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戦乙女ドールズ、ただ今参上!  作者: フミヅキ
第三章 いざ、新しい日々へ!
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いざ、新しい日々へ!③

 マーガレットが「みんなと一緒じゃないと眠れないのだです!」と泣きはらした結果、俺は一組の布団の中でローズ・マーガレット・梔子の三人と共に寝ることになってしまった。


 なんだよこの展開は……!


「それでは……おやすみなさいませ、直蔵様……」


 わずかに恥じらいの表情を浮かべたローズが、俺の右隣に体を滑り込ませる。


 俺、どうすればいいの……!


 ローズ達は半分はレジンキャストから作られているはずだが、近くにいると肌質やら体の暖かさやらは普通の人間と変わらないことがわかる。おまけになんだか、甘い良い匂いがして…… 俺、どうすればいいの……!


「う、うん……おやすみ……」


 なんとか返事をしたが、俺はというと、一人で寝るつもりだったからシャツとトランクスという無防備な格好。


 俺、どうすればいいの……!


「なんだい、アンタ、もしかしてローズに欲情しているのかい?」


 俺の左隣に寝転がった梔子が、俺の頬を突っつきながら、からかうような笑みを浮かべた。この人も、結い上げていた長い黒髪を下ろして、おまけに豊満な胸を強調するようなポーズで寝そべっているうえに、なんだかやけに色っぽい芳しい香りがする。


 俺、どうすればいいの……!


「な、なに言ってんだよ、梔子! この紳士の俺に限って、そんなわけないだろう!」

「ふうん? 本当かねえ?」


 梔子はニヤリと微笑むと、つつつと、指先で俺の頬から顎から首筋にかけてをなぞる。


 や、や、やめてくれええええ! これ以上、俺に刺激を与えないでぇ!


「梔子、やめなさい!」


 ああ、ローズ様の叱責。助かった!


 梔子は両手を上げるポーズをする。


「はいはい。まったく、ローズは真面目だねえ」

「私は人をからかう行為は好みません」


 ローズが少し不機嫌そうに顔を歪めると、梔子がニヤリと笑った。


「ふふふ。直蔵が三和を裏切るわけがないだろう? だから、あたしはこうやって直蔵をからかえるのさ」

「梔子……」

「あ、もしかして、ローズ的には直蔵が三和から離れる展開を望んでいるのかい?」


 梔子がからかうような笑みを浮かべながらそう言った瞬間、ローズはショックを受けたような顔で固まり、それからすぐに半泣きみたいな表情になってしまう。


「ち、違います! 絶対、そんなことないです!」


 ローズはいったいどうしたんだ?


 混乱しているようなローズの様子に梔子はら何か勘付くものがあったらしく、ふてぶてしい笑みを消して済まなそうな表情に変えた。


「悪かったよ、ローズ、アンタをからかったりして。あたしは生まれつき口が悪いし、一言多いからねえ。許しておくれ」


 梔子は半身を起こすと、長い腕を伸ばして、俺越しにローズの赤い髪を撫でた。


「私も取り乱してすみませんでした」


 ローズはおとなしく梔子の手を受け入れ、表情を和らげた。

 でも、そんなことされると俺の顔面に梔子の巨乳が大接近なのだが。どうすればいいのこれ。なんか恐ろしすぎて身動きすら取れないんだけど。


 なんなのこれ。どうなのこれ。


 緊張と興奮で、ローズ達がしゃべってる言葉が半分も頭に入ってこない。


 そんなカオスの極みにいた俺の腹部に、突然、会心の一撃が加えられた。


「ぐええ!」


 腹の中のものが全部戻るかと思った。

 その元凶たるマーガレットは、さっきの涙はどこへやら。掛け布団を剥ぎ取り、元気な笑顔を振りまきながら、俺の腹の上でピョンピョン飛び跳ねている。さっきまではおとなしく俺に抱き着いて眠っていたのに。


「マーガレット、勘弁してくれ!」

「わははははは、なのだですー!」


 楽しくて仕方ないという感じで、マーガレットは笑っていた。


「ちょいと、マーガレット!」

「大丈夫ですか、直蔵様!」


 梔子がマーガレットを抱き止め、ローズが心配そうに俺の顔を覗き込む。


「うん、お、俺は大丈夫……」


 実際はかなりグロッキーだけれども。


 一方のマーガレットは梔子の腕の中で暴れていた。


「いーやーだー! マギーはもっと遊ぶのだですー!」


 それこそ、サイズが合っていないとはいえ、ワンピースが半分脱げそうになるくらい暴れている。十歳前後の女の子といっても、これはまずかろうと俺は慌てて目線を逸らす。

 言っておくが、ロリコンじゃないぞ、俺は!


