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戦乙女ドールズ、ただ今参上!  作者: フミヅキ
第四章 いざ、戦いの日々へ!
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いざ、戦いの日々へ!①

「はっ!」


 起きると、部屋はいつものサイズになっていた――というか、俺が元のサイズに戻っていた。小さなマーガレットが俺の首に貼りついてぐーすか眠っている。


「あれ? ローズと梔子は?」


 まさか踏み潰しちまったんじゃあ……?

 俺はマーガレットを起こさないように気を付けて横の小さな布団に寝かし、黒縁メガネを掛けてキョロキョロと辺りを伺った。


「おはようございます、直蔵様」

「おはよう、直蔵」


 既に戦士の服に着替えた小さなローズと梔子が、爽やかに微笑んでいた。


「よ、よかった……踏みつぶしてなかった。それにしても、夢みたいだな……」


 俺は改めて感嘆の気持ちで二人を見つめた。

 美しくて可愛らしいフィギュアが動き出して、俺に笑いかけてくれるだなんて。こんな素敵なことが現実に起こるとは、今でも信じられない。今までガレージキット製作に費やしてきた愛情が報われすぎて恐ろしい。


 だが、俺はハッとして慌てて室内のコレクション棚に向き直った。


「でも、俺はみんなに対する愛はずっと変わらないからな!」


 俺が居並ぶ美少女フィギュア達とドール達に向って力説していると、背後で溜め息が聞こえた。


「ロリコンにピグマリオン・コンプレックスの二重苦とは大変だねえ……」


 睨み返してみるが、梔子はただニヤニヤするばかりだった。


「だから、違うって言ってるだろ、梔子!」

「直蔵様、大丈夫です。それも個性の一つです。私は差別しません」

「ローズ……それってキミも俺を変態認定してるってこと?」


 そんなやりとりの後、俺は居間に下りて予想通り母ちゃんから「事前連絡もせずに!」「お友達の家に迷惑かけてないでしょうね!」「しかも、ミワ坊ちゃんを連絡係に使うなんて何様か!」の三連コンボで怒られつつ朝食をとり、風呂に入って制服に着替えた。


 自室に帰ってくると、マーガレットも起きて、すでに着替え終っていた。間もなく、制服姿のミワ坊もやってくる。


「わーい、みわさまなのだですー」


 マーガレットはちょこちょこ歩いていってミワ坊の脚に抱きついた。


「あのね、あのね、みわさま、聞いてほしいなのだです」

「なあに?」


 ミワ坊はしゃがんで、小さなマーガレットを顔を覗き込んだ。


「なおぞうさまが、マギーのパパになったのだです。パパって呼んでいいって! ねえ、パパ!」

「そうだな、マーガレット」


 マーガレットに笑顔でパパ、パパ言われると、どうも頬のあたりが緩んでデレデレした顔になってしまう。


「そうなんだー。よかったねえ、マーガレット」


 マーガレットにニッコリと微笑み返したミワ坊だったが、俺に詰め寄って来て怖い顔をした。


「ナオ、マーガレットにパパなんて呼ばせて――変なこと考えてないよね?」

「な、なんだよ、変なことって……?」

「『マーガレット、パパがおもちゃを買ってきてあげたよ』『やったあなのだですー。パパありがとう』『じゃあ、お礼をしてくれるかな?』『お礼?』『パパの×××を××なさい、マーガレット……』みたいな……」

「女子高生のくせに十八禁的思考回路やめろ!」


 ミワ坊は疑惑の表情を崩さない。


「ナオってば、本当はロリコンなんじゃあ……?」

「百二十パーセントありえん!」


 力強く言い切る俺の背後で不穏な溜息が聞こえた。


「そんな風に無罪を訴えて、実際は嘘つきの真っ黒だった奴が政治家なんかにもたくさんいたっけねえ……」

「梔子、やめろよ!」

「三和様、『英雄色を好む』と言いますから、ここはひとつ」

「ローズもフォローになってないって!」


 焦りまくる俺を眺めながら、ミワ坊は溜め息をついた。


「まあ、生まれついての性癖はどうしようもないよね」

「だから違うっつーの!」

「それより、みんな、これを見てよ!」


 必死で訴える俺を無視して、三和はにこにこ笑いながらカバンから何かを取り出した。


「じゃーん、昨日夜なべして作ってみました!」


 ミワ坊が取り出したのは、三着の可愛らしい部屋着だった。


「わあ、可愛いですね! それにサイズもぴったり!」

「わざわざ作ってくれたのかい?」

「マギー、早く着たいなのです!」


 女子三人は大喜びだ。

 ミワ坊は鼻の穴をおっぴろげて悦に入っているが、そういえばこいつは昨日三人の採寸をしていたっけ。


「なーんか、ナオってば、残念そうな顔してるねー」

「べ、別に、そんなわけじゃ……」

「そうだよねー。あの微妙にサイズの大きい服、セクシーだったもんねー」

「だから、違うって!」


 なんか、今日の三和、やけにギスギスしてないか? 夜中まで服を縫ってて寝不足なのかな。


「てかさ、家で作業なんかして……祐二くんに見つからなかったか?」

「うん、大丈夫。祐二兄さんは昨日から今日まで部屋に籠りっきりだったんだ」

「あんまり無理すんなよ。前だって、ドールをこっそり家に持ち帰ったのが祐二くんに見つかって、がんギレされてたじゃん」

「うん。あの時は庇ってくれて、ありがと、ナオ」


 少し照れたような顔で三和は言い、黒目がちのキラキラした目で俺を覗き込む。


「むぐ……」


 なんかさ。


 俺、コイツのこういう言葉とか顔とか、苦手というか、いや、苦手とか嫌いとかではなく、照れるというか、恥かしいというか、微妙に嬉しいというか……。

 どういうリアクションをしていいのか、わからなくなるのだ。


 俺は口をもごもごさせながら、「いやべつに」みたいなことしか言えなかった。梔子がニヤニヤして俺を見るけど、もう無視だ!


