資料7:『緊急参事会 議事録』
【資料ID:G-01】
記録者: 書記係ポール
開催日: 1348年12月9日 午前
場所: 参事会室
[議題] ジャック修道士の不審死、および厨房担当ミシェル修道士の嫌疑について。
[審問内容]
ギヨーム院長「皆、聞くがよい。昨夜、私はジャックの魂が安らかであることを願った。だが、神は夢枕で私に告げた。『狼は外にいるのではない。羊の皮を被り、内側にいる』と。 今朝、厨房の裏より、おぞましき物が発見された。ミシェル、前に出よ」
(ミシェル修道士、衛兵代わりの修道士2名に押さえられ入室。顔には殴打の痕あり)
院長: 「お前の寝台の下から、これがに不浄な偶像と、乾燥したベラドンナが見つかった。申し開きはあるか?」
ミシェル: 「違います! 那は私の物ではない! 誰かが勝手に置いたのです! それに、昨夜スープに入れたのは、院長様、あなたが渡してくださった『東方の粉薬』ではありませんか! 私は言われた通りに……」
院長: 「黙れ! 悪魔め、その汚らわしい口で私を共犯にする気か! 私は昨日、確かに『体を温める香草』を使うよう許可した。だが、お前はそれを『毒』にすり替えたのだ。 ジャックが死んだ時、お前は厨房の影で笑っていたな? 私が見ていないとでも思ったか?」
トマ: 「……はい。僕も見ました。ミシェルさんが、スープの鍋に向かって、何か呪文のような言葉を唱えながら、黒い粉を入れているのを」
ミシェル: 「トマ! お前、何を言っているんだ! 嘘をつくな! 誰に言わされている!?」
院長: 「子供は嘘をつかない。神の目は誤魔化せんぞ、ミシェル。 お前は薬草の知識を悪用し、我々全員を殺して、この修道院を悪魔の神殿に変えるつもりだったのだろう!」
(ミシェル、泣き崩れながら否定するも、他の修道士たちから「殺せ」「魔女だ」との罵声が飛び交う)
[判決] 被告ミシェルは、悪魔に魂を売った異端者であり、ジャック修道士殺害の実行犯と認定する。 本来ならば火あぶりに処すべきだが、雪深く屋外での処刑は困難である。 よって、地下牢最下層の「ウブリエット」へ幽閉し、雪解けを待って市中引き回しの上、処刑する。 それまでの間、一切の食事と光を与えてはならない。
[閉会の辞] これで膿は出された。神に感謝せよ。 だが警戒を怠ってはならぬ。悪魔の残党がまだ潜んでいるやもしれぬ。互いに監視し、怪しき者は直ちに報告せよ。
【編纂者注】
注1: 典型的な「見せしめ」の裁判である。証拠品は、院長があらかじめ用意し、ミシェルの部屋に隠させた捏造品である可能性が高い。
注2: トマの偽証。 ここで注目すべきは、見習い修道士トマが、院長側の証人として嘘の証言をしている点である。資料3の手紙では「怯える被害者」を演じていたトマだが、この場面では院長の共犯者として振る舞っている。彼は脅されて従ったのか、それとも自ら進んで院長に取り入ったのか? この少年の「したたかさ」が垣間見える瞬間である。
注3: 「ウブリエット(Oubliette)」とは、フランス語の「忘れる(Oublier)」を語源とする地下牢の一種。天井の穴から突き落とされたら最後、二度と出られない縦穴式の牢獄を指す。ミシェルはここで、餓死するか発狂するまで放置されることになった。




