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今日からとなりのえるふさん  作者: 絹谷田貫
10/15

1-10


 大人になったからかどうかは置いておくにして、この年になって痛感した最大のことといえば「生きるのには金がかかる」という現実だろう。親の経済的な庇護から離れたその日から、人は眠る場所にすら金がかかるのだ。やんぬるかな。

 

 夜から朝まで雨風をしのぐのに金がかかる。着る物を買うには金がかかる。着るものを洗うのに金がかかる。飯を買わなくても飯を食う場所を確保するのに金がかかる。――独り暮らしをするまでは「自炊すれば節約できるもんだ」と無根拠に考えていたが、よっぽど考えてやりくりしないと成人男性一人の三食を自炊するとなると大して安上がりにもならなかった。現実は厳しい。


 そもそも「節約」というのは「定期的な収入からの出血を抑える」というだけのこと。生活するということ自体が、常に体力の消耗を強いられる絶望的な戦いなのだ。


 なにが言いたいかというと、今月の食料がピンチでヤバイということ。


 そしてえるふが土下座をしていた。


「申し開きはあるか……?」

「何一つ抗弁できんがこの倫理とか条例とかに著しく抵触しそうな絵面に免じてくれんか」

「ほんのりと脅迫してんじゃねぇぞ非実在青少年気取り!」


 事の起こりは先日のサークルメンバーとの一件。


 なんかわりとイイハナシダナーな空気になった結果、カラオケボックスでスイッチ片手にきゃっきゃやるのが楽しくて連日入り浸ったり、HGグレイズが本当に出来がいいキットだったので梅田ヨドバシで大人買いして部室でオレグレイズ大会が開催されたりと二週間ほど楽しくやっていたのだが、如何せん二人の生活圏は俺のそれと微妙に離れてしまっている。それにそもそも、この嶌村荘のある辺りには若者が遊べるような施設が少ない。


 電車で帰るににも田舎の私鉄の終電はやたらと早いので大学生が楽しく遊ぶには向かず、結局部室やネカフェに泊まることがほとんどだったので、半月ほど部屋には風呂だけ入りに帰るような状態だった。


 で、えるふが拗ねた。


 どうでもいいのでほっといたら、腹いせとばかりにメシをもりもり食っていたらしく、ふと確認すると米櫃が空だった。


「そしてお前はストレスからやるあてもねぇボードゲームやTRPGのルルブ買いまくって手持ちがない、と」

「ええじゃろが! 狂気山脈はともだちとあそぶゆかいなゲームなんじゃぞ!」

「おまえ友達いねぇから拗ねてたんだろが」


 そう、俺が部屋に帰ってこないし、意気揚々と引っ張り出したスイッチをよそで遊んでキャッキャしてるし、こいつが初めての祠で小型ガーディアンにローストされてるのをしり目にあっさり俺は始まりの台地を降りるしで、なんか寂しかったらしい。


 正直そういわれると悪い気はしないというか、むしろ悪いことしたような気にもなる。「じゃって寂しかったんじゃ! 儂おぬしがおらんとずーっとハイラルリンゴあつめるしかできなくなるんじゃぞ!? 変なジジイと二人っきりの台地で!」とか言われると、三人で集まって「盾ジャンプできねぇwww」「この動画みてみてナカッペ

wwwトロッコが空とんどるwww」「試してぇッス早くトロッコ探すッスwww」とかやってたのがちょっとだけ、ちょっとだけ申し訳なく思う。


「でも米は駄目だろ」

「いやまさかアレが九月までのストック全てとは……」

「景気よく三食食い散らかすお子様がさすがになんぼかは補充すんだろって目算もあったんだがな」

「……本国から送金すればちゃんと払えるんじゃよ? ほんと、儂それなりに蓄えがあるんじゃよ……?」


 とはいえ謎のエルフ国民的にはあんまりこっちにお金を流入させるべきではないってスタンスらしい。まぁ確かに、『全き者』ってのがどんな経済体系なんか知らんけどそんなチート種族が本気で金儲けしてジャブジャブ市場にぶっこんだら凄いことになりそうだ。良くないほうに。


