3ー1
あたしの謎な決断に、おじさんたちはおお〜、太っ腹。と拍手喝采。
そうかな? 太っ腹かな?
素直になったくらいで味方に引き入れるってのも、かなりあくどいことだと思ったんだけどな。
だって、仲間だったらいつでも寝首を掻けるじゃない?
ふっふっふっ。そのくらいのことは考えているわよ。
一方のスナオはと言えば。
「本当っすか!? いいんっすか? いやぁ、ありがたい」
「なにが?」
「だって、これでいつでもビリーの寝込みを襲えるじゃないっすか」
……こいつ嫌い。なんかキャラ被ってきた。嫌い。
まぁそうでしょうよ。ここまで未熟な魔道士なのに、ご先祖様から受け継いだ魔剣のおかげで、へっぴり腰でもビリーの首を斬ったんだから。
そりゃそこまで粘着するわ。
でもね、あたしも負けてないから。
「あたしなんか、前世でビリーに命を助けてもらったんだもん。あたしだってビリーのこと振り向かせてみせるから」
おじさんたちからはまたしても拍手喝采、やんやの大騒ぎに発展。
この騒ぎが宿屋に筒抜けになれば、宿泊客および、食事客もこぞって見に来てしまうわけよ。
「なんか知らねぇが、首が後ろ前についた兄ちゃんが男にも少女にもモテてるんだって」
「少女はないでしょ!! あたしはもう成人してるわよっ!!」
まったく、ギャラリーのくせに油断も隙もない。
「とにかく、そんなんで兄ちゃんの首が後ろ前についちまったんだって」
「あっちの顔だけ色男の軟弱兄ちゃんに斬られた魔剣のせいで、首が後ろ前についちまったとか」
「でも解除魔法がわからないんだと。阿呆だな」
「このままだとあの兄ちゃん、衰弱して死ぬんじゃないかい?」
……一同が静寂に包まれる。
待て待て。ビリーが死んじゃったら、あたし、なんのために必死になって、ビリーを探してきたのかわからないよっ。
くそぅ。他人に弱みは見せたくないのに、涙が勝手にあふれ出る。
「あ〜。かわいそう。姉ちゃん泣かせちまったじゃねぇかよ、スナオ」
ギャラリーにまでスナオ呼びが浸透してるけど、今は止まらない涙を乾かしたいんだ。
「それじゃあ、南の端の水中トンネルに行ってみたらどうだ?」
「へ? なにそれ?」
さすがのあたしも、ようやく先が見えそうなチャンスにしがみついた。
「いや。昔からあるんだが。南の端の水中トンネルの中に住む古代龍が博識で、どんな魔法も解いてくれるらしいとの噂がある」
「ただし、報酬はとんでもないものだとか」
古代龍か。なんだか少しだけ希望が持てそうだっ。
つづく




