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さてさて。現状はかんばしくない。
「あの〜、おじさんたちの中で瞬間移動できる魔法を使える方、いらっしゃいませんか?」
あえて微妙にぶりっ子してみたけど、そんな高度魔法使えたら、安宿になんて寝泊まりしないよと返されてしまう。
そうだよねぇ。他に、南の端の水中トンネル付近まで行くには、船に乗って、そこから思い切って海に飛び込み、ひたすら泳ぐしかない。
で、ここにいるおじさんたちは、もちろん船を持っているようには見えない。
「あ〜、どうしよう〜。このまただとビリーが、ビリーの命が持たないわぁ〜」
あえて棒読み。どうよこの大根役者っぷりは。
「そんなら明日、俺の知り合いに紹介してやろうか? グルーって名前なんだが、なかなか気のいい魔道士兼船乗りなんだ。きっと相談に乗ってくれるぜ」
「え〜!? いいんですか? ありがとうございますっ!!」
よっしゃあ。幼く見えていて初めて得をしたぞっ。
「そんなら俺はヤスってんだ。よろしくな」
「はい。よろしくお願いします。ヤスの兄さん」
あたしが言うと、ヤスは大声で笑いだした。
「いいってことよ。こうしてみんなであんた方を笑いものにしちまったわびじゃねぇけどさあ。そのかたわらでビリーが瀕死の重体だってわかってたら、もっと早く協力したかもしれないし」
それにな、とヤスがつづける。
「なんだかんだで今俺も仕事を探してるところさ。もしグルーが拾ってくれたら、あんたらを水中トンネルまで案内できるかもしれないしな」
そうだ、そうだとあたたかい声が飛んでくる。
「俺たちもずっと笑っていてごめんな」
「なにしろこの不景気だろ? 冒険者やってても金にならねぇんだよ」
などなど、口々にまくしたてる。
あげくの果には。
「俺、なんも協力できねぇから、必要になりそうな防具あげるよ」
だとか、
「この先、なにかとものいりだろ? すくねぇけど、取っておいてくれや」
なんて言いながら、小銭をわけてくれる者までいた。
いやぁ冒険者、情に厚い。
「ありがとう、みなさん。こうなったら必ずビリーの首を元に戻して、結婚して帰ってきますからっ!」
あたしが強引にビリーの顔を脇に挟んでガッツポーズして見せると、おじさんたちがそうだ、スナオなんかにゃ負けるなよ、と言ってくれるのだった。
一方でスナオは。
「俺、誰からも期待されてない感じ。そうだよなぁ。俺の術のせいでビリーが死にかけてるんだもんな」
「まだ死んでないわっ」
あっぶなっ。うっかりするとツッコミ忘れそうなくらいボソボソとしゃべるんだもん。
拾える笑いはすべて拾うわよっ、あたしは。
つづく