 そしてそもそも、だ。


「その送金ってのができねぇっていうから今ピンチなんだろうが」

「じゃってゆうちょと提携してるATMじゃないと引き出せんし……!」


 かつ向こうの銀行(正確には銀行的なサムシング)に連絡して、振り込みの手続きをして、入金されて、と段階を踏んで最速でも火曜日の昼。

 ちなみに現在金曜日の午後七時。

 なんでそういうとこだけ無暗に不便なんだよ。


「俺の手持ちも心もとなし。バイト代が振り込まれるのは同じく火曜日……」

「なんで四日もあるのに全部使っちゃうんじゃ!」

「米と保存食が十分あるはずだったからだよ!」

「あー! わかった! わかったのじゃ! 責めよ! 儂を責めればよいではないか薄い本みたいにすればよかろうがー!」

「開き直ってんじゃねぇぞ駄耳ァアッ!」


 いつまでも土下座させててもらちが明かないので、とりあえずダンボールの切れ端に「わたしはごはんをたくさんたべちゃったはらぺこえるふです」と書いて首に下げさせるということで手打ちにした。場合によっては撮影してやる。


「さて、現実的な話しようか。どうするよ、これから四日」

「冷蔵庫の中身は味噌と乾燥ワカメとしなびたキュウリしかない! 儂が断言する!」

「そりゃお前が食いつくしたんだもんな……」


 そのほかの調味料は塩砂糖醤油にウェイパー少々。粉末だしの素。あとは小麦粉(およそ200グラムほど)といつ何のために買ったのかわからん棒寒天が一本。麦茶のパック。


 詰んでね?


「出汁で小麦粉といて焼いて一食……。キュウリにウェイパーつけて一食……。乾燥ワカメ戻して醤油つけて一食……」

「貧相すぎるのじゃ。もうちょっと何とかならんのか」

「秒で責任意識失ってやがるな?」

「できないことはできんもーん。こんな悲惨極まるやりくりなんてしたことないもーん」


 クッソ腹立つ。


「まぁ、なんじゃ? こういうときに? 頼りになるのがあるじゃろ? うん? 背に腹は代えられんもんな? 確かに事の発端は儂じゃが事ここに至っておぬしは誰の何に頼るべきなのか考えるべきなのではないのかのー?」


 なるほど。


 ナイショ道具にたよれ、と。


 クッソ腹立つ!


「……そうだな、お前に頼るしかないのかもな」

「そーじゃ! さぁ! 今すぐ「えるふ様ほったらかしてすいませんでしたこの下等種族をどうかお助けください」と三回回りながらッ……!」

「……駅前のGEOって八時までやってたよな……?」

「ッ!?」


 スイッチって多分相当いい値段で売れるよね?


「嫌じゃー! いーやーじゃー! やーめーてーなぁーのじゃーぁあアアアン゛! いい子にするがら゛ぁああああアアアアア! もうわ゛る゛い゛こ゛と゛し゛な゛い゛がら゛ぁあビャァァァァン゛!」

「離せっ! 送金されたらまた買えばいいだろ!」

「お゛に゛ぃ゛! あ゛く゛ま゛ぁ゛ッ!」

「どうとでも言え!」

「ロ゛リ゛コ゛ン゛ッ゛!」

「人聞きの悪いこと言うなっ! 」


 そして何度も言うが俺は年上好きだッ!


 足にすがりついてびゃーびゃー泣くえるふをいっそ蹴っ飛ばしてやろうかどうか悩みながら四畳半でスイッチを取り合う。


「お前が悪いんだからお前が責任とれやッ! てめぇ出来の悪いラノベのヒロインじゃあるまいしキョトンとしてたら許してもらえると思ってんじゃねぇぞ!」

「可愛いんじゃから許せッ! ヒロインは暴力をふるおうが何しようが許されるんじゃッ!」

「お前はヒロインじゃなくて今んとこラスボスだよ俺の生活環境のッ!」


 すったもんだ。あーだこーだ。にっちもさっちもどったんばったん大騒ぎ。


 えるふが俺の脛に噛みつき「イッてぇぁッ!?」びっくりした俺が頭を蹴飛ばし「みゃぁんッ!?」いよいよ手ぇ出しやがったコイツ! と俺がヒートアップし「糞ガキテメェオッラァン!?」えるふが苦言を呈し「すね毛が! すね毛が口んなかにっ!」下の階から怒りのドンが響き「「すいませんッ!」」


 わりと小学生ぶりくらいの派手な取っ組み合いをしてたら、そのまま押し入れに頭から突っ込んだ。ふすまが外れ荷物が崩れてあーあーもう収集つかねぇよこれ! 戦争だよ!


