Noah/χ - 命の天秤 Ⅰ
ハロの名前はハロ。長い名前だと、ハロ=クト=ペロワ。シンギししょーの弟子のラクリマなんだ。
今日のお仕事は終わって、明日はお休みの日。だから今日もハロは工房を抜け出したの。週2回あるお休みの前の夜はいつも、みんなには内緒で秘密の大作戦をすいこーするんだ。
この間カイお兄ちゃんにはバレちゃったけど、闇市に行ってることはバレてないみたい。長かった作戦ももう少しで終わりだから、もうちょっと、もうちょっとだけ、バレないでいてほしいな。
もちろん、ハロはシンギししょーのラクリマだから、ししょーやカイお兄ちゃんが怒るようなことはしてないよ。工房じゃ売れないような失敗しちゃった剣を、闇市で欲しい人に売ってるだけだもん。
工房に来る前はずっと闇市の……どれーおーくしょん? ってところにいたから、闇市にはそういうお店がいっぱいあるってことは知ってるんだ。ハロは檻の中にいたけど、近くを通るたくさんの人が話してるのを聞いてたからね。闇市はね、「外では売れないものを売る場所」なんだよ。今のハロにぴったりだよね!
あ、でも……闇市は危ないってみんな言ってるから、バレたら怒られちゃうかもしれないけど……バレなければ、最後はみんなにこにこ笑顔になれる大作戦だもん。うん、だから全然問題ないよね?
「ハロちゃん、体痛くねーか?」
「だいじょうぶ!」
ハロは今、大きなたるの中に入って運ばれてる。運んでくれてるのは、最初に抜け出したときにお友達になったお兄ちゃんたち。どうやって闇市まで剣を運べばいいか分からなくて困ってたら、助けてくれたんだ。
あ、工房の外ではハロがラクリマだってことは秘密にしなきゃいけないってムースお姉ちゃんが言ってたから、ハロはカイお兄ちゃんの妹だって自己紹介したよ。首輪や忌印が見えないようにローブはしっかり着てるし、ローブの下に帽子もかぶってるし、お兄ちゃんたちにはバレてないはず!
「にしても、こうして運び屋すんのもあと三回くらいで終わりか……」
「クク、なに寂しそうな面してんだよ、最初のお前の極悪人っぷり、忘れてねえぞ」
「どの口が。お前こそハロちゃんを容赦なく縛り上げてたじゃねーか」
そういえば、最初はロープでぐるぐるまきにされちゃったんだっけ。お兄ちゃんたち、ハロが悪い子に見えたみたい。ひとじち? とか、みのしろきん? とか、よく分からないこと言ってたなあ。
でもね、助けてくれたお礼に、ハロの秘密の大作戦を話してあげたら、ハロがいい子だって分かってくれたよ。ロープをほどいてくれたし、剣が売れたらお金をちょっと分けてあげるかわりに、いつも闇市に連れて行ってくれることになったの。それに、お金のこともよく分かんないって言ったら、お客さんたちとのお金のやり取りも代わってくれたんだ。お兄ちゃんたち、とってもいい人!
それで何回か抜け出してたら、ある日お兄ちゃんたちが大きな袋をくれたの。中にはすっごいたくさん金貨が入っててね、これが「本当の売り上げ」なんだって言って、ハロにくれたの。そんなわけないのにね。だってこっちに持ってきてるハロの剣は、検定に出せないような失敗作ばかりなんだよ?
でもお兄ちゃんたち、とっても悲しそうな顔してた。ハロがカイお兄ちゃんに怒られてごめんなさいする時みたいな顔。まるでハロにごめんなさいしてるみたいだった。……ううん、本当にごめんなさいって言ってた。なんかね、ハロがいい子すぎて、悪いことするのにたえられなくなったんだって。お兄ちゃんたちはいい人だよ、大好きだよって教えてあげたら、みんな泣いちゃった。大人なのに、子供みたい。
「そうだハロちゃん、最後の日には俺らの名前も教えてやるよ」
「ほんと!? えへへ、やったー!」
闇市ではお名前は秘密だから、四人のお兄ちゃんたちのお名前は知らないの。でもちゃんと誰が誰かは分かってるんだよ。頼りになるリーダーお兄ちゃんと、計算が得意なお会計お兄ちゃんと、武具をたくさん運んでくれる力持ちお兄ちゃんと、疲れて眠くなっちゃったハロを運んでくれるおんぶお兄ちゃん! みんな優しくて、とってもいい人なんだ!
