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戦乙女ドールズ、ただ今参上!  作者: フミヅキ
第五章 いざ、運命に決着を!
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いざ、運命に決着を!②

「というわけでだな、作戦会議だ。まずは状況整理をしようぜ」


 放課後、俺の部屋に集まったミワ坊とローズと梔子を前に、俺は椅子に深く腰掛け、脚と腕を組みながら言った。すると、今日もローズ達の服を作っているミワ坊が、針仕事から顔を上げて吹き出した。


「ナオってば、カッコつけててウケる」

「いいだろ、ちょっとくらい! これでも俺は真面目にやってるんだよ!」

「失礼しました、隊長!」


 ミワ坊は笑顔で敬礼しつつ、俺に向き直る。


「えーと……とりあえず樹利亜ちゃんのところはもう大丈夫みたいだね」

「はい。ご母堂のお心も安定していらしたようですし、もう悪霊どもが集ってくることもないでしょう」

「マーガレットのおかげだねえ」


 ローズと梔子が嬉しそうに笑った。


「けどな、気になるのはお母さんが言ってた、悪霊を渡してきたっていう謎の男の話だよな」

「そうだね。花一高生だってことだけど、本当かなあ?」


 三和が不安げに眉尻を下げた顔で言った。俺は腕組みしながら重たい息を吐き出す。


「可能性は高いと思うぜ。なんたって、俺らが初めて『鬼』に遭遇したのも校舎内なわけだし」

「花一高の生徒が悪霊を配って回ってるってこと? それが本当なら大問題だけど……そんなことができるのかな?」


 頭を傾げたミワ坊の問いに、机の上のローズが一歩前に出た。


「燕先生は成仏できない霊体だった私達を回収する技術を持っています。その男も同じようなことができるのでは?」

「ソイツがやってるのは、燕センセの技の悪霊バージョンって感じなのかもしれないねえ」


 ローズと梔子は難しい顔で顔を見合わせた。俺と三和も同じような顔で頷き合う。


「それが誰かってのを割り出すのは難しいだろうな」

「そうだね。悪霊を背負っている生徒ってだけじゃ、証拠にならないし。相手に移している瞬間を押さえないとだよね?」

「手詰まり感がありますね」

「難しいねえ」


 俺達四人は「うーむ」と唸って言葉が続かなくなる。俺は黒縁メガネの位置をずらしつつ、テーマを変えることにした。


「なら、当面は犯人探しよりは、実害対策に力を入れるべきだな。早弥子ちゃんのフォローをしないと」

「そっか……そうだね」


 俺とミワ坊は話ながら、同時に梔子の様子を窺った。早弥子ちゃんの話題に対して梔子は一見するとポーカーフェイスを保っているように見えたが、切れ長の目から覗く紫色の瞳がゆらゆらと不安げに揺れているのがわかった。ローズも気づかわし気に梔子の顔を覗き込む。


「梔子、何か気になることがあるんですか?」

「別に……何もないよ」


 唇を噛んでそっぽを向いた梔子の腕に、ローズが柔らかく触れる。


「梔子、手が震えていますよ。やっぱり何か気になることがあるんじゃ……」


 梔子はバツが悪そうに、口をへの字に歪める。俺は思いきって切り出した。


「なあ、梔子。もしかしてさ、早弥子ちゃんと知り合いなんじゃないのか? 何か心配があるなら俺らに吐き出してくれよ。早弥子ちゃんの様子も明らかにおかしいし」

「そうだよ。本当に話すのが嫌なら無理にとは言わないよ。でも、わたし達で何か力になれることがあれば何でもするから」

「何を告白されても、私の梔子への信頼は揺らぎませんよ」


 俺たちの言葉に、梔子の頑なだった表情が少しだけ緩んだ。


「あたし……あたしは……早弥子と……」


 開きかけた梔子の声を遮るように、俺のスマートフォンが「ぷっぷー」とのん気な音でメッセージの着信を告げた。ミワ坊が眉間に皺を寄せて俺を睨む。


「も~! ナオってば空気読んでよ!」

「ス、スマン……」


 小さくなりながらスマートフォンを確認すると、幕原のサッカー部員・青井くんからのメッセージだった。


『北王子くん、たいへんだ! 早弥子ちゃんが病院から消えたって、おばさんから連絡が来た! どこに行ったか、心当たりはない?』


 俺の読み上げたメッセージを聞いて、全員が固まる。


「探しに行かないと……」


 最初に口を開いたのは梔子だった。


「あの子は幸せに生きないといけない子なんだよ! 探さないと!」


 梔子の言葉に急かされるように、俺と三和は慌てて家を転がり出て自転車に跨った。一路、花ヶ塚大附属病院に向かってペダルを漕ぎ出す。



 日はだいぶ傾いてきたが、まだまだ残暑がきつい季節だった。俺とミワ坊は汗を拭いながら必死に自転車を漕いだ。迂回路の多い乗り合いバスを待つよりは、自転車の方が多分早いのだ。


