2ー5
あたしが魔法のマジックペン、商品名は魔じっくぺんを構えると、おじさんたちが俺も俺もとばかりに自分のペンを取り出す。
実は今、魔法の国で流行っているのがこの魔じっくぺん。このぺんで書いた文字はなんでも実現されちゃうのだ。
だから、顔に大きく嘘が付けないと書いてやった。そうでもしないとこいつ、す〜ぐ嘘つくに決まってるもん。
そんなわけで、後はおじさんたちにまかせた。
のがいけなかったか?
起きろ、と書いたり、寝てろ、と書いたり。笑えとか怒れとか、スケベとかありふれた言葉が次々と書き込まれてしまっている。
もうどうしようもなくなったから、最後にあたしが額に素直と書いて、目を覚ましてもらった。
ノリオはガバッと上半身を起こすと、はっとなってビリーを見た。
「いい? 今からあなたは素直になるの。だから、絶対に嘘をついたり、意地悪をしちゃいけませんよ?」
なんで年上の男の人にこんなさとすようなことを言っているんだろう?
だって、ノリオってすぐずるいことするから。
それを聞いたノリオは、半笑いになった。
それから、素直。素直。と口の中で何回もつぶやくと、今度はビリーに向かってごめんっとあやまった。
「こんなことしてごめん、ビリー。だけど俺、こうでもしないとビリーに気持ち伝えられなくて。好きです、ビリー」
うん? と酔っ払いのおじさんたちの頭上にはてなマークが浮かんでいるのがわかった。
そうか、このタイミングで告白するのか。
それならそれでもいいけど。
「だったら早く、術を解いてあげなさいよっ。たとえビリーが体力あるからって言っても、頭が後ろ前についてるんじゃ、体力を消耗しつづけるだけだわ」
あたしが言うと、ノリオは急に体を硬くしてごめんなさいと土下座をした。
「素直に言うと、術をかけるのは得意なんだ。でも解く方は苦手で」
そんな。じゃあ遠回しにビリーを殺すようなもんじゃないよ。あんたそれでいいの?
「よくない。けど、女なんかにビリーを取られるくらいなら、殺してしまいたい、とは思ってる」
「サイッテェ」
吐き捨てるみたいに言ってから、下品だったなと反省する。
「ノリオには悪いけど。ビリーはあたしのだから、渡さないよ」
「え? もうそういうことに? 嘘。俺、失恋したんだ」
「わかったら一回だけチャンスをあげる。あなたの魔剣でもう一回、ビリーの首を斬ってくれないかしら?」
それでもダメなら、その時に考え直そう。
しかしまぁ、まさか恋敵が男の人になるとは想像してなかったわ。
つづく




