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予言ノート アナザーストーリー(僕の妹・美樹シリーズ)

作者: 神野 守

僕の妹の美樹は研究熱心だ。まずは仮説を立て、いろいろなことを試してみては、その仮説が正しいことを証明しようとする。他の人が見ればいたずらのように見えるが、彼女にとっては大事な実験なのだ。


うちの家族も当然、彼女にとっては貴重な実験対象である。父は、真面目で頑固な昭和の人間である。そんな父をイライラさせる要素も検証済みだ。


第一は、巨人が負けること。巨人が勝つか負けるかで、父の機嫌は百八十度変わる。


第二に、ビールが冷えていないこと。父が帰ってきて、もし冷蔵庫にビールが入っていないと、とても機嫌が悪い。


この二つは欠かせない。


美樹が父に何か頼みごとをしたいときは、冷蔵庫にビールが入っていることをチェックし、巨人が勝ったあとに言うことにしている。さらには、父の大好物のホタルイカが用意されていれば間違いない。


美樹のおかげで、僕も随分助かっている。そんな可愛い妹の頼みは、兄としてはつい引き受けてしまう。

彼女の究極の研究は、《思いを具現化させること》である。思った通りに実現させることが、彼女の生涯のテーマなのだ。


そのためのアイテムが、まずは《予言ノート》である。《予言ノート》とは、自分の願う結果を実現させるために、その願い事を書き続けるノートのことだ。その記念すべきスタートは、恋敵の恋愛を邪魔することだった。


美樹もそこそこかわいいのだが、彼女にはライバルがいた。川口春奈似でお嬢様系の麗菜れいなだ。

快活で頭の良い美樹は、男女に限らず人気があるのだが、おとなしくて弱そうな麗菜は、自然に男を惹きつける何かがあった。その天性とも言える魔性さで、麗菜は、美樹が密かに恋していた同じクラスの藤田に告白したのだ。バレンタインに手作りチョコを作って。


美樹はその情報を知るや、禁断の《予言ノート》を発動させた。しかし、美樹の思惑は外れ、藤田は麗菜の告白を受け入れた。その様子を一緒に見ていた僕は、美樹のことを可哀想に思ったのだが、彼女にはまだ秘策があった。


第二のアイテム《呪いの人形》を発動させたのだ。そして見事、彼女は願いを成就したのである。

しかし、彼女はまだ満足していなかった。一回だけの成功は、偶然という可能性がある。偶然ではないことを証明するためには、もっともっとデータが必要なのだ。


そこで美樹は、再び《予言ノート》を使うことにした。この前は、「使っていいものなのかどうか」と悩んで相談に来たのだが、今回はもう吹っ切れたらしい。これも研究のためなのだ、と。


今度のターゲットは、学年トップの上杉だ。あいつがいるおかげで、美樹はいつも二位に甘んじている。

美樹は、タロットと鋭い霊感を駆使して、出そうな問題を絞って勉強する。僕もいつも頼りにさせてもらっているのだが……。ところが、美樹がどんなに頑張っても、上杉には勝ったことはない。


夏休み明けの実力テストに向けて、彼女は計画をスタートさせた。彼女は四十日間、《予言ノート》に書き続けた。


『上杉を抜いて私が学年トップになる』


夏休みの間、一生懸命に頑張っていたのを僕は知っている。なんとか願いが叶ってほしいと思った。

そして、夏休みが終わり、いよいよ運命の実力テストに臨んだ。今回は、かなり自信を持って臨んだ美樹だった。だが、相手は《ミスター・パーフェクト》の異名を持つ上杉だ。


さて、結果はどうだったのか? 気になっていた僕に、美樹は嬉しそうに教えてくれた。

「今回は私が学年トップよ!」


そうか、やったな! 僕は自分のことのように嬉しかった。

「じゃあ、上杉くんは二番だったのかい?」


僕がそう聞くと、彼女は首を横に振った。

「彼はテストを受けなかった」


えっ? 実は上杉は、夏休み開けの直前に入院していたのだ。どうやら《うつ》になったらしい。美樹は後ろ手に持っていた紙袋を差し出した。


その中には、なにやら見慣れたものが入っていた。それは、上杉の顔写真が貼られた《呪いの人形》だった。美樹は、夏休みの途中に《呪いの人形》を用意していた。


上杉の写真の頭には、無数の針の痕があった。今まで、上杉に何度も苦渋を飲まされてきた美樹は、より確実に目的を完遂させるために、第二のアイテムを使ったのだ。


その念は、よほど強いものだったのだろう。上杉は今も、登校拒否を続けている。

「やりすぎちゃったかな?」


舌を出して笑う美樹の言葉に、僕は何も言えなかった。もちろん、前回の藤田くんも、今回の上杉くんも、何も悪いことはしていない。ただ、《ターゲットになってしまった》だけなのだ。


そして、美樹にも悪気はない。ただの実験なのだから。僕は「彼女を怒らせてはいけない」と、自分に言い聞かせたのだった。

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