「あ、ハロちゃん、そろそろだから静かにしてろよ」
「はーい」
今リーダーお兄ちゃんが教えてくれたのは、そろそろ「あずまや」っていう秘密のトンネルを抜けるってこと。ここはとっても危ない場所で、ハロが外に出てると悪い人に襲われちゃうんだって。
ちょっとドキドキしながら闇市に着くのを待つこの時間、実はけっこう好きだったり――
――バシュゥッ!
「ひゃっ?」
いつもはしない音がした。何だろう?
「何だ、何の音だ?」
「……おい見ろ、後ろだ! 煙……うっ、この匂い、催涙弾か!?」
「うおお逃げろ逃げろ、ハロちゃんを守れぇぇええ!」
「うおおぉお、いや待て、何で後ろなんだ?」
後ろの方で何かが起きたみたい。ハロたちが進む方向に何も無いなら、特に問題はないのかな?
「標的は俺らじゃねぇ、か。ヒヤヒヤさせやがって……」
「何にせよ厄介事はごめんだ、さっさと抜けちまおう」
力持ちお兄ちゃんが引く荷車のスピードが上がった。いつも何も起きないから安心してたけど、ここって本当に危ない道なんだ。
それから少し経って、荷車が止まった。
「積荷を確認する」
お兄ちゃんたちとは別の声。闇市の入口に着いたんだ。
ハロのいるたるの蓋が開いて、「あずまや」の門番? の人と目が合った。いつもの人だ。しゃべっちゃだめだって言われてるからあいさつもできなくて、ちょっと悲しい。
「……お前らも懲りないな」
「懲らしめられたことがねーからな」
「…………」
門番さんはなんだか変な顔をして、お兄ちゃんたちの方を向いた。
「《東屋》の番兵じゃなく、ただの顔なじみとして忠告してやる。こんなこと繰り返してると、いつか痛い目を見るぞ。お前らはともかく……この子がな」
「ご心配どうも。なに、多くてあと三回だ、守りきってやるさ……その後は俺らも足を洗うって決めてんだ。へへっ、俺ら四人でもう一度夢を追うのさ」
「…………。そうか。幸運を祈る」
「んだよ、変な面しやがって。……ああそういや、さっき抜け道で催涙弾が」
「その件についてお前らに語れることは何も無い。さっさと行け」
「ん……ワケありっぽいな。ちゃっちゃと片付けといてくれよ? あとでこいつ家に帰さなきゃいけねーんだから」
「…………ああ」
なんか……門番さん、いつもより元気がないかも? ちょっと心配。
「門番さん、門番さん」
「あっこら、喋るなって――」
「お願い、ちょっとだけ!」
小声で門番さんを呼んだら、きょろきょろ周りを見回してからハロのたるを覗き込んでくれた。
「……何だ。大声を出すなよ」
「あのね、門番さん、お仕事大変みたいだから……」
手を伸ばして、門番さんのほっぺを挟む。ぐりぐり。ぐりぐり。
「っ、何をする」
「ほら、笑って笑って! 笑うとね、元気になるんだよ」
「……やめろ!」
手を振り払われちゃった。
あ……そっか、門番さんは厳しくないといけないから、お仕事中に笑っちゃいけないんだ。……それってなんだか、大変そう。
「うーんと、じゃあ……ほら見て、ハロが笑うよ! 大変だなー疲れたなーってなったら、ハロのこと思い出して! せーのっ、にぱっ!」
工房のみんなは、ハロが笑ってるところを見ると元気になるって言ってた。元気と幸せのおすそ分けだねって。だからいっぱい、にこにこ笑顔を届けるんだ。
あと、それから……
「いつも抜け道を見守っててくれてありがとう! ハロね、門番さんのことも大好きだよ!」
「っ……!?」
いつもお話できなくて伝えられなかったこと。もうチャンスがないかもしれないから、今言っちゃわないとね。本当はちゃんと大きな声で言いたかったけど。
喜んでくれるかな、と思ったけど……門番さんはなんだか泣きそうな顔になっちゃった。
「あれ?」
見たことある顔……お兄ちゃんたちがハロにごめんなさいってしたときの顔だ。どうして?
