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不死の夫婦の迷宮探索  作者: 森野フクロー
第三章 一ツ星の夫婦
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第50話 たまねぎゴーレム

1ヶ月ぶりの更新です。

近況がやや落ち着きましたので、投稿を再開したいと思います。


これからもアレクセイとソフィーリアをどうかよろしくお願い致します。

≪爆発≫(エクスプロージョン)!! 」


 アレクセイが威勢良く前に出たのもつかの間である。

 高らかに叫ぶマユの声が聞こえたかと思うと、アレクセイの脇を巨大な火球が通り過ぎていった。


 火球はゴーレムの玉ねぎのような頭にぶち当たると、爆音を轟かせて大爆発を巻き起こした。熱風と衝撃波がアレクセイの鎧を叩く。


「おいおいマユ君!キミはソフィーリア君の話を聞いていなかったのかい!?」


 アレクセイの陰に隠れて爆風をやり過ごしながら、カインが叫ぶ。つい先ほどまで無鉄砲な振る舞いを妻から咎められていたばかりだというのに、これである。


 聖母の如き優しさの裏に烈火の激しさを宿しているソフィーリアを知っているアレクセイから見れば、なんとも大胆な振る舞いに思えた。


 一方のマユはといえば、やはり魔術か何かで防壁を張ることで爆風をやりすごしながら、大声で叫び返した。


「あんなのに剣やらスライムで敵うはずがないでしょ!?当然の選択よ!」


 確かに彼女の言う通り、ゴーレムという魔物は剣士にとって非常に相性の悪い相手である。硬質なために刃が通らないだけでなく、非生物のため痛みも苦しさも感じない敵というのは総じて強敵であるのだ。


 また先の戦いを見ても、カインのスライムでどうこうできる相手でもないだろう。


(もっとも並みの剣士であれば、だがな)


 巻き起こる土煙の向こうを睨みながらアレクセイは内心で一人ごちる。


 マユの爆発の魔術の威力はかなりのものであるから、堅牢を誇るゴーレムであってもそうそう耐えられるものではないだろう。


 ただしそれは、アレクセイのよく見知った"石製"のものに限った話だ。見た限りではあるが、あのゴーレムは総金属製であった。いかなる金属かは分からないが、只の鉄ということはあるまい。となれば……


「……やはりか」


「ウソッ!?」


 マユが驚嘆の声を上げる中、件のゴーレムが土煙の奥から姿を現した。火球が直撃した頭部の周辺はいくらか焦げ付いてはいたが、全体としてはほとんど無傷である。


 ゾンビやスケルトンたちを粉々に吹き飛ばした爆発を受けてなおこの具合ということは、その身体の硬さは相当なものだと察せられた。


 鋼の玉ねぎゴーレムが、瓦礫を踏み砕きながら近づいてくる。その淀みない足取りを見れば、マユの攻撃がほとんど効果を成していないことがわかった。


「ちょっと、これは逃げるしかないんじゃないかなぁ」


 カインが苦い顔で零した、そのときである。

 通路中に突如として轟音が響き渡った。アレクセイが、大盾を地面に打ち付けたのだ。


「諸君、案ずるな」


 アレクセイは堂々たる声でそう言ってのけた。そうして一行とゴーレムの間に立ちふさがる。カインのスライムもマユの魔術も通じぬとなれば、今度こそアレクセイの出番であろう。


「アンタ、本気でやる気!?あたしの炎も通らないような相手に、剣でどうこうできるわけないでしょ!?」


「さて、それはどうかな」


 アレクセイはそう言うが早いが、ゴーレム目掛けて一気に駆け出した。

 その巨体からは信じられないほどのスピードで、アレクセイは相手に肉薄する。


 玉ねぎゴーレムはそんなアレクセイを迎撃すべく、突撃槍に似た右腕を突き出した。鈍重そうな見た目とは裏腹に、非常に鋭い一撃である。


 しかしアレクセイはそれを僅かに身体をずらすことで避けてみせた。その際に左手の大盾を当てることで、相手の攻撃の軌道を反らしてさえいた。もっともその動きが見えたのは、この場ではソフィーリアのみであったのだが。


「おおおおおおおっ!!」


 裂帛の気合の声と共に、アレクセイは豪剣を切り上げた。ゴーレムはこれまた意外な素早さで左手の円盾で防ごうとしたが、アレクセイの振るう刃はいとも容易くそれを両断した。


