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戦乙女ドールズ、ただ今参上!  作者: フミヅキ
第五章 いざ、運命に決着を!
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いざ、運命に決着を!③

 空は薄暗くなって星の瞬きが肉眼でも見えるようになってきた。まだまだ暖かい日が続いているものの、九月の夕暮れの風は冷たい空気を纏い始めている。


 その場所は広大な病院敷地内の端にある、錆びたフェンスで区切られた場所だった。昔は子供用の広場だったのかもしれない。滑り台や、動物や乗り物を模した遊具が、塗装も剥げ、錆も浮いた状態で放置されている。


 その代わり、そこはコスモスの淡い桃色、白、赤に近い桃色で埋め尽くされていた。薄闇の中で可憐なコスモスが風に揺れていて、幻想的なその風景は夢の中に迷いこんだようだった。


「早弥子ちゃん!」


 フェンスの切れ目から侵入すると、やはりそこに早弥子ちゃんがいた。錆びてキィキィと寂しい音で鳴るブランコに、早弥子ちゃんがちょこんと腰掛けていたのだ。その周囲を不気味な暗闇――悪霊が取り巻いている。


「病院からいなくなったって聞いて心配したよ、早弥子ちゃん」

「肌寒くなってきたし、もう帰ろうよ」


 俺とミワ坊とで話しかけても、早弥子ちゃんは俯いたまま、ピクリとも動かなかった。パジャマに薄手のカーディガンを羽織っただけの格好で、二つに結われた髪が風に煽られ、ゆらゆらと不安げに揺れている。しばらくして早弥子ちゃんは低い声で言った。


「直蔵くんと三和ちゃん……? どうしてここに……?」

「探したんだよ! もう帰ろうよ!」

「わたしは……帰らない……」

「早弥子ちゃん……!」


 俺と三和は不安と困惑で顔を見合わせる。すぐに引っ張ってでも連れ帰りたいたところだったが、早弥子ちゃんを取り巻く闇の濃さが俺達を圧倒した。俺の斜め掛けバッグに潜むローズと梔子も顔を歪めている。


「この前、一度『鬼』を出したばかりですが……」

「もうこんなに悪霊達が集まっちまってる……!」


 警戒する俺達の前で早弥子ちゃんがゆらりと顔を上げた。


「わたしは、あの子に呼ばれてるの、きっと……。だから、放っておいて」


 早弥子ちゃんの纏う闇は、宵闇の景色よりも一段と暗く黒くなり、ざわざわと嫌なさざめきを奏で始める。


「直蔵くんと三和ちゃんにも、この黒いのが見えてるの? この黒いのはきっとあの子がわたしを呼んでるサインなの。きっと、さっさと死ねって言ってるの!」

「それは違うよ!」


 俺が言っても、早弥子ちゃんはブランコの上で大きく頭を横に振った。


「この前は怖くなって逃げちゃったけど、わたしなんか、あの怖い化け物に食われて死んじゃえばいいんだ。そしたら、あの子のそばに行けるもん!」


 早弥子ちゃんが痛々しい声で叫んだ瞬間、闇の密度が一気に高まった。


『グエエエエエエエエ!』


 鼓膜を引っ掛かれるような、嫌な響きの咆哮が炸裂した。早弥子ちゃんの闇から生まれた一匹の巨大な『鬼』がゆっくりと起き上がる。


「早弥子ちゃん! 逃げて!」


 ミワ坊の言葉にも、早弥子ちゃんは動かない。顔は恐怖に歪み、目には涙が滲んでいたが、黙って『鬼』を見据えている。


 そんな早弥子ちゃんをじっと見つめていた『鬼』は、金色の目がぐるりと回転して小さな点になる。同時に、バリバリと気味の悪い音を発しながら真っ赤な口が後頭部まで大きく裂け、夥しい数の鋭い牙が乱杭歯となって生え始めた。


