連客のドボガスとも交流があったと聞いている。

 二人にじっと見つめられたハロは、レイニーの腕の中できょとんと首を傾げた。


「せん……もん? えっとね、ハロはチューデント工房ってとこにいたよ! シンギししょーがね、メンキョカイデンをくれたの」

「ち……チューデント工房!?」

「免許皆伝!?!!?!?」

「うん! あ、でもね、今はナツキお姉ちゃんがハロのご主人様だよ?」


 ぎょっと目を剥く二人に対し、ハロは何を驚いているのか分からないと言いたげなきょとん顔のままだ。


「チューデントって……あのチューデントだよね……?」

「フィルツホルンの貴族特区にある工房だよ。ボクの剣もハロが作ってくれたんだ、見る?」


 紫紺の刀身を鞘から出して見せると、二人は数秒間絶句し、無言のままレイニーの腕からハロを抜き取り、何やら専門的な質問攻めを始めた。ハロはびっくりしていたが、すらすらとそれに答えていく。久しぶりに鍛冶の話ができるからか、楽しそうだ。

 それを見て「また始まったよ」と笑いながら、ラッカとルンがこちらに視線を向けた。


「しっかしまあ、俺達がいなくなってからマジで色々あったんだな」

「うん、色々あった……けど、みんな意外と冷静だね? ピュピラ島の話した瞬間に通報されるんじゃないかって結構心配してたんだけど……」


 打ち明けた瞬間は驚愕の嵐が吹き荒れたものの、もはやレイニー、リンバウ、ローグの興味はにー子とアイシャとハロに完全シフトしてしまっている。


「びっくりはしたけど~、ダインさんが拾ってきたって時点で~、ワケありってのはなんとなく分かってたよね~?」

「まあなー。ってかナツキちゃんオペレーターになったんならシトラに会ってんじゃねーの? あいつ元気だったか?」

「ラッカ~、リモネちゃんって言わないと~、ナーちゃんは分かんないよ~?」


 その反応にナツキとリリムは顔を見合せ、苦笑する。『血溜まりワンピース』の「シトラ」を知っている面々はサプライズ耐性が高いというのは玄関ごとチャポムを蹴り飛ばしたときから分かっていたが、そのパターンだったか。……一体彼女は普段どんなことをしでかしていたのだろうか。


「あれ、でもリモネちゃんがシトラちゃんだったのって五年以上前なんだよね? ラッカさん達が知ってるのおかしくない?」

「お? ナツキちゃん、ずいぶん具体的なとこまで知ってんだな?」

「ん、ナツキちゃんは全部知ってるよー。実はニーコちゃん奪還作戦の時にリモネ周りも色々あってねぇ……」


 全部知っているどころか、知ったら殺されるレベルの秘密まで暴いて聖窩(ヴォイド)でドンパチ殺しあった仲だからな。言わないけど。リリムの補足に合わせてまあね、と曖昧に頷いておく。


「なんだ、昔の話か?」


 と、ハロを解放したリンバウがやって来て、昔を懐かしむように目を細めた。


「あの頃はなぁ、《モンキーズ》なんて名前すらなかった。惚れた女のケツ追っかけて《陽だまり亭》に通ってるガキが一人いただけだったんだよな」

「ぶふぉっ!? おい待てよリンバウ、何の話をするつもり――」

「あぁ? だってお前好きだっただろ、シトラちゃん」

「ばっ……、い、いつの話してんだよ!」

「六年前だ。俺とローグがフィルツホルンに来て二週間目の昼飯ん時に――」

「はっきり言うな! なんで覚えてんだよ!」


 何やら浮ついた話が湧いて出てきた。ラッカ少年は今およそ15歳、六年前と言えば小学校中学年。当時のリモネちゃんの(対外的な)年齢とも近い。初恋の相手だったのだろうか。

 思わずにやけてしまいそうになるが、その後に「シトラ」が「リモネ」に変わったときのことを考えると茶化すに茶化せない。


「ラッカさん……」


 ナツキが神妙な顔になるのを見て、しかし当のラッカはあっけらかんと笑った。


「あー、あいつの記憶の話か? 俺はなんともねーぜ?」

「え、そうなの?」

「おう! そもそもあいつはいつもリリム姉やヘーゼル姉と一緒にいたからな……結局告ってもねーし。あいつにとっちゃ俺はもともと名前も知らねー近所のクソガキだったんじゃねーかな」


 告るとかいう動詞、リアルじゃかなり久々に聞いた気がするな……なんて若々しい甘酸っぱさに浸っていると、リリムが何やら複雑な表情で口を開いた。


「あー、うん……そだね、一応あたしもヘーゼルもシトラも、ラッカくんの気持ちは知ってたけどね……」

「は!? 何で!?」

「いやまあ……分かりやすかったというか……好きな子にちょっかい出しまくる男の子の典型例っていうか……うん……。脈はなかったよ」

「ぎゃぁぁああああ!」


 リリムによる容赦のない数年越しの追撃を受けて、ラッカは悲痛な叫び声を上げて頭を抱えた。

 まあ気持ちは分かる。女の子三人の仲良しグループにやんちゃ坊主が一人乱入するのはかなりのハードルだったのだろう。


「かわいかったよねぇ。シトラにいたずら仕掛けようとして滑って転んでさ、でっかいタンコブ作って泣いちゃって、シトラに慰められて逆ギレしてるの」

「あ~、私が迎えに行ったら~、シトラの膝枕で寝てたやつ~?」

「それそれ。懐かしいねぇ」

「二人とももうやめたげて! ラッカさんが立ち直れなくなっちゃう!」


 完全にオーバーキルされたラッカは地面に倒れて丸くなっていた。合掌。


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