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ビリーはつたない手元ながらも自分の頭部をつかみ、元あるべき場所へと戻してゆく。
あたしのヒールの力もあって、首のつなぎ目はおもしろいほどくっついてゆく。
そうしてからまた三秒。
ついにビリーの顔は正面に戻った!!
「よしっ!!」
思わずガッツポーズを浮かべるビリーだけど、なんだか様子がおかしい。
正面を向いた顔がだんだん後ろへとグイグイひねられてゆく。
「え? な?」
奇声をあげるビリーをよそに、正面にあったはずの顔はあっという間に後ろ向きになり、結局後ろ前に戻ってしまったのだ。
これは、ノリオの魔法がまだ生きている証拠。おそらく、ノリオ以外の誰が斬っても後ろ前に戻ってしまうことだろう。
「よぉ〜し、もう一回斬るかぁ〜!?」
威勢良くワッシャンが叫ぶと、やめてくれよぉとなさけない声を上げるビリーか笑える。
「まったく。あなた本当に前世であたしのことを助けてくれたあの人なの? なさけない」
「それ! 前世のことなんて覚えてないんだよな、俺。そんな立派なことした?」
覚えてない?
覚えてないだと?
「ワッシャン、思いっきり首をハネておしまいなさい」
「ラジャー!」
「待て、待ってくれって!! せめて話だけでも聞かせてくれよ。その前世の話」
「本当になにも覚えてないの?」
ああ、すまんとビリーがあやまる。
「本当に? あなたはあたしの命を助けてくれたんだよ?」
なのに、覚えてないだなんて。
「じゃあ言うけど。あたし、前世では猫だったの。人間界で暮らしていて、その日は雨が降りそうだったから、あわてて道路に飛び出したの」
その時のことを思い出すと、今でも寒気に襲われる。
「ちょうどダンプカーが走ってきて。ああ、これやばいやつだなってあきらめかけたその時、あなたが飛び出して、あたしを助けてくれたの」
なんと、この俺がそんなことを? とビリーは自身の記憶を思い出したそうにこめかみを両手でぐりぐりしている。
「あたしは命が助かって、その後十六年生きたけど、あなたはきっと助からなかったんだよね。だから、さ」
これを言うのは勇気がいる。
「こっちの世界では、ビリーのことを助けてあげる。助太刀いたすわよっ!!」
「いや待って。なにそれ前世の俺、かっこよく散ってんの? でもきみのことを救えたならばよしとするけど。う〜ん。現実の話、頭が後ろ前についている現状なので、素直に助けて欲しいです」
そうだった。ビリーってば、小さい目がずっと潤んでいるからてっきり前世を思い出したのかな? なんて思ってたけど。
やっぱり違ってた。
つづく
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