滅びる国という名のプロローグ
激しい光と共に、水の国の王宮クリスタロスに風穴がいくつも生まれた。続けざまに、轟音を引き連れた深紅の炎が城下町の入り組んだ地形に突き進んで行き、雷鳴と共に見張りをしていた兵士たちは雷に打たれ、息絶えていった。
「な、なんだ!! いったい何が起きたというのだ!!」
時はその日の日付が変わるか変わらないかといった頃、外は火と雷と光に満ちているにもかかわらず、王宮クリスタロスの最上階にある王の広間に、水の国の重鎮らが次々と駆け込んできては、大声を上げていた。
そんな喧騒の中でも、顎にたっぷりと白い髭を蓄えた、齢八十にも届くかといった老人だけは、他の者にはない威厳を保っていた。いや、こんな時だからこそ、威厳を保たねばならないのだろう。なぜなら彼は、この国の王だからだ。
彼はいくつかの書類と外の様子を窓から見ると、疲れ切った様子で、大声を上げた。
「水の国の王、ザミルザーニイの名のもとに命ずる!!皆の者、静まれ!!」
数十人が生み出した喧騒は、王ただ一人の一喝によって静寂へと変わっていった。しかし、王宮の外では、他国の魔法使いによる民の虐殺が続いる。
「こうなってしまったからには、もはや言葉を濁す必要などないだろう……我が国は、たった今から戦争状態に入った」
それは、死を告げる宣告だったのかもしれない。水の国の重鎮らは、緊張と焦りで唾も飲むことが出来ないといった様子で、王の言葉を聞いていた。
「水の国の魔法、すなわち水魔法の危険性が他国にばれた。こうなってしまっては、我々水魔法使いは捕虜となっても殺されるだろう。逃げたければ逃げて構わん。だが、炎の民の住むヴァルカンへ行っても、温もりは与えてもらえないだろう。同じように、風の国のベーチェル、雷の国のエルヒタン、信仰深い光の国のリュースへ行ったとしても、待っているのは死だけであることは変わらないだろうが、絶対ではない」
王の言葉に、少しでも希望を見出そうとしていた者たちも、すでに絶望して頭を掻き毟っていた者たちも、次第に顔色を赤やら青やらに変えて、広間を出て行ってしまった。残ったのは、数名の側近たちだけである。
「……例の物は、ここの隠し扉に隠す」
王がおもむろに、そう小さく言うと、側近の一人が懐から、禍々しく鎖で封じられた、一冊の巻物を取り出し、王の命令のままに、隠した。
「焼くことも破る事も出来ないのであれば、封じるまで……ふぅ……」
大きな玉座にゆっくりと深く座り、側近たちに囲まれて、自らの国が亡びていく有様を、城下から聞こえてくる悲鳴と、侵略の怒号とで理解し、最後の時を待っていた。
「……息子が言った通りかもしれないな……」
もう、敵の兵士が広間の扉の前まで集まってくる頃、水の国の王ザミルザーニイは、放浪の旅に出ている水の国の王子サスーリカの言葉を思い出していた。
「我が息子よ、どうか無事で」
次の瞬間、扉は蹴破られ、一瞬にして王は炎に包まれた。