「ローズ、梔子、戦闘を許可する!」


 俺の叫びと共に斜め掛けバッグから大きくジャンプした二人が巨大化していった。逆に縮んだ俺はミワ坊にキャッチされる。


「梔子、行きますよ!」


 ガバリと大口を開けて早弥子ちゃんを食おうとした『鬼』――今回は『牙鬼』と呼ぶことにしようか。その前に早弥子ちゃんを庇って立ち塞がったローズの双剣が、『牙鬼』の牙を受け止めた。

 ガキンと金属同士のぶつかり合うような音が響くと同時に、ローズの体がコスモスの咲き乱れる地面に沈み込んだ。


「なんて強い力……!」


 ローズは顔を歪め、四肢を震わせながら負荷に耐える。


「チッ!」


 梔子は舌打ちすると、まだブランコのそばに佇んでいた早弥子ちゃんを抱えて一旦離脱する。


「あ、あなた誰なの……! 離して! わたしは死なないといけないのに……!」

「バカを言うんじゃないよ!」


 梔子は三和の隣に早弥子ちゃんを立たせると、頬をはたいた。びっくりして目を見開いた早弥子ちゃんだが、キッと梔子を睨む。


「何も知らないくせに、わたしを勝手に助けないで!」

「知ってるよ!」


 梔子の切れ長の目が早弥子ちゃんをじっと見つめた。


「あんたのことは知ってるし、あたしの言葉であんたを傷つけちまったのもわかってるし、ここを二人で『秘密の花園』って呼んで一緒に遊んだことも覚えてる」

「え……!」


 早弥子ちゃんが再び目を見開いた。


「ごめんね、早弥子。あんな言葉を言っちまったこと、ずっと後悔してたんだ。ゴメンって、ずっと言いたかった」

「あ、あなた、もしかして……」

「あたしが守るよ。早弥子を」


 梔子は自身より大きな槍を構えなおすと、『牙鬼』に向かって躍り出た。

『牙鬼』は牙を剥き、ローズを食おうと彼女の双剣に全力をかけて圧し潰そうとしている。梔子はその背後、がら空きの背中に槍を突き刺した。


――ガキィン!


 薄闇の中に響く金属音。

 梔子の槍は、『牙鬼』の背中から生えたもう一つの顔、そこに生えそろった牙が噛り付いて止めていた。


「なんだ、コイツは!」


 梔子は舌打ちし、槍を引き抜こうとするが、『牙鬼』の顎の力が強すぎるのか、うまくいかない。一方の『牙鬼』の正面側では負荷に耐えることしかできないローズに、『牙鬼』の両腕が襲い掛かろうとしていた。


炎鬼閃(スカーレット・グロー)!」


 ローズの気合いのこもった叫びと共に、臙脂色に輝いた刀身から炎が吹き上った。


『グギャアアアアアアアア!』


 悲鳴と共に『牙鬼』の正面側頭部が堪らずのけ反った。


燦鬼散斬(ダンスマカブラ)!」


 その隙を見逃さずローズは目にもとまらぬ連続斬撃で『牙鬼』の腕を斬り結ぶ。『牙鬼』の両腕は細切れになり、それらは砂のように崩れて空間に散っていった。


「よし!」


 ローズの攻撃のおかげで力が緩んだのか、『牙鬼』背面側の梔子も後方頭部の口から槍を引き抜くことに成功した。


 だが。


『グギャアアアアアアアア!』


 絶叫した『牙鬼』の闇の濃度が増加した。巻き起こった突風に俺達は堪らず目を庇う。

 再び目を開いた時、目の前にいた『牙鬼』はその形を変えていた。


「な、なんだ……あの姿は!」


 体はさらに膨れ上がり、背の高い梔子の二倍くらいの背丈になっていたが、それだけではない。頭部が四つ、腕が八本生えている。それぞれの頭部の口に夥しい牙が生えているのはもちろん、八本の腕の先にも口が形成され、鋭い牙が並んでいる。