「こうなったらとことんやってやらぁ! 表出ろ俺ぁ女子供だろうと」

「タイムッ!」


 アッ、ハイ。


「下の階の人が乗り込んでくる前に、一つおぬしに告げたいことがある」

「……いってみろ」

「今押し入れから出てきたそれ、食い物ではないのか?」


 あぁん?


「ほんとだ」

「儂が言うのもなんじゃけどお主のクールダウンが早くて不安になる」

「お前をボコすより目の前の飯のほうが重要なんだよ。死んじゃうから」

「いやもうお主情緒不安定というべきでは……」


 金もないのに飯がないと誰でも不安定になるわ。


 さておき、出てきた食いらしきものを物色。よっぽどスイッチ売るぞ攻撃が効いたのか、えるふもいつものように文句を垂れずに黙々と見聞を始める。


 とはいえそもそも押し入れの中に入ってたという時点でお察し。


「これなんかあれだ、なんかの拍子に貰ったか実家からパクってきたかした菓子類だ……」

「固形感が目減りしとるゼリー……、湿気てる上に色が変わっとるせんべい……、ひよ子のパクリっぽい謎銘菓withカビ……」

「駄目だこれ食いもんじゃなくてゴミだ……」

「全体的にお歳暮感あるラインナップじゃのう……。もったいなさが否応に増すのう……」


 農家さんごめんなさい。


 なんか引っ越しの時に実家の台所から適当にかっぱらったような気がするようなしないような、そんな時系列を生きた(元)お菓子。背に腹は代えられないとはいえさすがにこれは食う気にならない。というか食い物のカテゴリに入らない。


 いや、しかし、いかに俺がズボラといえども、食い物を(それも生菓子を)そのまま押し入れに突っ込むほど生活無能力者ではなかったはずだ。なんでこれこんなことに……?


「そもそもうち、爺ちゃん死んでからお歳暮なんてとんと貰った覚えねぇけど……」

「おぉ! ホレ! ええもんあったぞ! これはまだ食えるんでないのか!」

「あん?」

「栗饅頭ぅ!」


 いぇーいと言わんばかりに平箱の栗饅頭を頭上に掲げるえるふ。あー、あれ、なんだっけ、なんか、確か向井がなんか友達の旅行のお土産とかで貰ってきた奴じゃなかったっけ。


 んで、脇坂が「俺ちゃん芋栗南京苦手やねん」とか言い出して、向井は向井で「やー、アレッス、正直こういう炭水化物系の菓子はどーも食べるに罪悪感が……」だのとのたまい、結局俺が持って帰ることになった奴。あいつら要らないモノはとりあえず俺に押し付けようとすんだよな。くら寿司のガシャガシャの景品とか。


「でもそれ俺が割と食ってるぞ。開けたら多分二、三個しかねぇ。」

「おおーん? お主、ピンとこんか? 食べ物、少ない、栗饅頭。このキーワードでピンとこんのかの?」

「え、おい、まさか」

「栗饅頭と言ったら不思議な薬で増やさねばなるまい! てってけてっててーててー、『クラムフエール液』ぃー!」

「オイ馬鹿やめろ!」


 知ってる! それ知ってる!

 宇宙の果てで今でも増え続けてるやつだ!


「なんでそんな『うわーんもう〇〇はこりごりだよー』系でメジャー中のメジャーなあれをそのまま持ってきたんだテメェ! 原作コミックにさして詳しくねぇパンピーでも何となく知ってるレベルのあれだろそれ!」

「あの最後にしゅんしゅんしゅーんって円が迫ってくる演出なんて名前なんかのう?」

「どうでもいいわ! はいどうせ同じオチになるんだろ! お前が『ケチ臭い増え方するのう。もっとドバーっと増やそう。そぅれ』とか言って収集つかなくなるんだろ! 没収!」