「ほ、ほんとだよ? 嘘じゃないよ……?」
「ああ……分かっているさ。だが、私にその言葉を受け取る資格はない」
「え、どうして――」
「すまない。本当に……すまない」
「わっ」
門番さんは一度だけハロの頭を撫でてくれて、すぐにたるのふたを閉めちゃった。
「行け」
「あ、ああ……アンタ、何かあったのか? いつもと様子が……」
「さっさと行け! 私は命じられた職務を全うした、それだけだ!」
「ひぇ、何なんだよ……まあいいや。行くぞお前ら」
うーん、元気になってほしいってハロの気持ち、伝わったかな?
伝わってるといいな。
それから、たくさんある横穴の一つに入って、たるから出してもらった。ここからはお兄ちゃんたちといっしょに下流の方に歩いていって、お店を開ける場所を探すんだ。
ここまで来たらもう、喋っても大丈夫! さっき気になったことを聞くチャンスだ。
「ねえねえ、『ゆめをおう』ってどういう意味なの? 四人でいっしょに寝るの?」
夢は寝ている間に見るものだよね。一緒に寝ても同じ夢は見られないし、追いかけられるようなものでもない。
「やべ、さっきの台詞聞かれてたのか……」
「いいだろ別に。あのなハロちゃん、ここで言う夢ってのは寝てる時に見る夢じゃねーんだ。なんつーか……やべー難しいけどどうにかして達成してー目標、みたいなやつな」
「そうそう、それに向かって俺らは頑張るって決めたわけよ。……ま、昔叶えられなくて一度諦めた夢なんだけどな」
「ふーん……どんな夢なの?」
「まだ秘密だ」
「えー!」
「ははっ、この作戦が終わったら教えてやるよ」
ハロの知らない「夢」について説明してくれるお兄ちゃんたちは、何だかキラキラしていた。
「じゃあ、ハロの夢はこの作戦がうまくいくことなのかな?」
「だな。でもあと三回もやりゃ目標達成だろ? なんか新しいやつ考えねーとな」
「わ、そ、そっかぁ……うーん……」
そんなものあるのかな。
やりたいことだったら……いい剣を作って、褒めてもらいたい。けどもうみんな、ハロのことはたくさん褒めてくれてる。じゃあ、もっと褒めてもらう? ……なんか目標っぽくないなあ。
達成するのがとっても難しいけど、したいこと……
…………。
ひとつ、ある。
でもそれは……
「ハロちゃん?」
「あのねお兄ちゃん、ハロ、夢決めたよ」
「おっ、どんなどんな?」
「えへへ、ひみつー」
「おい、さっきの仕返しか? 仕返しなのか!?」
仕返しなんかじゃない。お兄ちゃんたちが夢を教えてくれても、ハロの夢は教えてあげられない。だってそれは、叶えるのが難しいなんてレベルじゃない、ハロたちラクリマが目指しちゃいけないことだから。
だからこの夢は、そっとしまっておくんだ。
そのあと、すぐ空いてる場所が見つかった。今日はちょっとラッキーな日かも!
それに最近、武具を買いに来てくれるお客さんがどんどん増えてるの。前はたくさん売れ残っちゃってたけど、今は一度にいくつも買ってくれる人が何人もいるんだ!
