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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅶ ポンコツ魔剣と兎狩りの夜
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願いの剣 Ⅰ

 カイが教えてくれたハロの居場所は、闇市(アンダー)の中でもかなり奥まった位置にある横穴だった。細かく分岐する洞窟を、《気配》術を頼りに抜けていく。ハロとハロを攫った犯人だと思われる反応はあるのだが、どちらがハロかは分からない。どちらもやたら弱っていて、区別がつかないのだ。


「ハロはともかく、何で犯人まで……実はカイが奮戦したのかな」


 何にせよ、犯人が弱っているなら好都合だ。そしてハロが弱っているのは頂けない。


「この先だ……!」


 奥の空間から橙色の光が漏れているのを確認し、剣を抜いて一気に飛び込む。罠は無かったとカイに聞いているが、素早く周囲を確認する――何も起こらない。


 そして、前方。

 ハロが両手に無骨な手枷をつけられ、天井から鎖で吊られていた。


「ハロっ!」


 服は全て剥がれ、身体中に痛めつけられた跡があった。あばらの辺りに大きな内出血――肋骨が折れてしまっているのかもしれない。肺や内臓にダメージがあれば一大事だ。


「ぁ……ぇぽっ、な、づき……おね、ぢゃ……」


 ナツキに気づいたハロは、血の塊を吐き出してこちらを向こうとした。それすら辛いのか、その顔が苦痛に歪む。


「ハロ、無理しないで! 今助けてあげるから……」

「だ、め……、げて、おね、ぢゃ……にげ……」

「逃げるわけないでしょ! 助けに来たんだから!」

「あァ、逃がしゃしねェよォ」


 ナツキとハロに割り込むように低い声で呟いたのは、すぐ脇に立っていた犯人らしき大男だ。視界に入ってはいたが、ハロの安否確認の方が百倍大事なので後回しにしていた。

 無視されたのが気に食わなかったのか、大男は一つ舌打ちをし、近くの壁にあるスイッチのようなものを強く叩いた。途端、大きな音を立てて入口に金属の柵が下りた。

 まるでゲームのボス戦だ。まずこのクズ野郎を叩きのめさなければ、ハロを連れて逃げることはできないと言うわけだ。


「あなたが犯人だね。とりあえず、ボクを狙ってる理由を聞こうか。どんな理由でも、ハロをこんなに傷つけたことは……許さないけど」


 ハロが煽りを受けないように気をつけつつ、《気迫》術を強めに出す。しかし大男は全く気にする素振りも見せず、クツクツと笑った。


「そうかァ……そうだよなァ。てめェは俺様のことなんざ、これっぽっちも覚えてねェんだなァ。あァ……俺様を無視してラクリマ一匹にご執心たァ、いい度胸じゃねェかよ……俺様は毎日てめェを殺したくて殺したくて、狂っちまいそうだったのによォ!」

「……あいにくだけど、ボクにはサイボーグの知り合いはいないよ」


 男は腰に一枚粗末な布を巻き付けている以外は何も身につけていない。両肘と両膝から先は全てゴテゴテと様々な機械のついた義肢になっており、それ以外の全身は赤黒く変色していた。異様に発達した全身の筋肉が、男の荒い息に合わせて拡縮している。その表面に禍々しく浮き出た血管が、ドクンドクンと脈打っているのが見て取れた。義肢以外の部分だけ見ても、人間の正常な肉体ではない。


「ふっざけやがって……てめェが、こんな体に、したんだろうがァッ!」

「っつ、早っ!?」


 ノーモーションの右ストレート。辛うじて躱すが、その鋭い風圧で頬が一閃切れた。ついでに前髪が数本切断され、パラパラと視界を舞っていく。身体強化をしていなければ、今ので顔がズタボロになって視界を奪われていただろう。

 《気配》術で見た限りではかなり弱っているはずだと言うのに、とんでもない威力だ。


「なるほど、カイがあんなになっちゃうわけだ」


 気持ちを切り替える。この男は、強い。ラグナ基準なら歴戦の拳闘士達に匹敵するだろう。それも魔法や練気術で身体強化をかけられるレベルの複合技術熟練者に相当すると言っていい。


