王道主人公の主張
相談があると聞いて来てみれば、これか、とオーレリアは周囲に気づかれないよう息をつく。
これでも侯爵家令嬢だ、一片たりとも隙を見せてはならない。
何が悪かったのだろう、とこれまでのことを思い出すl
総てだ、総てが悪かった。
ファレリア・オーギュスト男爵令嬢が、この学園に入学してきたときから総て壊れてしまったのだと、忌々しい気持ちをなんとか抑えこむ。
彼女自身に非はない。
そうーー彼女自身が、悪気を持っていないことだけは、確かなことなのだ。
ただ、それに伴って、なぜ自分の婚約者である、第二王子がとち狂ってしまったのかが問題なのだ。
彼女の持つ素朴さや素直さが新鮮だったかもしれない。
自分たち上級貴族は、本心を決して見せてはいけないーー弱みをさらけ出すのは、決して許されることではないからだ。
婚約者といっても、互いの親の企みや考えがあってのことだったが、婚約者と決まってから、オーレリアは第二王子に尽くしてきたつもりだ。
人前では「殿下」と呼び、出しゃばる真似はせず、だからといって総てを「はい」と受け入れることはせずに、王太子に付き従うようさりげなくフォローしてきた。
それが、殿下にとっては「人形じみている」ようであって、「薄気味悪い」行為であったらしい。
しかし、だ。
そう躾けられてきたのだから仕方がない。
別にファレリア・オーギュスト男爵令嬢が殿下の心を奪ってしまったとしても、かまわなかった。
側室として迎え入れればいいだけだろうし、それこそ、殿下の癒やしになってくれれば、と思っていた。
とてもじゃないが、自分にはできないだろうから。
だから、貴族としての心得をそれなりに、そっと伝えただけのつもりだったのに。
ーーファレリア・オーギュスト男爵令嬢に対しての数々の嫌がらせについて、説明を求める。
寝耳に水とはまさにこのことだ。
よかれと思ったことがまさか、嫌がらせだと思われていたなど誰が想像しただろう。
むやみに複数の男子生徒と親しくなるのはいかがなものか、一対一で男子生徒と会ってはいけないとか、無断で授業を欠席してはいけないなどと、常識的な範囲の忠告であっただけなのに。
「……殿下は、わたくしがそのようなことをなさった、とお考えなのですね?」
「ファレル嬢が泣いている姿を何度もこの目で見た。言い逃れはできぬと思え」
婚約破棄も覚悟しろ、と言外に含ませている殿下の後ろで、可憐な花のように震えているファレル・オーギュスト男爵令嬢にオーレリアは視線を向ける。
すると彼女はーー。
「いい加減になさってくださいって、私、何度も殿下に言ったんです!
申し訳ありません、オーレリアさま!!」
「……は?」
目に涙を浮かばせて、くだんの令嬢は声を震わせながらも一生懸命に叫んでいたーー第二王子と、その愉快な仲間たちに。
「私、何度も言いました、殿下に困りますって。勉強しに来ているんですって、そう言ったのに!」
曰く。
男爵令嬢だが、いずれは婿を迎えて女男爵になる。
領地をまとめるために勉強をしにきた、特に経済学と経営学を。
他にも社交は大事だから、特に女子生徒たちと親しくしたいのに、休憩時間になるとどこかから殿下と愉快な仲間たちがやってきて、どこかへ連れて行こうとしてしまうし、連れて行ってしまう。
授業は王族ではないから決して免除にはならないのに、話を聞いてくれないばかりか、女子たちからは嫌われてしまった。
しかも、今は辺境警備をしているが幼なじみで騎士の婚約者がいるといっても聞いてくれない。
オーレリアの忠告もその通りだと、自分の感覚は間違っていないのだと安堵の涙を浮かばせると、今度はオーレリアにいじめられたのだと決めつけられてしまった。
どんなに違うといっても「ファレリア嬢は優しい」と自己完結してしまっている。
どうにかしようと思っているうちに、今日を迎えてしまった。
今日、この場をどうにかしなければ、自分はもちろんオーレリアが誤解されてしまう。
そんなのはごめんだ!
「もう…もうっ! 愛想笑いが下手だったから、そうお伝えしただけなのに、どうしてそれが運命の相手になるんですか!
王族なんですから、愛想笑いぐらい上手になさってくださいって、そう言いたかっただけなんです、私は!!」
静寂、という物があるとしたら、今がそれだった。
後日、オーレリアと第二王子との婚約破棄が正式に発表され、ファレリア・オーギュスト男爵令嬢は勉学に励むことができるようになったということだ。
勢いで、がーっと。