でもね、ハロの剣を買ってくれる人ってみんな、あんまり戦う人っぽくなくて……商人みたいな、そんな感じの人ばっかりなの。なんでだろう? お兄ちゃんたちは「自分が作ったことにして転売してんだろ」って言ってたけど、ちゃんとししょーに言われた通り売り物の武具には全部工房のマークもつけてるから、そんなわるいことはできないはずなんだけどな。
「おや、今日もたくさんありますね。見せてもらっても?」
「わ、いらっしゃい! どれも一本30万リューズだよ!」
「ふむ……」
今日の一人目のお客さんは、丸っこいおじさん。フードで隠れててお顔が見えないから、全然お客さんを覚えられないんだけど……もしかして、前にも来てくれた人なのかな?
「こちらのナイフとこちらの直剣三振り、頂きましょう」
「やったー! ありがとう、おじさん!」
「いえいえ……こんな良心的な価格でまけ――ゴホン、素晴らしい剣が手に入るのです。感謝すべきは我々というもの……ああ、支払いはそちらのお兄さんでしたかな」
「おう、毎度あり。120万リューズだぜ」
お会計お兄ちゃんが、おじさんから金貨をたくさんもらった。
もう四つも売れちゃったんだ。やったね!
目標まであと少し。あと少しで、カイお兄ちゃんやシンギししょーをにこにこ笑顔にできるんだ。頑張らなきゃ!
「……おい」
「あっ、いらっしゃい! 剣、いらな……わっ?」
次に来たお客さんは、すっごい大きかった。ローブに入り切ってない手や足が見えて……あれ、金属?
って思ってたら、その銀色の大きな手がこっちに伸びてきた!
「えっ、あの、試し振りしたいの……ひゃっ!?」
大きなお客さんが、大きな手でハロのおなかを掴んで持ち上げちゃった! すごい力! あ、あれ、でもちょっと、痛いかも――
「おいアンタ、なにしやがる! その子を離せ――」
「るっせぇな、雑魚が」
――ガァン!
すごい、音がした。
お会計のお兄ちゃんが、遠くに飛んで行った。
……え?
「がっ、は……ッ!?」
「お、お兄ちゃんっ!」
なんで? お兄ちゃんは何もしてないのに!
「やめて! なんで? ひどいよ……あっ、痛、おなか、痛い、やめ……っ」
大きなお客さんの手の力が強くなって、ハロのおなかがぎゅーってされてる! このままじゃハロ、つぶれちゃう!
「ラクリマのくせに、ピーチクパーチク囀るんじゃねぇ」
「ぅぁ、ぐっ……」
いたい、痛い……! なんで、こんなことするの……?
「てめえ! ハロちゃんを――」
「るっせえつってんだろが! こいつぁラクリマだ、人間の道具だ! ローブなんか被ってようがバレバレなんだよォ! オラ見てみろ!」
「っあ――」
すごい力でローブが破られちゃった。闇市では絶対取っちゃいけないローブなのに!
お気に入りの帽子と一緒に、捨てられちゃった……
「や、だめ……」
工房の外では、ラクリマだってバレたら人間さんに嫌われちゃう。だからずっと隠してきたのに。お兄ちゃんたちにも見せないできたのに!