 しかし、ナツキが彼をこんな体にしたとはどういうことか。まさかラグナで戦った魔王軍の幹部あたりが転移してきたのか。しかし魔王軍の連中に対しては四肢を吹き飛ばすようなことは一度も……


「四肢を……あっ」


 心当たりが、あった。

 この世界にきたばかりの頃、アイシャを助け出すより前――


「まさかお前……チャポム!?」

「クソが……ようやく思い出したかよォ!」


 にー子に危害を加えようとしてナツキに撃退され、逆恨みでラムダにナツキを誘拐させ、ナツキの練気術ひと捻りで戦闘不能になった雑魚であり、《同盟》の誰もが認めたクズ野郎こと、チャポム。誘拐事件の最後に四肢を踏み砕いておいたので、もうまともに悪事を働くことはできないだろうと思っていた。捜索と処分は《同盟》に任せておいたのだが……言われてみれば、その後どうなったのかは聞いていなかった。

 

「あの状態で逃げ切ったのか……!」

「ククッ、あァそうだ……無様に這いずって逃げ出して……穴蔵の奥で俺様は耐えた……耐え続けた! 全てはナツキ、てめェをぶち殺すためになァッ!」

「っ――」


 チャポムが地面を蹴ったかと思うと、一瞬でその体躯がナツキの目の前に迫っていた。やはり人並外れた瞬発力だ。恐らく義肢の力だけではない、赤黒く変色し肥大化した筋肉がこの速度を生んでいる。魔力反応はなく、しかし活性化したマナの残滓がかすかに残像の中に見えた気がした。


「うぉらァッ!」

「なめるなっ!」


 ならばこちらも身体強化で応じるのみ。先程と同じ右ストレート――と見せかけて放たれる下段からの蹴り上げに、素早く剣を割り込ませる。ギィン、と金属と金属が衝突する甲高い音が響いた。


「チッ」

「この世界の法で裁かれるべきだって思って、殺さないでおいたけど……失敗だったか、な!」

「ぬ……ォッ!?」


 拮抗した力を恣意的な方向へ解放し、チャポムの体勢を崩しつつ背後に回り込む。

 ナツキに殺意を向けてくる程度ならともかく、このクズは無関係のハロに危害を加えたのだ、もう容赦はしない。無防備な背中、心臓目掛けて亜音速の突きを一つ叩き込む――


「せいっ……!?」


 ズ、と剣が赤黒い筋肉に覆われた背中に沈んだ。

 ……ほんの1センチ程度、だけ。


「なっ」

「あァ……今、何かしたか?」


 ニタリと笑いながらチャポムが振り返ろうとする。ナツキは慌てて背中から剣を引き抜いて距離を取った。……血の一滴すら出ない。


「くそっ、マジか」


 この感覚は覚えがある。ラグナにおいて、魔法で肉体の強度を大きく底上げした生物に剣を突き立てた時と同じだ。


「ククッ……今の俺様ァ人類最強なんだよォ。いくらてめェがバケモンじみた力で俺様を攻撃しようがなァ……天使の力を取り込んだ俺様にゃァ! 何も、出来ねぇんだよォッ! オラオラオラオラァ!」

「くっ――」


 《気配》術を全開にしてチャポムの意識の方向を読みつつ、高速の拳や蹴りを回避していく。魔法的に肉体が強化されているなら、気を通せない通常の剣の刃で斬りかかっても無駄だ。剣に頼らず気の力で編んだ斬撃を飛ばすことも可能ではあるが、気巧回路なしでは普通に斬りかかった方がマシだ。


「あーもうっ、こういう時のために、魔剣がっ、欲しいんだよ!」

「オラオラァ! ちょこまか逃げるだけかァ、この腰抜けェ!」

「こんの……なら前みたく《乱気》術で――」


 攻撃を躱しながら、すれ違いざまにチャポムの腕に指先を触れさせる。気の糸を通してみようとするが――すぐさま見えない力の抵抗を受け、押し返されてしまった。


「精神防壁!? 一体何をしてこんな力を……」

「ハッハァ、言っただろうがよォ、俺様は人類最強だって――ガハッ!?」

「!?」


 いきなりチャポムが血の塊を吐き出した。ナツキは何もしていないし、吊るされているハロが何かをできるわけもない。どこかから助勢がやって来たのかと一瞬考えるが、この空洞の入口は柵で塞がれた一箇所だけだ。一体何故――

