資料3:見習い修道士トマの未送書簡
【資料ID:C-01】
原題:なし(書き出しは「親愛なる母上へ」)
執筆者:見習い修道士トマ
推定執筆時期:1348年12月3日 深夜
形状:質の悪い羊皮紙の切れ端。個人的な聖務日課書(祈祷書)の裏表紙の内側に、蝋で貼り付けられて隠されていた。
親愛なる母上へ。
お元気ですか。リヨンの街ももう雪が降っている頃でしょうか。 僕がこのサン・ピエール修道院に来てから、半年が経ちました。母上の焼いたパンの匂いが恋しいです。
正直に言います。僕は怖いです。 雪が道を塞いでから、修道院の中の空気が変わってしまいました。 院長様は「神が守ってくださる」とおっしゃいますが、先輩の修道士たちはみんな目を合わせようとしません。食堂でも、一言も喋らずにスープを啜る音だけが響いて、まるで葬式のようです。
母上、僕は見てしまいました。 昨日の夜、お腹が空いて眠れなかったので、厨房に水を飲みに行った時のことです。 院長様が、回廊を歩いていました。 こんな夜中なのに、院長様は銀の盆を持っていました。盆の上には、ワインの入った水差しと、僕たちが祝日にしか食べられないようなお肉が載っていました。
院長様は祭壇の方へは行かず、地下の納骨堂へ続く階段を降りていきました。 会計係の人が、地下室の鍵を開けて待っていました。 地下室には、歴代の院長様のお墓と、古い宝物があるだけだと教わりました。死んだ人は、ワインもお肉も食べません。 じゃあ、あれは誰のための食事なのでしょうか?
それに、音です。 院長様が「狼の遠吠えだ」と言ったあの音。 僕には、どうしても狼の声には聞こえません。 あれは、人間が呻いている声です。それも、大人の男の人じゃなくて、もっと高い声……女の人か、子供のような声が、地下の床下から響いてくるのです。
この修道院には、僕たち23人しかいないはずです。 女の人がいるはずなんてありません(そんなことが教会に知れたら破門になってしまいます!)。
医務係のベルナール先生に相談しようかと思いましたが、先生は最近、ずっと薬草部屋に閉じこもって、ブツブツと独り言を言っています。「足りない、足りない」と。 だから、僕は誰にも言えずにいます。
でも心配しないでください。僕はいい子にしています。 誰にも見つからないように、こうして隠れて記録をつけています。 雪が溶けたら、この手紙を出します。そうしたら、僕を迎えに来てください。
あなたの息子 トマ
【編纂者注】
注1:この手紙が投函されることはなかった。発見時、トマの遺品である祈祷書の中に隠されていたことから、彼がこれを書いた後、出す機会を永遠に失った、あるいは奪われたことが推測される。
注2:地下室への食事の運搬。資料2(会計係の帳簿)にあった「客人用」の記述と符合する。院長と会計係は共謀して、地下に「誰か」を匿っていた可能性が極めて高い。
注3:「女か子供の声」。当時の修道院において、女性を招き入れることは重大な戒律違反である。もし匿われていたのが女性であれば、それはスキャンダルを隠蔽するための監禁であった可能性も浮上する。
注4:最後の一文「僕はいい子にしています」という表現は、15歳にしてはやや幼く、またどこか計算高さを感じさせる。彼はただ怯えていただけでなく、周囲の異変を冷静に観察し、自分の身を守るために情報を整理していたようにも見受けられる。




