資料12:ギヨーム院長の『修道院年代記』(最終記述)
【資料ID:A-09】
執筆者: 院長ギヨーム・ド・ヴァランス
推定執筆時期: 1349年1月下旬〜2月初旬
形状: 仔牛皮紙。最後の数ページはインク壺が倒されたように汚れており、文字は乱雑な走り書きに変貌している。
[主の年 1349年 1月20日]
静かだ。あまりにも静かだ。 今朝、最後の兄弟であったパウルが息を引き取った。これで、修道士は全員死に絶えた。 生き残っているのは、私と、あの口のきけない会計係、そして見習いのトマだけである。
なぜだ? 私の計画では、春まであと5人は生き残るはずだった。食料の計算は合っていたはずだ。 なぜ彼らは次々と死んだ? 私が命じていない日に、なぜ彼らは毒の症状を示して死んだのだ? 誰かが、私の手から采配を奪い取っている。
[主の年 1349年 1月24日]
鍵がない。 私の腰帯に常に結びつけてあった、地下貯蔵庫の鍵束がない。 眠っている間に盗まれたのか? 会計係か? いや、あの男は臆病者だ。私に逆らう気概などない。 ならば、トマか? 馬鹿な。あの子は私の忠実な犬だ。私の足元で怯え、私の与えるパン屑に感謝するだけの子供だ。
腹が減った。 鍵がないため、地下の肉もワインも取り出せない。 部屋の外に、皿が置いてあった。 誰が置いた? 皿には、水で戻しただけの硬い豆と、一杯の水。 これは、私が地下の「商品」たちに与えていた餌ではないか。 誰が私を試している?
[日付不明]
扉が開かない。 院長室の扉が、外から閂をかけられている。 叫んでも誰も来ない。 いや、誰かが来た。扉の向こうに気配がする。 隙間から覗いた。 トマだ。 トマが笑っている。あんな顔をする子供だったか? その横に、会計係が立っている。彼もまた、虚ろな目で私を見ている。
そうか。そういうことか。 トマ、お前は見習いなどではなかったのか。 お前は「商品」の在庫確認に来たのか? それとも、私という無能な管理者を処分しに来たのか? 組織は、私を見限ったのか?
[最後の記述]
喉が焼ける。 差し入れられた水に、何かが入っていた。 この味は知っている。私がベルナールに飲ませたものと同じだ。 体が痺れて動かない。 寒い。薪もない。
扉が開く音がする。 足音が近づいてくる。 軽い足音だ。 トマ、やめろ。こっちに来るな。 その手に持っているのは何だ? それは私の枕か? やめろ、私は院長だぞ。私は神の代理人……
(記述はここで途絶え、ページを斜めに走る長い線の痕跡だけが残されている)