 すべての口が歯軋りし、ガチガチと俺達の神経を逆撫でた嫌な音をたてている。


「どうやって攻めるんだい、ローズ?」

「一本ずつ、一個ずつ確実に潰していきましょう」

「了解」


 正面側のローズと背面側の梔子が、阿吽の呼吸で同時に『牙鬼』に飛び掛かる。


燦鬼散斬(ダンスマカブラ)

「月華夢幻流壱の秘術、百花繚乱」


 その激突に、薄闇の中にコスモスの花弁が舞い散った。

 ローズの目にも止まらぬ超速連続斬撃と、何人にも分裂した梔子による同時攻撃が『牙鬼』を襲う。だが――。


「なに!」


 俺は思わず叫んだ。『牙鬼』の頭部と手の牙が二人の攻撃を全て弾き返したのだ。それどころか、頭部と腕の動きは二人の速さを上回っているように見えた。


「あの『鬼』、早すぎるよ!」


 ミワ坊も悲鳴のような声で叫ぶ。

 特にスピードのある『牙鬼』の腕が防御から攻撃に転じた。


「ローズ! 梔子!」

「クッ……!」

「チッ!」


 二人は苦闘の声を漏らしたが、『牙鬼』の攻撃を紙一重で交わしながら攻めの姿勢を止めなかった。華麗な舞のごとく、二人は『牙鬼』の攻撃を避けながら隙を見ての斬撃を繰り返す。


 と、分身した梔子の一人が、『牙鬼』の頭部の一つに槍を突き立てた。


「よし!」

「やった!」

「く……!」


 俺とミワ坊の歓喜の声と、梔子の苦痛の声が重なった。


 梔子の分身の一人が『牙鬼』の頭部の一つを潰した瞬間、『牙鬼』の腕がその脇腹に食らいついたのだ。梔子はすぐに槍の柄で腕を殴って引き剥がしたが、着物にじわじわと血の染みが広がっていった。しかも、傷のショックからか、他の分身が消えてしまう。


「梔子、大丈夫ですか!」

「あたしは大丈夫だ。ローズ、あんたはあんたの戦いに集中しな!」


 傷を負いながらも、敵背面の梔子は戦闘態勢を崩そうとしなかった。その様子を見て、正面側のローズは唇を噛みしめながら双剣を構え直す。


炎鬼閃(スカーレット・グロー)!」


『牙鬼』は双剣の炎を嫌ってか、ローズの体から頭部と腕を遠ざけた。


炎鬼閃(スカーレット・グロー)!」


 ローズは再度刀身を燃やし、逃げた腕を焼き斬った。追い打ちをかけるように、もう一発「炎鬼閃(スカーレット・グロー)」を繰り出す。さらにもう一回。ローズは「炎鬼閃(スカーレット・グロー)」を連発した。


 その姿に、俺は不安に駆られる。


「梔子から注意を逸らそうとしてるんだろうけど……ローズはあんなに技を出して大丈夫なのか?」

「わかんない……。でも、マーガレットは魔法弾の数に限度があったみたいだし、無理してるんじゃ……」


 三和も心配そうに戦いを見つめる。その傍らの早弥子ちゃんは戦いに圧倒されて目を見開くばかりだった。


 一方、『牙鬼』背面側の梔子は脇腹の怪我が影響しているのか、防戦一方になっていた。槍を振り回してなんとか『牙鬼』の攻撃を弾き返しているが、さっきまでの華麗な身のこなしは影を潜めている。


 ローズもまた次第に動きが重くなっていく。何度も「炎鬼閃(スカーレット・グロー)」を放った結果、『牙鬼』正面側のほとんどの腕と頭部を焼き消すことには成功したが、ローズの顔は疲労で歪み、肩で息をしている。双剣を構えるのも大変そうだ。


