5ー3
あれだけ大騒ぎした後で、スナオが連れ去られたことを知った。まぁいいかと思ったものの、しまった。金づるを逃したっ。
くやしい。
「きっと、スナオの顔が気に入って連れ去ったのだろう。ビリーが塩顔でよかった」
ひょっとしてあたしに喧嘩売ってます? グルー。
「ともかく。これでウルフ族もひとまず静かになるだろうさ。スナオがビリーを愛していたりしないかぎりは、だがな」
「あ。まずい」
すっかりわすれていた。そういえばあいつ、ビリーの寝込みを襲うことまで計画していたほどビリー大好きなんだった。
「ま、いっか。前世でビリーの彼女を寝取ったとか言ってたくらいだし。なんとかなるでしょ。ね。先を急ごう」
こうなったらもう先に進むしかない。進むんだ。
「ところで水中トンネルってどのくらい深いところにあるの?」
あたし泳げないから、そこまでなんとかたどり着けるといいんだけど。
「さすがにこの船に潜水艦機能はついてないからな。俺は行ったことないが、泳げるから全員縄でつないで引っ張ってってやるよ」
「え〜!? いいの? ありがとう!!」
思いがけない言葉に、ついうれしくなった。
そうよねぇ〜。困っている女の子がいたら、助けるのが男ってもんよねぇ。
ちにみに、犬かきするのかしら?
ぐふっ。イケメンの犬かき♡
「いや、イヌワシに猫耳族だろ? しかも頭が後ろ前についてる奴を連れて、水中に潜るのは難しかろうと思ったんだ。さっきスナオが連れ去られたから言えるけど、三人までで限界だよ」
「俺も泳げるから協力するよ。古代龍には会ってみたいと思っていたしな」
ヤスまで!!
「ありがとう。すっごく助かる!!」
「なんだろうなぁ。昨日知り合ったばっかりなのに、なぜだかビリーの悲壮感がわすれられないんだよ」
そう言ってヤスは、戦闘防具から自由になってこっくりと眠りに落ちかけているビリーをさみしそうに見つめた。
「俺もだ。ビリー見てると、故郷の親を思い出すんだよな」
なんだろうな、そのポジション。じゃあそのビリーと結婚しようって考えてるあたしはあなたたちの母親かいっ!?
そうして船はまた、何事もなかったように進み始めるのだった。
つづく