「テメェらがご大層に面倒見てたのはなァ、貴族の子供なんかじゃねェ、気持ち悪ィ感染ラクリマなんだよォ!」
「やめて……!」
大きなお客さんの大きな声は、周りにいた人達みんなに聞こえちゃった……
「ラクリマ? おいおい、マジかよ……人間の真似してたのかよ」
「え、じゃあこれまでいろいろ買ってた奴ら、ラクリマの営業にまんまと釣られて大金落としてたのか? ウケるな」
「どっかの貴族の奴隷だろ? いつバレるか賭けでもしてたんじゃねーの」
「厄介事の匂いしかしねぇな……おい、店畳め。逃げるぞ」
「何でもいいけど、あの兄ちゃん大丈夫かよ? あのデカいの普通にやべーやつなんじゃ」
「知らないわよ、ただの喋るお人形に騙されてたくらいバカなんだから、自業自得でしょ……ねえ、今日は引き上げましょう? 巻き込まれたくないわ」
みんなどんどんどこかに行っちゃう。
工房の外ではラクリマがどんなひどいことされても誰も助けてくれないって、それが普通なんだって……ムースお姉ちゃんの言ってた通りだ。
「う、うぅ……っ」
きっとお兄ちゃんたちもがっかりしてる。
ハロのせいで、お会計のお兄ちゃんは怪我しちゃった。
怒ってるかな。……ハロのこと嫌いになっちゃったかな。
そんなのやだ……やだよぉ……
「だからどうした! んなこた最初から分かってんだよこのデカブツ!」
「あァ?」
「え……」
おんぶお兄ちゃんが、大きなお客さんを怖い顔で睨んでた。
「ローブで隠れてようが、尻尾があることくらい抱き上げて見りゃ分からぁ! 頭撫でりゃなんか生えてるなって分かるわ! ってか顔覗き込めば首輪がちらっと見えるだろうが! そんでそれが何だ! ハロちゃんがいい子だってことには違いねぇだろうが!」
いつもおんぶしてくれるお兄ちゃんは、ハロがラクリマだってこと知ってたんだ。
リーダーのお兄ちゃんも、力持ちのお兄ちゃんも、頷いてる。
吹き飛ばされちゃったお会計のお兄ちゃんが、痛くて苦しそうなのに、ハロに向かって親指を立ててる。
そっか、みんな――
「っ、お兄ちゃ……んぐぷっ!?」
「ハロちゃんッ!?」
「おぉっと、アホらしすぎて力が入りすぎちまったぜ……壊さねぇようにしねぇとな、危ねぇ危ねぇ」
おなかのどこかが、ボキ、ブチュ、っていった。
口から血が、たくさん、出てきちゃっ、た。
いたい、いたいよ……
でも、よかっ、た。
お兄ちゃん、たち、ハロのこと嫌いになっ、て、なかっ、た。
「で? 言いてェことはそれだけかァ? こちとらテメェらの特殊性癖なんざこれっぽっちも興味ねェんだわ。俺様ァコレさえ拾えりゃそれでいいんだよォ。あァ……文句があるならかかってこいや。だがなァ、今の俺様ァ人類最強だぜェ?」
「っ……てめえ、ハロちゃんをどうするつもりだ!」
お兄ちゃん、逃げ、て……
「あァ? ただの餌……じゃねェや。何だっけな……あァそうそう、《塔》に突き出して金をたんまり貰うんだよォ」
「は、《塔》……? 何を言って……いいかよく聞きやがれ、そのラクリマは貴族のチューデント家、フィルツホルン一の鍛治工房の所有物だぞ! しかも工房長シンギ=チューデントの弟子、つまり《塔》や軍にすら卸されてる武器の打ち手なんだよ!」
リーダーの、お兄ちゃん、なんで、そんなこ、と、しって……
あ、そっか……お兄ちゃん、たちに、じまんした、んだっけ。
「俺らが《塔》に通報すりゃお前は終わりだ! 報奨金をたんまり貰うのは俺らだ馬鹿野郎! 分かったらさっさと」
「あァそうか、そうだったなァ、どうでも良すぎて言い忘れてたけどよォ……こいつァギフティアだぜェ?」
「ハロちゃんを離せ――は?」
ぎふ……てぃ、あ?
「んだテメェら、気づいてなかったのかァ? オラ見てみやがれ」
あ、ハロの剣、ひとつ、とられちゃっ……
「あァ、テメェでいいか。オラ、死ねやァ!」
「っ!?」
「――っ! だ、め――!?」
力持ちのお兄ちゃんに、振り下ろされた剣が――ぐにゃって、曲がった。
お兄ちゃんには、当たらなかった。
粘土みたいに曲がったまま地面に刺さって、止まった。
剣が、お兄ちゃんを、避けた。
「けっ、使えねぇ剣だぜ。人を斬れねェんじゃなんの意味もねェだろが……」
ハロが打って、ここに持ってくるまで、ハロとお兄ちゃんたち以外誰も、触ってないのに。
ハロの剣が、魔剣になってた。