いざ、新しい日々へ!①
燕さんとの話が終わり、俺達は改めて自己紹介をすることになった。
まずは俺から。ミワ坊の手で机の上に降ろされた俺は、黒縁メガネをクイッと持ち上げながら切り出す。
「俺は北王子直蔵。趣味・特技共にガレージキット製作! 好きな食べ物はカレーで、苦手なことは衣装作り。ミワ坊のドールの服作りを手伝おうとしたら、破滅的な形状の服が出来上がったんだよな」
「あれは酷かったよ。頭を出す穴すらない服だったもん」
ミワ坊が「ナハハハ」と笑う。梔子とマーガレットはおかしそうに笑い、ローズも吹き出しかけて慌てて口元を押さえて我慢している。
「でもさ、苦手なのは他にまだあるでしょ?」
ミワ坊に言われて俺が首を傾げると、奴はニンマリと悪役怪人のごとくに笑った。
「ぱんつ塗装……」
「わああああああああ!」
絶叫しながら俺は慌てて言い訳する。
「ち、違うんだ! ぱんつ塗ってるとよからぬ妄想が湧いてきちゃうからミワ坊に任せてるとか、なんだか女の子をいじめてるみたいでムラムラしてきちゃうからミワ坊に拝み倒して頼んでるとか、そんなんじゃ、断じてないから!」
どうして梔子はそんなに冷たい目線をしてるの? マーガレットも気持ち悪そうにこっちを見ているし、ローズまで可哀想な人を見る目で俺を見ているよ? というか、ミワ坊まで引いてるんですけど!
「なんでお前まで、そんな、友達でいたことを後悔してるみたいな顔をするんだよ!」
「いや、だって。そこまでとは思わなかったんだもん。ぱんつ塗るの照れちゃうなんて可愛い奴と、気楽に考えていた自分が浅はかだったよ……」
やめて! 本気で鳥肌立ってますみたいなジェスチャーは勘弁して!
「まあ、こんな変態は放っておいて」
ショックのあまり机の上に突っ伏す俺を無視して、椅子の上で居住まいを正した三和はローズ達に向き直る。
「わたしは河津屋三和。ナオと同じ高校一年生。趣味と特技も同じくフィギュア製作だけど、わたしはノーマルで真面目な作り手なので安心してね!」
可愛らしくウィンクしたミワ坊を俺は黒縁メガネの奥から睨んだ。
「ケッ。お前だって十分変態のくせに」
「え? なに? そこの君、何か言った? キミよりひどい変態が本当にどこかにいるなら教えてほしいんだけど」
「ふん……。何でもありませんよーだ! ミワ坊のバーカ!」
俺が不機嫌にむくると、三和がニヤニヤしながら人差し指で俺の頭を突っつく。
「なんだよ。やめろよ!」
「ぬふふふ。小っちゃいナオってば、可愛い~」
「いて、いててて! やめろって! ハゲるだろうが!」
髪の毛を引っ張られた俺は、慌ててミワ坊の指先を叩いた。うちの親父もじーちゃんもヤバいを通り越した頭髪状態だというのに、若いうちからストレスを頭に与えてくれるな!
「お二人は仲がよろしいのですね」
俺達二人を眺めていたローズがそう言って微笑んだ。
「えー、そんなでもないよ」
「別に普通だよな?」
俺とミワ坊がそろって首を傾げると、梔子が溜め息をついた。
「まったく。友達以上だか、恋人未満だか知らないけど、見てるだけで御馳走様って感じだね」
「ちょっとー! 違うよー」
「そんなんじゃないって!」
俺とミワ坊が必死に否定していると、マーガレットがあどけない顔に不思議そうな表情を浮かべた。
「ねえ梔子、ごちそうさまって、何かおいしいものがあったのだですか~? おやつならマギーも食べたいのだですー!」
「ふふん。男女間のあれこれには、おやつよりもっとおいしい関係があるのさ」
「おやつよりもー?」
目をキラキラさせるマーガレットに対し、梔子はニヤリと笑む。
「男と女の間には色々あるけどねえ、最終的にはまぐわって……」
「わ~! 梔子ってば、マーガレットみたいに小さな子に何を教えてるのー!」
三和が慌てて梔子を掴んでマーガレットの前から引き離す。そして、俺とローズは「おいしいお話、もっと聞きたいなのだですー!」と言って、手足を振り回して暴れるマーガレットをなだめる羽目になった。
「いいじゃないか。これも社会勉強みたいなもんさ」
ミワ坊の腕の中で、梔子は余裕の笑みを浮かべながら嘯く。俺はローズに同情的な視線を向けた。
「なんだか、みんな、すげー個性的なんだね……」
「ふふふ。燕先生が、漂っていた私達の魂から生きていた頃のイメージを汲み取ってキャラクター化したのが、今の私達なのです。個性的で素敵な自慢の仲間です」
ローズは優しく微笑んでいた。
「みんなは生きていた頃のこと、覚えているの?」
ミワ坊が尋ねると、ミワ坊の手の中の梔子は切れ長の瞳に少しだけ苦しげな色を浮かべた。
「あたしは結構覚えてるけど、褒められた人生じゃなかったね。悪いけど、あんまり話したくないや」
「そっか……。でも、別にそれでもいいよ。ね、ナオ?」
「もちろん!」
俺が頷くと、固かった梔子の顔が少し和らいだ。
「マギーはあんまり覚えてないのだです。でも、ママの顔は覚えてるのだです。とってもきれいなのだです~」
マーガレットはそう言って、チョコレートを食べたときみたいにとろけた笑顔を浮かべる。
「そっか。ローズは?」
「私は……実はまったく覚えていないのです。もしかしたら、とんでもない極悪人だったのかもしれません……」
双剣を構えていた時の覇気が嘘のように、ローズは自信のない顔になっていた。その手をマーガレットがぎゅっと握る。
「ローズはいい人なのだです~」
「ふふん。アンタが極悪人だったら、あたしは地獄の魔王になれるよ」
梔子は鼻で笑いながらそう言った。
「ありがとう、みんな……!」
ローズは青い瞳を輝かせながら微笑んだ。俺はほっと胸を撫で下ろしつつ、話題を変えることにした。
「えーと、聖乙女騎士団のリーダーはローズでいいんだよな?」
「はい!」
元気に返事をしたローズに、俺は頷く。
「俺達はこれから協力して、あの『鬼』達と戦っていくんだな! よろしく頼むぜ、リーダー! マーガレットと、梔子も、ミワ坊もな。気合い入れていくぞ。エイ、エイ、オー!」
『エイ、エイ、オー!』
皆の声が揃った後で、ミワ坊がぼそりと呟いた。
「ナオってば、気合いの入れ方が古くない?」
「いいんだよ、これで! この掛け声が一番気持ちが入るだろ!」