「ウソでしょ!?」


 後方からマユの驚く声が聞こえる。そして相手がマユ同様に人であるならば、彼女と同じように多分に動揺したことだろう。


 しかしそこは意思なき鉄人形である。ゴーレムは、追撃をしようと再び剣を振りかぶったアレクセイに向けて、右手の槍を突き込んできた。


 アレクセイはこれを大きく飛びのいて躱すと、いったん後退して相手と距離を取る。そして手に持つ剣を見やって、先ほど相手を斬った感触を反芻した。


「ぬぅ……やはり硬いな」


「あんだけ派手にぶった切っておいて、よく言うわね」


 呆れたように言うマユの横で、カインが足元から何かを拾い上げた。それは、今しがたアレクセイが斬り飛ばしたゴーレムの盾の破片であった。


 カインは眼鏡を押し上げながら破片を眺め倒していたが、やがてマユと同じように呆れた声でこう言った。


「いやはや驚きだね。こいつはオリハルコンじゃないか」


「ほぅ。どうりで硬いわけだ」


 カインの見立てを聞いて、アレクセイは大いに納得した。


 オリハルコンとは、鋼鉄以上の堅牢さを誇る金属のことである。白銀(ミスリル)と並んで、武器や防具の素材として非常に人気のある素材だ。カインの反応を見るに、これらの金属が重宝されているのは今も昔も変わっていないようだ。


 しかしながらこの二つの金属には大きな違いがあった。

 両者ともに加工の難度は同程度だが、羽のように軽いと評判の白銀に比べて、オリハルコンは非常に重いのである。単純な強度で言えばオリハルコンに軍配が上がるのだが、人が装備する物に使おうとするならば、圧倒的に白銀の方が使いやすい。

 それでも重量が必要な斧や鈍器、体力がある戦士などにオリハルコンは採用されてきた。


 そして目の前のゴーレムは、そんな特級の金属でできているらしい。


 しかもカインの手の上の破片を見てみれば、それが非常に分厚いことが見て取れた。つまり目の前のゴーレムは、重量を気にすることなく存分にオリハルコンを使用して造られているのである。自然と、その防御力の高さが察せられた。


「いかに業物とはいえ、こうも硬いと剣によくないな」


 アレクセイほどの腕であっても、剣を折れず曲がらずに使い続けることは難しい。それは剣が剣であるが故の宿命だ。このマクロイフの剣も優れた獲物ではあるが、オリハルコン相手では厳しかろう。


「戦鎚でも持ってくるべきであったかな……」


「ちょっとアンタ!前!前!」


 アレクセイが今後の戦い方について思考を巡らせていると、後方からマユたちが注意の声を上げるのが聞こえた。巨漢の黒騎士が動かぬのを見て、ゴーレムが攻撃を仕掛けてきたのである。


 無論、アレクセイとて言われるまでもなくそのことに気づいている。アレクセイは素早く大盾をかざすと、どっしりと腰を落とし防御の構えを取った。


 ゴーレムが突き出した右腕の突撃槍が大盾にぶち当たる。攻撃の勢いとその重量を考えれば、その衝撃は凄まじいものである。現に地下墳墓の通路中に、尋常ではない轟音が響き渡る。


 しかし驚くべきことに、一連の衝撃によろめいたのはアレクセイではなくゴーレムの方であった。

 当のアレクセイはと言えば、盾を構えたその場所から微塵も動いてはいなかった。


「全くどうなってんのよアイツは……足の裏に根でも生えてるんじゃないでしょうね」


「いやぁ、今の攻撃は巨木をもへし折る一撃だったと思うけどねぇ……」


 背後からマユたちの驚くような、あるいは呆れるような声が聞こえる。そして彼女らがそんなことを話している間にも、ゴーレムの激しい攻撃は続いていた。


 オリハルコンのゴーレムは、その巨体と重量からは考えられぬ機敏さで連撃を繰り出していた。右腕を振るう早さは熟達した人間の戦士と変わらない。鉄人形(ゴーレム)という魔物がすべからく鈍重であることを考えれば、それは驚嘆すべき動きではある。


 しかしそんなゴーレムの猛攻も、アレクセイの防御を破ることは叶わなかった。いや、この黒騎士を動かすことさえできぬのだ。


「いかに戦士の姿かたちを真似ようとも、意思亡き人形に遅れは取らぬよ」


 アレクセイは小さくそう零すと、気合を込めて大盾を突き出した。

 身長差は二倍以上、重量差は十倍以上はあろうかという両者ながら、オリハルコンのゴーレムは大きく吹き飛ばされることになった。


「ふむ、その槍ではもう戦えんぞ?」


 アレクセイが指摘する。その言葉通り、突撃槍の如きゴーレムの右腕はぐにゃりと曲がってしまっていた。あれでは最早使い物にはなるまい。


「様子見はここまでとするか。そろそろここを通してもらおう……む?」


 尻もちをついた格好のゴーレムは、頭をもたげるとその瞳をこちらに向けてきた。そしてゴーレムの頭部、玉ねぎに似たその中心部にある目のようなものが赤く光っている。

 とその時、カインがそれまで出したことのないような大声で叫んだ。


「いけない!!みんな、物陰に隠れるんだ!」


 その声を受けてエルサたちは通路脇の石柱の陰へと飛び込んだ。それと同時にゴーレムの真っ赤な瞳から一条の光が放たれたのである。そしてアレクセイは大盾で防ぐのではなく、飛びのくことでこれを回避した。