「あーそーぶーのーだーでーすー!」

「マーガレット、いい加減にしておくれ!」


 さすがの梔子も持て余し気味だったが、ローズが起き上がってマーガレットの耳に顔を近づけて言った。


「マーガレット、いい子にしないと、直蔵様が一緒に眠ってくれませんよ?」


 マーガレットは口をへの字に歪める。


「やだなのだです! 一緒に眠りたいなのだです!」

「だったら、おとなしくしなさい」

「うぅ」

「マーガレットはレディーなんですから、きちんとおとなしくできるでしょう?」

「れでぃー?」


 小首を傾げたマーガレットに、梔子がクスリと笑いながら言う。


「素敵な大人の女ってことだよ」


 その説明に、マーガレットは目を輝かせた。


「マギーは『れでぃー』なのだです!」

「だったら、きちんと寝ましょうね。いい子で寝れたら、きっと、直蔵様がいい子いい子してくれますよ」

「なおぞうさまが! 本当なのだですぅ?」


 マーガレットが指をくわえながら、俺の方をちらりと見る。その後ろでは、ローズが申し訳なさそうな苦笑を浮かべていた。


「ああ! もちろんだ!」

「やったあ、なのだですー!」


 ローズによって元通り俺の上に寝かされたマーガレットは、ぎゅうっと俺の首に抱きついてくる。


 むむむ。なんだか、お菓子みたいな甘い匂いがするぞ。


 おっかなびっくり、金色のおかっぱ頭を撫でてみると、マーガレットは子猫みたいに気持ちよさそうに目を細めた。


「ふふふ。くすぐったいなのだです。あったかいなのだですー」


 そう言って、すりすりと頬を寄せてくる。

 ローズと梔子は安心したように微笑み合い、俺の隣で横になりつつ、布団を掛け直してくれた。


「きっとマギーが生きていた頃にパパがいたらこんなかんじだったのだです」

「マーガレットはパパのこと覚えてないのか?」

「うーん? ママしかいなかったのかもー? よくわからないのだですー」


 そうか。だったら、そういうのはあんまり訊かない方がいいのかもな。

 しばらく黙ったまま、俺に抱きついていたマーガレットがふと俺を見上げた。


「なおぞうさま、パパって呼んでもいいのだですぅ?」


 クリクリした緑色の瞳が、甘えるように俺の目を覗き込んでいる。


「なおぞうさま、マギーのパパになるのはいやなのだですかー?」


 あどけない顔で俺を見つめるマーガレット。

 なんだろうこの心の奥から湧き出してくる暖かい気持ちは。愛おしさが次から次へと溢れてくる。守護してやりたい欲求。これが、父性愛ってやつなのか?


「いいぞ、俺がパパになってやる!」

「やったぁなのだですー!」


 マーガレットは俺に抱きつく腕にさらに力を込める。俺が柔らかな金色の髪を優しく撫でると、マーガレットはくすぐったそうに目を細めた。


 なんか、横の梔子がこっちを見ながら声を出さずに「ロリコン」の形に口を動かしているように見えるが、俺の気のせいに違いない。断じて、俺はロリのコンではない! 断じてだ!


 一方で、嬉しくなっちゃったらしいマーガレットが足をバタバタさせ始めるのを見て、隣のローズが苦笑する。


「マーガレット、レディーは足をバタバタなんてさせないんですよ」


 ローズがマーガレットの頬を優しく撫でながらそう言うと、マーガレットはぴたりと動きを止めた。


「はっ! そうだったのです。おやすみ、パパ。マギーはいい子にしてるですから、パパはマギーが寝るまでいいこいいこしないとダメなのだですよー」

「わかったよ」


 俺はお姫様に言われたとおりに、頭を撫で続ける。しばらくすると、マーガレットはやっと安らかな寝息をたて始めた。


「ふわ~。やっと寝てくれたかあ……」


 子供の相手って大変。世のお父様、お母様、本当にお疲れ様です。甘えられて悪い気はしないけれども。


「お疲れ様です、直蔵様」

「ふふん。ロリコンにはいいご褒美だろう?」

「く、梔子、貴様……!」

「しーっ! せっかく眠ったマーガレットが起きてしまいますよ!」

「おっと!」


 ローズに小声で注意されて、俺は慌てて口を手で押さえた。


「さあ、私達も眠りましょう」

「そうだな。おやすみ、ローズ、梔子」

「おやすみなさいませ」

「おやすみ」


 いつもより、やたらめったら広く見える俺の部屋で、小さな一つの布団で寄り添いながら俺達は眠りについた。



 深く眠っていたはずが、俺は誰かの声が聞こえた気がして目が覚めた。


「ローズ……?」


 声の主は俺の横で眠っているローズだった。瞼を閉じたまま、呻くような声を洩らしている。


「怖い……怖いよ……助けて……」


 悪い夢を見ているのだろうか。美しいローズの顔が、苦しそうな表情を浮かべている。


「ローズ?」


 俺が軽くローズの肩を揺すると、ハッとしたように目を覚ました。


「な、直蔵様……?」


 ローズはびっくりしたように、硬い表情を貼りつけたまま俺を見る。


「ローズ、うなされてたよ。大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です……」


 そう答えはしたものの、ローズはまだ微かに震えているように見えた。


「悪い夢でも見たのか?」

「はい……。ナイフを持った人が私にそれを突き立てて……」


 なんていう悪夢だ。


「そりゃあ、怖かったよな」

「でも、直蔵様が起こしてくださったから。直蔵様が隣にいるから平気です」


 暗闇の中で、ローズの青の瞳が揺れながら俺を見ていた。俺はなんだか照れてしまって、ローズから少し視線を外した。


「いや、俺は何にもしてないし……」

「いいえ。直蔵様は……直蔵様と三和様は、そこにいてくださるだけで、私の中で勇気や強い力が湧いてくるのです」


 そう言って、ローズはにこりと笑った。


「起こしてしまって、すみません。もう寝ましょう。おやすみなさいませ」

「ああ、うん。おやすみ」


 しばらくすると、ローズの方から規則正しい寝息が聞こえてくる。俺はそれを聞きながら、再び眠りに落ちた。

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