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戦乙女ドールズ、ただ今参上!  作者: フミヅキ
第四章 いざ、戦いの日々へ!
12/25

いざ、戦いの日々へ!②

 あくる日も俺達は『鬼』に遭遇することがなかったので、俺とミワ坊は別ルートで帰宅した。と言っても、それぞれ必要なものを買い込んで、最終的に俺の家に集合したのだが。


 いつものごとく、棚に並ぶ美少女達をビデオに収めてブログ『花ヶ塚美少女名鑑』にアップした後には、それぞれの活動にとりかかった。


「何作ってるの?」


 しばらく経ってミワ坊が俺の手元を覗いてきた。


「ローズ達の住環境を整えようと思って」

「なるほどー」


 ホームセンターで買ってきたベニヤ板や厚紙を組み上げてドールハウス風の建物を作り上げるつもりだった。壁紙用に可愛らしい包装紙も百円ショップで入手してきた。


「ナオってば意外と女子力あるんだね」

「まあな!」


 ローズと梔子とマーガレットも、材料の固定や運搬を精力的に手伝ってくれた。マーガレットは包装紙にくるまって遊んでようにも見えるが、本人的には必死に俺を手伝っているつもりらしい。


「ナオ、こんなのも買ってきたんだ!」


 ミワ坊が感心して見ているのは、夏休みの自由研究商材の売れ残り、豆電球とプロペラを使った実験セットだった。これを整備すればさらにローズ達の生活環境は向上するだろう。でも、作業ペースを考えると、さすがに取り付け作業は明日以降になりそうだ。


 一方のミワ坊はというと、ローズ達の普段着を量産すべく、俺の母さんから借りてきたミシンに向かっていた。


 作業を始めて一時間、さすがに肩が凝り始めた頃、母さんがおやつを持ってきてくれた。ローズ達は慌てて作りかけのドールハウスに隠れる。


「お茶持って来たよ」

「おばさん、ありがとー」

「なんだか、今日はすごい作業をしてるんだね」

「えへへ。いつも騒いでごめんなさい」


 母さんが俺達の趣味やバイトをある程度許容してくれているのは、俺達が校区内一の進学校に入学したこと、その中で三十位圏内をキープすること、という条件をなんとかクリアしているからだ。

 俺達も遊んでばかりじゃない。作業の合間にはちょいちょい真面目に勉強しているのだ。


 母さんが部屋を出た後、ローズ達も混じっておやつタイムとなった。ドーナツを小さく千切って渡すと、特にマーガレットが大喜びでかぶりついていた。


 俺もドーナツを齧りつつ、スマートフォンを確認する。


「あ、青井くんからメッセージが来てる」

「青井くんって――幕原で会ったサッカー部の人?」

「そう。あの時、番号交換したんだよ」


 その青井くんからのメッセージを読んで、俺は神妙な顔になる。


「マネージャーの早弥子ちゃんが花ヶ塚大学付属病院に入院したんだってさ」

「え、あそこって、テレビにもよく出てくるとこだよね? 高度医療なんとかって。早弥子ちゃん、もしかして、あんまりよくない病気なのかなあ……?」

「かもな……」


 俺達は神妙な表情で顔を見合わせた。


「次の土曜日、青井くんたちがお見舞いに来るんだって。この辺には不案内みたいだし、俺達も一緒に案内がてら見舞いに行こうか」

「うん。そうだね」


 頷いたミワ坊がふと、横を向いた。俺もつられてそっちを向くと、梔子がじっと俺達を見つめていた。


「どうしたの、梔子?」

「いや……あのさ。早弥子ってどんな字を書くんだい?」

「えっと、確か、早いに弥生の上の字、子供の子だよ」


 三和の説明に梔子は目を見開き、慌てたように無表情になって「ふうん」と言った。


「知ってる人なのか?」

「いや、別に……」


 梔子は急に無口になった。


 やっぱり、知ってる人なんじゃないのか? だとしたら、どうして黙るのか。もしかして、梔子の元の魂が成仏できなかったことと関係があったり……? でも、そうだとすると聞き辛いな。


 俺が悶々としていると、三和が口火を切った。


「ねえ、梔子達も一緒について来てくれるよね、早弥子ちゃんのお見舞い」

「え? あたし達も行くのかい……?」

「だって、いつ『鬼』が出るかわからないしさ。カバンの中にいればいいから。ついてきてくれないかな?」


 ミワ坊は甘え声で頼みながら、梔子の戸惑い気味な顔を覗き込む。


「当然お供しますよ、三和様。いいですよね、梔子?」


 梔子の隣でローズがさらに一押しすると、梔子は溜め息をついた。


「……仕方ないねえ。行ってあげるよ」


 そう言った梔子は、緊張しているような、思い詰めているような複雑な表情をしていた。

 梔子と早弥子ちゃんと、いったいどういう関係があるのだろう。



 翌土曜日、花ヶ塚駅の改札口で、俺とミワ坊は青井くんと古田くんを迎えた。あまり大人数で病室に押し掛けるのもなんなので、サッカー部代表として二人で来たということだった。