 自転車を漕ぎながらミワ坊が不安げに言う。


「もしさ、早弥子ちゃんが病院からバスでどっかに行っちゃったなら、今から病院に向かっても意味がなくなっちゃうんじゃないかな?」

「入院が不安な早弥子ちゃんがバスでどこかに行くとしたら、幕原の自分のうちか、友達の家を目指すんじゃないか? だったら、そっちはご家族とか青井くん達に任せればいいと思う。でも……」

「そっか。衝動的に歩いて出ちゃったなら、病院からそんなに遠くない場所にいるのかも……?」

「そう。そっちは土地勘のある俺達の方が協力できるだろうぜ」


 ちらりと斜めがけバッグを見ると、唇を噛んだ梔子と、彼女を見守るローズがいた。


「なあ、梔子。早弥子ちゃんが行きそうなところ、心当たりはないか?」


 眉間に皺を寄せてしばらく黙っていた梔子は、ずいぶん時間がたってから重苦しそうに口を開いた。


「……あるよ」

「どこだ?」


 梔子の切れ長の目から覗く紫色の瞳がキラリと光った。


「あたしと早弥子が『秘密の花園』って、呼んでた場所さ」



 病院へ向かう道すがら、梔子は早弥子ちゃんとの関係を話してくれた。


「死ぬ前のあたしは花ヶ塚大附属病院に入院してたんだよ。子供の頃からずっとさ」

「難しい病気だったの……?」


 三和の問いに、俺の斜めがけバッグの上に絶妙なバランスで立つ梔子はこくりと頷いた。


「学校も院内学級で、友達は入れ代わり立ち代わりだったねえ。元気になって外に出ていく子も、『そうじゃない』子もいた。あたしは自分が『そうじゃない』側の子供だってこと、漠然とだけどわかってたのさ」


 梔子の一括りにされた長い黒髪と、和風衣装の紫色の袖が、風に弄ばれてゆらゆらと舞っていた。


「あたしが十二歳になった時、早弥子が入院してきたんだ。同い年で、すぐに仲良くなった。たまに二人でこっそり病棟を抜け出して『秘密の花園』で遊んだりしたっけ」


 目を伏せながら、梔子はクスクスと笑った。


「たぶん、あの子は検査入院だったんだろうねえ。一か月くらいで退院するって聞いた。もう少し大きくなったら手術して、それで元気になれるだろうって。そしたらねえ、あたしは……」


 梔子は苦しそうにふうと息を吐いた。


「あたしは……あの子が憎らしくなっちまったのさ」


 俺が自転車を漕ぎながら梔子の顔を窺うと、自嘲の笑みを浮かべているのが見えた。


「あたしは死ぬのに、同い年のこの子は生きられる。こんな不公平なことってあるのかってね」

「梔子……」


 梔子の横に立つローズがそっと寄り添い、梔子の肩に腕を回して支えた。


「あたしは早弥子を避けるようになった。刺々しい態度をとったり、無視したりしてさ。こんなのよくないって頭ではわかってたけど、どうしても止められなかったんだ。そのうち、あたしは本格的に体が動かなくなっちまって、ベッドから起き上がることすらできなくなっちまった」


 梔子は傍らのローズの肩に頭を預けながら言葉を続ける。


「意識を失う前、病室に様子を見に来てくれた早弥子に、あたしは言ったんだ」


 梔子の紫色の瞳から涙が一筋こぼれ落ちた。


「あたしは早弥子を恨むって。あんただけ元気になってのうのうと生きるのなんて許せないって。お前も苦しめばいいのにって」


 俺も三和もローズも唇を噛んで黙った。風の音と自転車のチェーンの回る音だけが聞こえた。


「そのままさ。あたしはあっさり、おっ死んじまった」


 梔子は籠手をはめた手で乱暴に涙を拭う。


「後悔してるよ。死んでから後悔したさ。なんであんなこと言っちまったんだろうって。だから、あたしは死後の世界に行く方法を見失っちまったのさ。ずっと病院の周りをふらふらしてて、そんなあたしを燕センセが見つけてくれた」


 ローズが梔子の肩を抱き、赤ちゃんをあやすようにぽんぽんと優しく触れた。


「だから、あたしはあの子を助けたいんだ。お願いだよ、みんな。あたしに力を貸してくれないかい……?」


 絞り出すような梔子の声に、俺と三和、そしてローズは頷き合う。


「そんなの当たり前だろ!」

「梔子の悲しい気持ちも後悔する気持ちも、みんなで分け合おうよ」

「共に早弥子さんをお助けしましょう!」


 俺達のガッツボーズを見て、一瞬キョトンとした梔子は、すぐにくしゃりと顔を崩して笑った。


「ありがとね。みんなと出会えたあたしは幸せ者だねえ」


 小さい声だったが、瞼を伏せた梔子が呟くように言った言葉は俺達の耳と心にしっかりと響いたのだった。

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