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自分の身に起きた不幸を受け入れられない彼に、あたしは収納カバンの中からとびきり可愛い手持ち鏡を取り出し、それを彼に持たせる。
が。持ったことはわかっても、自分の顔を見ることができない。
首が後ろ前についているのだから当たり前だ。
それでも彼は色々と無駄な悪あがきをつづける。しまいにはワッシャンがキレて、手鏡を奪い取り、あるがままの姿を映してあげた。
「これが今のあなたの本当の姿。申し遅れました。あたしは前世であなたに命を救ってもらった恩を返すためにここにいるミリーと言います。こちらは眷属の大賢者ワッシャンの人化した姿です」
猫耳族のあたしには、猫耳と猫尻尾がついている。爪は自在に伸ばしたり収納したりできるのだ。
一方のワッシャンは人化すると体力を消耗するため、あまり長く姿を保てないのが弱点。でも、ワッシャンの人化はその筋のお嬢様方からはヨダレが出るほどの美形なのだそうだ。
たしかに長身で褐色の肌、長い茶色の髪と整った鋭い目つきなんかはそこら辺の男の人よりずっと綺麗だけど。
なんて話をしていたら。
ようやく状況を整理できたのか、彼がとつとつと話し始めた。
俺にはあんたを助けた記憶が、ないけど。と、いうより、前世の記憶はないんだ。ごめんな。それで首なんだが、冒険者として一緒に魔獣を討伐していたノリオに突然斬られたんだ。あせって自分で首を拾ったら、こんなことになって。どうりで動きにくいわけだよ、まったく」
ノリオってことは、男の人だよね。よし、彼女はいないと見た。
「それで、そのノリオってのぁどこに居るんだ?」
イヌワシの姿に戻ったワッシャンがぶっきらぼうに聞く。
「それが、おれの首を斬って、そのままどこかへ逃げやがったんだよ。ったく、迷惑な野郎だぜ」
本来ならば、後頭部をさすさすするところ、顔面を手でこするということになっている。
「これから、どうするんですか? 首を斬られて即死しなかったということは、あなたも魔道士なんでしょうけど?」
ああ、名前言いそびれていたな、と彼が鷹揚に言葉を紡ぐ。
「俺の名はビリーってんだ。魔道士だけど、魔剣は使えないんだ。たしかノリオのは魔剣だったかな?」
「そうなると厄介だな。もう一度首を斬ったら戻るってわけにはいかないだろう。斬られた魔剣でないと、通用しない可能性が高い」
そうなると、そのノリオという男を探さなければならない。
「それで? 魔剣で首を斬られるほどの、なにをしたわけ?」
ワッシャンにすごまれて、ビリーはうーむとのんきにうなる。
「それがまったくわからないんだよな。あいつ、なんであんなに怒ってたんだろう? あと、魔剣にヒーリングも足してあったおかげで、こうして首が後ろ前についても生きてられるんだよな」
すると、ノリオはビリーを殺したかったわけじゃなかったってことなのかしら?
つづく