 その疑問の答えは、他でもないチャポム本人から語られることになった。


「ククッ……あァ、痛ぇ……俺様の体ももう限界だなァ……だがナツキィ、てめェをぶっ殺すにゃ充分すぎんだよォ! 聖石兵装(サクラム)88本分の天使の力、いつまでも避け続けられっと思うんじゃねェぞォ! オラァッ!」

「なっ、聖石兵装(サクラム)……って、まさか!」


 リリムとヘーゼルと《子猫の陽だまり亭》で武器について話していた時、聖石兵装(サクラム)についても話題に上ったことを思い出す。


『――何本も刺せばそれだけ強くなるけど、どんどん副作用も強くなって身体に悪影響が出るのよ。最終的には筋肉がちぎれたり血管が破裂したりするって言うし――』


 ヘーゼルはそう言って、ナツキが聖石兵装(サクラム)に手を出すことに難色を示したのだ。

 そんな代物を、チャポムは88本も身体に埋め込んでいる。ナツキを殺すためだけに一時の力を手に入れ、その副作用で死にかけているのか。


「じゃあ《気配》術の反応がハロと同じくらい弱かったのも……」


 本来なら自力では身体も動かせないほど弱っている状態でありながら、聖石兵装(サクラム)によるドーピングで無理やり戦っているのだ。


「……バカなの!? 一体何でそこまでして――」

「てめェに復讐するために決まってンだろがッ! てめェのせいで俺様の人生は滅茶苦茶なんだよォ! どうせすぐ野垂れ死ぬんだ、ならてめェをぶっ殺してから死んでやらァ!」

「人生滅茶苦茶なのは自業自得でしょ! 逆恨みもいい加減にしてよ!」


 そんな理不尽な理由で殺されてたまるものか。

 聖石兵装(サクラム)について、ヘーゼルやリリムに聞いた話を思い出す。それは基本的には、筋肉に刺すことで筋力を大幅に増加させるものだったはずだ。


聖石兵装(サクラム)の身体強化を、ずいぶん信頼してるみたいだけ、ど! 要はそれを刺した筋肉が、魔法的に強化、されてる、だけだろっ!」

「筋肉もッ、骨もッ、それ以外もだッ! かつてこの世界でッ、一度に20本以上聖石兵装(サクラム)を刺した人間は俺様一人だけだァ! 俺様は今、人類最強なんだよォッ!」

「なら――」


 聖石兵装(サクラム)が「刺す」ことで対象に魔法的に作用するものであるなら、その累計本数がどれだけ多かろうが対処法はある。

 攻撃を躱しつつ、《気配》術フル稼働でチャポムの行動パターンを読みといていく。隙が出来るように攻撃を誘導する。


「ぬォっ――」

「ボク達が何度、その手の魔物と戦ってきたと思ってるんだ!」


 ナツキの動きに誘導され、無理な姿勢で拳を振るわされたチャポムの身体がよろめく。ラグナの高位魔獣や魔王軍の幹部連中ならここでマナを爆発させたり瞬間移動魔法を使うなりして距離を取るところだが、チャポムにそんなことはできない。