「あ、そろそろ出ないと!」


 俺は微妙に言い訳めいて言った。


「あ、本当だね。もうこんな時間だ」

「直蔵様、私達もお供します!」


 俺の斜め掛けバッグに入り込んだローズ達と共に、俺と三和は並んで部屋を出た。



 その日の帰り道、俺とミワ坊は川べりの自転車専用道路を並んでペダルを漕いでいた。土手を簡単に舗装しただけの細い道で、アスファルトの合間からはところどころ雑草が顔を覗かせている。夏休みが明けたばかりでまだまだ熱い太陽のせいで汗が首や背を伝うが、吹き抜ける風があるだけマシな通学ルートだった。


「あのさ、ナオ」


 軽快にペダルを回転させながら、ミワ坊が俺に声を掛けてきた。


「今度はわたしが小さくなるよ」

「小さくって?」

「もー。ローズ達が大きくなるのに、わたしかナオか、どっちかが小さくならないといけないでしょ」


 ミワ坊は不満げな顔で頬を膨らませた。その話かと合点しつつ、俺は首を横に振る。


「ミワ坊はダメだ」

「え、なんで?」

「半日近く元の大きさに戻れないかもしれないんだぞ」

「でも……」

「お前んとこの保護者になんて説明するよ。お前が無断で外泊します、なんて言ったら、おじさんもおばさんもショックで倒れちゃうだろ」

「う……。でもでも……ナオにだけ負担があるのなんて……」


 ミワ坊は言葉に詰まりつつも、口をへの字に曲げている。


「私も直蔵様の意見に賛成です」


 ローズが俺の肩掛けバッグから這い出てきた。


「特に三和様は年頃のお嬢様なのですから、お父様とお母様にご心配をかけてはいけませんよ」


 ローズの言葉に、三和が困ったような顔をした。


「三和様?」


 首を傾げたローズに、俺は片手で頭を掻きながら説明する。


「あー、その。隣のおばさんとおじさんは、コイツの……実の両親じゃないんだ」

「え……!」

「うん、そうなの。両親が亡くなって、わたしと祐二兄さんを叔父さんと叔母さんが引き取ってくれたんだ」


 三和は笑いながら言ったが、ローズはしゅんとして頭を下げる。


「知らないこととはいえ、失礼なことを……。申し訳ありませんでした、三和様」

「そんな恐縮しないで、全然大丈夫だよ! 叔父さんも叔母さんも本当に優しくて、わたし、本当のお父さんとお母さんみたいに思ってるし!」


 三和はハンドルから離した片手をひらひらと振った。


「三和様……!」


 優しさに感銘したような顔でローズがミワ坊を見つめる。俺達の間にしんみりとした空気が流れた。


 だが、突如、その空気をぶち破る絶叫があがる。


「ぎゃあああ! ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと停めとくれ! うわあああああ! やめな、マーガレット!」

「な、なんだあ?」


 どうやら梔子の悲鳴のようだ。

 俺とミワ坊は自転車を停止させた。斜め掛けカバンの中を見ると、俯いたマーガレットの背中を梔子が摩っていた。


「うう……」


 マーガレットが何かの袋に顔を突っ込みながら、えずいている。可哀想に、乗り物酔いをしたのだろう。


「って、マーガレット、それ、俺のペンケース!」

「すまないねえ、直蔵。急にマーガレットが気持ち悪いって、止める間もなく……」

「うううう。パパごめんなさいなのだです……うう、うわああああん! ごめんなさいぃぃぃ!」


 マーガレットはぽろぽろ涙を溢しながら俺を見上げていた。ローズは慌ててマーガレットの隣に移動し、梔子は憐れみの込もった目で俺を見る。


「ぐぐぐ……」


 俺は奥歯と下唇を噛みしめた。なぜならマーガレットのアレで汚されたのは、俺の大好きな某アイドルアニメのキャラが描かれたペンケースだったからだ。超お気に入りのグッズなのだ。


「ナオ……」


 ミワ坊が神妙な顔つきで、「諦めろ」というように首を横に振っている。

 そうだよな。諦めるしかないよな。


「ふ、ふふふふ……。マ、マーガレット……だ、だ、大丈夫だから……」

「パパ……?」


 不安げに揺れるマーガレットの緑の瞳。俺は覚悟を決めた。


「HAHAHA! そんなペンケースの一つや二つ、どうってことないさ。それより、ごめんな、マーガレット。パパがもう少し気を使って運転してればよかったんだ」


 そう言って、俺はまだ「ひっくひっく」としゃくりあげているマーガレットを摘まみ、制服のシャツの胸ポケットに入れた。


「ここなら風が当たるし、景色も見えるから酔いにくいかもしれないな」

「パパ……」

「マーガレット、今度気持ち悪くなったらすぐに言うんだぞ」

「パパ、ありがとなのだです。パパ大好き!」


 これでいいんだ……いいんだよな、これで。


 傍らを見ると、ミワ坊が涙目でサムズアップしている。こいつには俺の哀しみがわかるんだな。

 俺は三和に頷き返し、ペダルを再び漕ぎ始めた。巻き起こる爽やかな風と、マーガレットの明るい笑い声。


 ああ、夏風が目に沁みやがる。

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