「久しぶり! この前は本当にありがとな」

「いやいや。みんな、元気?」

「ああ。毎日練習がんばってるよ。今日はみんなの寄せ書きも持って来たんだ。早弥子ちゃん、喜んでくれるといいな」


 四人で病院行きのバスに乗り込む。その他にも、俺の斜め掛けバッグにはローズ・梔子・マーガレットの三人もスタンバイしているが。


 駅からバスに揺られること三十分。病院の広大な敷地内にあるバスロータリーに俺達は降り立った。


「なんだかすごい病院だな……」


 青井くん達は病院の規模に圧倒されていた。


 花ヶ塚大学は花ヶ塚市にある私立の総合大学だ。正直に言うとそれほど偏差値の良くない総合大学だが、医学部だけは別だった。私学の医学部の中でもかなりの人気で、附属病院は施設も最新鋭の設備が揃っているらしい。しかも、俺達が踏み入れたこの広大な敷地は、医学部と附属病院のためだけの土地なのだ。


「行こうぜ」

「ああ……」


 入院患者らしき人達が憩う木陰の涼しげな広場を抜けて、俺達は病院エントランスから早弥子ちゃんの病室を目指した。



 最近の病院は個人情報に気を使っているせいなのか、病室の前に名前を貼りつけたりしないようだ。恐る恐るノックすると、中から早弥子ちゃんの可愛らしい声で返事が聞こえた。


「はーい? 看護師さんですか?」

「早弥子ちゃん、おはよう! 俺達だよ!」

「今日はこの前手伝ってもらった北王子くんと河津屋さんと一緒にお見舞いに来たんだ。二人ともこの街に住んでてさ。ねえ、早弥子ちゃん、入っていい?」


 青井くんと古田くんが引き戸を開けながら笑顔で話しかけた。俺とミワ坊はその後ろからちょこっと顔を出して中を覗く。


 広くはないが、シンプルで清潔な個室の病室で、青井くんと古田くんの頭越しにパジャマ姿の早弥子ちゃんがちょっとだけ見えた。今日も麗しのツインテール姿のようだ。


 というか、パジャマにツインテールって、かなりレベル高いアレじゃないですかね?


 興奮してきた俺の足を、目を吊り上げたミワ坊が踏みつけてきた。絶妙に痛い。


 早弥子ちゃんはそんな俺達を見て、目を見開く。


「みんな……!」


 だが、それきり早弥子ちゃんは黙り込んでしまった。青井くんが戸惑いつつ、口を開く。


「あー、その。早弥子ちゃんさ、その……えっとー、しばらく会ってないけど、元気?」

「バカ!」


 慌てたように古田くんが青井くんの頭をはたく。


「入院してる人に『元気?』なんて聞くアホがいるか!」

「あ、そっか……! ごめんなさい、早弥子ちゃん!」


 手を合わせて頭を下げる青井くん。その隣で古田くんが溜め息をつく。


「もう本当、青井はアホだからどうしようもないよ。昨日なんて、校長のヅラ疑惑を解明するとか言って、迷彩服に迷彩メイクして校長室に忍び込んで怒られてやがるの、コイツ」

「アハハハ! いーじゃん。どうしても気になっちゃったからさー」

「まったく高校生にもなって、しょーがねえ奴。ハハハ」

「ハハハ!」


 明るい青井くんに合わせて古田くんと俺達も笑ってみたが、早弥子ちゃんはやはり何も言わない。俺達は病室に入ろうにも入れなくて、なんとも居心地の悪い空気が流れた。


「あー、その。なんか急に来ちゃってごめんね、早弥子ちゃん」


 青井くんは困ったように鼻の頭を掻きながら、降ろしたリュックの中をごそごそと漁る。


「あ、あのさ、早弥子ちゃん、俺達、これ渡したくて……」

「帰って!」


 青井くんが寄せ書きを取り出す前に、早弥子ちゃんが叫んだ。


「もう……もうみんなの顔は見たくないの! わたしのことなんか……わ、忘れてよ……!」

「早弥子ちゃん……?」


 怒鳴られた青井くんがショックを受けた顔をしている。


「どうかしましたか?」


 騒ぎを聞きつけたのか、ナースステーションから看護師さんがやってきた。


「あ、あの……お見舞いに来たんですけど、早弥子ちゃんが……」


 看護師さんはそれだけで事態を察したらしい。


「早弥子ちゃん、体に悪いから落ち着きましょうね。お友達のみんなは、悪いけど、今日は帰ってもらっていいかな? 早弥子ちゃん、興奮しちゃったみたいだから」


 看護師さんは優しい表情だったが、有無を言わせぬ迫力があって、俺達が病室を離れると、病室の扉をピシャリと閉められた。俺達はがっくりと肩を落としながら出口へと向かった。


 いったいどうしちゃったのだろうか、早弥子ちゃんは。


 俺はふと、肩掛けカバンの方に目をやった。カバンの縁から少しだけ顔を出した梔子が、苦しそうな顔で早弥子ちゃんの病室の扉を見つめている。話し掛けるのが躊躇われるほど思い詰めた顔をしていて、俺はその後も梔子にこのことを問い掛けることができなかった。

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