5ー2
こんな半端な場所で、小舟に乗ったウルフ族に囲まれていた。
「来るな、とは思ったが。おい、ビリー。さっさと魔道具使え!」
ああ、例の! あたしはまだ眠気の覚めないビリーの頬をビンタして、彼の胸ポケットに無造作に仕舞われたビー玉みたいな防具を握らせた。とたんに彼の体が不透明になる。
なるほど。色でも目立たないように工夫されてるんだね。
これで安心して戦えるとばかりにブーメランソードを投げつつ、スピアも構える。
「キャー!!」
え? メスのウルフ族?
「おのれつ。少しばかり色男だからって、今日こそ、今日こそそなたを手に入れてみせるぜよっ!!」
ウルフ族の族長はあきらかに人化した女性体で、艶めかしいボディを贅沢に見せつけてくる。
そして、彼女の視線の先にはイケメンのグルーしかいない。
と、いうことは。あたしたち巻き込まれてるだけ?
そんなっ。グルーのために死ぬなんてとんでもないっ!!
けど、しつこく弓矢は飛んでくるし、数の上ではウルフ族の圧勝だよ。
「ビリー、生きててねっ」
あたしはついビリーの側から離れて戦闘に夢中になる。
接近戦なら伸縮自在のあたしの爪で、ウルフ族なんて斬りつけちゃうもんねっ。
「おのれっ。またしてもおなごが増えているではないかっ」
お姉さん残念。あたしはビリーしか好きになりません。
「てやぁっ!!」
スピアとブーメランソードを繰り出しつつ、戦闘に夢中になるうちに、おや? という敵将の声が響いた。
「これはおもしろい」
はっ!? まさかっ。
振り向いた時にはもう、ビリーが捕まっているところだった。
あ〜、失敗。
「お前、人間なのに頭が後ろ前についているねぇ。こんなの、見せ物小屋にあげたら、さぞ高く売れるだろうねぇ」
敵将はニヤリと笑う。
「ずるいわよっ、あんたっ」
狙いはグルーだけじゃなかったの!?
「ずるいもなにも。あたいたちは欲しいものを欲しいまま、手を伸ばす海賊だよ? こんな珍しい人間、放っておく手はないねぇ」
っつーか、なんか言いなさいよ、グルー!!
「お前の狙いはこの俺だろ?」
なんてかっこつけて、もったいぶって言うのよ、グルー。あんたの魅力はウルフ族にはたまらないんだろうな。
「きゅ〜ん!! お願いだ、もう一回言ってくれ!!」
敵将はもんどりうって喜んでいる。今のうちにビリーを。
なんともあっさり救出。
なのにグルーは艶っぽく前髪をかきあげながら、ウルフ族へとサービスをつづける。
「俺だけを見ろよ」
「きゅ〜ん。はい、終わり。ご苦労様。きゅんの補給完了。よりよい旅をご堪能ください。さようなら」
……。言うだけ言って、引き上げてゆくウルフ族。なんだったんだろう、一体。
「すまなかった。あれは俺のファンらしくてな。血の気の多い女どもなんだ。ゆるしてやってくれ」
「そうは言っても、あたしは本気で……って、あれ?」
なにか足りない。誰か足りない。
「ああ。ついでだが、スナオが連れ去られた」
……まぁいっか。
つづく