「ええい話を最後まで聞かんか! いかに儂がドジっ子おちゃめエルフキャラで売っておるからと言ってそこまで露骨なアーパームーブはせんわい!」


 いやお前の場合キャラ付けとかじゃなくて素。


「まずこれはオリジナルのというかえーっとその所謂ゲフゲフンとは違って倍々で増えるわけではない。この『フエル液』を掛けたものが三分で一つ増える。それだけじゃ。『液をかける前の状態』の物が一つ増えるだけじゃから増えたものに『増殖する』という性質はない」

「ふむ。それだけで確かに原さンンッ、あのなんというかアレよりいくらか制御可能って感じだな」


 青いキャップの目薬チックな容器に入った謎液を見ながら思う。

 なんというかこうコズミックな大きさの数になる恐怖はなさそう。


「でも俺昔から気になってたんだけど、食ったら増殖が止まるのってどうなんだろうな。むしろ食った人間が液に汚染されて増えたりしそう。百歩譲って腹の中で増えてパァン」

「うむ。もちろんこれにもそういった危険がある。『液をかける前の状態』の物を延々生み出し続ける性質は食っても消えん」

「駄目じゃねぇか」

「そこでこの『クラム液』じゃ」


 と、先ほどの容器の色違い。赤いキャップの目薬的ナニカを差し出すえるふ。


「こいつをかけた後食うと増殖が止まる」

「食うの限定……?」

「食うの限定」


 食い物以外にかけちゃったときとかどうすんだ。


「まぁぶっちゃけエルフ界のジョークグッズじゃし……」

「でたよお前ら特有の邪悪な冗談の産物」

「じゃけどこの状況なら役に立つことこの上ないじゃろ! しかもなんと! この『クラム液』はかけた物をあの指輪な物語で言うところの『クラム』に変える効果まであるんじゃ!」

「なんだっけそれ」

「一つ食べたら三日間腹持ちする魔法のお菓子じゃ」

「あー」


 なんか聞いたことある。有名だよね。


「あれ、でもそのお菓子そんな名前だったけ……?」

「さぁて、効果に納得したところで実践じゃ! テンガン!」

「メガゥルオゥド!」


 なんかひっかかってたけど思わずノリノリで促してしまった。

 おのれえるふ。なぜ俺がスペクターよりネクロム派なのを知っている。


「それでもやっぱり一号ポジの最初のフォームが一番好きなんだけどねって」

「放送前や放送中はやいのやいのと言いつつ結局一年たったら慣れてしもうてのぅ……。毎年ロスが辛いわい」

「わかる」


 何はともあれがっしり握手。


「こういうところで無暗に気があっちゃうと憎めねぇんだよなぁ……」

「多分嗜好の鋳型のところがそっくりなんじゃろうなぁ。ほれ、増えたぞ」

「……ん?」


 ……うん。確かに、一つ増えてる。

 増えてるけどいつ増えたのかわからなかった。

 なんか、もっとこう、にゅいーんって膨らんで分裂するのをイメージしてたんだが。


「なんというかこう、因果をさかのぼって『元から二個あったことにする』とかそういう感じじゃからソリッドに分裂するところを見ることはできん」

「わりと始末に困る宝具の理屈じゃねぇか」

「型月世界の因果線とかもうぐっちゃぐっちゃなんじゃろうなぁ。これで分かったと思うが三分で一つってわりと長いでの、この増えたほうにもフエル液をテンガン!」

「二回は言わねぇよ?」

「これ以上大声出したら下の人に怒られそうじゃしのう。で、この液を掛けたほうを見分けるように爪楊枝差してー、それ以外のプレーン栗饅頭はややこしいから食ってしまおう」


 うむ。増える理屈もなぜ増えるのかも全然わかんないけどとりあえず嵩が増えるならそれでよし。


「お茶入れよう。湯飲み」

「儂のやつ流しにふさいである」

「この洗った後の食器ひっくり返すの『ふさぐ』って言わないらしいぞ他所だと」


 むしろなぜ謎王国のエルフが知っているのか。

 いや、特撮に耽溺してたりなぜかスイッチ購入出来てたり(定価で買ったらしい)と下手な日本人より日本になじんでるえるふのことだから今更気にすることでもないかもしれんが。

