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魔空  作者: 寄生虫
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明朝


 つんとした臭いが鼻をついた。

 

 人目につかない宿舎の裏で誰かの撒き散らした吐瀉物の香りが、宿舎の近くを通る道にまで漂っていた。


「ひどい香りだ」

 

 隣を歩く同僚のエリックが鼻をつまみながら言った。


「どうせ陸軍の連中だろ。奴らにはモラルってものがない」

 

 エリックは重ねて言う。

 

 元々建物が密集している基地東側の生活エリアには臭いがこもりやすい。――自分たちの首を絞めるようなものだ。そう思うエリックの気持ちはわからないでもない。


「まあ、そう言ってやるな。奴らは生身で戦ってるんだ。座ったまま戦争に行ってる俺たちよりもよっぽど過酷だ」

 

 そうは言いながらも俺も自ら歩調を早めた。この臭いはあまり嗅いでいたいものではない。エリックも俺の歩くペースの変化に気がついたのか早足になった。


 陸軍一般兵の生活エリアとなっている基地東エリアには同じつくりをした四階建ての建物がいくつも並んでいる。最初の基地建設計画時には空軍施設として使用されるはずだったこの基地も、地政上の観点から陸軍部隊の拠点が建設されることになり、急遽いくつもの宿舎棟が狭い島の基地に増設された。西エリアは空軍の滑走路となっているために、東エリアの中に宿舎が押し込められた。その結果周囲を建物が密集し、風通しの悪くなった東エリアは、いつも生活者の生活臭の充満するスラムと化していた。


 夜にもなれば基地司令に無許可の陸軍兵たちによるボロ屋台が営業を始め、繁華街となってしまう。


 もう、そろそろ日も上ろうとする明け方となっては、ほとんどの屋台が店じまいしてしまっているのだが、いくつかの屋台の中では今日は非番の兵たちで麻雀や賭博の集まりが営まれ、今でも時折拍手や野次が聞こえていた。


「それにしてもなんなんだ、こんな明け方にこんなところを歩かされて。俺を連れてトイレにでも連れ込もうってのか?」


 不機嫌な声色でエリックに言う。今朝方、急にエリックが部屋へやってきて自分を宿舎の外へと連れ出した。理由を聞いてもはぐらかしてばかりで、なんでも「面白いものがある」とのことらしい。


 しかし彼がそういうたびに危険な目にあってきた自分としてはあまりいい気分はしない。前は自称発明王の頭のイカレた老整備士に、自作したイジェクションシートの実験台にされて死にかけたし、その前は基地が出来る前からあるという井戸の中を探検させられたりと、あまりおもしろいものにであったためしがない。そんなことを考えていると、エリックはそれを見透かしたかのように歩を止めてこちらを向いた。


「大丈夫だ、俺にそんな趣味は無い。それにだ、今回は今までのまでの悪ふざけとは違う。基地副司令直々の極秘任務だ」


 ――極秘任務?


 これはまた新しい口実を持ってきた。任務と言えば俺が素直に言う事を聞くとでも思ったのか。“極秘”と名付ければ俺がその“極秘任務”とやらの内容を知らずとも、“部外秘”とかいう魔法で辻褄を合わせられる。だが所詮は子供だましの大嘘だ。そんな俺の表情に気がついてエリックが口を開いた。


「どうした。これは任務だぞ。言ってなかったか?」


 記憶をたどる。そういえば、今から三十分前の早朝四時に無遠慮にもこいつが俺の部屋に入り込んできた時に言っていた。「起きろ、任務だ」


 初等教育の時点で、「任務」という単語を聞けばどんな深い眠りからも覚めるように訓練されてきた俺たちは、「任務」と聞いた瞬間に確実に目を覚ます。だからそれを利用して俺を起こしたのだろう。ここは騙されたふりをしてやろう。


「本当に任務なのか? それにしてもどうして副司令が? 目的は?」


 ここで気になったことを質問した。本来、任務を出すのは基地最高責任者たる基地司令だ。副司令が指令を出すときもあるが、任務は必ず司令が出している。異例の事態だ。


「いや、俺も詳しい内容を知らないんだ。ただ昨日……いや、今日だな、まあいい、とにかく夜中に突然副司令に電話で呼び出されてお前を連れて所定の地点に行けと命令された。副司令は詳しくは言わずに一方的に電話を切った。」


「まさか」


「俺が聞いてるのは基地のこの地点に行け。それだけだ。ただし基地のレンタルバイクも借りず、徒歩で、というルールもついてな」


 そう言いながらエリックはズボンのポケットから地図を取り出す。地図には基地の見取り図が書かれていて東エリアの陸軍の生活エリアをぬけた海岸の一点に赤いバツが付けられている。


「この地図はどこで?」


「副司令から使いがきた。総務部のやつだ。俺の部屋までな」


 地図には副司令からの発行を表す印が押されている。俺がその印に気づくと、エリックは口を開いた。


「驚くべきはそこじゃない。こっちだ……」


 エリックが地図を裏返した。そこには赤い“極秘”のハンコが打たれていた。


 俺の目を見ながらエリックが笑う。


「そういうことだ」


 とりあえずエリックのいうことに間違いはなさそうだった。副司令が押した印も見られたし、正式な“極秘”の印も押されていた。これらの表すことは分からないが、とりあえず言ってみればわかる。


「これは作り物じゃないよな」


「まだ疑ってるのか。ああ、これは作り物じゃない」


 エリックの目を見る。嘘をついてはいない。


「とりあえずお前を信じることにしよう」


「お安心いただけたようでありがとうございます」


 エリックは馬鹿丁寧にお辞儀をした。


「さあ、命令ならば急ごう」


「おや、さっきとは態度が変わったな。命令だからか」


「俺は命令ならば動く軍人だからだ」


「お前らしい」


 再び歩みを再開する。突然の極秘命令。しかも真夜中に。何かわからないが、俺はこの明け方から何か

得体の知れないものに巻き込まれている。風の吹かない東エリアの一角に、体では感じられない風が吹いたような気がした。


こんなかんじに魔術と戦う架空の軍事組織を部隊に話を進めたいと思います。

プロットは作ってますが、特にそれにこだわることなく進めていきたいと思います。

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