1.はじめてのガチャ
「「「いらっしゃいませ、ナイツへようこそ!」」」
二人組の女性客が扉を開けると、店内に明るい声が響いた。
「あ、あの、私たち初めてなんですけど……」
「ご来店ありがとうございます。まずは当店のシステムをご説明させていただきますね」
案内に進み出た店員は、やたらと顔の良い男だった。
しかし優男ではなく、戦士と言って良いほどの鍛え抜かれた体をしている。
店員は店の説明を淀みなく済ませ、テーブルまで先導する。
「やばいっ! ホントにちょ~イケメンじゃん!」
「レベル高すぎでしょ~! しかもどのテーブルにもイケメンがいる!」
「やばいやばい! 誰指名しよ~?!」
女性達は初めて見る店内を見渡し、控えめだが興奮した声で囁きあっている。
店内には女性客ばかり。
店員は顔の良い男ばかり。
それも当然。
この店、ナイツは……ホストクラブなのだから。
***
「あれ、ここって『召喚の間』じゃん」
遊香が目を開けると、そこは聖堂のような場所だった。
最近プレイしているスマートフォン用ゲーム『フォロウ・ナイツ』に出てくる召喚の間。
いわゆる『ガチャ』と呼ばれる、ゲームキャラクターを獲得するための場所だ。
「プレイ中に寝落ちしてフォロナイの夢見るとか、私も末期だねぇ」
遊香は寝る前に布団に潜りながらスマホゲームをプレイするのが日課になっていた。
そして大抵は寝落ちし、朝を迎える。
27になっても直せないあまりよろしくない習慣だったが、仕事には一切悪影響を及ぼしていないし、家族もそううるさくは言わなかった。
フォロウ・ナイツはオタク女性に大人気の、育成バトルゲームだ。
ガチャでキャラを手に入れ、パーティを組んで魔王軍と戦う。
戦闘に勝利すればアイテムなどが手に入り、キャラを強化することができる。
しかし大抵のプレイヤーにとって、戦闘は二の次。
メインはキャラの――イケメン達のイベントスチルを見たり、ボイスを堪能することだった。
「どうせ召喚の間なら、ガチャでもできないかな~。……お、あるじゃん!」
手に持っている自分のスマホを見ると、『10連ガチャ(初回無料)』と『UR確定ガチャ(初回限定)』のバナーが煌々と光っていた。
この1回きりのガチャは、新規のプレイヤー向けに提供されているサービスだ。
URはゲームの最高レアリティだし、この2つで最低限の戦力を整える仕組みだった。
もちろん遊香はとっくの昔に引いている。
「……スマホは私のなのに、新規アカウントなんだ?」
しかし些細な疑問はすぐに放棄した。
(ま、夢だもんね!)
遊香は気を取り直して、ドキドキしながら画面を見つめる。
「ガチャはワクワク感がたまんないよね~! さぁさぁ、良いの出るかな~?」
手始めにとUR確定ガチャのボタンをタップすると、
――突如、スマホが見たこともない程に光を放ち始めた。
「えっ、何?! 爆発するの?!」
光は見る間に勢いを増し、遊香の目の前を、召喚の間の全てを白で覆い尽くす。
そして光が極限に達した時……。
――シャラララーン♪
URのキャラを引いた時の効果音だ。
「ガ、ガチャの結果は……?」
恐る恐るスマホを見る遊香。
しかしガチャの結果は表示されておらず、最初の画面に戻っていただけだった。
違うのは、UR確定ガチャのバナーが無いことだけ。
「え、バグ? 私のURはどこ行っちゃったの?!」
「――ここに」
「……へ?」
遊香が視線を上げると、いつの間にか男が立っていた。
先程まで一人きりだった召喚の間に、いきなり現れたのだ。
銀の甲冑に、大ぶりの剣。
それらを着こなすのに似つかわしい、鍛えられた体。
いかにも騎士といった風の男は……かなりのイケメンだった。
「貴方がマスターですね。召喚の儀により馳せ参じましたイルデブランドと申します。どうか、私を一の騎士に任命ください」