 その瞳と同じ真っ赤な光は、アレクセイが立っていた場所を通り通路の奥まで伸びていった。そしてその軌跡には真っ黒な焼け跡が残っている。


「これは……」


「どうやら高温の熱線のようだね。あんな機能まで備えているとは、驚きだよ」


 柱の陰から頭を覗かせたカインがそう言った。


「ふむ……ということは、あれは炎のようなものなのだな?」


「ん、まぁ、そういうことになるかな」


「なるほどな。であればいけるか」


 それを聞いたアレクセイは億すことなく前へ出た。すると、エルサやソフィーリアと並んで物陰から頭を出していたマユが叫ぶ。


「ちょっとアンタ何考えてんのよ!いくらアンタの盾が凄くたって、あんな熱線まで防げるわけないでしょ!!」


「そうだな。あれが神竜の息吹(ブレス)に勝るというのであれば、な」


 この世で最も熱い炎は、オルドゥイン山の溶岩と神の眷属である神竜の息吹であると言われている。そしてアレクセイが持つ聖竜の大盾は、かつてその神竜の炎をも受け止めたことがあるのだ。並みの炎では傷すら傷つけることは叶わないだろう。


 アレクセイは通りのど真ん中に進み出ると、大盾を翳して大音声を張り上げた。


「さぁ、霊廟の守護者よ!先ほどの光を見せてみよ!私がその全てを受け止めてみせよう!!」


 その言葉を理解したわけではなかろうが、ゴーレムはその瞳を光らせると再び熱線を放ってきた。空を焼く光の筋が、漆黒の大盾にぶち当たる。鋼の盾ですら融解させるであろう熱線は、しかしアレクセイの盾に阻まれ光の粒子となって消えていった。


 それを見たゴーレムは、まるで驚いたかのように身じろぎすると、立て続けに熱線を乱射し始めた。

 アレクセイはその全てを盾で防ぎつつ、一歩ずつ前へと歩を進めていく。


「驚いたね、あの盾は。一体どんな素材でできているのやら……」


「非常識だわ……」


「ふふふ」


 カインらの驚嘆の声と、ソフィーリアのどこか得意げな笑い声を後ろに聞きながらアレクセイは眼前の敵に目線を合わせた。もう隠し玉はなさそうだ。となればここらで一気に決めてもよいだろう。

 アレクセイは闘気を高めると、それを手に持つ大盾へと集中させた。


「おおおおおおおおお!!」


 そうして裂帛の気合とともに大盾を大きく前へと突き出す。すると凝縮された闘気の塊が波動となって盾から放たれた。


 衝撃波は石畳をえぐりながら突き進むと、ゴーレムに真正面からぶつかった。そして驚嘆すべきことに、それは堅固なはずのゴーレムの身体を貫通したのである。


「身体の芯をくり抜かれれば、いかな鉄人形とて動けまい」


 オリハルコンのゴーレムに空いた巨大な風穴を見ながら、アレクセイが呟いた。

 その言葉通り、ゴーレムの胴体に巨大な長方形のかたちの大穴が開いてしまっていた。まさしくそれは、アレクセイの持つ聖竜の大盾の形である。


 そうしてアレクセイが言ったように、ゴーレムは瞳の光を失うと、轟音をたてて倒れ伏したのである。

 脅威が去ったのを見て、陰から出てきたカインが眼鏡を抑えながらぼやく。


「いやはや、まさか一ッ星で雇った冒険者がここまでとはね」


「ほーんと、こいつは駆け出しのレベルじゃないね」


 すると、そこに不意に被さる声があった。ソフィーリアでもエルサでもマユでもない、女の声である。

 アレクセイは声のした方へ、ゆっくりと向き直る。


「ふむ?貴殿が何故ここに?教官殿」


「なーに、ちょいと新人共の様子を見にね」


 そこにいたのは大剣を背にした女戦士、冒険者ギルドのスキル教官であるアネッサであった。



変な時間の投稿ですみません。

今後は夕方あたりを目安に投稿していきたいと思いますので。

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