資料2:会計係による『サン・ピエール修道院 入出庫帳簿』(抜粋)
【資料ID:B-04】
原題: Liber Rationum(計算の書)
執筆者: 会計係(氏名不詳)
対象期間: 1348年11月最終週
形状: 粗悪な羊皮紙の端切れを綴じたもの。インクは薄く、一部は煤で汚れている。
[穀物および主要食料]
小麦粉(大袋): 残 38袋
・備考: 本年度の収穫減により、納入量は例年の6割に留まる。
・算出: 修道士23名+使用人なし。1日2食の規律として、2月中旬には枯渇する見込み。
塩漬け豚肉: 残 8樽
・備考: うち3樽は「院長室付き保管庫」へ移動済み。(11月25日 院長命令)
乾燥豆類: 残 12袋
・備考: 虫食いあり。選別が必要。
ワイン(赤): 残 15樽
・備考: 聖餐用および薬用として確保。一般修道士への配給は本日より停止し、水割りの酢に変更する。
[消耗品・その他]
蜜蝋の太蝋燭: 残 50本
出庫: 12本(11月26日〜28日)
用途: 地下宝物庫および東棟回廊。
備考: 消費速度が異常である。補充の見込みなし。節約を要請すべきだが、院長許可降りず。
薪: 裏庭に積上げ分のみ。
備考: 雪により追加の伐採は不可能。
[特記事項/雑費]
11月27日:銀貨3枚。
用途: 旅の薬売りより購入。「東方の粉薬」。
受取人: 医務係ベルナール。
11月28日:[抹消箇所]
用途:[「客人用(Pro Hospite)」と書かれた項目が、鋭利な刃物で削り取られている]
数量: 毛布 2枚、ワイン 1壺。
【編纂者注】
注1: 決定的な計算ミス、あるいは意図的な無視である。院長は「冬を越すのに十分」と記していたが、会計係の試算では、雪解け(通常4月〜5月)を待たずに食料が尽きることが示されている。彼らは「閉ざされた」瞬間から、すでに緩やかな飢餓状態にあった。
注2: 「地下宝物庫」での蝋燭の消費について。本来、冬の夜間に冷え込む地下室へ降りる必要性はない。何らかの作業が行われていたか、あるいは「明かりを必要とする誰か」がそこにいた可能性がある。
注3: 最も不可解なのは、11月28日の抹消された項目である。「客人(Hospite)」という記述。院長の年代記にも、修道士名簿にも、この冬に滞在した客人の記録は一切存在しない。しかし、会計係は確かに「誰かのための毛布とワイン」を用意し、その記録を後から消去している。