 こいつのバックボーンって前回わかったようであんまりわかってねぇんだよな。


「しかしなんなんかのー、この栗饅頭の妙にずっしりした感じ。餡子のタフさと栗感の相乗効果?」

「モンブランとかも同じサイズのケーキよりずっと食いであるよな」

「密度かのー、密度の問題かのー。でも糖分と炭水化物ぎゅってなってる感じは悪くないのではないか?」

「いかんせん「あーこれだけ食ってたらニキビとかできて風邪ひくんだろーなー」って予感がなぁ」

「クラムは腹持ちするし栄養素も万全なんじゃよ? ぶっちゃけこれさえ食ってりゃ生きていけるわいってレベル」


 もっきゅもきゅ栗饅頭食いながら聞き流す。へー。便利。やっぱ魔法ってのはそんなもんなんかね。

 割と安普請なので夜になると急に冷え込むのがこの部屋。あっついお茶に和菓子は無暗に脳みそを回転を遅らせる。そっかぁ、三日分、三日分の栄養と腹持ち。じゃあ金入るまで問題ないよなぁ。


「あれ、じゃあなんでわざわざ増やす必要があんだ?」

「……お茶、おいしいのう」


 またなんかあんのか!


 わかってたけどね。


「お前の道具は絶対後でろくなことにならない。絶対に、絶対にだ。俺はもうわかってるんだ」

「それでも食っちゃう辺り困窮って嫌じゃの」

「原因についてもう一度考える時間をやるからもっぺん言ってみろ」

「かわいいエルフっ娘をほったらかして外で遊びまわるとかお主は頭がおかしいじゃろ。じゃからこんなことになるんじゃ?」

「あ、そうだったね。お前って基本スタンスそうだったわ」


 むしろ安心したわー。


「じゃあ俺の部屋が栗饅頭で埋まったり俺の腹を栗饅頭の幼生が突き破ったりその他俺が酷い目にあう前にこれもう止めようか」

「安全策にすぐ走るからお主はいつまでもパッとせんのじゃ?」

「お前別に許したわけじゃねぇの忘れんなよ」


 で。


 爪楊枝差さった栗饅頭にかかる謎液(二番)


「……」

「…………」

「…………食えよ」

「いや、ほら、お主育ち盛りじゃろ? 遠慮せんでええから食え食え」

「ビジュアルローティーンよりかは育つ余地ねぇよ」

「儂は永久の美少女じゃから、気にせんでええから」

「じゃあそれ以上育たねぇの?」

「ええじゃろ、未発達はステータスじゃ」


 頷きかねる。やっぱりこう、ねぇ?


「まぁお前の体つきとかどうでもいい。食え」

「……」

「おい」

「嫌じゃー!」


 突如荒ぶる鷹のポーズで飛び上がるえるふ! やっぱりテメェろくなことにならねぇんだろ!


「オッケーグーグル! 指輪物語、クラム!」

「ああ、やめよ! せめて儂に説明させよ!」


――外見は同様の保存食であるレンバスと似ているが、レンバスと違い美味ではなく、せいぜい噛む運動になるくらいである。名前の由来は「空腹を満たすために仕方なく食べるもの」の意――


 なるほど。


「オレ、オマエ、オコル!」

「言ったもーん儂ジョークグッズって言ったもーん! 言っとくけどその文章のニュアンスよりド派手にまずくなっとるから! 主な使い道は目印なしに増やしてからのロシアンクラムじゃ!」

「最初から分かってたけどコイツマジで徹頭徹尾反省する気も補填する気もねぇえええ! 明日GEOいってうっぱらってやる! 円盤も全部だ!」

「もしそれが本気なら儂はお主を」

「どうすんだ? あ? どうすんだ!?」

「ケアする」

「時事ネタァっ!」


ドン!


「「すいませんッ!」」


 生きるのには金がかかる。えるふはいかにも不思議の住人だがそれに違いはなく、そして向こうの国でも変わらないらしい。そこがどんな場所なのか全うならぬ俺にはとんと見当はつかないが、少なくとも、自分の食い扶持を面倒見れない大人未満な俺には縁の遠い話なんだろう。


「「せーの」」

「ヴンッ……!?」

「ォオッ、ォオオロォロングッ……」

「頼むから吐くのだけはやめてくれよほんとなぁ止めて」


 この尋常ない味を二度と味わう必要がないようになったら、胸を張って大人といえるかもしれない。

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