「まずは、一発っ!」

「ッ――」


 突き出された剣の切っ先が、吸い込まれるようにチャポムの()()を刺し貫いた。


「グオァアァァアアッ!?」


 苦痛の叫びを上げながら、チャポムは地面を蹴って飛び退った。


「てッ、めェ……!」


 脳まで貫くつもりで突いたのだが、すんでのところで首を振って回避されたようだ。なかなか状況判断が早い。

 チャポムの右の眼窩からは真っ黒な血が溢れ出し、ナツキの剣先にはえぐり取られたチャポムの目玉が刺さっている。即座に振り払って地面に叩きつけると、ぐしゃりと潰れた。


聖石兵装(サクラム)がどんなものか、よくは知らないけど……やっぱり、目玉には刺せないよね」


 防御力が強化されていて攻撃が通らないなら、強化できない部分を狙えばいい。弱点を突くというだけの簡単な理屈だ。


「ふザッけんなァ!」


 トドメは刺せなかったが、これで遠近感覚は失われたはずだ。少し踏み込みの甘くなった右ストレートを余裕を持って躱しつつ、次は左目に狙いをつけて動きを誘導していく。

 もはや誘導せずとも隙が多い。小さな隙に合わせて身体の表面を斬りつけて体勢を崩しながら、決定的なタイミングを測り――


「……っ!」


 よろめいたチャポムの左目に向けて刺突を繰り出した、その時だった。

 

 ――ニタリ、チャポムが口の端を上げたのが見えた。嫌な予感が背筋を這い上がってくる。

 それを裏付けるように、目の前からチャポムの姿が消える。代わりに刺突の先に見えたのは、幼い少女の傷だらけの体躯――


「っ、ハロ――!」


 すんでのところで剣を無理やり止める。刃がハロの体に触れることはなかったが、咄嗟の急制動をかけられたナツキの体は少しよろめき、


「ぅ、え、おねぢゃ、うぇ……!」

「な……おぶっ!?」


 ハロが必死に発した言葉の意味を理解する前に、突如()()から襲いかかってきた鋼鉄の飛び蹴りが、顔面にクリーンヒットした。


「あ、がっ、……っ!」


 そのまま弾き飛ばされ、地面を転がりながらナツキが見たのは、天井から吊るされている無数の鎖にぶら下がっているチャポムだった。

 理解した――チャポムの動きを誘導していたはずが、逆に誘導されていたのだ。わざわざハロの目の前に移動した上で、ナツキが決定的な一撃を繰り出す瞬間に、天井の鎖を使ってナツキの頭上へ逃げたのだ。


「やって、くれたな……」

「チッ、どんだけ石頭だてめェ。今のァ脳ミソぶちまけてぶっ飛ぶ所だぜェ?」


 身体強化していたにもかかわらず鼻の頭が折れてしまっていることからして、事実だ。それだけの威力はあった。


「まァいい……ククッ、俺様の弱点は目ん玉だってのはご明察だがなァ、てめェにだってこォんなクソデケェ弱点があるんだぜェ?」

「は? ……おい!?」


 チャポムが手を伸ばしたのは、ハロを吊るしている鎖だった。それを掴んだかと思うと、フンッ、と気合い一声、粉々に握り潰してしまった。

 当然、支えを失ったハロは地面へと落下する。


「ぁぐっ……」

「ハロ!」

「おっとォ……それ以上近づくんじゃねェぞ」


 無防備なまま地面に叩きつけられたハロは、震える身体をどうにか起こそうとしている。チャポムはその胴体を左手で無造作に掴んで拾い上げ、ナツキに見せつけた。


「っ……ぅ、……ぃだ、ぃよぉ……」

「ハロを離せ! その子は関係ないはずだ!」

「あァ関係ねェ。ってこたァ、肉壁にしようが何も問題ねェってことだよなァ?」

「ふざ、けんな!」


 チャポムは下卑た笑みを浮かべ、ハロを左右の手に持ち変えて盾のように頭を守りながら、拳を繰り出してきた。


「オラオラァ! どうした、さっきみてェに反撃してみやがれェ!」

「くそっ……外道め!」


 避けることしかできない。無理に攻撃すればハロも一緒に殺してしまう。


「なづき、おねぇちゃ……らい、じょぶ……だよ」

「ハロ!」

「ハロ、は、ぎふでぃぁ、だ、から……ハロ、も……ぃっじょ、に……」

「バカ! そんなことできるわけ――、……!」

「なら仲良く死ねやァッ!」

「ぐぷっ!?」

 