「大丈夫か、ローズ!」

「直蔵様、ご心配には及びません。おい、『鬼』め、貴様の敵はこちらだ! 来い!」


 ローズの挑発に乗ったのか、『牙鬼』の体がモゴモゴと蠢き始めた。気色の悪さにミワ坊が顔を歪ませる。


「いったい、なに……? あの『鬼』の手が……!」


 俺達は目を見開く。『牙鬼』の背面側にあった腕の一部が前面側に移動し始めたのだ。

 それらはローズに狙いを付けて攻撃を開始する。ローズは呼吸を整える間もなく、必死に双剣でそれを受け止めた。


 梔子が叫ぶ。


「ローズ、無理しないでおくれ!」

「それはこっちのセリフですよ、梔子!」


 互いに疲労の極致にあるだろう二人はそう言い合うと、なぜか同じような表情でフッと笑う。それが合図だったかのように、ローズも梔子も斬撃を再開した。

 戦士の性だろうか。だが、明らかに無理を押した戦い方に見えた。


 それから何度剣と槍が振るわれただろう。


炎鬼閃(スカーレット・グロー)!」


 双剣を振るったローズの様子がおかしかった。


「威力が足りてないぞ!」


 臙脂色に輝くはずの刀身が、やけに薄い桃色を示していた。しかも、炎が出てこない。


「く……!」


 嘲笑うように『牙鬼』の腕達が双剣に噛り付く。ローズはそれを振りほどこうともがくが、もはや体力の限界だ。『牙鬼』の他の腕二本がローズの頭や脇を目がけて食らいつく。


「ローズ!」


 俺と三和が叫んだ時、甘く馨しい匂いが広がった。


「だから無理をしないでおくれって言ったのさ。月華夢幻流弐の秘術、朝真暮偽!」


 梔子が吼えた瞬間、目の前の景色が一変した。

『牙鬼』の正面で『牙鬼』に頭と脇腹を噛みつかれたのは、ローズではなく梔子になっていた。そして、『牙鬼』の背面側には梔子ではなくローズがいる。


 噛みつかれた梔子の体からは次々と血が滴り落ち、事態を把握したローズが目を見開いた。


「梔子、なんてことを……!」

「ククク……。クソ鬼め。もっと喰いな!」


 梔子の挑発と血の臭いにつられたように、『牙鬼』の他の腕や頭も梔子の体に殺到する。


「う、嘘、だよね? 前みたいな騙し討ち……でしょ?」


 三和がうわごとのように呟いたが、梔子は『牙鬼』に食らいつくされるまま。グチャグチャと、耳を塞ぎたくなるような嫌な音は鳴りやまなかった。


「梔子!」

「たらふくお飲みよ、あたしの血を……」


 ニヤリと笑う梔子の口の端から、一筋、血が流れ落ちた。


「月華夢幻流惨の秘術、屍山血河」


 その瞬間、梔子に食らいついていた『牙鬼』の頭部と腕が、さらさらと砂になって崩れ落ちた。


「残念だったね……あたしの血は毒でできてるのさ……」


 続いて『牙鬼』の巨体が塵となって消えていく。


 いつの間にか梔子の姿もなく、宵闇に、さやさやとコスモスの揺れる音だけが響いていた。


「梔子!」


 ハッとしたローズが駆け寄り、コスモスの花が咲き乱れる大地から、フィギュアサイズに戻っていた梔子を拾い上げた。


「梔子!」


 俺と三和、そして、訳がわからないながらも早弥子ちゃんも駆け寄る。


 ローズの手の中に横たわる梔子は、着物も体も血塗れで、体中の傷はひしゃげて赤黒いものや骨が見えている状態だった。


「なんて無茶を……!」


 三和が渡したハンカチで、ローズが梔子の体を包み込む。


「あはは。ローズが無理するから……あたしもちょっとだけ頑張っちまったのさ」


 薄眼を開けた梔子はかなり苦しそうなのに、それでもニヤリと笑ってみせた。


「早弥子」


