表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/14

第8話 吹雪の夜に

十一月に入って最初の吹雪が来た。


予兆はあった。

朝から雲の動きが速く、午後には風が出てきた。

セリーヌが薪の追加補充を指示したのは、正午すぎだった。


「今夜は荒れます。中継宿に泊まっている旅人を確認して、食料と燃料が十分かどうか見てきてください」


使用人のアンを宿へ走らせた。


兵舎には余分の毛布を届けるよう手配した。

ラヴィの部屋の暖炉を確認して、薪を多めに入れておいた。


夕方には吹雪になった。


中継宿から使いが来た。

「旅の商人が四人と御者が二人、足止めになっています。食料は今夜分は何とかなりますが、明日の朝が」


「屋敷の保存食から分けます。持っていってください」


雪の中を使用人が走った。


屋敷の中では、ラヴィが怖がって泣いていた。


「うるさい、風が」


「そうね。でも大丈夫よ。家の中は暖かいから」


「こわい……」


「じゃあ、一緒に台所に行きましょう。温かいものを作りましょう」


ラヴィとテレーズと三人で、夜の台所に立った。

ミルクを温めて、蜂蜜を入れて、スパイスを少し。


「あまい」


「寒い夜はこれが一番」


ラヴィが両手でカップを包むように持って、ちびちびと飲んだ。


屋敷の使用人が一人また一人と台所に集まってきた。

温かい飲み物の匂いに引き寄せられるように。


セリーヌは人数分を作った。


誰も頼まなかったが、誰も断らなかった。


---


夜中になっても吹雪は止まなかった。


セリーヌが屋敷の状態を最後にひと回りしていると、ルカスが外套を羽織って廊下を歩いてきた。


「まだ起きているのか」


「確認を」


「全部、手配済みだと報告を受けている」


「ええ。でも念のため」


ルカスは少し黙った。


「中継宿に足止めの客がいると聞いた」


「食料は届けました。朝まで持ちます」


「……お前が判断したのか」


「はい。旦那様に確認しようとしましたが、外におられたので」


「正しい判断だ」


短く言った。


廊下の窓が風で鳴った。


「お前は、こういうとき、焦らないのか」


ルカスが聞いた。

珍しい質問だった。


「焦ります。でも焦りながらでも手は動かせます」


「……なぜ」


「考えても現状は変わらないからです。動けることを動かすほうがいい」


ルカスはしばらく沈黙した。


「お前がいなければ、今夜は持たなかった」


それは、感謝なのか評価なのか、判断しかねる言葉だった。


「屋敷の皆がいたからです。私一人では無理です」


「お前が動いたから、皆が動いた」


「……」


セリーヌは何も言わなかった。


否定するのも違う気がした。

肯定するのも、なんとなく、照れくさい。


三年間、誰にもそういうことを言ってもらえなかったからかもしれない。


「今夜は休め。明日も早い」


ルカスが廊下の先へ歩き始めた。


「旦那様」


「何だ」


「今夜の判断について、事後報告になってしまいました。申し訳ありません」


「構わない。正しかった」


「次からは先に確認します」


「吹雪の中で私を探すな。お前の判断を信じる」


それだけ言って、彼は暗い廊下の奥へ消えた。


セリーヌは廊下に一人残って、窓の外の吹雪を見た。


――お前の判断を信じる。


そんなことを言う人が、いただろうか。

今まで。


風が窓を叩いた。

セリーヌは窓から離れて、自分の部屋へ歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