 振り回されるハロを傷つけないことを優先してチャポムの行動を誘導していたせいで、回避が間に合わなかった。腹に重い右ストレートを食らって吹き飛ばされる。


「ハッハァ、ざまァねェな! このままいたぶり尽くしてやる、最後は犯しながらハラワタ引きずり出して首引き千切ってやるァア!」

「ゲホッ、っ、んな、悪趣味な性癖、付き合ってられっか、この猟奇ロリコン野郎!」


 啖呵を切るも、ナツキにこの局面を乗りきる手立てがあるわけではない。しかし――


「チャポム……お前、これまで何人、手にかけてきたんだ!」

「あァん? ガキの数なんざ数えてっわきゃねェだろがよォ」

「ガキって……まさか、子供を選んで襲ってたのか!?」

「ククッ……あァそうだ、ガキは死に際の顔が大人の何倍もイイからなァ! 媚薬漬けにして快楽と恐怖の渦に叩き込んでやるのさァ! その点感染ラクリマはイイよなァ、大っぴらに何しようが《塔》も軍も何も言いやしねェ!」

「クソ野郎が……ってことは、あの時にー子を攫いに来たのも……」

「ク、ククッ、その通りィ! ククックハハハハハッ!」

「何がおかしい!」

「そりゃおかしいだろォ! 会ったばかりのラクリマ一匹なんぞに縛られて、そうやってチマチマ時間稼ぎしてんのがなァ! クククッ、俺様の寿命はまだまだあるぜェ? 元々てめェをぶち殺すのは明日のはずだったからなァ!」

「…………」


 時間稼ぎに会話を始めたのは、さすがにバレていた。それを知ってなお会話に乗ってくるあたりに余裕を感じる。事実、ハロを盾にされたままではまともな方法で勝つことはできないだろう。


「……ハロ」


 名前を呼ぶと、ハロは無言でこくりと頷いた。

 その表情は、死を覚悟しているかのごとく決然としたものだった。


「おォ? できんのかァ? てめェが神獣の使い魔がうようよいる森にラクリマなんぞを助けに行くクソバカ野郎だってこたァ、調べがついてんだぜェ?」

「……それが、どうしたっ!」


 足に気を通して一気に亜音速まで加速、間合いを詰める。


「てめェはコレを殺せねェ。だから――」


 目標はハロ――を掴んでいる右の義手だ。まずハロを取り返さなければまともに動けない――


 ――ガギィン!


「――そうやって、まずてめェはコレを取り戻そうとする。聖石兵装(サクラム)の刺さってねェ俺様の義手をぶっ壊しにかかるんだとよ。……ククッ、面白ェくれェに()()()やがるぜ」


 ナツキの渾身の突きは、義手の弱点であるパーツ接合部に寸分違わず命中した。にもかかわらず、チャポムの義手はびくともしなかった。


「くそっ――裏に誰かいるのか?」

「さァなァ!」


 そうなることを予想していたかのように、チャポムはニタリと口の端を上げてナツキを見下ろし――右の義手の接合部に挟まったままの剣の刃を、左の義手で鷲掴みにした。


「残念だったなァ……この義手は()()()()()()()()()特注品なんだよォ! ハッハァ! ぶっ壊したけりゃ聖騎士でも連れてくるんだなァッ!」

「コア……!?」


 アイオーンの素材には神獣のコアが使われている、それはヘーゼルが教えてくれた噂だった。

 もしチャポムの義肢が全てアイオーンと同じ強度なら――今のナツキに破壊する手段はない。


「オラァ!」


 バキン、と大きな破砕音と共に、ナツキの剣の刃が半ばで折り砕かれた。その衝撃の余波でナツキは後ろへと強く押され、よろめく。


「あ……」

「――終わりだァ!」


 視界がスローモーションになっていく。


 左の義手が折れた剣の切っ先を投げ捨てる。

 右の義手からハロが左の義手へと投げ渡され、顔の前に盾として掲げられる。

 右の義手が振りかぶられ、ナツキの顔目掛けて――



 ――ああ、本当に。


 本当に――チャポムが単純脳筋バカでよかった。


 もしこいつにもう少し考える力があったなら、ここまで上手く事は運ばなかっただろう。



「――は?」



 ナツキの目と鼻の先で、チャポムの右の義手が――粉々に砕け散った。

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