 梔子が早弥子ちゃんに視線を向け、ハンカチの隙間から手を伸ばした。早弥子ちゃんはびくりと肩を震わせる。


「早弥子、ごめんよ。あんなこと言わなきゃよかった。早弥子のこと、傷つけちまった……」

「やっぱり、あなたは……」

「そうだよ。あたしだよ」


 早弥子ちゃんの目から涙がこぼれた。


「わたし……ごめんなさい……」

「なんで早弥子が謝るのさ。あたしが悪いのに」


 梔子は苦い笑みを浮かべる。


「ねえ早弥子、あたしの手を取ってくれないかい?」


 早弥子ちゃんは指先で遠慮がちに梔子の小さな手に振れる。


「早弥子と一緒にいたのはすごく短い時間だったけどさ、一番の友達になれたと思ったんだ。それなのに、あたしはどうしてあんなこと言っちまったんだろう。早弥子、あたしの嘘を許しておくれ」


 早弥子ちゃんが恐る恐る問い掛ける。


「わたし、生きていてもいいの……?」

「当たり前じゃないか! 友達が死ぬのを望むバカがどこにいるんだよ!」


 半身を起こして激しく声をあげたせいで、梔子が咳き込んだ。


「梔子!」

「大丈夫だよ」


 梔子は口元の血を拭いながら、ローズの手の上に再び横たわる。


「ホントにごめんよ。早弥子を傷つけて、あたしはなんてバカだったんだろうね」


 涙を流しながら、早弥子ちゃんは首を横に振る。


「許してくれるのかい?」

「うん……当たり前だよ」

「じゃあ、早弥子はちゃんと病気を治して元気になりな」

「うん……」

「元気にならなかったら許さないからね」

「うん……!」


 早弥子ちゃんが大きく頷くのを見て、梔子はフッと表情を緩めた。


「ああ。思い出しちまった……」

「え……?」


 首を傾げる俺達に、梔子は困ったような顔で笑う。


「死者の世界に行く方法さ」

「あ……!」


 俺は目を見開く。

 梔子もマーガレットみたいに旅立つときが来たということか。成仏できない原因だった早弥子ちゃんとの確執を克服できたからだろうか。


「あの『鬼』どもとの戦いが中途半端なこんな時に戦線離脱しちまうなんて、申し訳ないけどさ……」

「気にしないでください。梔子の心に平穏が訪れたということです。よかった」


 ローズは優しく微笑んだ。それを見て、梔子は少し困ったように笑う。


「ハハハ。ローズはいい奴過ぎてちょっと心配だよ。ねえ、ローズ、あんまり抱え込みすぎるんじゃないよ」


 そう言った梔子は俺と三和を見る。


「直蔵も三和も、色々すまなかったね。ローズを頼むよ」


 梔子は、目に焼き付けるみたいに順々に俺達を見た。


「あんた達と過ごせて楽しかったよ。ありがとね」

「梔子……俺達も楽しかったよ!」

「うん。梔子、大好きだよ」


 梔子は紫色の目を細めて少しはにかんで笑うと、やがて目を閉じた。梔子の体を柔らかな優しい光が包み込み、それは宵闇の空に向かってゆっくりと昇っていく。


「梔子!」


 光は遠ざかってどんどん小さくなり、宵闇に浮かぶ星達の中に交ざると、やがて消えてしまった。目を元に戻すと、ローズの手に、製作した時のポーズで艶然と微笑む梔子のフィギュアだけが残っていた。


 早弥子ちゃんは泣き崩れ、三和は流れ落ちる涙を手の甲で拭い、ローズは涙の溜まった目でずっと空を見つめている。俺は三和の手の中で、目頭が熱くなるのを唇を噛んで耐えた。

 強い風が吹いて、一面のコスモスが別れを惜しむようにさわさわとさざめきながら揺れたていた。

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