資料13:見習い修道士トマの『最後の手記』
【資料ID:C-05】
執筆者: トマ
推定執筆時期: 1349年2月14日(聖ヴァレンタインの日)
形状: 上質な羊皮紙。院長の部屋にあった未使用のもの。文字は、これまでの「震える拙い文字」とは異なり、驚くほど流暢で、冷徹な筆致で記されている。
親愛なる「ママン」へ。
業務報告をします。 サン・ピエール修道院における「在庫」の保全は、失敗に終わりました。 ギヨームの独断による管理不全、および横領が原因です。彼は商品を私物化し、あろうことか品質を劣化させていました。 組織の信用に関わるため、予定を早め、焼却処分を実行しました。
手順は以下の通り完了しています。
・人事の刷新: ギヨームを含む全職員の排除を完了。 会計係は最後まで協力的でしたが、報酬を支払う金庫の鍵が見当たらなかったため、彼自身の永遠の沈黙をもって支払いに代えました。
・在庫の処分: 地下の在庫は、衰弱が激しく、売り物にならないため、慈悲をもって眠らせました。
・証拠の隠滅: 僕の可愛い弟——地下の檻にいた「8番」——を、僕の部屋のベッドに寝かせておきました。 僕の服を着せて、僕のロザリオを持たせてあります。 顔は少し潰しておきましたが、背格好は僕と瓜二つです。 これで、記録上の「見習い修道士トマ」は、可哀想な犠牲者としてここで死んだことになります。
雪が固まりました。歩いて山を降ります。 リヨンに戻ったら、また焼きたてのパンを食べさせてください。 次の仕事場は、もっと暖かい場所がいいです。
あなたの忠実な息子 [署名部分は切り取られているが、蝋で封印された紋章——双頭の蛇——が押されている]
【編纂者による結び】
1349年春、雪解けと共に修道院に入った調査団は、23名の遺体を確認したと記録している。 その中には、院長ギヨーム、会計係、そしてベッドで丸くなって死んでいた少年トマも含まれていた。
長きにわたり、この悲劇は「疫病と飢餓による全滅」として処理されてきた。 しかし、今回発見された資料13、および最新の法医学的調査は、戦慄すべき事実を突きつけている。
修道院跡地から回収された「トマ」とされる遺骨のDNAおよび骨密度を解析した結果、その遺体は長期間にわたり日光を遮断され、極度の栄養失調状態にあったことが判明した。 つまり、ベッドで死んでいたのは、記録をつけていた「トマ」ではなく、地下に監禁されていた「代わりの子供」だったのである。
では、あの手紙を書き、院長を追い詰め、全てを闇に葬った「トマ」はどこへ消えたのか?
その答えを示す記録は、歴史のどこにも残されていない。 ただ一つ確かなことは、その年、リヨンの裏社会で「双頭の蛇」の紋章を持つ組織が、急速に勢力を拡大したという事実のみである。




