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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅷ 夜明けの流れ星
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Noah/α - 穴

 アイシャ=エク=フェリスは、焦っていた。


 ハロが打ち上げた出来たてほやほやの剣を抱え、さあナツキとリリムと合流しようというタイミングで、大変なことに気づいてしまったのだ。


「ど……どうしようです……」

「アイシャお姉ちゃん、どうしたの?」


 アイシャを信じて付いてきたハロが、無邪気な瞳で問いかけてくる。

 どうしよう、なんて呟いてしまったが、どうしようもない。これは一度経験したことを忘れてしまっていた自分のミスだ。

 ハロに向き直り、頭を下げる。


「ハロちゃん……ごめんなさいです。わたし達ラクリマは、実は《古本屋》さんのゲートを使えないのです……」

「え、えーっ!? なんで!?」

「それは……ラクリマは、人間さんみたいにトイレで『用を足す』ことができないからなのです!」


 現在位置、《子猫の陽だまり亭》内共用トイレ。

 そう――《古本屋》の書庫に繋がるゲートを開くためには、特定のトイレに入り、「用を足す」必要があるのである。今は《子猫の陽だまり亭》に入場ゲートを設定してもらっているので、起動さえできれば人間だろうがラクリマだろうが通ることはできるのだが――人間と違って食べたもの全てを吸収してエネルギーに変えてしまうラクリマには、ゲートの起動ができないのだ。

 そう聞いたハロは、こてんと首を傾げた。


「よーおたす? ってなあに? ……そういえば、カイお兄ちゃん達ってトイレで何してたんだろう?」

「わたしもよく分かっていないのです……。ただ、ナツキさんが『用を足す』ところは見せてもらったことがあるです」

「ほんと? いいなぁ。あのね、カイお兄ちゃんはお願いしても見せてくれなかったの」

「わ……わたしも、こっそりなのです。人間さんは、『用を足す』を見られるのはとっても恥ずかしいみたいなのです」

「ふーん、そうなんだ?」


 あの時、ナツキは真っ赤になって何やら「てぃーぴーおー」なるものについて教えてくれたが、いまいちよく分からなかった。


「それでそれで、どうすれば『よーおたす』できるの?」

「えっと……ナツキさんは、おまたのところからお水を出したです。そしたら、ゲートが開いたです」

「おまたから……おみず? どうして? どうやるの?」


 ハロは困惑顔で、自分の足の付け根に視線を落とした。アイシャにも正直よく分からない。


「人間さんは、食べたり飲んだりしたものを全部吸収できないらしいのです。それで、飲みすぎたお水はおまたから出てくるらしいのです」

「えーっ、もったいないよ! ……あれ、でも……おまたから出てくるって、どういうこと? おまたはおまたでしょ?」

「それが……ナツキさんによると、人間さんは、おしりの割れたところに穴があるらしいのです。きっとおまたにもお水が出てくる穴があるですよ」

「え、えー!? い、いたくないの?」

「もしかしたら、わたし達にもあるかもなのです。探してみるです!」

「えっ、でも……あな、なんだよね? ハロ、ちょっとこわいよ……さわったら血がでちゃうかも……」

「う……確かになのです」


 言われてみればそうだ。体に穴が開いているのに普段は何も出てこないなんて、とんでもなく繊細なバランスで成り立っている穴に違いない。

 しかし今は一刻を争うのだ。迷ってなどいられない。覚悟を決めなければ。


「じゃ、じゃあ、わたしのおまたをハロちゃんが見てほしいのです。ハロちゃんよりわたしの方が丈夫なのです。ちょっとくらい血が溢れたって大丈夫なのです!」

「う、うん……わかった!」


 下着を脱いで、ハロの前に足を広げて立つ。スカートを捲り上げると、ハロは緊張の面持ちでその前にしゃがみ込んだ。


「うーん……? この中、かな?」

「ひゃっ、くすぐったいのです」

「うぇー……なんか……へんなのいっぱいある……」

「へ、変なのです?」

「うーん……これ、なんだろ?」

「んっ……」

「わっ、ご、ごめんね、いたかった?」

「ち、違うです、なんか……いや、大丈夫なのです、続けるです」

「はーい。んーっと……あ、あった! アイシャお姉ちゃん、あな、あったよ!」

「ほんとなのです!?」

「うん! あれ、でも……あれれ、へんだよ? これ……ふたつもある!」

「ふぇ!? ふ、二つも穴があるです!?」

「うん、大きいのと小さいの……入口と出口かなぁ? あのね、これと、これ!」

「ぁっ、んっ……く、くすぐったいのです」

「わっ、ごめんね?」

「と、とにかく、穴が見つかってよかったのです。そしたら今度は、そこからお水を出すです!」

「うん! ……どうすればいいのかな?」

「二つあるなら……片方にお水を入れれば、きっともう片方から出てくるです!」

「そっか!」



「んな、わけ、あるか――――ッ!」


「ふぇっ!?」「きゃーっ!」


 突然、怒号と共にトイレのドアが開いた。そこに立っていたのは、顔を真っ赤にしたヘーゼルだった。


「へ、ヘーゼルさんなのです……?」

「兄貴が見たことも無い顔で『俺には無理だ』とか言うから何事かと思ったら! あんた達何してんの!?」

「あ、穴を探してたです……」

「あのね、おまたからおみずを出さなきゃいけなくて……」

「静かにッ!」


 何をしているのか聞かれたから答えたのに怒られた。理不尽である。しかしヘーゼルも何やら苦悶しているようで、うんうん唸った末、


「はぁ……教育は後回し。とりあえず……ラクリマには無理ってわかった時点で、アタシら人間を呼べばいいでしょ?」

「…………あっ!」「そうかも!」


 そういえば、必ずしもゲートの使用者が「用を足す」必要はないのだった。


「えっと、じゃあヘーゼルさん、お願いするです! わたしは見てるのです!」

「わっ、まって! ハロも、ハロも見たい!」

「誰が見せるかーッ! 回れ右! 目を閉じて耳を塞ぐことッ! ってかこのシステム作った変態クソ野郎、誰だか知らないけど覚えてなさいよ!?」


 そして今回も、「用を足す」の詳細を確認することはできなかったのだった。人間の羞恥心、恐るべしである。

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