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エンゼルフォール:エンドロール ~転生幼女のサードライフ~  作者: ぱねこっと
第一章【星の涙】Ⅶ ポンコツ魔剣と兎狩りの夜
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Noah/* - 水面下 Ⅱ

 闇市(アンダー)の小さな横穴で、その男はただ時を待っていた。

 目を閉じ、岩の地面に腰を下ろし、ピクリとも動かない。不要なエネルギー消費を厭うようにダラリと投げ出された四肢は、その全てが金属むき出しの義肢であった。

 やがて通信機の着信音が鳴り、男はカッと目を見開いた。


『犬が網に入りました。捕らえなさい』

「俺様に命令すんじゃねぇ。……首尾は」

『こちらは上々ですよぉ、えぇ。もう確保済み、そろそろ撤退ですねぇ……』

「あぁん? んだよ、じゃあ何だって俺様はこんな面倒な――」

『まあまあ、それは……あぁ、ちょっとお待ちを。……はい私です、はい……ほほぅ』

「おい……誰と話してやがる」

『ならそうですねぇ、十分でいいです、妨害してください。えぇ、肉壁は持っていますね? ……はい、そうですよぉ』

「おいッ!」

『ではまた。……あぁ、すみませんねぇ。お待たせしました。えぇ、朗報ですよぉ。狐も網に入ったそうです。手間が省けましたね』

「……ほう? なら日が変わる前にゃ片付くか。ってこたぁ……」

『えぇ、私とアナタの関係もこれでお終いです。狐は十分だけ稼いで差し上げますので、あとはご自由にどうぞ。……良い最期のひと時を』


 ガシャン、ザザッ、と耳障りなノイズと共に、通信は切れた。


「チッ、クソが」


 男も通信機を壁に叩きつけ、粉々に破壊する。これでもう、あのいけ好かないアングラドールプロバイダーとの関係の痕跡は無くなった。

 やたらコネと悪知恵だけはある男だった――もう二度と声も聞きたくないが、利用価値はあったと言える。


「フゥー……さァて、嬲り殺しの時間だ」


 男は立ち上がり、ガシャンガシャンと金属音を立てながら歩き始めた。


「ナツキ……てめぇだけは、絶対に……」


 赤黒く変色した全身に浮き出た血管が、ドクンと一つ脈打った。



☆  ☆  ☆



 その日、セイラは久しぶりにリモネが怒るところを見た。


「セイラ……説明してください」

「だ、だから言ってるじゃん、ぼくはただいつも通り指令を――」

「ふざけないでください! ピュピラ島って……それがどういうことか、分かってるんですか!?」

「うぇっ、ど、どういうことも何も、ランクS案件なんだから……って、ランク付けしたのはリモネじゃん! 何でリモネが怒ってるのかぼくにはさっぱり……聖下にも報告したけど、すごく喜んでたよ? 《計画》に役立つって、不必要な犠牲を減らせるって」

「それはっ……」

「リモネこそどうしたの? いつものリモネらしくないよ……」

「っ――もう……いいです」

「リモネ?」


 昼頃に受けた通報を処理するため、セイラはいつも通りのマニュアル通りに関連各所に報告と指令を出した。聖騎士の出動や大型施設の起動など大掛かりな対処が必要な案件だったので、その後も司令やら連絡やらのハブとして大忙しだった。そしてついさっき、帰ってきたリモネに「今日は自分もかなり頑張ったのだ」と顛末を話したところ、何故かリモネは愕然とした顔で固まってしまい、すぐに怒り始めたのだ。


「まだきっと間に合います。あたし……聖下に直談判してきます」

「……え!? ちょっリモネ待って、何を!? 直談判って、何のために!? 行かせないよ、ちゃんと説明――」

「離してくださいッ!」


 咄嗟に伸ばした鋼鉄製のロボットアームは、リモネの胴体を掴んだ瞬間に根元までバラバラに破壊された。騒がしい警告アラームが空間に鳴り響く。

 ……本気だ。リモネは本気で、聖下に歯向かうつもりだ。


「邪魔するなら……」


 ス、とリモネの指先がセイラに向けられた。再びロボットアームなり麻酔銃なりを起動しようとした瞬間、セイラの体は先程のアームと同じように破壊されるだろう。リモネは()()()()()()()に躊躇しない。


「分かった、邪魔はしないよ……でもお願い、教えて。何のために――」

「人が、人であるためにですよ」


 リモネはそれだけ言って、空間を出ていった。


「それは……違うよ、リモネ」


 一人取り残されたセイラは、呆然と呟く。


「だってぼくもリモネも……とっくのとうに……」



☆  ☆  ☆



 泣き声を、聞いた。

 呼び声を、聞いた。

 震え声を、聞いた。

 叫び声を、聞いた。


 やがて、静かになった。


 自分はそこにいなかった。何もしなかった。知らなかった。見なかった。

 それは、世界を救うために必要なことだった。

 だから仕方がなかった。


 ……違う。

 怖かったのだ。すぐそばにいたのに、怖くて、何も出来なかったのだ。

 全て知っていたし、見ていなくともその光景は瞼の裏に浮かんできた。

 世界なんて、どうでもよかった。


 それでも――怖かったのだ。

 あの生き地獄を、二度と味わいたくなかったのだ。


「……ごめんね」


 もうきっと、友達には戻れない。


 最後に一度お別れを言うことすら、もう叶わない。

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